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8 お茶会へ参加する理由

「そういうことでしたか……」


 リシーラは小さく嘆息した。


 ウォルター達から理由を聞き出してみると、適格者が見つからないのも納得、という代物だった。


 まず、リシーラの家であるミゼル子爵家は、森の恵みで収益を得ていた。

 豊かな森の土を利用しつつ、畑もそこそこの収穫量を維持している。

 そのほか珍しい草花や、珍味だという動物、美しい鳥の羽などを売っているのだが……。


 珍しい物というのは、高値がつく。

 でも高価な物を買う相手がいなければ、ただのがらくたや雑草だ。

 高価な品の購入者は、たいてい貴族ということになる。


 そんなミゼル子爵家が一番ひいきにしてもらっている家は、アルシオン公爵家だった。

 数代前の公爵が珍しい物を収集するのが趣味で、そのつながりからミゼル子爵領の品を定期的に取引しているらしい。

 おかげで雨で作物が半分だめになった時も、橋が流された時も、なんとかやってこられたのだ。


 ここまではリシーラも知っていた。

 そんなアルシオン公爵家が、公子の花嫁探しをしているそうだ。


 お家騒動があったらしく、先代公爵からの代替わりが延々と遅れる中、公爵子息が夫婦ともに亡くなったり、公爵の側近だった者が亡くなって親族が補佐をするようになったり……。

 とにかく怪しい状況だった。


 だからこそ先代の孫にあたる公子が、滞りなく次の公爵になるために、結婚を急いでいるらしい。


 なぜなら、『既婚の男子が優先して爵位を受け継ぐ』という慣習が貴族にはあるからだ。

 次の継嗣が生まれる前に当主がいなくなると、混乱するから。


 アルシオン公爵家でも、過去に公子が既婚ではなかったため、傍流の既婚貴族が公爵家を乗っ取ろうとした事件があったらしい。

 そうした状況を防ぐため、公子が爵位継承前に結婚させておきたいのだろう。


 さて、公爵家としてはできるかぎり公爵家に好意的な家から花嫁を迎えたいらしい。

 そのため親族の中でも公爵家に友好的な家や、公爵家と長く取引がある信用できる家に、お見合いに参加しないか? という打診があったそうだ。


 お茶会に出席してもらい、その中からより公子と合う相手を選ぶつもりだという。

 そのお茶会を数か月前から打診していたのは、気合を入れたい人ならば、新しくドレスを新調するだろうという配慮だったようだ。


 ただし出席しなかったからといって、何かペナルティがあるわけではない。

 ないのだが……協力してくれなかったのか、と心証が一段落ちるのは確実だ。


 子爵家も当主が交代したばかりだったので、アルシオン公爵家との関係を薄めたくないので、分家の女性で出席できる人を探していたようだが。


「ちょうど、年頃の合う子達が結婚した後だったからな」


 困り顔で言ったのは、ウォルターだ。


「私が声をかけた方々は、ミゼル子爵家が取引していて私と交流がある家の女性なのだけど、そちらは年齢が少し若すぎたり、公子よりも年齢が上すぎて……」


 紹介するにしても、公子との釣り合いを考えないと、こちら側がなりふりかまっていない感じに受け取られてしまうので、それもよろしくない。


 紹介するからには人となりを保証できなければ、さすがに今後に響く。

 そして席を埋めるためとはいえ、やる気がないのを丸出しにするのもよろしくないのだ。


「公子の年齢は?」


「二十三歳らしい」


 ウォルターの答えを聞いて、リシーラは言った。


「出席するだけで良いのでしたら、私がうかがいましょうか?」


 ウォルターもアンナも、予想外だったようで目を丸くする。


「だって、妖精界へ行ける時期を待っているのでしょう? リシーラ。それに縁ができてしまっては困るでしょう」


 心配する二人に、リシーラは説明する。


「先日、人を励ますために再会の口約束をしたせいで縁ができて、妖精界へ行くのが延期になったとお話をしたでしょう?」


 まさか結婚の約束を下とは言えないので、再会の約束と言い換えていた。


(求婚の話を聞かせて、妙な心配をさせたくないものね)


 一方のウォルター達は『その程度で?』と驚いていたが、妖精のことについて詳しいわけではないから、そういうこともあるんだろうと飲み込んでくれている。


「実は妖精界へ行くのには、年単位で待たなければならないので、お茶会に何度か出席するぐらいは大丈夫ですよ」


「そうなの?」


 アンナの再確認に、リシーラはうなずく。


「別に結婚するわけではありませんし。縁が薄れるまでの間はお兄様やお姉様にお世話になるのだから、できることはさせてください」


「そんな……リシーラ、君は妹みたいなものなんだ。だから気兼ねなく過ごしてくれればそれでいいからね?」


 ウォルターのものすごく気遣う言葉に、リシーラは微笑む。


「ありがとうございます、ウォルターお兄様」


 一方のアンナは、考えた末にお願いしてきた。


「それなら……出席だけでも、頼めるかしら?」


 リシーラはうなずく。


「はい、お任せください。……貴族の礼儀作法は、ちょっと怪しいですが。お茶会だけなら大丈夫でしょう」


 そうしてリシーラは、急遽ドレスを用意し、二週間後のお茶会に参加したのだった。

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