エネルギー源
「メグミ! 突然現れたと思ったら、物騒なものを連れて来ましたわね!?」
「わざとではない」
「そんな言い訳が通用するのは小学生までですわよ!」
「落ち着けトワ。直ぐにアクションを起こさないところを見ると、何らかの警告は発してくるだろ」
私の予想した通り、即座に機械的な音声が脳裏に流れてきた。
『こちらはアイリーンウチュウグン。そこのケンゾウブツにタてコモっているモノたちにツぐ。3プンイナイにそのバをサれ。さもなくばカンセイホウによりケンゾウブツモロトモフンサイしてくれよう』
警告か。しかしケンゾウブツ……タワーの破壊が目的だと? そうなると寄生していた2体の思念体――浮遊霊(←面倒だから今後は浮遊霊で)は行き場を失うわけで、激しく動揺し始めた。
『冗談じゃないわ、タワーを破壊されたら活動出来ないじゃない!』
『そいつはやべぇ、早いとこ次の寄生先を見つけねぇと!』
『どこに!?』
『それはほら……あ、タワーの側にデカイ街があるじゃん! あそこに避難するぞ!』
『その意見に賛成!』
「――って、おいコラ! 勝手にザルキールに寄生するな!」
――ってもう行ってしまったか。
まぁ奴らはいい。まずはウザったい宇宙軍を撃退せねば。
「ゴトー、上だ。真上からこちらを見下ろしている機体がある」
「はい。俺の肉眼でも捉えています」
「お前の目は雲を突き抜けるのか……。まぁいい、アレを破壊して来るのだ」
「仰せのままに」
チュドーーーーーーン!
「完了しました」
「早すぎないか?」
「急を要すると思ったので速攻で踵落としを決めて来ました」
「うむ、ご苦労」
出来る男――ゴトーの活躍によりタワーの破壊は免れた。
――かに見えたのだが……
『やるじゃないか。まさか待機させていた戦闘艦が落とされるとはね』
突如として響く青年の声。先ほどの機械音声とは違い、生身の誰かが喋っているのだろう。
「お前は誰だ?」
『私かい? ああ、申し遅れたけど私の名前はラヴィエル、アイリーン宇宙軍をまとめている者さ』
コイツがラヴィエル……
「ザルキールを尾行したのか?」
『そうとも。大国であるミリオネックを退けるどころか切り崩すのだからね、警戒するのは当然というもの。しかし思わぬ拾い物をしたよ、まさか地上軍のエネルギー源がこんな場所にあるとはね』
地上軍とはアイリーン地上軍に他ならない。しかしエネルギー源とは?
『その様子だとキミたちも知らないみたいだね? まぁ教えてあげるよ。地上軍が本拠としている魔女の森の中心には強力な結界が張られているんだ。これまで幾度となく攻め込んだものの結界を破るには至らず、煮え湯を飲むことが多かった――しかし!』
一度言葉を区切ると、含み笑いと共に勝ち誇ったように語り出した。
『クククク……ようやく見つけたよ。このタワーが地上軍に魔力を送り込み、結界を強化していたのさ!』
タワーが!? だが地上軍が関わっていたのなら合点がいく。あの浮遊霊たちは知らず知らず地上軍の手足となり、せっせと魔力を送っていたわけだ。
『さて、話は終わりだ。我が宇宙軍の誇る監視衛星の精密照射で、そこのタワーを消し去ってやろう』
「させると思うか? ――ゴトー!」
透かさず指示を出すが、思わぬ返答が返ってきた。
「申し訳ありませんルシフェル様、敵影が見当たらず撃墜が不可能な状態です」
「何だと!?」
雲の上をも見抜くゴトーですら発見できないと?
『ハッハッハッハッ! 当然じゃないか。我が宇宙軍の本拠はコスモアイリーン。即ち、宇宙に有るのだからね』
チッ、伊達に宇宙軍を名乗ってはおらぬか。
『ではさらばだ諸君。縁が有ったら来世で会おう!』
マズイ! ――という本能に従い、その場の全員でザルキールに転移。直後に物凄い衝撃が全身を震わせた。
ズドォォォォォォォォォォォォン!
