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褒美とライン越え

 昼間での探索で、一番多く魔物を倒した生徒には褒美が出ると約束した担任のマキシマム。彼が発表したのは私の名であり、他の生徒との差は圧倒的であった。

 しかし、あまりにも差が有りすぎたために、1人の生徒から待ったが掛かる。


「どう考えてもおかしいで。こんな短時間に100体越えやろ? しかも1人の生徒がや。ホンマは先生も分かっとるんちゃうんか? こんなんあり得へんってな」

「それはない。討伐した数は漏れなくロイヤルカードやギルドカードに記されるからな」

「どうやかな。偽造って線もあり得ると思うで?」

「カードの偽造には最高位の魔術が必要と言われている。メグミに出来るかと言われれば、答えはNOだ」


 そう言われると試したくなるな。魔王ルシフェルの力を解放し――(←自重しろ)


「1万歩譲って偽造だとしても、あからさまにバレるような状況は避けるはず。それでも偽造だったら打つ手はない。我々の完敗だ」

「さよか。ほな別の何かが原因やないんか? 例えばパーティメンバーの獲物を横取りしまくったとかなら――」


「メグちゃんはそんな事しません!」


 噛み付いたのはグレシーだった。


「何も出来ない私の代わりにメグちゃんは必死に頑張ってくれたんです!」

「そうだね。メグミさんにはボクらも助けられたんだよ。シェスタが気絶して危うかったところに助太刀してくれてね」

「恩人のメグミに変な言い掛かりは止してちょうだい!」

「おぉう! 我らクラス委員の期待の星じゃい!」


 グレシーのみならず、3Dの3人までもが反論に加わる。これで大人しくなるかと思いきや、鼻で笑って肩を竦めよった。

 そんなコイツは誰なのかと言えば……



「Eスキャン」ボソ……



 名前:サトル・サイゼリス

 特徴:犬科の男獣人で14歳。獣人としての血は薄く、犬耳以外は人間と変わらない。キツめな口調ながらも言っている事には筋が通っており、見た目とは違って真面目な人物。長い棒を使った棒術を得意としており、学園首脳部はSクラス入りさせるかどうか迷ったほど。


 ほぅ、将来の有望株か。あのグリゴレオなんかより将来性があるな。どれ、少し相手をしてやろう。


「サトルよ、納得がいかないのなら矛を交えて語らうとしようぞ」

「ほ~ん? ワイとの一騎討ちをご所望かいな。それは別にええどな、普通に勝つだけじゃ証明にはならへんで?」

「ふむ、ならばどうしろと?」

「せやなぁ……ほなこういうんはどや? 試合開始1分以内にワイをKOするんや。いいか、KO勝ちやぞ? ちびっとでも長引いたらメグミはんの負けやからな?」


 つまり瞬殺すればいいんだな? まぁ殺しはしないが。


「いいだろう。どこからでも掛かってくるがよい」

「随分な自信やないか。ほなワイも本気でいかせてもらいまっせぇ!」



 シャシャシャシャシャシャシャシャ!



 言うや否や、細長い棍棒を手に突撃を仕掛けてきた。それに思ったよりも速い動きで連続で突いてくる。ふむ、同年代にしては中々やるな。あの3Dよりも遥かに強いだろう。だが……


「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃぁ! どうや、ワイの棒術は。攻撃の手が多ければ反撃に転ずるのも至難やろ?」

「フッ、果たしてそうかな?」



 ガシッ!



「ワイの武器を掴んだやと!? この動きの中でどうやって!」

「教えてやってもいいが、まずは……」

「え……」



 ズダン!



