ニューフェイス
異世界で再会した魔王ルシフェルことメグミ。あの子はどんどん強くなっているようですわね。対してわたくし魔王シャイターンことトワの現状は、メグミの噛ませ犬的なポジションが精々と。
「許されると思いますか!? 答えは否です、こんな暴挙がまかり通って良いはずがないのです!」
そう、もっとメグミを脅かす存在でなければならないのです。これまではメグミの掌で散々踊らされて参りましたが、それにノーを突き付けなければ先には進めない。
「んなこと言ったって……なぁ?」
「そうですね。只でさえラーカスター邸にて厄介になっている身です。メグミ殿の計らいがなければ今でも宿を転々としている生活だったでしょう」
「だからこそ変化が必要なのです!」
キル子もミチオも危機感がまるでありません。眷属の2人がこの様だからこそ、魔王であるわたくしがしっかりせねば。
「いいですか、よくお聞きなさい。人というのは目新しさやインパクトがなければ簡単に忘れ去られてしまうのです。この先わたくしたちがなぁなぁな展開に留まっていては、やがて出番がなくなってしまいましてよ!」
「メタいなぁ……」
「メタいですね」
「黙らっしゃい!」
ドン!
「と~に~か~く! 今以上に存在感をアピールし、あらゆる人物の目を引くこと。それがわたくしたちの命綱となるのです」
「要するに目立ちてぇのか?」
「後先考えずに暴走するところはメグミ殿と変わらないように見えますがね」
「だから黙らっしゃい!」
ドンドンドン!
「わたくしの話は最後まで――」
「おい姉ちゃん、あんまりドンドン叩かないでくれ。テーブルやイスは新品に代えたばかりなんだ」
「す、すみません……」
ここが酒場なのを忘れてましたわ。
「そもそも王都の酒場で作戦会議ってのもどうなんだよ。他人に丸聞こえじゃねぇか」
「キル子さんに同意です。危機感が無いのはトワ様の方では?」
「む! そこまで言うのでしたら……」
★★★★★
次の日、別の街の酒場にて
「さぁ、作戦会議を始めますわよ」
「いや、だからさ、何で酒場なわけよ?」
「良いですかキル子、酒場というのはあらゆる情報が流れているのですわ。情報を得ながら作戦を立てられる、素晴らしいじゃありませんか。当然ミチオも文句はありませんわよね?」
この話はメグミが豪語していたのですからね、間違いありませんわ。
「お言葉ですが、我々が一方的に情報を垂れ流しているだけかと……」
「く~ぅ、まだ反対なさるの!? でしたら最後の手段ですわ、今後もラーカスター邸で作戦会議を――」
「「…………」」
わたくしの台詞でダメだこりゃみたいな反応を見せる眷属2人。いったい何がいけないと言うのでしょう?
「恐れながらトワ様、トワ様の場合はメグミ殿の影響を強く受けていらっしゃるようなので、こうした会議を開くよりも行動で示すのが転機と成り得るかと」
「例えば……どのような事ですの?」
「そうですね、ちょうど夜も更けてきたことですし、場所を変えましょうか」
ミチオに促され、人が寄り付かなくなった過疎地の廃村へとやって来ました。まさかこんな場所で会議をするわけではないと思いますが……
「う~さぶ! おいウワベ、こんなところで何しようってんだ?」
「今一度自分を見つめ直し、足りないものを見つけるのです。トワ様、この廃村には何が足りないですか?」
「もちろん人ですわ。そして灯り。あとは何より生活感かしら?」
「よいでしょう。ではイメージして下さい、この村が栄えていた時の光景を脳裏に浮かべるのです」
「脳裏に……」
目を閉じ、ミチオに言われるまま人がいた時の風景を想像します。
畑を耕すお爺さん、洗濯物を干しているお婆さん、狩に出ていた青年を出迎える若い女性たち、そして遊び回っていた子供たちがお土産を期待して集まって来て――
「グオォア!」
ガブッ!
「イッタァァァァァァイ――ですわ!」
屈託のない笑顔を見えていた子供たちがゾンビに早変わりを!?
「ああ、言い忘れてましたがこの村、過去に戦争に巻き込まれて廃村になった経緯があるそうです。普通にアンデッドが彷徨いてますので注意してください」
「先に言ってくださいまし! ほら、さっさと離れなさいアンデッドども!」
怒りに任せてゾンビやスケルトンを薙ぎ倒します。ついでにミチオも。見える範囲のアンデッドを掃討し終え、ヤレヤレと肩を竦めつつ背後の山を見上げると……
「「「グオォォォ!」」」
「「「カカカカカ!」」」
新たなアンデッドが寄って来ました。
「これじゃキリがありませんわ。キル子、ミチオ、いい加減に手伝いなさい」
「いやさ、何かウワベが手出しすんなとか言っててさ」
「そうです、これはトワ様のための修行なのですから」
「今さらこんなザコを蹴散らしたところで微々たるものじゃありませんか。体力の無駄遣いですわ!」
「でしたら体力の消耗を抑えてはいかがでしょう?」
「消耗を? そんな方法――」
いや、1つだけ有りますわ。一時的に大量の魔力を消耗しますが、効果は半永続的な方法が!
