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紫華の付与師は今日もお留守番。ダンジョンで無双する最強支援職  作者: さくさくの森
第二章 新しい理

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第12話 ――装備の再確認――

翌朝。

薄曇りの光が差し込む作戦室に、私は一人腰を下ろしていた。

机の上には、仲間たちの装備一覧を記した紙が何枚も広げられている。

墨の香りがまだ新しい。深く息を吸い、視線を落とした。


――出撃前に、もう一度全員の装備を把握しておくべきだ。

付与が効かないからこそ、細部まで理解しておかないといけない。


手元の紙に指を滑らせながら、自分の聖遺物級装備の欄を見つめた。

項目はわずか一つ――


【供応の背嚢】

意思を反映して中の荷物を自動的に排出する。

たとえ両手が塞がっていても、思い浮かべた物が手元に来る――私の相棒だ。


それ以外に、私が持つ特別な品はない。

けれど、それを不便だと思ったことはほとんどない。

強力な装備は確かに魅力的だが、私は状況に応じて自在に付与を重ねられる。

固定された力より、変化に合わせて整えられる方が――私には合っている。


強いて欲しいと願うなら――【太足袋ヘルメス】。

比類なき脚力を与える聖遺物。

ただ、サイズが合わないし、あれはトゥリオが使った方が何倍も役に立つ。


小さく息を吐く。

前回の探索で見つけた聖遺物のうち、付与師向けのものは私たちが引き取ることになっていた。

けれど、それはまだ国の研究班のもとだ。

解析が済み次第返還する――研究班の言葉を思い出す。

つまり、今回の出撃には間に合わない。


「……仕方ない、か」


声にしてみても、部屋は静まり返ったままだ。

嘆いても意味はない。私の役目は理解と調整。

それが紫華の付与師としての務めだ。


紙を一枚めくり、次の装備欄に目を移す。


トゥリオ・ハルヴァ。


重騎士にして、隊の盾役。

彼の聖遺物級装備は四つ。


【太足袋ヘルメス】――比類なき脚力を与える。

【重盾イージス】――不壊の特性を持ち、叩きつけに特大の補正をかける。

【魔喰いの鎧】――着用者の魔力を喰らう代わりに、極めて高い魔法耐性を付与する。

【無尽の腕輪】――疲労を大幅に軽減し、傷の修復を早める。


本来、トゥリオは防壁魔法にも長けていた。

だが【魔喰いの鎧】の影響で魔法の発動は一切封じられている。

その代わり、彼の肉体は、ほとんどの魔力干渉を通さない。

加えて【無尽の腕輪】により体力も文字通り無尽。

――まさに、壁そのもの。


思わず口元が緩む。

魔法を使えぬ不便を、力と装備で覆す。

彼らしいやり方だと思う。

彼の戦い方を思い浮かべると、自然と筆が動いた。

「接近時は側面補助を……」

小さく書き込みを入れる。防御の厚さを見込んで、他のメンバーの配置を調整するためだ。


次はラナ・シエル。


彼女の名の下には、ひときわ異彩を放つ文字が並ぶ。


【神剣ラグナ】――パーティ唯一の神器級装備。

刀身を包む光は、力を解放することであらゆる事象を引き裂くという。

ただし、その代償として体力消耗が激しい。無闇に解放できるものではない。


【黎明装鎧】――肩と太腿部分に金属パーツがある軽鎧。

呼吸と魔力の脈動を感知し、関節部の硬度を瞬時に最適化する。

軽装のまま重装並みの防御と彼女の舞のような剣術を両立させる、希少な装備だ。


【紅環の腕輪】――致命傷を受けた際、自動発動。

傷を塞ぎ、出血と痛覚を一時的に遮断する。

即死を免れた者なら、ほぼ確実に立ち上がれる再起の護符。

――それを理解したうえで、ラナは笑って「安心でしょ」と言っていた。

その明るさに救われた場面を、私はいくつも覚えている。