「グッ……強い衝撃だ。さすがは衛星砲といったところか。皆、怪我はないな?」
ゴトーもフェイ(←人化している)もアスタロイ無事、トワや眷属たちも居るな。
……いや、1人増えてないか? 紳士っぽい老人が1人居るようだが……一緒なのは眷属である証拠か。
「すなんなアイラ、ダンジョン帰還システムを使わせてもらった」
「うん、私は大丈夫――」
「――って、待ちなさい! 大勢でコアルームに押し掛けてきたと思ったら、いったい全体何が起こってるのよ!?」
「落ち着け」
「落ち着けるわけないでしょーーーっ!? 何なのよ、あのぶっとい光線は! もう少しで消し飛ぶところだったじゃない!」
「だから落ち着けっての。つまり――」
興奮冷め止まぬアイラにこれまでの経緯を説明してやった。
「――という感じでな、いよいよ宇宙軍が本腰を挙げてきたようなのだ」
「お陰でタワーは木端微塵。エネルギー源の一つを失った地上軍はいよいよ追い詰められたのですわ」
「ふ~ん? それってあの黒いモヤモヤが関係してるの?」
「「黒いモヤモヤ?」」
スクリーンに映るのは、更地となったタワー跡に立ち込める黒い煙のようなもの。それが徐々に膨張している光景であった。
「負の力を感じるが、アレは敵か?」
『いいえ、アレは瘴気の塊。魔物や魔力の元となるものです』
「ほぅ、いずれは魔物になると」
『ええ。放置すれば付近の村や街が危険に晒されるでしょう。いえ、それだけではありません。瘴気が広がりつづければ、いずれ世界を……』
飲み込む……か。
「……で、急に割って入ってきたのはラヴィリンス、お前だな?」
『気付いてましたか。その通り、わたくしの名はラヴィリンス。アイリーン地上軍を掌握している者です。……久しいですねアイラ。元気に過ごせてますか?』
「……うん」
アイラに向き直るラヴィリンス。個人的に気に入らないのもあり、今度は私が割って入る。
「おい待て、散々敵対しておきながら姉面をするとは何事か。今のアイラはわ・た・し・のお陰で充実した日々を送っている。貴様が介入する余地はない。というかさっさと消えろ、シッシッ!」
私という部分を敢えて強調した。今は私がアイラの姉代わりなのだからな。
『これはまた随分と嫌われたものですね。宇宙軍が飛躍する手前、わたくしとしては手を取り合って行きたいところなのですが』
「確かに飛躍し過ぎだな? 宇宙軍はともかく地上軍と手を組む理由はないぞ?」
『そうも言ってられませんよ? ご覧なさい、タワーの有った場所を。今はわたくしの力で留めていますが、気を緩めれば即座に拡散してしまいます。それは貴女たちにとっても不都合でしょう?』
そうだ、忘れるところだった、今は溜まった瘴気をどうにかせねば!(←完全に忘れてたよな?)
「ちょっとメグミ、あのモヤモヤがこっちに来るわ!」
「ザルキールに? ――って待て待て! あそこに居るのはグレシーではないか!」
モヤモヤが向かう先には能天気に野外コンサートを行っているグレシーの姿が。
「ったく世話の焼ける奴め!」
このままではグレシーと観客が汚染され、下手をすると魔物化する可能性がある。それを阻止するため、直ぐにグレシーの居るところへと出た。
シュン!
「あ、メグちゃんも来てくれたんだね! みんな~、この子は親友のメグちゃんだよ~! 歌はイマイチだけど、とっても大切な存在なんだ~!」
「「「おおっ!」」」
「うむ、苦しゅうないぞ」
「――って言ってる場合かぁ! 見ろ、あの黒いモヤに捕まったら魔物化してしまう。さっさと避難せぃ!」
「「「ひぃ~~~!」」」
観客共は追い払った。後はグレシーを連れて――
『残念ですが、そろそろ限界のようです』
「――は?」
『瘴気は生有る者に引き寄せられます。その場から離れなさい』
「お前、そんな急に!」
ドッッッ!
ラヴィリンスの制御から逃れた瘴気がこちらに向かって来た。それは私のみならずグレシーをも飲み込まんとする勢いだ。
「へ? な、何なのコレェ!? キャァァァァァァ!」
「狼狽えるなグレシー! 気をしっかりと持て!」
私は問題ない。だが一般人のグレシーは違う。瘴気に触れればたちまち……
「アアアアアア――ぁ――ぁぁ――」
「マズイ、グレシーーーッ!」
肌の色が急速に黒ずんで行く。こうなったらダンジョンに籠るしか……
「まったく、世話が焼けますわね」
「トワ!」
「俺も居ます」
「ゴトー!」
「わたくしたちも瘴気を吸収するのですわ」
「グレイシーヌへの負担を減らすのが最善かと」
「よし!」
トワと眷属たちで瘴気を吸収し続け、やがて瘴気が収まる頃にはグレシーの肌色も戻りつつあり、そして……
「はぁ~い、セクシーになったグレシーちゃんで~す♪」
「「「!?」」」
大人の姿になったグラマラスなグレシーがそこに居た。