「召喚の儀を行います。キル子とミチオは敵の足止めを」
「おぅ! 別に倒しちまっても構わねぇんだろ?」
「それはダメですよ? せっかくの閃きが無駄になってしまいます」
「あ? テメェ、ウワベのくせに生意気だぞゴルァ!」
「ちょ! ボクの足止めをしてどうするんですか――って、イタイイタイイタイ!」
2人が足止めをしている間に(←足止めになっていないような……)、魔力を強く練り込みます。人前に出るのですから当然人形。遠目からでもカッコいいと思わせてしまうシルエットに加え、紳士で丁寧な口調。そして一番重要なのが、わたくしたちの中で最年長となる老紳士であること。いざという時に頼りたい存在ですわ。
「さぁ出てきなさい、わたくしの新たな眷属よ!」
シューーーーーーン!
「おや? おやおや、これはまた不思議な世界に召されたもので」
召喚は無事成功。現れたのは黒いタキシードにシルクハット、黒いマントの裏地が赤く染め上がっている手品師のような見た目の男で、声も老紳士そのものという正にイメージ通りの人物ですわ。
「察するに、我輩をこの世界に召したのは貴女ですな?」
「その通り。わたくしの名は魔王シャイターン。ですが親しみやすくトワと呼んでくださいま――」
ガブッ!
「――って、イッタァァァァァァイですのよこんちくしょう!」ゲシッ!
よく見ればさっきよりも数が増しているじゃありませんか。こうも大量に沸き出てくると話してる暇はありませんわ。
「ふむ。どうやら邪魔者を片付けるのが先のようですな。ここは我輩にお任せを」
片手に宿した炎が青く染まり、それをアンデッドの群に投げ込みます。範囲にいた群は次々に炎に包まれ消滅……いやそれだけではなく、家屋や草木は燃やさずにアンデッドだけを焼き尽くしていきます。周囲への配慮を忘れないところも紳士らしくてグッドですわ。
「粗方滅したようですな。では改めて自己紹介を。我輩の名前は赤沢帆塗。炎を操るのを得意とするところであり、小剣も嗜む程度には扱えますかな。かつて日本では赤マントと呼ばれ、恐れられたことも……まぁ過去の話です」
赤マント……子供を誘拐しては残忍な殺し方をする妖怪でしたかしら?
「ふむ、怖がらせてしまいましたか? 言っておきますが、子供が云々のくだりは尾びれ背びれが付いた捏造。我輩が相手をしていたのは反社的な組織ですぞ。残忍さで言えば、そこの口裂き女の方が上でしょうな」
「あ? やんのかテメェ!」
「そういうところですぞ」
猟奇的な趣味は無さそうですわね。少し安心しましたわ。
「――で、ミチオ。これでメグミに対抗できるようになるんですの? いよいよ主役交代でよいのかしら、フフ♪」
「いえ、主役は代わりません。作品的に不可能ですね」
「……は? それでは時間の無駄ではありませんか! いい加減なことをほざくと酒樽に突っ込んでマムシ酒にしますわよ!」
「そ、それだけはご勘弁を……」
まったく、これでハントという優秀な眷属が手に入らなければ完全に無駄骨でしたわ。
「あ、そうそう、代わりと言っては何ですが、酒場で面白い情報を仕入れましたので、そちらをご提供しますよ」
「前にも面白い店があると言うから行ってみれば、 まんま異世界番のお○パブだったじゃありませんか!」
「アレは事故ですよ。自分用の情報と間違えて公開しただけです。今回ご紹介するのは、最上階まで到達できれば何でも願いが叶うという地元では有名な塔の話です」
何でも叶うというのは大半は脚色されたものが多いのですが、この塔というダンジョンは定期的に挑戦者が現れる名所として有名になっているらしいのです。
しかし最上階に達するまでには強い魔物からの熱烈な大歓迎を受けるため、志し半ばで落命する者も多いのだとか。
「タワーですか。挑んでみるのも良いかもしれませんわね」
「そうでしょうそうでしょう!」
「ところでミチオ、結局貴方は何をしたかったのです? タワーの存在を知るのなら、最初に言えばよかったはず」
「え……いやぁ……それはですね……」
「まさかとは思いますが、自分が楽をしたいから眷属を増やす方向へ持っていったのではなくて?」
「…………」
「さ、タワーへ急ぎましょう。今夜は冷えますよ~!」
「あ、コラ、待ちなさい!」
「ふむ。何とも賑やかな方たちだ」
「ああ、少なくとも退屈はしないぜ?」
「そのようですな。では我輩たちも行きましょう。見失っては面倒です」
「おぅよ!」
新たに加わった眷属の赤マント――赤沢帆塗。トワ一行のまとめ役と成るか、それとも……




