19 そしてやってくる三度目の招待状
家に到着すると、エントランスにアンナがいた。
「お帰りなさい」
にこにことしているが、近くには青い顔をしたメイドが座りこんでいた。
メイドの横には大きな肩掛け鞄が置いてある。
「あの……」
そのメイドは一体どうしたのかと言おうとしたら、アンナはそれだけで聞きたいことがわかったようだ。
「大丈夫よ。今日解雇することになっただけだから」
「え?」
リシーラは突然のことに目をまたたく。
「うちの子に、あなたの悪口を吹き込もうとしていたから。嘘で主一家に波風を立てようとするなんて不心得者はいりませんからね」
ふん、と腰に手を当ててアンナがメイドを見下ろす。
「左様でございますな。お坊ちゃまの教育に悪すぎますし、なによりお嬢様に失礼すぎます。どんな家でもそんな者は雇いたくないでしょう」
ウォルターの家からやってきて一切を取り仕切っている家令が、従僕を三人ほど連れて来てそう言った。
「さ、退去してもらおう」
宣言され、メイドは騒ぎ出す。
「い、嫌です。お許しください! もうしませんから!」
「すでに二度、メイド長から注意されているはずです。悪意がない者なら、その二回だけで行いを正せたはずです。それでもなお同じことをするのは、指示を聞く気がない人間か、性根が腐っている者でしょう。そんな人を信用できません。連れてお行きなさい」
決然としたアンナの指示で、家令が連れて来ていた従僕達がメイドの腕を掴み、引きずって連れて行く。
メイドが出て行き、扉が閉まったところでアンナがほっと息をつく。
「変な物を見せて申し訳ないわ、リシーラ。疲れて帰って来たでしょうに」
「いいえ。アンナお姉様が私を守ってくださったからだとわかっておりますもの」
リシーラが微笑むと、アンナも頬を緩めてくれた。
「ありがとう。それにしても、代替わりの時に誓約書も書かせたのに、平気ですぐ破って来るんですもの。ああいう人は一生誰かの悪口を触れ回らずにいられないでしょうから、もっと早く解雇するべきだったわ」
「お姉様の優しさは、他の人には理解してもらえますわ。誓約書も含めて三回もお許しになっているのですから」
三度目の正直ではなく、四度目でようやく追い出したことを知った人は、みんな悪口ぐらいで追い出す家だなんて言わないだろう。
アンナがこんなに恩情をかけてくれていたのに、自分を変えられなかったのだからメイドの方に問題がある。
「それで、お茶会はどうだった?」
「何事もなく終わりましたわ。変わったことと言えば、公子が犬好きだそうで、犬好きの令嬢を選びたいからと、今日は犬が沢山いましたけれど」
「犬がいたの? それなら私も一緒に行きたかったわ」
犬好きのアンナは、ほわっとした表情になる。
「この王都にも犬は二匹連れてきているけど、何匹いてもかわいいわよね。最近は、野良犬らしいのに綺麗な毛並みの子が出入りしてて、キッチンメイドに餌付けをお願いしているのよ。慣れてくれたらうちで飼おうと思って」
犬を増やす計画を語ってくれるが、リシーラは笑顔がひきつる。
もしかしてその犬、姿を変化させているクー・シー達ではないか? と思ったからだ。
でもリシーラと仲良しのクー・シー達は、ウォルターとアンナのことは好きだけれど、妖精の仲間ではないので、姿を見せる時には犬のふりをしているのだ。
だからリシーラは黙っている。
「とりあえず、今後は本格的に結婚相手の選定をすることになりそうですし、今回で私はお役御免になるかもと思っています」
「二度もお茶会に出席してもらってありがとう。おかげで公爵家の顔を潰さずに済んだわ。あとはゆっくりしていてね」
アンナの言葉に、リシーラは笑顔でうなずいたのだが。
「……すまない、もう一度招待状が来てしまったようだ」
三日後。
ウォルターが申し訳なさそうに差し出した手紙は、公爵家からの三度目の招待状だった。
しかも中を見て、リシーラは首をかしげる。
「郊外へ散策?」
一体どうしてと思う。
「リシーラ、どうしましょう? もし断るのなら……」
「いえ、ちょっと気になることがあるので、出てみようかと思います」
たぶん出席するだろうパトリアの様子が気になる。
もし問題が解決しなさそうなら、逆にパトリアを公爵家で保護してもらえる道を作る事ができたら……。
(他の令嬢を邪魔する人はいなくなって、私とレジェス様の縁が遠ざかるはず)
そうしたら妖精界へ行けるまでの時間が、もっと少なくなるはずだ。
でも、今はその想像をすると少し切ない。
ウォルターやアンナは、受け入れてはくれるけど寂しがってくれるだろう。それが申し訳ない。
そしてレジェスは……。
(嫌だわ。なんでここでレジェス様の顔が思い浮かぶのかしら。なんだか一途に私を探しているようだから、後ろめたいだけだと思うのに)
そう思って、リシーラは自分の感傷に蓋をした。




