メグミ?
「メグミ!?」
「そうとも。お前がよく知っているメグミだ」
「…………」
見た目も声も本人そのもの。ですがここに居るのは不自然過ぎます。
「さてはその顔、信じておらんな? ならば証明してやろう。何でも聞くがいい」
「何でも? では質問です。貴女が大好きな戦国武将は?」
「ん~~~、独眼竜政宗」
「正解です」
眼帯が好きでしたからね。しかも伊達政宗ではなく独眼竜政宗というところにも拘りを感じます(←感じなくてもよい)。
「次の質問。小中高と、貴女がもっとも好きだった授業は?」
「フッ、道徳だ。瞑想を行うにはうってつけの時間だからな」
「正解」
教師の話は聞き流し、自分が魔王として振る舞っている姿を想像したイメージトレーニングを行っていたと聞きます(←想像してニヤけてただけの説)。
「では次。文武両道のわたくしが唯一苦手としている教科は?」
「英語だ。さらば永遠よ、永遠よ」
「ブッ飛ばしますわよ? でも正解ですわ」
ボロが出ませんね。過去の記憶は完璧に読み取っているのでしょう。
「どうだ、これで本物だと分かったであろう?」
「いいえ、まだですわ」
メグミには悪い癖があるのです。それを上手く利用すれば……
「では最後の質問です。生前にオフ会を行った際、わたくしと貴女以外に誰がいましたか?」
「フッ、何かと思えば単調な。そんなの決まっている」
「覚えてましたか」
「うむ。私とトワと――あれ? ちょ、ちょっと待て、これは……」
フフッ、焦ってますわね。それもそのはず、メグミは妄想と現実をゴチャ混ぜにするとっても悪い癖があるのです。
今ニセメグミの脳裏では、2人きりでしんみりとしている光景と、大勢の参加者と共に祝杯を上げている光景の二つが浮かんでいるはず。
言うまでもなく、後者はメグミの妄想ですわ。昨日のオフ会は30人くらいでカラオケに行って盛り上がったとか訳の分からない事をほざいてやがりましたからね。あの時は当たり障りのない返答をするのに苦労させられました。
「さぁ、お答えになって」
「いや、え~と……うぐぐぐ……」
「フフッ、他人の貴女では分からないでしょう? どのようにしてわたくしの記憶を読んだのか知りませんが、上部だけの記憶で全てを見通すことなど不可能。雑な変身でしたわね、偽者!」
「クッ……」
悔しげに唇を噛むニセメグミ。どうするのかと見守っていると含み笑いを経て不適に笑い始め、次に言葉を発した時には口調が完全に変わっていた。
「アッハッハッハッ! 久し振りに来たわね、私のスキルが通じない奴が。強いのは魔力の桁だけじゃありませんって? 大した小娘だわ。上手く疑心暗鬼にさせて自滅させようと思ったのに」
「やはり偽者でしたか。わたくしたちの友情は生半可なことでは崩せませんわ。お互い中二病という不治の病に侵された者同士、固い絆で結ばれているのですから」(←嫌な絆だなぁおい)
「固い絆……ねぇ。その割にはしょっちゅう喧嘩してた履歴が見えるんだけど? 実は憎しみ合ってたんじゃないの~?」
「そんな事は――」
いや、有りましたわ。当時流行っていたビックリ魔王シールのトレーディングを行った際のこと。言葉巧みにわたくしを騙し、レア度の高いキラシールとダブりの多いコモンシールを交換させられた事があるのです。
まったく、何が保存用と観賞用と実戦用の三つがいる――ですか! 一つだけで充分じゃありませんの! お陰で大損ブッこきましたわよ!(←それで騙される方も……)
ゴッ!
「ブフッ!? お、お前ぇ、いきなり殴りつけたな!? しかも顔面を!」
「あらごめんなさい、その顔を見ていたら無性にムカムカしてきましたの。大変良い機会です、気が済むまで殴らせなさい」
「や、やめなさい、小娘の分際でぇ! というか絆とか言う割には簡単に痛めつけてくるじゃない。アンタら本当に親友!? これじゃ小細工したところで無駄じゃない!」
これ以上殴られるのは堪らないとでも思ったのでしょう。ニセメグミは見た目を変え、本来の姿を現しました。
「ふむ、見た目的にはわたくしと同年代の金髪少女に見えるのですがね。実年齢は違うのでしょうか?」
「ええもちろん。軽~く1000年は越えるんじゃないかしらね。ま、前世を含めての話になるけど。どっちにしろ10年そこそこのアンタは小娘同然ってわけ」
「それだけ長生きしているのなら、さぞかし有意義な昔話を語ってくれそうですわね。元の世界ではどのような存在だったのでしょう?」
「ククッ、知りたい? だけど――」
もったいぶる感じに一呼吸置くと……
「――教えるわけないでしょーーーぅ!? 私の存在は極めて貴重なんだもの、どこの馬の骨かも分からないアンタに教えてやる義理なんてないのよ! 知りたきゃ死ぬまで考えてなさいよ、もちろん1人でね、アッハッハッハッ!」
自分から明かしてはくれませんか。先ほどからEスキャンを試みているのですが、この少女には通じないのです。
「そんな渋い顔をしたって無駄よ。アンタの考えは分かってる。どうせ私の弱点でも探ろうとしたんでしょうけど残念だったわね。この世界の理から逸脱している私を看破するのは不可能よ」
「なるほど。ですがわたくしの敵である事は間違いない。そうですね?」
「だったら何?」
「それはもちろん――」
タワーの攻略にはタワーを倒す以外にありません。最上階まで行かずに出会えたのは幸運と言うべきでしょう。
「貴女を倒すまで!」
「…………」
利き腕に氷を宿し、少女へと殴りかかります。そう、氷属性こそわたくしの専門。普通に殴るより数倍は威力が上がります。
――が、敵の少女は微動だにせず、むしろ……
「…………フッ」ニヤリ
笑みを浮かべている!? ただならぬ予感が脳裏を駆けめぐるも、繰り出した拳は止まりません。
スカッ!
