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紫華の付与師は今日もお留守番。ダンジョンで無双する最強支援職  作者: さくさくの森
第一章 再灯の翼 <紫華>

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第6話 ――雷鱗の間――

扉が、鈍く軋む音を立てて開いた。

押し返されるように瘴気が退き、代わりに重く澄んだ空気が流れ込む。

濃度は高い。だが、喉を塞ぐような毒気ではない。

――むしろ、生まれたての嵐のような、息を呑むほどの静電を帯びていた。


「進入を確認。構成変化、警戒を――」

エルドの声が響き、私たちは自然と陣形を整える。

トゥリオが前衛、リディアとオーリスが中列、氷雨が先行索敵。

私は最後尾で魔力の流れを探った。


扉の先は円形の広間だった。

壁面を縫うように魔力線が走り、淡く光を帯びて脈打っている。

床の紋様は円環を描き、全ての線が中央に集約していた。

瘴気はそこから吹き上がり、螺旋を描くように天井へ昇っていく。

――まるで、この空間そのものが“心臓”のように。


「ふうむ、どうやらこれはまだ“動いてない”の」

リディアが顎に手を当てて呟く。

「ルート外だったため放置していましたが、

 未探索領域の結界内部と推定されます」


オーリスが淡光の糸を編み、空間全体に張り巡らせる。

可視化された結界線は縦横無尽に伸び、まるで血管を張り巡らせた生体器官のようだった。


以前の報告では――

『結界は“満たす”形で特定属性を流し込む必要がある』

……そう解析していたはずだ。


これは外側からの観測結果。

だが今いるのは、内側――つまり、結界そのものの“心臓部”。

ここが魔力の導線の終着点、階層中のエネルギーが流れ込む場所。


頭の中で、点と点がつながる。

これは、ただの部屋じゃない。

階層全体の心臓だ。


――その時。


 ドグンッ。


床が震えた。

低く、湿った鼓動が空間全体を揺らす。

壁の紋が脈打ち、光が生き物のように走り出す。

空気が熱を帯び、髪が逆立つ。


――心臓が、動き出した。


私は杖を床に叩きつけ、魔力を流す。

作った魔力痕が一瞬で掻き消えた。

吸収されている――そう理解するのに一秒もいらなかった。


「みんな聞いて! 今、階層全体の魔力が中心に集まってる!」


焦燥が走る。このまま暴走すれば、階層ごと吹き飛ぶ。

だがその不安を、次の瞬間の咆哮が掻き消した。


 ――――グォオオオオオオオォォォン……!!


空気が震えるというより、空間の座標そのものが軋んだ。

脳の奥を叩くような振動に、呼吸すら忘れる。


広間の中心――集束した魔力がひとつの渦を形成し、雷光を孕む。巨大な魔方陣が発生し、そこから現れたのは、鱗に稲妻を走らせる巨大な影。鱗一枚が人の身丈を超え、頭部には双角がそびえ立ち、瞳孔のない双眸が灼光を放つ。大地を踏みしめるたび、床の紋が雷光に変わり、轟音を響かせた。


「……“雷鱗竜ライリンリュウ”か」

エルドの低い呟きが、戦端の合図となった。


*


階層主


ダンジョンの心臓を守護する異界の番人。

瘴気と魔力が結晶化して生まれた“意思ある災厄”であり、討伐しても消滅せず、一定期間を経て再構成される。目的は侵入者の排除と、階層の均衡維持。


八層の守護者――《雷鱗竜》は雷の力を宿す竜型魔獣。

鱗は雷鳴を孕み、呼吸のたびに空気が焦げ、その咆哮は、音ではなく圧と形容するに相応しい。最早その存在そのものが災害であった。


魔力を含んだ震動が、壁を波打たせる。


瞬間、足下の魔力線が反転――床が爆ぜた。


「散開!」

エルドの号令に、全員が即座に動く。

直後、先ほどまで彼が立っていた場所に、雷撃が降り注いだ。


だがその中でも、オーリスの詠唱が響いていた。


「《聖光還流(せいこうかんりゅう)輪環(サンサーラ)》――癒えよ、穢れよ退け」


聖遺物級装備【聖杖アスクレピオス】

聖遺物級装備【聖環アステリア】

瘴気を払う効力と回復力が強化される杖と

魔力損耗を減少させるサークレット

それらが光を放ち、浄化の輪が展開。

瘴気が霧散し、焦げた空気が澄む。

同時に全員の体力が徐々に回復し、士気が高まった。


「氷雨!」

「分かってる――《幻影展開(げんえいてんかい)千層(せんそう)》!」


空間が歪み、雷鱗竜の周囲に無数の幻影が生まれる。

竜は本能でそれを敵と認識し、咆哮。

雷光が奔り、幻影が弾け飛ぶ。

その刹那――トゥリオが前へ出た。


「起きろ、イージス!」

重盾が輝き、雷光を受け止める。

火花が空間を裂き、彼の足元が砕ける。

それでも踏みとどまり、反撃の合図を送る。


「リディア!」

「おうさ、《焔天崩(えんてんほう)炎咆(えんほう)》ッ!」


紅蓮の奔流が竜を包む。

だが雷鱗がそれを弾き、爆炎が反射する。

竜の喉が光を帯び、次の雷撃がチャージされていく。


(ダメ、このままじゃまともに受ける)


聖遺物級装備【供応の背嚢】

持ち主の意思を反映して中の荷物を自動的に排出してくれる、私の相棒だ。

中の荷物は全て事前に「付与導線」を確保済み…

これにより「触れずに一斉の付与」が可能!!

必要なものは『浮遊金属片群』と『封雷陣』


雷鱗竜の喉奥で雷が飽和し、臨界に達した。

あと数瞬で、積層された高出力の雷撃が放たれる――!


