表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

アリア・アルテイラの手記

アリア・アルテイラの手記

作者: 桜花

今日、私は逃げ出した。

生まれてからずっといた監獄から。

この日記は私の今までの人生について記しておこうと思う。






私が生まれたのは、アルテイラ王国の王室だ。

私はアルテイラ王家の末娘として生を受けた。

私が生まれたころは、隣国との戦争の最中だった。

戦況は芳しくなかった。

それは、隣国には魔法士の力があったからだ。

一方、アルテイラ王国は魔法士の数が少ない。

魔力を持って生まれる人間が極端に少ないのだ。

100人いれば魔力を持った者が生まれるのは1人いればいいほう。

そんな国に私が生まれた。


私はこの国では非常に珍しい魔力を持って生まれた。

それも並大抵の魔力ではない。

隣国の魔法士の軍勢が束にかかっても敵わないほどの魔力を。

そんな力を持った人間が、この国に生まれたとなると待っている運命は一つだけだ。



王国は私を兵器にした。



物心つく前から私は王女としてではなく、人間としてでもなく兵器として育てられた。

魔導書を何百冊も暗記させられ、強力な魔法を作ることを命じられた。

いくつも魔法を作り、役に立たなければ暴力を振るわれた。

強い魔法を作れば、多くの人間を殺させられた。

兵士や魔法士だけではない。

病気の者、もう体力もない老人、自分と歳の変わらない子供。

何人も何人も何人も何人も、私が殺した。

最初は抵抗もあった気がする。

その感情も今では思い出せない。

それほどまでに、私は人を殺した。

私の手は血で染まっていた。

人をたくさん殺せば、自国では英雄扱いをされる。

父である国王は、私を娘としてではなく兵器として愛した。

兄や姉からは化け物扱いをされた。

皆、私を一人の人間として見ていなかった。


魔導書の中に一冊おとぎ話の本が入っていたことがあった。

それは、ごくありふれた幸せな家族の話だった。

物語の中では戦争もなく、魔法もなかった。

温かいご飯があって、温かい家庭がある。

私が望んでも手に入らないものが、そこにはあった。

なのに、主人公は魔法を望んだ。

私は主人公のことが憎たらしく思えた。

私が喉から手が出る程ほしい物を持っているくせに、さらに魔法まで望むなんて傲慢だ。

おとぎ話に向かってそんな馬鹿馬鹿しい嫉妬を抱いた。

気づけば私はその本を燃やしていた。




今日も人を殺す。

何人も何人も何人も。

逃げ回る人間をあざ笑うかのように魔法で人を殺す。

あのおとぎ話の主人公は、なんで魔法を望んだのだろう。

魔法なんて人を殺し苦しめるものだ。

私の魔法のおかげで隣国は壊滅寸前だ。

私が生まれてから十数年で戦況は大きく変わったのだ。

私は今日も兵器として生きる。

今日も人を殺す。

何人も何人も何人も。


あと何人殺せば私は解放されるのだろう。




隣国は降参をした。

理由は明確だ、もう戦える兵士がいない。

隣国はアルテイラ王国の傘下に下った。


私は一旦、兵器ではなくなった。

平和になったこの国では、私は役目が無いのだ。

私はよく王宮を抜け出して、よく人気のない花畑に行っていた。

兵器として育てられた私が花畑によく行くなんて笑われるだろうから、誰にも気づかれないように行っていた。

今日もその花畑を行き、いつも通り花に移り住んだもの

「あんたみたいな奴も花を愛でたりするんだな。」

突然知らない男に話しかけられた。

「悪い?」

「いや、なんか意外なだけ。」

初対面なのになんて失礼な奴だ。

しかも、仮にも私は王女だぞ。

別に構わないが。

「俺は、ローラン。あんたのことは知っているぜ。王女様だろ?」

「まぁ、そうだけど。私が王女って分かっててその態度なのは、バカというか度胸知らずというか。」

「だって俺、アルテイラの人間じゃねぇもん。」

てことは、隣国の人間か。

戦争が終わってから、隣国の人間はアルテイラに移り住んだ者もいた。

こいつもその類だろ。

「それで、私をバカにするために話しかけたわけ?