「ぐうぇ……」


「お前を倒してからだな」


 棒ごとサトルを持ち上げ、そのまま地面に叩きつけてやった。見ていたクラスメイトからは歓声が上がり、グレシーが大喜びで飛び付いてきた。


「サトルくんも強そうだったのに、メグちゃんの圧勝だったね!」

「おぉう、見事な筋肉だったぞぃ!」


 グレシーはいいがゴリスキーよ、貴様の筋肉と一緒にするな。


「さてサトルよ、これで異論はあるまいな? 僅かとはいえお前は魔王の真髄(しんずい)垣間見(かいまみ)たのだ。否定は万死に値するぞ?」 

「もちろんや、魔王云々は知らんけど反論なんかあらへん。ワイが間違ぅてたのは明らかや。ホンマ申し訳なかったで!」


 Eスキャンで見た通りに真面目な男のようだ。


「はぁ、これでも実力には自信があったんやけどなぁ。ここまで完敗やとグゥの音も出えへん」

「そう肩を落とすな、サトルは強かったぞ? これは私が強すぎ故に招いた結果。気に病む必要はない」


 サトルが強かったのは事実だ。言っちゃ悪いが3Dの3人組より遥かに上だろう。本人が望むなら下僕1号に任命してやらんでもない。(←はいはい、自重自重)


「さりげなく自慢してくるとか良い性格してまんなぁ。ま、ワイもメグミはんは嫌いじゃないしな、せやから明日からはワイもパーティメンバーに入れたってや。メグミはんみたく強くないたいんや!」

「よかろう。サトルの真実に向き合う姿勢を尊重しようではないか」

「ホンマか? おおきにな!」


 これにて一件落着か。

 ――っと、そういえば褒美を貰っておらぬな。


「よし、拳の話し合いは終わったな。それじゃあ約束の褒美だが……」

「待っておったぞ。早く褒美プリーズ」

「生憎と()()()()()代物でな、すまんが放課後に職員室に来てくれると助かる」



★★★★★



 午後の授業は特別な事は起こらず、あっという間に放課後を迎えた。私とグレシー、おまけのサトル(←さっそく雑な扱い)の3人でマキシマムが待つ職員室に向かうと……


「お、やって来たな――って、グレシーとサトルも居るのか」

「何か問題でも?」

「いや、問題ってほどじゃないんだが……まぁ仕方ない。褒美ってのは()()だ」


 そう言って渡してきたのは光沢のある黒い腕輪だ。


「これは?」

「認証の腕輪といってな、森や湖のレッドラインを越えても問題ない者に贈られるんだ。ハッキリ言うがメグミ、お前の成果は異常だ! 何なんだよあの記録は、初っぱなの課外授業からあんな記録を叩き出すやつなんざ知らねぇよ! これで何でSクラスじゃねぇってお前、首脳部の脳ミソ腐ってんじゃねぇかって話だろうがよぉ!」


 ついに本音が出たな。まぁそれが普通の反応なわけだが。というか感情爆発させすぎてウザッ!


「けど先生言うたやん、不正じゃないんやろ?」

「ああそうさ、不正は有り得ん。だが1つだけ気になるところを発見した」

「なんだ、やはり担任まで疑っていたのか?」

「そうじゃない。メグミが所持するギルドカードだ。黒く光っている者はベテラン冒険者でも少数。お前、本当の実力を隠してるだろ?」


 やはり気付かれたか、あのクソ忌々しいカードシステムめ。


「そういう事でな、俺としてはメグミのような存在はSクラスに入るべきと思うし、学園長に対して直談判しに――」

「あらマキシマ先生、()()()()()がどうかなさいましたか?」

「――って、リーリス先生!?」


 Sクラスの担任であるリーリスが現れた途端、マキシマムの顔が真っ赤に染まる。もしかしなくてもコヤツ、リーリスに惚れておるな。


「ななな、何でも御座いませんです、はい!」

「でも~、「Sクラスに入るべき」って言ってませんでしたか?」

「いえいえいえいえ、決してそんなことは。リーリス先生のお手を(わずら)わせるなんてとんでもない! 中途半端に編入させようだなんて何処のどいつですか? そんな輩、この俺がケチョンケチョンにしてやりますよ!」


 何処のどいつだと? ならば教えてやる、それはお前じゃこのボケナスが!(←もっと言ったれ)


