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魔法を見せるということ

 その日の夜中、珍しくオーレンが寝室の扉を叩いた。

 例によってナジュアムはまだ眠っていなかったので、飛び起きて扉を開けた。


「ナジュアムさん、今日、誰か来ましたか?」


 ナジュアムが扉を閉め切るのも待ちきれない様子でこちらを覗き込む。

 どうして分かるのだろう。ナジュアムはまばたきしながら彼を見上げた。魔法を使う者同士、なにか痕跡のようなものを残すのだろうか。

 ぼんやりしていると、焦れたように肩をゆすられた。ずいぶんと顔が近い。頭が真っ白になりそうだ。


「ナジュアムさん!」

「え? ああ、魔法屋が来たんだ」


 すると彼は、あからさまにホッとしたようだった。

「よかった、例の恋人が来たのかと……」

 ナジュアムは動揺してわずかに目をそらした。幸い、オーレンは別のことに気を取られていて気づかなかったようだ。「ん?」と眉を寄せた。


「けど、どうして魔法屋が?」

「前に行ったとき、魔石を枯渇させる寸前だったんだよね。あれからしばらく経つから、魔石の状態を確認しにきてくれたみたいだ」

「魔法屋って、そんなことまでするものですか?」


 妙に絡んでくるなと、内心で首を傾げながらナジュアムは答える。

「普通はしないと思うけど、あの日、俺ボロボロだったから」


 ロカにまで心配をかけたのだと思えば、いまさら恥ずかしくなってきた。なんとなく照れ笑いを浮かべるナジュアムに対し、オーレンの顔つきがどんどん不満げなものに変わる。


「オーレン?」

「……例の、魔力を込めるところを見せてくれる、男、ですよね?」

「前もそこで引っかかってたね。なにかあるの?」

 オーレンはぐっと口を引き結んだ。


「いえ、別に」

 別にって態度じゃないだろ。

 まさか嫉妬というわけでもないだろうが、一応言ってみる。


「ロカは友達だよ? まだ子供だし」

 なんだか、ロカにも同じようなことを言ったなと妙な気分になった。

「魔人の年齢を見た目で判断することはできません」


「まあ、そうなんだけど……。あ、魔法屋といえばオーレン、もしかして食糧庫だけじゃなく、家の中の魔石にまで魔力を込めてる?」

「はい。いけませんでしたか」

「そうだね、食糧庫の魔法道具はともかくとして、母屋の分は家計として管理しているから次からは必要ないよ。もう込めてしまった分に関しても魔法代を払おう」


「そんなの要りません」

「ダメだよ。そういうことはきちんとしておかないと。後々揉めたくない。ちょっと待ってて」

「嫌です」


 一度部屋に戻ろうと、扉に手をかけたところで、それを阻むようにオーレンの手がぬっと伸びてきた。

「嫌って」

「受け取りたくありません。俺、そんなつもりじゃなかったんです。ただ――」


 腕の中に閉じ込められているような状態になっている。ただ、閉じ込めている側のオーレンがムキになっている子供みたいな顔をしているので、ナジュアムはどうしたものか戸惑った。


「ただ?」

 オーレンはナジュアムから目をそらし、言いづらそうに口元をモゴモゴさせた。

 こういう時は、待つ。

 相手が口を閉ざしてしまったり、逃げてしまったりしないように。

 ゆっくりとまばたきして、再び彼と目が合うと、オーレンはなぜか顔を赤らめた。


「ま、魔法屋に行ってほしくなくて」

「どうして?」

「どうしてってその、ナジュアムさん言ったじゃないですか。俺が、魔法を込めるとこを見たいって」

「うん。言ったね」

「だけど、魔法屋にも見せてもらうって」


 そこに戻るのか。

 呆れと興味が追いかけっこして、興味のほうが上回ってしまった。


「それって、何か特別なことなの? 教えてくれないと街中の魔法屋に魔法を見せてくれないか頼みまくるぞ」

「やめてください! 魔石に魔法を込めるっていうのは、ある種とても無防備になる瞬間で、だからその……。それができるのは相手に相当気を許してないとできないことなんですよ!」


 我ながら妙な脅しだと思ったが、オーレンはするすると本音を入った。こっちがびっくりするくらいだった。けれど、なぜそこまで照れるのか、正直なところ理解できない。


「そりゃまあ、俺相手に警戒したって仕方ないだろうし」


 首を傾げていると、オーレンはがっくりと項垂れた。

 悪いことをした気分になる。


「まあ、オーレンが嫌なら、ロカに見せてって頼むのは止めるよ。それとは別に、近々行くって約束しちゃったから魔法屋には行くけど」

「俺も行きます」

「けど時間が」

「俺が休みの日にしてください。なら、一緒に行けるでしょう」

「仕事帰りに立ち寄るつもりだから、遅くなるよ?」

「なら、なおさら行きます。このあいだ、朝ご一緒した辺りまで迎えに出ますから。いいですよね」


 なんなんだ、その有無を言わせぬ感じは。

「別に、いいけど」

 押し負けた形で、ナジュアムは頷いた。





 

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