「いや?なんかめっちゃ美人な子いるなぁってナンパしに来ただけ。」

「バカなんだな。」

調子が狂う。

こんな風に誰かと話すのは初めてだ。

なんなんだ、こいつは。

「俺、またここに来るからさ。そん時は俺の名前呼んでくれよ、王女サマ。」

そう言ってバカは去っていった。


王宮に戻り自室へ向かう途中私の行く手を阻んだ者がいた。

「アリア、どこに行っていたんだい?」

「‥‥ルノアールお兄様。いえ、大した場所では。」

王太子、ルノアール・アルテイラ。

私の腹違いの兄だ。

彼は魔力がないにもかかわらず、先の戦争では活躍した英雄だ。

「ふぅん、まぁいい。それよりアリア、今夜部屋に来なさい。」

「‥‥はい、お兄様。」


こんなことが始まったのは、私に初潮が来てすぐだった。

ある夜、ルノアールの部屋に呼ばれ事が起きた。

王室の伝統だとか、いつか役に立つからと体に刻まれた。

「アリア、お前は本当にきれいだね。お前以外の女は皆虫けらのようなものだ。」

「光栄です。」

私の体に触るこの手が嫌いだ。

私の全てを暴こうとする動きも嫌いだ。

顔が近づくとかかる髪の毛も、私に嘘の愛を囁く声も全部大嫌いだ。



次の日も私は花畑に来た。

「お、今日もやっぱいたんだな。もしかして俺に会いに来た?」

「そんなわけないだろ。私がいつも来る場所に、バカが来ているだけ。」

「あんた、俺の名前覚えてねぇな?」

「覚える気もない。」

「ひでぇ!」

あんな夜を過ごしたあとだと、このバカさ加減はどこか安心した。

「あんたさ、いつも仏頂面だけど笑ったことある?」

「何急に。‥‥別に、そのぐらいは、ある。」

「いや、絶対ないな!?」

バカは大きな声で私を指さしながら言った。

「せっかくの美人なんだからよぉ、笑ったらどんな男でもイチコロだぜ?」

「興味ない。」

「‥‥よし、決めた!俺は王女サマを笑わせる!」

「は?」

「いいか、明日から俺はあんたを笑わせるからな!じゃあ、俺時間だからもう行くわ!」

そう言い残してバカは去っていった。

嵐のように来て嵐のように去る男だ。

「お前も私の名前言わないじゃないか‥‥。」



その後何日も、何日もバカは私を笑わせようとした。

「笑えないけど、バカがバカなことをしているのは面白いとは思うぞ。」

「あーくそ!!今日も笑わねぇな!」

私はこのバカと過ごす日々がいつからか心地いいものになっていた。

兵器だった時には考えられない平穏な日々だった。

「なぁ、いつになったら名前で呼んでくれるの?」

「お前だって私のこと名前で呼ばないだろ。」

「王女サマが呼んでくれたら呼ぶ。」

「じゃあ、永遠に呼ばれないな。」

お互いの名前を呼ばずに、ただ平穏な日々を送る。

そんな時間が過ぎていった。


私はいつの間にか、こいつに惹かれていた。



そんな日々を送っていたが、ルノワールからの呼び出しは続いていた。

バカへの想いが募る中、ルノワールの相手をしてれば心がぐちゃぐちゃになった。

「アリア、お前は俺の物だ。愛しているよ。」

「‥‥お戯れを。」

もう、無理だ。

バカに会いたい。

事が終わるまでそんなことを考えていた。



「ねぇ、名前呼んで。」

「王女サマが呼んでくれたらな。」

今日も私は花畑に訪れた。

ルノワールからの愛のささやきを上書きしたかったんだ。

「お願い、名前を呼んで。」

「‥‥何かあったのか?」

私は笑ったことがない。

そして、泣いたこともない。

そんな私の目から涙が零れた。

「お前と出会わなかったら、こんな感情抱かなかった。お前が私にこんな感情を教えたんだ。」

泣きながら私は支離滅裂なことを吐いた。

「ローラン‥‥私の名前を呼んで。」

「‥‥アリア。」

私達は花畑で口づけをした。





「アリア、今夜部屋に来なさい。」

「‥‥もう行けません。」

私はルノワールの言葉に初めて反抗した。

ローランを愛したからだ。

「誰だ。」

「っ!!」

ルノワールは私の首を絞めた。

嫉妬、怒りそんな感情を目に宿して。

「お前の愛は俺にだけ向ければいい。向かないのであれば無理やりにでも向かせてやればいい。」