二本の短剣は一般武器。付与可能だ。

そこだけは、私の仕事が残されている。

「……せめて完璧に仕上げよう」

自然とそんな言葉が漏れた。


最後に、氷雨ひさめ・エトランス。


幻影師。

精神に干渉する幻影を主体とした、

まるで夢の境を歩むかのような戦い方をする。


【幻晶ルーンソード】――多量の魔力を消費して、無数の幻像を一瞬だけ実体化する。

【星紡の白衣】――幻糸が縫い込まれた術衣。

着る者の心拍と呼吸に合わせて糸が振動し、精神集中を補助する。

【白幻の舞踏】――新雪のような靴の装備。

地表との接触瞬間に生じる力の痕跡を消去し、動作の一部を幻として扱う。


淡い白の装備群。

どれも彼女の戦い方に噛み合っている。

力よりも精度。速度よりも静寂。

幻と現の境を縫い合わせるような装備だ。


「……氷雨らしい」


思わず笑みが零れる。

どれほど精巧な幻でも、あくまで幻、

付与による補助は意味を成さない。

彼女の一歩は像を結び、次の瞬間には揺らいで消える。

補うよりも、ただ見届けるしかない。


「って感心してる場合じゃない!」


付与した道具を渡すことはあれど、

氷雨の動きに合わせて補助するようなことは

殆どしたことが無かったなと今更ながらに思い至る。


「でも無理なものは無理だしなあ…

 今回は4人だし、私も直接戦闘するとしたら

 余裕も無いし…補助はラナ中心になるだろうし…

 ここはチーム優先で割り切ろうか」


うんうんと唸って得た結論は、妥協である。

出来もしないことに執着して不利になっては元も子もない。

そう自分を納得させて思考を別のことに巡らせる。



――〈白礫の洞〉の極端に不安定な足場の問題である。


私はトゥリオと氷雨の靴装備の記述に視線を落とした。

どちらも聖遺物級――付与が効かない。

転石、粉塵、崩落域。滑り落ちれば即死もありうる危険地帯。

接地の感覚のわずかな狂いが命取りになる。


戦闘の中であっても常に、

足場の補強を優先するように立ち回る必要があるだろう。


指揮に補助に足場の補強に戦闘に…

並行タスクが多すぎて今からパンクしそうになる…。

やはりエルドはおかしい。

多分今の私の倍は仕事があるのに涼しい顔してこなしている。


「……頑張れ、私」


小さくつぶやき、紙束を整えた。




気づけば既に陽が高く昇っていた。

どうやら数時間は作業に没頭してしまっていたようだ。


一息ついて改めて紙面を見直すと、誰もが常軌を逸した装備を携えている。

神器に聖遺物…まるで神話かおとぎ話の英雄譚である。

この国が誇る最高戦力――それが『光焼く翼』。


しかし今は、それだけの戦力を分散させてでも早急に動く必要がある

それが、今回の任務の重要性を物語っていた。


――国家(サンライズ)からの緊急依頼。

他国との会談に備えた国力の増強。

攻略対象は〈白礫の洞〉と〈墨濛の塔〉

最低でもどちらかは成功させなければ、

この国の未来に少なからず悪影響を残すであろう。


「……だからこそ、ね」


呟いた声が静かな部屋に溶ける。

国が私たちを選んだ理由。

どんな理不尽な環境でも、確実に任務を果たしてきた実績。

その重みが、紙越しに伝わってくる気がした。



――しかし、この決意に近い意気込みが、

探索初日に意外な形で裏切られることになるとは、

この時の私には知る由も無かった。

ファーストペンギンならぬ

ファースト感想て滅茶苦茶敷居高いよねということで、

2013年にフリーゲーム大賞に輝いたセブンスコートをお勧めします。

個人的にそんなに好きなゲームではないですが、強いメッセージ性があり、

大賞に輝いた理由は納得出来るゲームでした。


(一々そんなの気にせず気楽に読むのが最高なのは否定しません)

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