外伝 黎明の翼 ―紫煌―
本稿は、エルド・フェルナー自身の記憶と当時の作戦記録を突き合わせ、報告書様式で再構成した抄録である。
物語的脚色は排し、設計方針・採用経緯・運用効果に焦点を置く。
0. 出発点(四年前)— 単独探索者としての限界認識
対象:エルド・フェルナー(当時:単独運用主体)
活動環境:定員二名級のダンジョンを単独踏破。
技能:索敵/足音抑制/風向の観察/短弓即応/サバイバル
実績:ダンジョン踏破・救助依頼の遂行は安定。ただし「救助を含む複合事案」で判断の遅延と物理限界が露呈。
◆臨時合同依頼「灯台の塔」(定員三名)
同行者:槍使い(匿名)/老術士アンダール。
事象(第二層):崩落。アンダールが槍使いを引き上げ、自身は足首損傷。
アンダールの選択:崩落遅延。二名退避の時間を確保し、自身は崩落により消失。
地上での所感:「もし、俺たちがもっと早く戻れれば……」(同行槍使い)
結論:単独では、救える命に届かない。必要なのは「役割が同時に機能する隊」と、その場に足る強さを事前に整えて持ち込む体系。
◇隊の名の思想
アンダールの手記「翼は、焼かれても光を離さず」から。
定義:
光=到達目標
焼く=接近時の負荷
翼=隊の総合性能
命名方針:「光焼く翼」=焼かれて墜ちず、逆に焼き尽くす強靭な翼。
1. 隊の設計方針
目的:
単独では届かない「救助・踏破・安定化」を、手順と役割で再現可能にする。
要件と担当想定:
防御(前線維持)
火力(面制圧)
機動(突破力)
治癒・結界(継戦性担保)
付与(理への干渉・装備強化)
索敵・戦闘補助(幻惑・感知)
封じ・隔離(対悪環境・退路確保)
採用基準:現役探索者(実務即応・再現性)又はそれに準ずるもの。
2. ヘッドハント記録(全員「元探索者」)
2-1. トゥリオ・ハルヴァ(前衛・重盾)【合流順1】
接触:街外れの訓練場。
交渉(要旨):
「前衛を任せたい。初動の受け止め、退路の殿、間合い調整を担当」
「了解した。結果と手順が明確なら動く」
合流理由:安定性と結果責任の明文化が一致。
2-2. リディア・グレイス(攻撃魔導)【合流順2】
接触:旅宿食堂。
交渉(要旨):
「広い面を一挙に処理できる必要時限定の最大火力が要る」
「お主…随分と高潔な志じゃの。……良い、焔を合わてやろう」
合流理由:常時大火力でなく、段取りに応じて上限を合わせる運用思想が一致。
……その他理由は削除済み。
2-3. ラナ・シエル(前衛・機動)【合流順3】
接触:訓練場。
交渉(要旨):
「私が走れる道を必ず作ること。そこを最後まで走る」
「作る。単独で切り開ける前線戦力が、今の隊には足りない」
合流理由:単体高機動・高突破力の前衛が必要。及びその運用思想が一致。
2-4. オーリス・ノルディア(癒術・結界術)【合流順4】
接触:聖堂付属療舎。
交渉(要旨):
「救えないものを救えるとは言わない隊であること」
「誓う。救えるものを確実に救う隊とする」
合流理由:撤退判断の規律化/結界・治癒の現実運用が一致。
以後、撤退は敗北でなく次で持ち込む前提の戦術に固定。
2-5. 氷雨・エトランス(幻術)【合流順6】
接触:市の広場。幻を操り子供と戯れる。
交渉(要旨):
「幻を利用した索敵ができるか。」
「可能。条件は二つ――乱流が弱いこと/集中ができること」
合流理由:索敵人員の増加が事故率低下に直結。【星紡の白衣】の譲渡。
2-6. ヴァルク・ゼノス(呪具)【合流順7】
接触:瘴気域の遺構。
呪釘一本で瘴気を遠ざけ、仲間の治癒魔法を通す瞬間を目視。
交渉(要旨):
「派手さは要らない。隊の崩れを止め、封じ、退路を残せる者が要る」
「それならやれる」
合流理由:封じ・隔離・座標安定化の担当確立。
進めるだけでなく戻れる隊が完成。
3. スカウト記録(「非探索者」)
3-1. クーデリア・リーフィス(付与)【合流順5】
備考:接触〜加入の詳細は『外伝 黎明の翼 ―紫華―』本文を正とする
(任務で資質確認→交渉→加入)。
4. 運用効果
事故率低下:索敵人員の増加で誤認事故が減少。
救助成功率上昇:人員増・役割明確化により選択肢増加。
撤退の迅速化:オーリス基準で「引くが最善」の場面を明確化。
装備依存の低減:付与による強化が顕著。
5. 当時の発言記録
記者からの質問:「エルド様にとっての強さとは何か」
回答:「目的達成に足り得るものを、事前に揃えて現場へ赴くことです。」
追問:「足りないと判明したら?」
回答:「迷わず戻り、次で必ず持っていきます。」
英雄譚は酒場に任せる。現場は再現性で回す。
焦げ跡は残るが、その上に層を重ねられる。
光は遠い。届くか。――届かせる。
◇◆◇
「光を見極め、光を導く者。ゆえに《紫煌》の名を授く。」
彼が紫煌の称号を王より賜った際のお言葉だ。
紫位の称号は通常、力そのものの極致を表すが、煌は力の発露ではなく力を制御する理性と持続力を象徴する。すなわち、光焼く翼という名を己で掲げた男に、王が「光の側に立つ資格」を公式に認めた印である。
双翼を導くように中央を垂直に走る一本の矢の意匠を持った紫のブローチは、
今も彼の装備の胸元に結いつけられている。
『光焼く翼』
その名に、彼は今も誓いを立てる。
〇エルドの評価点
・緑位~赤位だったメンバーをまとめ、導き、全員金位まで昇格させる
・自身も金位に到達したうえで数多の実績を重ねる
エルド:隊長としての能力+愚直に実績を重ねたことへの評価
クーデリア:歴史に名を残す大偉業への評価
トゥリオは別途外伝ありますが、だいたい二人の中間です。