ルノワールは私を強引に部屋に連れ込み、寝台の上に放った。

逃げ出そうとしたら殴られた。

手錠をつけ動けないようにした。

魔法で壊そうとしたら魔法が発動しなかった。

「この手錠は耐魔法の加工をしてある。お前の魔法は通じないよ。」

そう言い、私の服を引き裂き上に覆いかぶさった。

強引に、乱暴に、暴力的に私を犯した。

ローランのことを考えると涙が出てきた。

「愛している。アリア、俺にはお前だけなんだ‥!」

やだ、聞きたくない。

ローラン以外からそんな言葉を聞きたくない。




その日から私は王宮から出れなくなった。

私が知らぬ間に耐魔法の研究が進んでいたようだ。

私の足には足枷と鎖を繋がれ部屋に閉じ込められた。

「ロー、ラン‥‥。」

あの楽しく温かい日常は儚く散った。

部屋に差し込む僅かな光は決して広がることはない。

日が落ちれば暗闇だ。

まるで私の人生のようだ。

暗闇で育ち、兵器として生きて。

少しの間だけ日の当たる場所で息ができて

また暗闇に戻された。

ローランに会いたい。

まだ、笑う約束を果たせてない。

「一人じゃ、笑えるわけないよな‥‥。」



何日、何週間と変わらず部屋に閉じ込められていた。

もうどれぐらい時間が経ったのか分からない。

それにしても今日は外が騒がしい。

何かあったのか。

いや、私には関係ない。

そう思っていると部屋のドアが開いた。

「アリア様。広場へお連れします。」

扉を開けたのは、ルノワールの従者だった。

足枷を外し、代わりに手錠をかけられた。

従者に連れられ向かった広場に行くと、私は目を疑った。


「ローラン?」


そこには多くの国民、国王、他の兄や姉達がいた。

そして、処刑台の上にルノワールとローランがいた。

ローランはボロボロで手錠をかけられ、跪かされていた。

「ここにいる男、ローラン・ヴェルアは先の戦争相手のヴェルア帝国の皇太子である。そして、あろうことか我が妹にしてアルテイラ王国の英雄であるアリア・アルテイラを誑かし、この国を滅ぼそうと計画していた!!」

民衆に向かってルノワールはそう叫んだ。

ローランが隣国、ヴェルア帝国の皇太子?

いや、そんなことはどうでもいい。

「よって、この男を処刑する!」

「っ!!ルノワール!!!」

この男は分かっていたのだ。

ローランが皇太子であったこと。

私の想い人がローランであったこと。

そして、私怨でローランを殺そうとしている。

「この手錠を外せ!!」

「応じれません。ルノワール様の命令なので。」

従者は淡々と言った。

私はなんとか手錠を外そうとした。

だが、びくともしない。

早く、早く外さないとローランが!





民衆たちの大きな声。

拍手、ルノワールを称える声。

そして地面に落ちている、ローランの







頭。



















バキンっと大きな音がした。

あぁ、そっか。

大量の魔力を手錠が抑えきれなくなったんだ。

「ころ、さ、ないと‥‥。」

多くの敵、殺さないと。

大丈夫、このぐらいの人数ならすぐに終わる。

私は兵器。

多くの敵を殺すことで生きている意味を成す。

私に向かってくる有象無象。

殺さないと。





殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

「はは、ははははっ!!!あーはっははは!!!!」

なんだろう、自然と声が出る。

口角が上がる。

ローラン!私笑えてるよ!!

今、なんだかすっごい楽しい!!



気が付いたら生きている人間はいなくなった。

私の足元には血まみれの肉塊が転がっていた。

肉塊をかき分けて私は、ローランの頭を見つけ抱きしめた。

「ローラン‥静かなところへ行こう。」

私はローランを抱えてその場を去った。


国王を殺し、王家を滅ぼし、多くの国民を殺した私は追われる身となった。

後悔はしていない。

多くの敵を殺して私は愛する人と一緒にいれるようになったのだ。






今日もローランは私のそばにいる。

静かに私だけを見つめて。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