第24話 ――金位会議~紫位を目指す者たち~ ――
会議室。窓から光が差し込み、書類と茶器が並ぶ長机。
最初に入ってきたのはラナ。椅子に腰を下ろすと、背を丸めて呻く。
「昨日の筋肉痛ヤバい……というかクー子の杖術が普通に凄い……
階段降りるたびに膝が笑うんだけど」
「それを笑い話にできるなら大丈夫でしょう」
オーリスが淡々と返し、他の三人が笑う。
ヴァルクは呪具を整備し、リディアは湯気の立つ紅茶を一口。
氷雨は相変わらず静かに席に着き、視線だけで挨拶を返す。
今日の議題は――『紫位になるためには何が必要か』。
金位たちの自発的な意見交換会である。
◇◇◇
「ねぇ、正直さ。紫位と金位って、そんなに違うのかな?」
最初に口を開いたのはラナ。昨日の湯の中でクーデリアに放った言葉……とは少し違うが、真意としては近い言葉を、もう一度口にした。
「強さだけじゃない気がするけど、じゃあ何が違うんだろうね」
――沈黙。
ここにいる全員が、一度はその問いを自身に向けたことがある。
◆リディア:「技量の果てを示す者」
「ふむ……儂の考えを申すならばの」
リディアがゆるやかに紅茶を置き、微笑を浮かべた。
「紫位とは、才を磨き、技を極め、もはや“理”そのものと並び立つ者を指す。
クー子の例など、まさにそれであろう。あれは偶然でも運でもない。
ひたすらに積み上げた技量が、ついに世界の理に届いた結果よ」
彼女は指先でカップの縁をなぞる。
「才も、研鑽も、血のにじむ積み重ねも――
そのすべてが“磨き切った一点”で結実した時、人は紫位へ至る。
ゆえに、そこに機会などという曖昧なものは要らぬ。
ただ、研ぎ澄ますことよ。己が技を、理を、心を」
静かな声ながら、部屋の空気が少し引き締まった。
リディアの言葉には、有無を言わせぬだけの説得力があった。
◆ヴァルク:「極限へ至ること」
「俺は、極限へ至ることだと思う」
「紫位の三人は、それぞれの極限に至った瞬間がある」
「エルドは仲間を見出し導き、国家でも屈指のパーティを構築した。
クーデリアは全属性の付与という偉業をやってのけた。
トゥリオは王命級任務の中で命の秩序そのものを変えた。」
「過去の紫位の実績もそのどれもが、役割の中での到達点と言えるものばかりだ」
「俺たちはまだ、道半ばだ。紫位はそれを踏み越える覚悟を持ってる」
◆氷雨:「見抜くことと、踏み出すこと」
「僕は、見抜くことと、踏み出すことだと思う」
氷雨は組んだ指をほどき、淡い群青の瞳で机の向こうを見つめた。
「幻ってね、掴もうとすると消える。でも、見続けていれば形がわかる。
紫位の三人は、みんな、見えていたものを信じて、実際に踏み出した。
僕たちはまだ、見抜くだけで足を出していない」
「見えるだけじゃ届かない。幻を現実に変える一歩が、紫位なんだと思う」
ラナが思わず小さく頷く。氷雨らしい比喩だったが、全員にきちんと届いていた。
◆オーリス:「導く責務の差」
「私は、導く責務の差だと思います」
「金位は自分と仲間の生還を考える。だが紫位は、国家規模で“道”を示さねばならない。
功績や戦果よりも、他者を導く信を持てるかどうか。それが資格です。」
「……導く、か」ラナが呟く。「私、それ一番苦手かも」
「だからこそ訓練を怠らないのでしょう」オーリスが微笑む。
オーリスのことだからきっとエルドを指してるんだろな…
と皆が思ったが、敢えて口には出さなかった。
◆ラナ:「努力だけじゃ届かない偶然の瞬間」
「私はさ、努力だけじゃ届かない瞬間てのもあると思うんだ」
リディアの考えを否定したい訳では無いんだけど…と続けつつも言葉を紡ぐ
「努力で積み上げた力が、ある日偶然の瞬間で花開く――その一瞬を掴めるかどうか。
紫位って、そういう運命とのタイミング勝負でもある…そんな気もするんだ」
評価するのは国であり、ただ愚直に実績を積むだけでは、英傑にはなれても象徴にまでは届かない。その人間を象徴するインパクトのあるエピソードというものが、どうしても必要となるのもまた事実である。
もしも隊で死者が出ていたら?誰かが一生金位に届かなかったら?
エルドは紫位になっただろうか。
もしも王命任務が無ければ、そこで全滅必至の窮地が無ければ、
トゥリオは紫位になっただろうか。
クー子は…ちょっと悔しいが除外とする。
「でも、ただ待ってるだけじゃダメ。
それを成すだけの実力と、覚悟があるのは大前提。
だから、私たちは今日も剣を振る必要がある」
◇◇◇
言葉が途切れ、しばし沈黙が流れる。
窓の外では午後の日差しが傾き始めていた。
リディアがカップを置き、ぽつりと呟く。
「それでも――昇りたいのう」
誰も否定しなかった。ラナが笑い、氷雨が静かに頷き、オーリスが微笑む。ヴァルクだけが目を閉じて、椅子の背にもたれた。
「折角追える背中が近くにあるのなら、目指さない訳にもいかないよね」
その言葉を合図に、会議は自然と終わった。
静かに立ち上がる椅子の音だけが、金位が犇めく部屋に響く。
前提として以下の理由で彼らは紫位に昇格しています。
・エルド:探索者のリーダーとしての頂点(パーティメンバー全員金位到達)
・トゥリオ:王命任務という非常に重要な任務の中で全滅必至の窮地を救う
・クー子:歴史的な偉業を成す(全属性付与+意志ある魔力以外の上書き)




