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15 レジェスとの会話はひやひやとします

「叔母の呼びかけでわざわざご足労いただいたのに、不手際があったこと、改めてお詫びします」


 レジェスが話し始める。


「いえ……」


「結婚相手が必要にならなければ、皆様をおよびしたり、このようなご面倒をおかけすることはなかったのですが……いえ、この言い方も失礼でした。良い人に会えるのならと私も願ってはいたのです。どうしても結婚しなくてはならなくなってしまって……」


「ええと、爵位継承のご関係ですよね?」


 突っ込んだことを聞いてみる。

 なにせリシーラは、レジェスを不愉快にさせても問題がない。

 だから気にせず尋ねたのだが、レジェスはあっさりと答えてくれる。


「そうです。複雑な事情のせいでこんなことに……。それというのも、先代である祖父が病の中、次代の公爵になるはずだった私の父が母とともに病で亡くなってしまったのです」


 レジェスはなぜか、事情を話したがっているようだった。

 次々と説明してくれる。


(ミゼル子爵令嬢の私を、選ぶ必要がないから、話の種にということかしら? そのわりにお家の事情をあれこれ話してしまうのも、ちょっと違和感があるのだけど)


 それとも、誰にでもこの話を広めてもいいのだろうか?

 レジェスの意図が読めないまま、リシーラは話を聞くことになる。


「そのため、祖父の弟が次の公爵位を主張し始めました。彼が爵位を継ぐ時に邪魔になるのは、直系の孫である私です。そこで祖父の弟は暗殺を試みたのですが、難を逃れた私を心配した叔母夫婦が、他家の騎士見習いとして姿を隠させてくれました」


(だから騎士になっていたのね)


 直系の、一人っ子であるレジェスが騎士になったのはどうしてか、不思議に思ってはいたのだ。


(謎は解けたけど、なんでまたそんな突っ込んだ話を私に?)


 特に暗殺なんて話を聞かされたら、もしレジェスに好意がある貴族令嬢だったとしても、お茶会出席をやめてしまうと思う。

 巻き込まれてはたまらない、と考えるのが普通だから。


「叔母夫婦は祖父の弟に爵位が行かないよう、自分達が爵位を継承しました。そのうえで叔母は、私の母との約束だからと、私を養子にまでして必ず次の公爵位を継がせようとしてくれています」


 概要を聞くだけでハラハラとする話だ。

 収まるところに収まったのは知っていても、最後に無事安全な方向へ着地できたことを聞くとほっとする。


「でも私の両親が亡くなった後、『自分達も親族なのだから公爵家を継げるのでは?』という思いを諦めきれない親族達がいるようで……。今度は自分達の娘を私の妻にしようとしているのです」


(お、重い……重いわ。私、どうしてこんな内情を話されているのかしら? 心に押し込めているのが辛くなったのかしら?)


 しかしリシーラにできることはほとんどない。


「公子様にふさわしい方が見つかるとよろしいですね」


 リシーラはぼそぼそと、そう言って話を終わるつもりだった。

 だが、レジェスはとんでもないことを言い出す。


「本当は、求婚した相手を探しているのです」


 ……叫ばなかった自分をほめてやりたい、とリシーラは思う。

 そしてお茶を飲んでいなくて良かった。盛大に噴いていたかもしれない。


(探してたの!?)


 まさか置き去りをした女を探しているとは思わなかった。

 改めて結婚相手を探しているのなら、そんなつもりはなくなったんだと思ったのだが。


「ええと、その、求婚なさったことが?」


 何もあいづちを打たないのもおかしいので、恐る恐る聞いてみる。


「ええ。結婚の約束をして、受けてくれた人がいるのです。先日の、一か月戦争中に、怪我をした私を看病してくれた人で……」


(ひえええええええ!)


 間違いない、私だ! とリシーラはおびえる。

 震えないようにするのが精いっぱいだ。


「敵軍がいなくなった後、何も言わずに立ち去ってしまって。きっと求婚が気の迷いだったと思われていたのでは? と思って探したのですが……手がかりが少なくて」


「手がかりですか」


「ええ。元々私は眼鏡を使っているほどだったのですが、その時は怪我で一時的にほとんど見えず、彼女の顔立ちがわからないのです。髪の色はそう、あなたのような薄い茶色だったような」


 ぎくっとしたが、肩が動くのは気合でこらえた。


「そ……その色でしたら、沢山いらっしゃいますから、髪の色だけでは探せないのも無理はございません……ね」


 緊張で喉が渇いたせいか、声がガラガラになった。

 声をごまかすにはちょうどいいだろう。

 レジェスはため息をつきながらうなずく。


「そうなんです。もっと他に手がかりや、家名とかを知っていたら良かったのですが。怪我で寝込んでいたり、敵に気づかれないよう頻繁に会話をしなかったせいで、手掛かりが少なくて困っていたのです」


「そ、それはお気の毒に……」


 リシーラとしてはそう言うしかない。

 心の中では、結婚相手選びのお茶会に出ておきながら、そっけなさすぎるだろうかと不安に思う。


(まぁ、お付き合いで顔を出している人もいると、わかっているわよね?)


 他人事のような態度でも、たぶん大丈夫だろう。

 一方で、そんなに自分のことが心に残ったのかと、ちょっと嬉しい気持ちもある。

 誰かに認められるというのは、嬉しいことだから。


 でも、結婚するわけにはいかない。

 長く願ってきた妖精界行きが目前に迫っているのだし、今までの我慢を無にしたくない気持ちは強い。

 それに公子であるレジェスと結婚したら、成金ですらない子爵令嬢とでは貴賤結婚のように言われるだろう。


 それに自分の瑕疵が広まったら……。

 レジェスの立場が悪くなる。


(親に別人だと疑われて、虐待されていた娘だなんて。可哀想と思われると同時に、格下として見られるのよ。自分の立場を守らなくちゃいけないのに、重荷を背負うことになってしまうわ)


 とはいえ、いまだにリシーラを探しているというのは、良くない。

 このまま放っておいたら、間違いなくお見合いを壊しそうだ。

 もしくは公爵夫人が誰かを選んでも拒否するかもしれない。


(良くないわ……。求婚を受けた縁が弱くならない)


 リシーラはどうしたらいいのかと悩みつつ、心にもないことを口にする。


「早くそのご令嬢が見つかるとよろしいですね」


「ええ、ありがとうございます」


 レジェスは微笑んで、お礼を言った。

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