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紫華の付与師は今日もお留守番。ダンジョンで無双する最強支援職  作者: さくさくの森
第三章 翼の止まり木

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第27話 ――理の静けさ、翼の音――

ブクマ・評価ありがとう御座います!

大変励みになります。

月影国の代表者を招いた王都政庁での会談は、滞りなく終わったようだ。

研究局の補佐官から「会談は無事終了した」と伝えられたのは、つい先ほどのこと。各国代表の意見も概ね一致し、理素結晶は両国の共同管理のもとに置かれることが正式に決定した。

――こちらの提言どおりの結論だ。これで、少なくとも当面の混乱は避けられる。


外へ出ると、夜の風が頬を撫でた。

政庁の中庭は静まり返っていて、灯の明かりが石畳を淡く照らしている。


その光の下で、リディアが空を仰いでいた。

「どうやら終わったようじゃな」

「ええ。報告を受けました。無事に決まったみたいです」


私は微笑みで返し、杖の先で地を軽く叩く。

炎の理を宿した魔力が灯に呼応し、かすかにゆらめいた。

隣を歩いてきた氷雨が、その揺らぎを見つめながら言った。


「理素結晶…綺麗だったよね。あの時あんまり落ち着いて見れなくて、それっきりだけど」


リディアが目を細める。

「整うというのは不思議なものじゃな。人が理をいじれば、どこかに歪みが出ると思うておったが……」

「今回は、逆に均されましたね」

「そなたと…ヴァルクの手が入っておるゆえじゃろう」


少し息を飲むが、そう言われるほどのことをした自覚はある。

あらゆる理を喰らい、否――取り戻そうとしていた“理”に直接触れたのは、私だけだ。そしてその残滓を結晶化して安定させたヴァルクの手腕も、周辺国家を見渡しても片手で足りるかと言える程に、非常に高度なものであろう。


「ねえ、クー子」

氷雨が足を止める。

「もし理が人の手で保たれるなら、壊すのもまた人なんだよね」

「……そうかもね」

「幻も同じ。僕が作る像は現実の理に寄り添ってるだけで、結局その枠の中でしか揺らげない」


リディアが静かに頷いた。

「では理の外とは、どこにあると思う?」

氷雨はしばらく考えてから、薄く笑う。

「たぶん、まだ誰も見たことのない場所。僕はそこを、幻で描こうとしてるのかもしれない」


「氷雨らしいの」

リディアは小さく笑いながら言ったが、その声音には安堵の色が混じっていた。


私は二人の横顔を見ながら思う。

付与を扱う私と、幻を操る氷雨、そして炎の理を最もよく知るリディア。

それぞれ違う道を歩んできたのに、不思議と並んでいられる。

きっとそれが『光焼く翼』という名の意味なのだろう。


「さて」

リディアが杖を肩に担ぎ、軽く伸びをした。

「皆も戻っておるじゃろう。報告会とやら、参るとするか」

「ええ。私も顔を出さないと」


三人の足音が、夜の石畳に淡く響く。

政庁の灯りが遠ざかるころ、風が一筋、上空を走り抜けていった。


*


宿舎の扉を開けると、食堂の灯がまだ残っていた。

エルドが中央の長卓に腰を下ろし、報告書に目を通している。

隣にはヴァルクとオーリス。二人とも静かにページをめくっていた。

その奥では、ラナがパンを焼きながら鼻歌を歌っている。トゥリオは黙って手伝っていた。


「遅かったですね」

エルドが顔を上げる。

「研究局と外交局の報告を受けました。理素結晶は予定通り、共同管理が決まったそうです。」


「お疲れさまです」

私は軽く頭を下げた。口調で分かる。どうやらエルドはまだお仕事モードのようだ。

「政庁との調整、長引いたのでは?」


「まあ、多少は」


エルドは書類を一枚めくり、さらりと続けた。

「報告内容を整理して、探索者代表として政庁に確認を入れました。

 外交局長が少々強気でしたが…研究局が間に入ってくれたことで事なきを得ました」


「……それ、普通に官僚の仕事ですよね?」

ラナがパンを置きながら呆れたように言う。

「探索者が口出す範囲を超えてますって」


「私は()()()()参加していません。ゆえに“一探索者”としての範疇は超えていない。ですが、現場の判断が必要な場面もあります。」

エルドは淡々と答えた。

「我々が理素結晶の発見者であり提供者でもある以上、発言権はゼロではない…ということです。」


「で、理素結晶の方は安定したまま?」

ラナが問う。

「観測値は落ち着いている」

ヴァルクが答えた。

「ただ、封鎖結界の内側では魔力密度が上がっている。再干渉はしばらく避けた方が良いだろう」

「しばらく、ってどのくらい?」

「最低でも一月。研究局の計測班は呼吸のような揺らぎを検出している」


「呼吸?」氷雨が首を傾げる。

「まるで生きているみたいだね」

「ええ。理が自らを均そうとしているのかもしれません」

私の言葉に、リディアが「それもまた理の働きじゃ」と笑った。


「……それにしても、全員そろうのは久しぶりだな」

トゥリオがカップを置いて言う。

「理喰らい戦の後以来か」

「久しぶり…なのかなあ?」

「男子三日合わざれば…と言うじゃろう。その数倍ともなれば久しいものよ」

私の微妙な反応に、リディアがトゥリオの発言をからかうように笑った。


「で、次の依頼は?」期待するかのようにラナが問う。

「まだ暫く休みかな? それとも――」

エルドが報告書を閉じ、少し考えてから言った。

「理素結晶周辺の調査任務は終わりました。次に指令が下りるとすれば――南の海側でしょう」


「海?」氷雨が目を瞬かせる。

「ずいぶん遠いね。北辺群じゃないんだ」


「南沿岸で瘴気の乱流が観測されたとのことです。交易船が次々に欠航して、国の商務局が動いている状況から鑑みるに、探索者の派遣も時間の問題かと…既に一部のパーティには声が掛かっているようでしたがね。流石に我々が出るにはまだ時期尚早でしょうが…可能性は十分にあり得ます。」

「南沿岸か……懐かしいわね」エルドの答えを聞き、私は少し感慨に耽る。

「けど、潮は扱いが難しい。瘴気と混ざれば制御も更に…」

「だからこそ、我らの出番というわけじゃな」

リディアが杯を煽る。相変わらず早い…それ何杯目?


「もし声が掛かるなら、面倒なことになりそうだね」

ラナがため息をつく。

「けど、まあ――久々の遠征なら悪くないかも」

「日焼けしたら罰ゲームね」

既に出来上がった氷雨は口が軽い、ラナがすかさず「難易度高いわ!」と返す。そのやりとりに場が和み、オーリスが「海の浄化は危険です。備えを怠らぬように」と静かに釘を刺した。


エルドは杯を揺らしながら言った。

「詳細はまだ決まっていませんが、準備だけは進めておきましょう。仕事が落ち着いている今のうちに」

その言葉に、誰も異を唱えなかった。すぐそこまで、次の波が来ている。それを全員が感じ取っていた。


食堂には笑い声と食器の音が続き、窓の外では夜風がゆるやかに吹いていた。

王都の空は澄み、星々が淡く連なっている。

その光の群れが、まるで翼のように広がっていた。

理素結晶関連の話は一旦ここで一区切りです。

次からは海回となりますが、作中では初めてのダンジョン外での任務になります。


あとついでに初投稿作品で10万文字超えました。褒めていいよ。

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