「はぁ、わたくしの気のせいでしたか。でもそこに居るサトルくんは惜しかったと聞いてますよ?」

「そないな慰めはいらんで。現にメグミには手も足も出ずに負けたんやからな。俺を入れるくらいならコイツを入れたってや」

「えっ……」


 驚き顔のリーリスが私を凝視してきた。私の名前なんぞ候補者にすら上げられてなかったろうし、サトルの言葉が信じられんのだろうな。


「メ、メグちゃん、まさか本当にSクラスに行っちゃうの? せっかく仲良くなれたのに……」

「バカを言うな。これ以上悪目立ちはしたくないし、そんなものこっちからお断りだ」

「ホントに? これからも一緒?」

「もちろんだ」

「良かった~」


 但し、育毛剤だけは勘弁な。


「とと、ところでですな~リーリス先生、もし良かったら今夜あたり一緒に食事でも……」

「……この子が……まさかリスト漏れ? ううん、それはないはず。だったら……」

「あ、あの~、リーリス先生?」

「一度調べた方がよさそうね……」

「リーリス先生!?」


 マキシマムの声を無視してリーリスはどこかへ行ってしまった。

 まさか私の素性を調べるつもりか? これは先に話しておくべきかもしれんな。使い魔に命じておくとしよう。

 それより今は、()()()をどうにかせねばな。


「うぉぉぉぉぉぉ、リーリス先生ーーーぃ!」


 (やかま)しい上に暑苦しい。このままじゃ近所迷惑(←学生寮とかあるんで)だからな、少し黙らせよう。


「ちょっと相手にされないくらいで情けない。あの女がダメなら別の相手を探せばよかろう」

「リーリス先生をあの女とか言うな~~~! あの人はな、あの人はな、俺がここに赴任した当初、手取り足取り優し~~~く教えてくれた女神のようなお人なんだぞ~! あんな素敵な女性はこの世に2人と居ない!」


 ふ~ん? 女神ねぇ。



~~~~~



『あ~なになに、キミってばここ初めて~? んじゃ取りあえずこっちの書類整理お願いしちゃおっかな~。それ終わったら明日からのスケジュール作成もお願~い。あ、あとあと、これがアンタの生徒たちだから、早めに名前とか覚えちゃってね~。んじゃあたしはスイーツ食べに行ってくるから、後のことはよろしく~♪』



~~~~~



「シミュレートしてみたがやはり諦めろ。都合良く使われている同僚でしかないぞ?」

「ゴルァ! お前の頭の中にいたふざけた奴はなんだ? 絶対女神なんかじゃないだろ!」(←残念ながら女神です)


 たまにはクリューネも思い出してやらんとな。

 なに、思い出す必要はないとな? うむ、もっともだな。(←おい)


「けど真面目な話、ガチで脈無しなんちゃうか?」

「うっ……」

「眼中にないって感じでしたよねぇ」

「うぅっ……」

「事実暑苦しい上に汗臭いしな。視界に入れたいとは思うまい」

「お、お前ら、揃いも揃って俺をバカにしやがって~~~!」


 瞬間湯沸し器のように頭を沸騰させたかと思ったらマキシマムめ、とんでもない事を言いよった。


「よぉし、こうなったら俺の実力を示そうじゃないか。それでリーリス先生を振り向かせるんだ!」

「ほ~ん? 何しよるんや?」

「フッフッフッ、聞いて驚け。明日の授業はお前たちを伴ってレッドライン越えじゃ~~~!」




「「「はぁーーーっ!?」」」


 マキシマムのとんでも発言。それは、通常よりも更に魔物のランクが上がるエリアの探索だった。


キャラクター紹介


サトル・サイゼリス

:14歳の犬獣人で茶髪の男子。背が高くスラッとした外見で、長い棒を武器にする棒術が得意。

 事前評価ではSクラス入りも検討されたほどの実力者。

 親と兄に反発して実家を飛び出した過去があり、ペルニクス王国では身寄りがない。

 現在はクレセント学園の学生寮で生活している。


リーリス

:マキシマムの同僚にしてSクラスの担任。見た目は二十代だが実際は128歳。魔族にして長寿のため、決してお年寄りというわけではない。

 Sクラスを担当してるだけあって、戦闘経験も豊富。顔には出さないが、メグミの正体に気付いてからはメグミに対して積極的に拘わってくるようになる。


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