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紫華の付与師は今日もお留守番。ダンジョンで無双する最強支援職  作者: さくさくの森
第一章 再灯の翼 <紫華>

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第10話 ――祝杯を灯の下で――(第一章・完)

祝・第一章完結

ここまでお読みくださった皆さま、本当にありがとうございます。

この後は番外一つと詳細キャラ紹介を挟んでから、第二章に入ります。

※本日中に投稿予定


面白かった、続きを見たいと思っていただけたら、

ブックマークや感想などで応援してもらえると嬉しいです。

夜はすでに深く、窓の外には群青の闇が満ちていた。

街灯の魔導灯が柔らかく石畳を照らし、

通りの喧噪は次第に遠のいていく。


「ほんとに久々だね、こうして全員で飲むの」

ラナが両手を頭の後ろで組みながら笑った。

「制覇祝いなんだから、もっと胸張って歩こうよ」

「胸なら十分張ってるでしょ」

「お、おい、そういう意味じゃなくて!」

慌てるラナに、氷雨が小さく笑った。

「僕は嫌いじゃないけどね、そういう軽口」


思わず、ふっと笑みがこぼれる。

――こういう何気ない会話が、探索後の一番の癒やしだ。


店は〈金環の灯〉という名の老舗。

高位探索者や王立学院の講師が通う、落ち着いた雰囲気の酒場だ。

木の扉を押し開けると、温かい光と香ばしい香りが迎えてくれる。

磨かれた木製のカウンター、整えられた燭台、低く流れる竪琴の音。

決して安くはないが、それだけの安心と質がある。

――治安の悪い酒場とはまるで違う、“上等な静けさ”があった。


席に着くと、香ばしい焼き串の匂いと蜜酒の甘い香りが混じり合う。

ラナが真っ先に手を挙げた。


「とりあえず全員分、乾杯だね!」

「ほう、それがよい。今宵は働いた者の夜じゃ」

リディアが笑みを浮かべる。その声にはどこか品のある艶があった。


小気味酔い音が鳴り、杯が交わる。

その瞬間、ようやく“終わった”という実感が胸に落ちた。


「雷鱗竜――報告書を見て驚いたよ」

ラナがグラスを揺らしながら言った。

「第二形態まで変質してたんでしょ? よく切り抜けたね」


オーリスが静かに頷く。

「ええ、第一形態からして規格外とはいえ、ほぼ損害なしに崩せましたからね」

「むしろ問題は、そのあとでした」

氷雨が静かに言葉を継ぐ。

「階層中の魔力が収束した。……あの時の光景、覚えてる?」


当然覚えている。

実際に体験した6人は誰も忘れないだろう。

「階層主が“階層そのもの”になる。

 周囲の環境で強化されることはあっても、流石にあそこまでのは初ね」


「階層そのものになったからか、

 僕の幻影も途中から全然効いて無かったしね…」


「そもそも実体が無くなって雷だけ、

さらに魔力循環とやら?で不死身だったと聞いたけど

そんなのどうやって倒したの?報告だけじゃあんまり分からなくてさ…」

香草肉をエールで流し込みながら、ラナが問う


ラナは超がつく一流の剣士

そこに神器級装備【神剣ラグナ】の力があれば、

体力消耗に目を瞑れば、実体が無い雷相手にも大きなダメージを通せただろう。

しかし相手が”不死身”とあれば話が変わってくる。


「そこは、ほれ、功労者がおるじゃろう」

リディアが蜜酒を口に運びながらもニマニマと答えて私を見る

つられてラナも私を見る。是非聞きたい。そんな目だ。輝いた目だ。

さらにつられて氷雨までもが聞く準備をしだした。


………仕方がない

…仕方がないなあ!!

ああこれは仕方がない。


語って聞かせてあげようじゃないか。

この私の武勇伝を!


そうと決まれば杯の中身を速攻で飲み干し、

追加で度数の高いものまで注文しちゃう。


「ちゃんと自力で帰るんですよ?」

オーリスが呆れた目で言ってるが気にしない。

さあラナちゃん氷雨ちゃん。ここから半刻は覚悟して欲しい。



***

**

*


――半刻後


「とまあね、このね、導線札――こいつが優勝。」


最終的にはかなりグダグダな説明になった気もするが、

私の考える付与理論から、

魔力循環の流れに干渉して相手の再生を阻害した話など。

必要なことはきちんと説明出来ていたと思う。


ラナも氷雨も出来上がっていて途中からは

「「凄い!クー子様凄い!」」

と過剰に持ち上げてくれるので舞い上がってしまった。

つまり誰も悪くない。世界平和。皆が幸せ。大勝利。


「本当に、幸せそうに酒飲む奴よの」

リディアは顔色を変えずに蜜酒を飲む。

おいそれ6杯目だろ好きすぎるでしょ。


「そりゃこんな日に飲まないなんて噓よ嘘嘘」


そう言いつつも口には水を運ぶ。

オーリスに怒られちゃうからね。


「こうやってしっかり喜んでくれるのが、

クー子のいいとこだよねえ」

ラナがまたも褒めてくれる。

私が入った分、お留守番になってごめん。



冷えた水を摂取して、幾分か頭が冷めたように思える。

「うん…でもね、ほんと嬉しかったんだ」

自分でも驚くほど素直に言葉が出た。


「八連続で“お留守番”だったから。

 今回はやっと……ちゃんと、必要とされた気がして」


一瞬、静寂が落ちる。

ラナが小さく杯を持ち上げた。

「そりゃそうだよ。誰がなんと言おうと、今回はクー子の功績だって」

「ええ、まったく同感です」

オーリスが頷く。

「支援職の成果は数字になりにくいですが――それでも結果は出ている。

 隊長もきっと同じ気持ちですよ」

「……オーリスがいうと説得力あるのお」

リディアが杯を掲げる。

「紫華の付与師に祝福を。よう働いた」

「…あ、ありがとう…ございます。」

照れながら笑うと、皆の笑い声が弾けた。


*



その後も話題は尽きない。

探索中のミス暴露会、雷鱗竜の素材を換金したらいくらになるか。

氷雨が静かに毒舌を挟み、ラナが笑いすぎて咳き込む。

リディアは上品に笑いつつ、蜜酒を片手に古の戦談を語り始めた。

オーリスはそんな彼女たちを穏やかに見守っている。


笑い声、杯の音、木の香り。

すべてが心地よく混ざって、夜が少しずつ深まっていく。

気づけば、外の街灯が一段と淡くなっていた。


「……そろそろ、日付が変わる頃かな」

氷雨が窓の外を見ながら呟く。

「いい夜でしたね」

オーリスが微笑む。

「ええ。……ほんとに」

私はゆっくりと頷いた。


――この仲間たちとなら、また潜れる。

その確信だけが、胸の奥で静かに灯っていた。


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