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紫華の付与師は今日もお留守番。ダンジョンで無双する最強支援職  作者: さくさくの森
第三章 翼の止まり木

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第24話 ――金位会議~紫位を目指す者たち~ ――


会議室。窓から光が差し込み、書類と茶器が並ぶ長机。

最初に入ってきたのはラナ。椅子に腰を下ろすと、背を丸めて呻く。


「昨日の筋肉痛ヤバい……というかクー子の杖術が普通に凄い……

 階段降りるたびに膝が笑うんだけど」

「それを笑い話にできるなら大丈夫でしょう」

オーリスが淡々と返し、他の三人が笑う。


ヴァルクは呪具を整備し、リディアは湯気の立つ紅茶を一口。

氷雨は相変わらず静かに席に着き、視線だけで挨拶を返す。

今日の議題は――『紫位になるためには何が必要か』。

金位たちの自発的な意見交換会である。



◇◇◇



「ねぇ、正直さ。紫位と金位って、そんなに違うのかな?」

最初に口を開いたのはラナ。昨日の湯の中でクーデリアに放った言葉……とは少し違うが、真意としては近い言葉を、もう一度口にした。


「強さだけじゃない気がするけど、じゃあ何が違うんだろうね」


――沈黙。


ここにいる全員が、一度はその問いを自身に向けたことがある。





◆リディア:「技量の果てを示す者」


「ふむ……儂の考えを申すならばの」

リディアがゆるやかに紅茶を置き、微笑を浮かべた。


「紫位とは、才を磨き、技を極め、もはや“理”そのものと並び立つ者を指す。       

 クー子の例など、まさにそれであろう。あれは偶然でも運でもない。

 ひたすらに積み上げた技量が、ついに世界の理に届いた結果よ」


彼女は指先でカップの縁をなぞる。

「才も、研鑽も、血のにじむ積み重ねも――

 そのすべてが“磨き切った一点”で結実した時、人は紫位へ至る。

 ゆえに、そこに機会などという曖昧なものは要らぬ。

 ただ、研ぎ澄ますことよ。己が技を、理を、心を」


静かな声ながら、部屋の空気が少し引き締まった。

リディアの言葉には、有無を言わせぬだけの説得力があった。




◆ヴァルク:「極限へ至ること」


「俺は、極限へ至ることだと思う」

「紫位の三人は、それぞれの極限に至った瞬間がある」

「エルドは仲間を見出し導き、国家でも屈指のパーティを構築した。

 クーデリアは全属性の付与という偉業をやってのけた。

 トゥリオは王命級任務の中で命の秩序そのものを変えた。」

「過去の紫位の実績もそのどれもが、役割の中での到達点と言えるものばかりだ」

「俺たちはまだ、道半ばだ。紫位はそれを踏み越える覚悟を持ってる」




◆氷雨:「見抜くことと、踏み出すこと」


「僕は、見抜くことと、踏み出すことだと思う」

氷雨は組んだ指をほどき、淡い群青の瞳で机の向こうを見つめた。

「幻ってね、掴もうとすると消える。でも、見続けていれば形がわかる。

 紫位の三人は、みんな、見えていたものを信じて、実際に踏み出した。

 僕たちはまだ、見抜くだけで足を出していない」

「見えるだけじゃ届かない。幻を現実に変える一歩が、紫位なんだと思う」


ラナが思わず小さく頷く。氷雨らしい比喩だったが、全員にきちんと届いていた。





◆オーリス:「導く責務の差」


「私は、導く責務の差だと思います」

「金位は自分と仲間の生還を考える。だが紫位は、国家規模で“道”を示さねばならない。

 功績や戦果よりも、他者を導く信を持てるかどうか。それが資格です。」


「……導く、か」ラナが呟く。「私、それ一番苦手かも」

「だからこそ訓練を怠らないのでしょう」オーリスが微笑む。

オーリスのことだからきっとエルドを指してるんだろな…

と皆が思ったが、敢えて口には出さなかった。





◆ラナ:「努力だけじゃ届かない偶然の瞬間」


「私はさ、努力だけじゃ届かない瞬間てのもあると思うんだ」

リディアの考えを否定したい訳では無いんだけど…と続けつつも言葉を紡ぐ

「努力で積み上げた力が、ある日偶然の瞬間で花開く――その一瞬を掴めるかどうか。

 紫位って、そういう運命とのタイミング勝負でもある…そんな気もするんだ」


評価するのは国であり、ただ愚直に実績を積むだけでは、英傑にはなれても象徴(シンボル)にまでは届かない。その人間を象徴するインパクトのあるエピソードというものが、どうしても必要となるのもまた事実である。


もしも隊で死者が出ていたら?誰かが一生金位に届かなかったら?

エルドは紫位になっただろうか。

もしも王命任務が無ければ、そこで全滅必至の窮地が無ければ、

トゥリオは紫位になっただろうか。

クー子は…ちょっと悔しいが除外とする。


「でも、ただ待ってるだけじゃダメ。

 それを成すだけの実力と、覚悟があるのは大前提。

 だから、私たちは今日も剣を振る必要がある」


◇◇◇


言葉が途切れ、しばし沈黙が流れる。

窓の外では午後の日差しが傾き始めていた。

リディアがカップを置き、ぽつりと呟く。


「それでも――昇りたいのう」


誰も否定しなかった。ラナが笑い、氷雨が静かに頷き、オーリスが微笑む。ヴァルクだけが目を閉じて、椅子の背にもたれた。


「折角追える背中が近くにあるのなら、目指さない訳にもいかないよね」


その言葉を合図に、会議は自然と終わった。

静かに立ち上がる椅子の音だけが、金位が(ひし)めく部屋に響く。



前提として以下の理由で彼らは紫位に昇格しています。

・エルド:探索者のリーダーとしての頂点(パーティメンバー全員金位到達)

・トゥリオ:王命任務という非常に重要な任務の中で全滅必至の窮地を救う

・クー子:歴史的な偉業を成す(全属性付与+意志ある魔力以外の上書き)

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