【供応の背嚢】が自動展開し、無数の金属片

――『浮遊金属片群』が扇状に射出される。

それは宙にばらけ、均一な間隔で空間を覆うように散開した。

同時に、床面の『封雷陣』が淡く光を帯び、螺旋状の“受け皿”を形成する。


(付与は加算ではなく一時的な上書き。浮遊力は――失う。)


「――“雷”付与、全展開!」


瞬間、空間全体が紫電に染まった。付与の直後、浮遊金属片群は、重力に従って自由落下する。だがそれこそが狙いだった。


電界は最も通りやすい経路へ雪崩れ込む性質を持つ。つまり無数の帯電片が落下する軌道そのものが、“雷の道”…を形作る。雷光は枝分かれし、金属片の落下経路を這うように拡散、やがて…全てが封雷陣に吸い込まれた。


轟音。閃光。だが、直撃は――ない。



「縫い付ける、支援しろ!!」

雷撃を防いだことで出来た隙を逃さず動いた影が二つ

エルドの声と同時、竜の膝元まで急接近したトゥリオが、雷撃直後の竜の頭上まで跳躍する。


トゥリオの聖遺物級装備

比類なき脚力を授ける【太足袋ヘルメス】

"不壊"の特性を持ち、叩きつけに特大の補正がかかる【重盾イージス】


「沈め!!」


その二つが可能とした大跳躍からの圧倒的な威力の重盾による叩きつけ

ガドッッ!!と最早生物にぶつけたとは思えない、硬質な鱗に特大の鈍器が叩きつけられた音が響く。

巨大な竜の頭蓋が凹み、巨体が地を這うこととなる。


「《天縫煌鎖(てんほうこうさ)》!!」


エルドの聖遺物級装備

一射が任意の射数になる【如意ボウ】

無尽蔵に矢束を生成する【無窮の矢筒】


1の矢が50を超える矢となり、雷鱗竜の身体を地面に縫い付ける。

それだけではない、矢羽から金鎖が伸び、竜の全身を縛り上げる。


身動きが取れなくなったところを間髪入れず、氷雨とリディアが追撃に入る。


氷雨がその手に握るは、聖遺物級装備【幻晶ルーンソード】。

多量の魔力を消耗することで、幻像を一瞬だけ実体化する。


リディアが掲げるは、同じく聖遺物級装備【炎哭の杖ルシエル】。

魔力を燃焼させるたびに杖自体が共鳴し、周囲の酸素を炎に変える。


「《氷幻界想(ひょうげんかいそう)千晶花(せんしょうか)》」

「《焔天崩(えんてんほう)煉獄葬(れんごくそう)》」

二つの詠唱が重なった。


氷と炎――相反する二つの極点が、ひとつの焦点で交わる。


氷雨の幻影が展開した“千晶花”の結界内に、リディアの《煉獄葬(れんごくそう)》の炎が叩き込まれる。極低温と高熱が衝突し、空間が爆ぜた。雷鱗竜の鱗が軋み、巨大な体がわずかに浮き上がる。


「命中確認……! 装甲、剥離っ!」

オーリスの報告に、エルドがすかさず二の矢を放つ。

【無窮の矢筒】とは異なる箇所から取り出した特別製のその矢は、

矢羽が焼け焦げるほどの速度で飛来し、深々と突き刺さる。


――直後、轟音。雷鱗竜頭部が半ば吹き飛ぶ程の爆発


余りにも容赦がない追撃、夥しい量の瘴気が漏れ、まずもって致命傷と思える有様である。


「…終わったかの?」

リディアが少し安心した声で確認する。


普通ならこれで終わりだ、そう普通なら


しかし、否、やはり…床の紋が再び明滅を始める。

竜の鱗の隙間に、雷が走った。

焼けた傷跡が、内部から再生していく!


「……魔力、地脈から再供給されています!」

オーリスの警告。


私の視界が中央の魔法陣を捉えた。

雷光が地面の下から脈打ち、竜の体へと逆流していく。


「くっ……! あの魔法陣、階層の地脈と直結してる!」

雷鱗竜はそのエネルギーを、まるで心臓の拍動のように吸い上げていた。


地面が唸り、縫い付けられた巨体の下から亀裂が走る。

拘束矢が一本、また一本と焼き切れ、金の鎖が弾け飛ぶ。


「――第二形態、確認!」

エルドの声に、誰もが歯を食いしばる。


竜の背から雷光が噴き上がり、翼の形を取っていく。

実体のない電磁の刃。その一振りで壁面が抉れ、広間の結界が悲鳴を上げた。


だが、それは単なる“変化”ではなかった。雷鱗竜の第二形態――それは“再構築”に近い。第一形態が“肉体による殲滅”であったなら、第二形態は“魔力循環そのものが意思を持つ状態”。


肉体はすでに副次的な容器に過ぎず、本質は、階層の地脈と接続したままの“魔力そのもの”。だからこそ、再生を止めることはできない。攻撃は外殻を破壊しても、地脈を伝って再構築される。

いわば“階層主”が、“階層そのもの”へと変わり始めた段階だ。


エルドが呟く。

「……もうこれは、竜じゃない。――階層の心臓そのものだ」


雷鳴が答えるように轟き、

竜の輪郭が完全に雷光の翼に包まれていった。


◆使用アイテム


※浮遊金属片群

浮遊する複数の金属片。浮遊魔法で保持されている。


※封雷陣

使い捨ての“雷を封じる陣”。雷撃を地下の魔力脈へと落とす。

余剰魔力は循環処理され、瘴気を抑制する副作用を持つ

それなりに高価でストックはない

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