反撃してやる
幼いころの夢を見た。
ヤランが孤児院にやってきて半年ほど経った時のことだ。ナジュアムは七歳になっていた。
「こんなもの食べられるか!」
そう叫んで、ヤランはカボチャのリゾットを床にぶちまけた。
よりによってそれは、まだ馴染めずにいる彼のために、彼の好きなものだからと他の子たちよりも多く盛り付けていた時のことだった。
孤児院の予算は潤沢とは言えず、子供たちはいつもお腹を空かせていた。
年少の子たちは怖がって泣きわめき、それ以外の子たちは彼を一斉に詰った。
もちろんナジュアムも腹は立ったが、子供たちを慰めるのに忙しかったから、彼を責めることはしなかった。
ヤランは孤立した。
もともと「こんなところでおまえら相手に慣れ合うつもりはない」などと言ってしまうような子だったし、仕方のないことだと思った。けれど院長先生は、ナジュアムを呼び出して言った。
「ヤランと仲良くしてあげて、ナジュアム。あの子はまだ、両親との別れを認められずにいるのです。きっと期待してしまったんでしょうね。自分の食べ慣れた、懐かしい味が出てくるのを。期待と違ったから、悲しくてああしてしまったの。あなたにもわかるでしょう」
「俺は、あんなことしたことない」
「そうだけど、期待した味と違って、がっかりしたことはあるはずですよ」
「……うん」
院長先生と約束したから、というだけではない。
彼のことが気になったから、ナジュアムは自発的にヤランに声をかけた。彼が好きだというリゾットには、カボチャの他に何が入っていたのか、どんな味がしたのか根気強く聞きだした。
「俺が、ヤランの好きなリゾットを作ってやるよ」
ナジュアムが笑いかけても、ヤランはムッとするだけだったけど、それから彼の態度は少しずつ軟化していった。
孤児院の外に出て活動する『手伝いの日』に二人で競い合うように一生懸命働いて、お小遣いをためて少しずつ材料を買い集めた。
そして院長先生に頼み込み、二人でリゾットを作った。
出来上がるまでは、キラキラしていたヤランの瞳は、皿に盛った時点で曇っていた。
「やっぱ、全然違うじゃねえか。あのときのより、マズいし」
煮崩れてべちゃっとしたリゾットは、確かにお世辞も美味しいとは言い難かったけれど、それでもがんばって作ったからナジュアムは悔しくてボロボロ泣いた。
するとヤランは、慌ててナジュアムを慰めた。
「味は全然違うけど、これはこれで悪くねえよ」
「マズいって言った」
「忘れろ」
「忘れないよ。いつか絶対、ヤランに美味しいって言わせてやるんだからな」
「そうかよ、楽しみにしてる」
その時ヤランは初めて笑った。
……あの頃は、まだ可愛かったんだけどな。
どうして今頃こんな夢を見るんだろう。罪悪感だろうか。
だとしても、ナジュアムはすでに決意した。彼がまたナジュアムの前に現れるのなら、オーレンや彼の周りの人を傷つけるつもりなら――。
「反撃してやる」
いつだってナジュアムは、誰かを守るためなら、戦える。




