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26 四度目のお茶会で

 翌週。

 リシーラは再び公爵家へ向かう馬車に乗っていた。


 襲撃事件があっても公爵夫人選考会は続けるらしく、招待状が来たのだ。

 レジェスの花嫁を選ぶことも公爵家にとっては差し迫った問題だ。延期して、遅らせたくなかったのだろう。


「でも、結婚したからって、命を狙われなくなるのかしら……?」


 無事に公子の地位や待遇に戻った今でも、レジェスは命を狙われている。

 前回の襲撃は、そういうことなのだ。


「ただパトリア様と結婚したら、ああいった襲撃も止むのかもしれないわよね」


 襲撃の黒幕が公爵家の分家親族だったとしたら、そちらとつながりがあるだろうパトリアが次代の公爵の母になれた場合、むしろ盛り立てるだろう。

 ただしレジェスの意見は全て潰されるだろうし、無事に次の代になる子が成長していけば殺される可能性もある。


 一方で、自分と結婚したところで、一時的な平和を得られることもないのだ。

 ただ妻に裏切られないということだけ。


 最初はそれでもいいかもしれない。

 安心できても、他に何の利点もなく後ろ盾にもならないと、いつか困った時には無力な妻をもらったことを後悔するかもしれない。


 せめて勢いのある貴族家が後ろ盾だったら、こんな苦労はしないのに、と。

 しかもリシーラは、探られると困るような過去がある人間だ。


「チェンジリングのことを知られたら、女性同士の社交だってままならなくなるかもしれないわ」


 妖精に関わるだけならいい。

 だけどチェンジリングはダメだろう。もしかしたらリシーラは妖精かもしれない、と避けられてしまうから。


 人ではない、自分と同じではないとわかると、人というのは異質なものとして嫌悪することがよくある。

 今までチェンジリングのことだけでも嫌われることが多かったのだ。

 名誉や名声を気にする貴族の中で、そんな欠点を持てば不利になるだろう。


「やっぱり選ばれないようにしないと」


 そんなことをつぶやいていると、一緒に馬車に乗ってついてきていたルファが「ふーん」と言う。


「リシーラはチェンジリングじゃないのに、それでも嫌われるのか?」


「そういう噂があるだけで、嫌がるのよ。貴族って人達は」


 名誉や名声が重要なのが、貴族社会だ。

 たとえ経済状況がガタガタでも、名誉ある旧家は尊重されるし、お金があっても不名誉なことをした貴族や令嬢は、社交界に出て来ることができなくなる。

 もちろん、水面下では取引をしている貴族はいるだろうが、衆人の前で賞賛されることはないのだ。


「でも人間が好きになる物語って、妖精に好かれたりすることが多いじゃないか」


 たしかに昔、ルファと一緒に読んだ子供用の絵本などは、妖精と友達になった子供の話だったり、妖精に助けられた村の話だったりした。


「不思議な力が助けてくれるといいなとは思うけど、未知の存在と関わった人間は、自分達とは異質すぎると思うんじゃないかしら」


「異質ねぇ。人間はそうやって、固まって生き延びて来たんだろうけど」


 ルファは歯の間に何かが挟まったような言い方をする。

 でも実際のところ、人が異質だったり自分の想定とかけ離れた人が身近にいるのを嫌がるのは、共同生活をする上で問題が出そうだからという面もあるんだろうと思う。


「英雄みたいに、崇められる状態になれば別なんでしょうね」


 そういう人は、別枠として認められて、共同体の中で位置づけやすくなるんだろう。

 ルファが不思議そうに尋ねた。


「公爵夫人っていうのは、特別な人じゃないの?」


「私や平民の人にとってみれば、特別な人ね。身分が違うから。でも貴族同士という同じじ立場になると、妖精が見える公爵夫人はやっぱり異質になるんじゃないかしら。ルファだって、突然メギーが『神の啓示を受けたわ。言う通りにして』と言い出したら、頭がおかしくなったんじゃないかって思うでしょ?」


「ふーん。なるほど。特別なこととその欠点か……」


 ルファはそう応じた後は、何か考え事をしはじめた。

 妖精にとって、人間の考え方はそもそも異質だから、自分達の中で納得できる形にかみ砕いて理解する必要があるんだろう。


 ルファと話していると、リシーラも少し気分がすっきりしていた。一人で抱え込まずに済んだからかもしれない。

 そんなリシーラを乗せた馬車が、公爵家に到着する。



 今回のお茶会の会場は、室内だった。

 屋外で色々とあったので、周囲を警備できて守りやすい室内で大人しくお茶会をするのだろう。

 そんな風に思ったが、案内された部屋に入ったリシーラは、真の理由を察した。


(あ、けっこう絞ったのか、辞退したのか……)


 参加者は十二人になっていた。

 襲撃事件があったから、断りやすいと思った令嬢が抜けたのかもしれない。


 でもレジェスと結婚するということは、命を狙われる危険もあるということだ。

 よほど気に入っているか、現在の地位が高くて狙われる危険性があるのが普通という令嬢か、あまり気にしない令嬢しか残らないのだろう。

 リシーラはその三者のどれでもなく、断ってくれるまで付き合うだけなのだが。


 でもそうした消極的な出席者は、リシーラの他にもまだいたようだ。

 最初のお茶会で近い席になった二人の令嬢が、やっぱり主賓の席から離れがちな場所に陣取っていた。

 彼女達は会話内容からして、お付き合い参加の令嬢だ。


 リシーラはほっとする。

 自分一人だけが消極的にしていたら、逆に目立ってしまうからだ。

 いつも通り参加しているパトリアは、自分の意志でもありその両親の思惑込みでの出席だろう。


 ただ彼女がいるということは、結婚したくてたまらない人がいる分だけ、方向性の違うリシーラがそのせいで際立つ可能性もあるのだ。

 やがて公爵夫人とレジェスが現れた。

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