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紫華の付与師は今日もお留守番。ダンジョンで無双する最強支援職  作者: さくさくの森
第三章 翼の止まり木

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第25話 ――残されたものの行方――

王都政庁の会議室。

会談を前に、研究局と外交局、各国顧問団が集まっていた。

私とエルドは探索者として招かれ、現場からの見解を述べる役目を担っている。


研究局長が資料を閉じ、場を整えるように発言する。

「理素結晶の観測値は安定を維持しています。干渉反応なし、封鎖結界も正常。本会談では共同研究の提案を正式に提出します。」


文官が確認する。

「共同研究の目的は、理の循環構造を応用した結界技術の確立でよろしいか?」


研究局長は一拍置いて答えた。

「はい。もっとも、理素結晶は単なる魔力資源とは性質が異なります。扱い方を誤れば秩序そのものに影響を及ぼしかねない。ゆえに今回の提携は、研究というよりも管理の共有に近いものです。国際的な枠組みを設け、監視と調整を両立させることが目的となります。」


外交局の顧問が静かに補足する。

「隣国の月影国にも観測権を一部委ねる形となります。独占よりも相互監視のほうが安全ですから。……これは安全保障上の合意でもあります。」


「なるほど。つまり、結晶の潜在的な力を制御する仕組みを、両国で協調して整備するという理解でよろしいのですね。」

私は言葉を選びながら確認する。


研究局長は頷く。

「その通りです。仮に何らかの異常が起きた場合、影響は周辺国にも及びかねません。国内での封鎖だけでは立ち行かない。ゆえに、共に責任を負う体制が必要だと判断しました。」


エルドが穏やかに言葉を添える。

「理の循環は一国の力で制御できるものではありません。複数の視点と立場で監視を行うことが、結果として均衡を保つ最良の手段となるでしょう。」


文官が少し目を細めた。

「……つまり、単なる技術開発ではなく、秩序維持のための政治的合意でもあるわけですね。」


研究局長は否定も肯定もせず、淡々と答える。

「解釈は各国に委ねられます。重要なのは、結晶を眠らせ続けるのではなく、正しく理解し、無用な目覚めを防ぐことです。」


私はその言葉を受けて静かに口を開いた。

「理喰らいの件で、私たちは理が拒む瞬間を見ました。あれは怒りではなく、防衛反応です。理を縛ることも、封じることもできません。ならば、見守る姿勢こそが最も安全です。共同研究という形であっても、その理念が保たれるならば、賛同いたします。」


研究局長が一度頷き、改めて問う。

「現場を経験されたお二人から見て、封鎖解除に支障となる要素はありますか?」


エルドが静かに答える。

「理を扱う際は、秩序そのものに触れることになります。目的が理解であるなら問題はありませんが、急ぎすぎれば反発が起こる恐れがあります。理は均衡を保とうとする性質を持ちますから、過度な解析は循環の崩壊を招く可能性があります。」


研究局長が問いを重ねる。

「反発、ですか。それは具体的にどのような形で現れるのでしょう。」


「明確な暴走ではなく、理の流れが歪みとして応答する形になります。小さな歪みでも放置すれば周囲の環境に多大な影響が出る……私たちはその兆候を確認いたしました。理は壊されて暴れるのではなく、戻るために反応するのです。刺激を抑え、循環を尊重することが最も重要です。」


文官が眉を寄せる。

「それでは研究自体が難しくなりませんか。理に触れずして解析は成り立たないのでは? 既に解析は進んでいるようですが……」


「触れること自体は構いません。ただ、理の形を変えるような観測は避けていただきたいのです。過干渉により在り方を変える――それが最も危うい行為でございます。」


研究局長が少し考え込む。

「なるほど。干渉範囲を最小化し、段階的に拡張する形が望ましいということですね。」


「はい。まずは流れを視る段階で留めることが大切です。理喰らいの件で私たちは学びました。理は壊されて生まれるのではなく、戻ろうとして姿を変えるのだと。今回の結晶も、私の隊の隊員による安定化の手助けこそ入りましたが、理が自らを再構築した結果にございます。」


「つまり、危険ではないと?」


「完全な安全とは申せませんが、敵意を持つものではございません。観測の目的を誤らなければ、拒絶は起こりません。必要なのは慎重さと、敬意です。」


若い研究員がエルドに問う。

「もしも再び活性化した場合は、どう対処すべきでしょうか?」


「即座に干渉を止め、封鎖結界を展開してください。観測を継続したまま安定を失えば、結晶の循環は自己修復を始めます。止めることが最も安全です。」


エルドの説明を補うように、私は簡潔に答えた。

「理は喰うためではなく、戻るために動きます。刺激を与えなければ、暴走には至りません。」


研究局長が頷く。

「分かりました。共同研究は進めます。ただし観測制限を明確に設け、段階的に解析を行う。結晶への負荷は最小限とし、均衡の維持を最優先とします。」


私は軽く会釈して礼を添える。

「ありがとうございます。その形であれば異論はございません。理喰らいの残した結晶は慎重に扱う必要があります。理に敬意を払うことが最良の安全策です。」


エルドも続ける。

「これ以上は私たち探索者の手を離れます。封鎖も管理も、すでにそちらの範囲にあります。だからこそ、触れずに見守ることが重要であることを再三お伝えさせて頂きました。理は干渉よりも静穏を好みます。」


研究局長が満足げに頷いた。

「助言、感謝いたします。ではこの方針をもって会談へ向かいます。」


会議は締めくくられ、私とエルドは席を立った。

扉の外は静まり返り、控室の灯が遠くに見える。

私は歩きながら息を整え、隣の彼へ言葉を向けた。

「少し肩の荷が下りましたね。」


「ええ。藪を突いて蛇を出さないのならば、それで十分です。」



深く理解し、正しい手順で向き合えたなら、あの結晶はもっと踏み込んだ応答を返してくれるのかもしれない。確証はない。ただ、扱いようによっては、願望器にすらなり得る力を秘めている……そんな感覚がある。新たな時代の火種となるか、祝福を照らす光となるか、それが分かるのはもう少し先だろうなと、全身で伸びをしながら思考の隅に片付けた。


次話は日常パートです。

三章終わって現在外伝執筆してますが、ラナのは筆が乗りましたね。


ただやはり導入が弱いと感じるため先に第零章(全三話)の方を完成させます。

明日…明日までお待ちください!もし投稿出来たらブクマもください。

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