「――す、すり抜けたですってぇ!?」
気付けば半透明になった少女の体を拳が突き抜けていました。あり得ない現象で呆気にとられていると、少女は不適な笑みを浮かべたまま顔をズイッと近付け……
「ム・ダ・よ。私に対して害意のある行動は受け付けないんだもの、アンタがどれだけ強くたって勝ち目はないの。さっき殴られたのだって敢えてそうやって見せただけ」
「あ、貴女はいったい……」
「フフ、生きて帰って来れたら教えてあげる。じゃあ行ってきなさい――」
「帰って来れたら? それはどういう――」
わたくしの問いに答える間も無く、少女は目を見開き……
「――懺悔夢要」
何らかのスキルを発動され、わたくしの視界が暗転。しかしすぐに明るくなり、目を開けると信じがたい光景が飛び込んできました。
「こら、聞いているのか永遠!」
「え、あ、お、お父様!?」
目の前にいたのはわたくしのお父様。そう、転生前の肉親です。隣にはお母様もいらっしゃいますし、ここは前世の自宅なのでしょうか?
「これ、何をキョロキョロしている? 今は私の話を真剣に聞きなさい。まったく、そんなだから学年トップに立てないのだぞ?」
この光景、見覚えがあります。確か中学2年の時に成績を落としてしまい、1位から5位へと転落した時の場面ですわ。
「とにかく、今度の夏休みに予定していたバカンスは中止だ。休み中、トワにはみっちりと勉強に励んでもらう」
「そんな! 既にクラスメイトには話してしまいましたのに!」
「急遽取り止めになったと言いなさい。なんなら私の仕事の都合だと言っても構わん。既に家庭教師の手配も済んでおる」
「で、ですが、クラスメイトの1人から現地でのみ合法化されている麻薬を仕入れてきてほしいと……」
「そ、そこは素直に断わりなさい。マジでシャレにならんからな。……コホン。とにかくこれは決定事項だ、今さら撤回はせんぞ」
足掻いてみましたが結果は変わらないのですね。この時のわたくしは、憂鬱な気分で夏休みを過ごした記憶があります。
そしてバカンスに行けなかったことで我が財閥が危ういのではと陰で囁かれるようにもなり、膨大なプレッシャーとストレスを抱え込んで3年後、すっかり現実逃避するようになったわたくしに運命的な出会いが待っていたのです。そう、ネットを通じて知り得た存在メグミ。彼女と出会わなければ、今でもわたくしは操り人形のままだったでしょう。
「ん? 永遠よ、実の親をそのように睨んではいかんぞ。全てはお前が招いた結果だ」
その通り。だからわたくしは変化を望んだ。
~~~~~
『納得いかないのなら従わなければいい、お前は人形ではないのだから。さぁ、内なる思いを解き放ち、覚醒するのだ。たった今からお前は魔王、魔王シャイターンだ!』
~~~~~
メグミの台詞により、わたくしの全身が打ち震える。これぞ正に天啓、その瞬間わたくしは生まれ変わったのです!
「そうですわね。他ならぬ自分の人生ですもの、ここから先は自分の意思で進ませていただきます」
「……何?」
「幻想の肉親なんぞ不要。この意味をお分かりですか?」
「そ、それはどういう――」
「こういうことですわよ!」
ドゴッ!
「グッフォ!?」
バシュゥゥゥ……
力いっぱい――ええ、全力でお父様を殴らせていただきました。幻想のお父様はサラサラと光の粒となり、やがて消滅したようです。
『チッ! 私のスキルが効かないなんて、アンタが初めて――いや、過去にもいたから2人目ね』
あの少女の声が響くと同時に背景が崩れていき、元の階層が復元されました。例の少女も目の前に現れます。
「見くびられたものですわね、魔王に精神攻撃を仕掛けようとは」
「魔王……か。勇者と同等くらいにしか思ってなかったんだけどね」
他の魔王なら結果は違っていたかもしれません。
「では約束を果たしていただきましょう」
「約束? ああ、正体を明かすって話ね。私の名前はメリー、かつて日本に巣くっていた悪霊が練り固まった存在よ」
「日本に? では貴女も転移を?」
「そ。他の転生者とくっついちゃってやむ無くね。その転生者が死んでも意思だけは残っちゃって、こうしてタワーに憑依してるってわけ。ここなら実体化できるからね」
意思だけの存在……。だからタワーを倒すのは不可能だとアスタロイは言ったのですね。
「アンタなら最上階まで来れそうね。願いが叶うっていうのは本当だから頑張って目指しなさい。じゃあね」
それだけ言うとメリーは消え去り、次の瞬間にはアスタロイと眷属たちが周囲に現れていました。




