13 レジェスの事情3
(……? なにか、聞き覚えが)
最後のテーブルだった。
叔母のタレイアが、三人目の令嬢に質問していた。
レジェスはあからさまにならないように彼女を観察する。
その令嬢は、薄茶の髪をハーフアップにした女性だった。
お茶会として失礼ではないそこそこの質の、薄黄色と茶のチェック柄ドレス。
他の華やかな令嬢よりも質素な色使いで、目立ちたくないし選ばれる気は毛頭ないことがよくわかる。
柔らかな印象の顔立ちは、目の覚めるような美人というわけではないが、十分に美しいと言われるくらいだろう。
ただ、声がやけにぼそぼそとしている。
緊張しているようにも見えるだろう。でもレジェスには、わざと自分の声を聞かせないようにしているような……。
(まさか)
レジェスは席を立ちそうになった。
今すぐ彼女に駆け寄って、その手や腕に触れて確かめたい。
同じ人ならば、それでレジェスにはわかるだろうから。
とはいえこんな場で、急に一人の令嬢に接近するわけにもいかなかった。
(公爵夫人の座を欲しがっている人間もいる。うかつなことをして、彼女を危険にさらすわけにはいかない)
特にパトリアだ。
本人は烈火のごとく怒って彼女を攻撃するだろうし、他の令嬢達も妨害をしてくるだろう。
そうしてじりじりとしつつも彼女についての話を拾い聞けば、子爵家の令嬢だとわかった。
公爵家と取引はあるものの、公爵家に購入をしてもらっている立場で弱い。伯爵家や侯爵家などの、勢いのある家の令嬢達にとっては、つま先でこづくだけで彼女とその家はつぶれてしまいかねなかった。
そしてレジェスは、初めて彼女の本名を知る。
(リシーラ・ミゼル。そうか。それでリーと名乗ったんだな)
完全に嘘の名前を教えていたわけではなかったのだ。そのことが少し嬉しい。
なにより、怪我のせいでおかしな夢を見ていたのかもしれないと思うこともあったあの数週間のことが、現実だったと証明されたことも感慨深い。
ケインにも話していないが、とにかく人に話せば疑われそうな状況だったから。
(まちがいなく犬だったんだ。毛皮を着る習慣がある獣の民だとごまかされたが、彼らが手の先まで毛皮で覆っているなんて聞いたことがない)
ただ看病をされ、食事の世話までしてもらっているのだから、悪い物ではないんだろうとレジェスは飲み込んでいた。
(リシーラが私を遠くへ置き去りにしたのは、たぶん……妖精と関わっていたからだ)
妖精は、時折姿を見られる。
でも人に関わると、いたずらをすることなどが多く迷惑だったり、時にはとてつもない災害を起こすこともあった。
だから人に忌避されていることが多い。
そんな妖精と関わっているからこそ、レジェスの怪我が治り、目が見えるようになった時に嫌われることを恐れたのではないかと考えている。
レジェスはそんな風に思っていた。
(どうにか、妖精を恐れていないとわかってもらえればいいんだが……)
今この場で、あの時のことを口に出せるはずもない。
そしてレジェスのことをわかっているからこそ、しゃべり方まで変えてバレないようにしているリシーラに、ぐいぐいと接触したら逃げられるのは必至だ。
レジェスはその席にいる時は何も言わなかった。
何も気づかなかったようなふりをして、別のテーブルへ移る。
そうすると、離れた場所にいるリシーラが普通の声を出しているのが聞こえた。
(ああ、間違いない)
何度もレジェスに『頑張って』と励ましたあの声だ。
心が浮き立つが、今はまだ他人に悟られないようにしなければ。
お茶会後までじっと耐え、公爵家の館から立ち去るリシーラの姿を目で追いかけすぎないように気を付けて……。
そうして身内だけになって、お茶会の感想についてタレイアに尋ねられた時、ようやくレジェスは告げた。
「叔母上。結婚相手を見つけました」




