タワー突入
「見えてきましたルシフェル様、アレがタワーのようです」
ゴトーが示す先には雲を突き抜けん高さにまで達する禍々しい邪気を纏った塔――つまりはタワーが建っていた。まだ昼間だというのに塔の周りは薄暗く、雰囲気は心霊スポットそのものである。
「タワーの最上階へは1階から目指すのがルールとされている――だったなゴトー?」
「はい。過去には外壁をよじ登ぼる、または飛行による強行突破を試みた者もいるようですが、強力な結界に阻まれ成功した例はないとのこと」
ったくメンドクサイ。ちょっとくらいショートカットしても良かろう。あの有名なマリ○カートだってショートカットが出来るのだぞ?(←比較対象がおかしい) タワーとやらはドケチだな。
「ですが妙な感じがします。漂っている邪気が意思を持っているかのように動き回っているようで」
「邪気が動くだと?」
そんなバカなと目を凝らせば、答えは単純明快だった。
「アレ、羽の生えた魔物じゃね? Eスキャンでガーゴイルって出たんだが」
「そようです。しかもあのガーゴイル、塔を攻撃しているようです」
魔物の群がタワーと戦っている? いや、魔物だけじゃない。塔の内部から時おり聴こえる爆発音で所々から煙が立ち上がっているではないか。
だが1つだけ確かなことがある。塔の内部から感じる反応は、間違いなく私を楽しませるに違いないのだ。
「トワの奴、どこへ行ったかと思えばこんなところに居ったのか」
「魔王シャイターンだけではなく、眷属の2人も一緒のようです。他にも眷属と同じくらいの強さを持つ者を感知しました」
タワーか、それとも第三者か、いずれにしろトワだけに楽しみを独占させるわけにはいかん。
『アイラよ、このままタワーへ突っ込め。強襲をかける!』
『ま~たメグミったら、ほんっと無茶ばっかり言うんだから。街の人たちに被害が出るわよ?』
『結界が張られているのだから大丈夫だろ。出たとしても食ってる途中のラーメンがひっくり返ったりとか、オッサンのズラが飛ぶくらいだ。そこまでは責任持てんな』
『例えがピンポイント過ぎるのが気になるところだけれど……まぁいいわ、このまま突っ込むから衝撃に備えてよね』
『うむ、いてまえ!』
~~~~~
ズゥゥゥゥゥゥン!
「でゅわっっっちぃぃぃぃぃぃい!」
「もぅ、ガラハンドったら。だからラーメンの立ち食いとか止めときなさいって言ったじゃない」
「す、すまん。ああも満席だとゆっくりしてられないからさ。けどやっちまった、アーマーが汁まみれだ」
「一旦脱いだら?」
「そうだな。悪いがエミリア、この剣を持っててくれ」
「うん」
「よっと……」
ズラッ!
「……え?」
「ふぅ~。こりゃ宿で洗うまで待機だな」
「…………」
「ん? どうしたんだエミリア?」
「ア、アンタ……ハゲだったの……」
「ハァ!? ハ、ハハハハハゲちゃうわぁあ! だいたい何の証拠があって――」
「コレ、落ちたわよ」
エミリアが差し出したもの。それは、緑豊かに生い茂った(←緑髪)生命の息吹き。大自然を頭皮で感じることが出来るレアアイテムだった。
「ンンンノォォォォォォウ! 俺のトップシークレットがぁぁぁぁぁぁ!」
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「――なぁんて事があったりなかったり」
「有ったとしても些細なことです。それよりもルシフェル様、タワーに激突した際に数体のガーゴイルを巻き込んだため、奴らのヘイトがこちらにも向いています。半数のガーゴイルがザルキールの結界にも張り付き始めたようですが」
フッ、面白い。こちらにも喧嘩を売るというなら買い取るまでだ。(←先に仕掛けたのはこっちだよね?)
『フェイ!』
シュン!
「ほいっと。久々にあたしの出番?」
「そうだフェイよ、あのウザったいガーゴイル共を始末せよ。それだけでザルキールの民は歓喜するはずだ。ついでにタワーの土手っ腹にも大穴を空けてやれ」
「オッケ。ブレスで一掃しちゃうわね」
ゴォーーーーーーッ!
竜化したフェイがブレスを吐きつけ、ガーゴイルの掃討に入る。次々に消滅していくガーゴイルとは反対に、タワーの結界までは打ち消せていない。
「ムッ! 何よあの結界、生意気ね!」
「あれも勇者の1人だと言うからな。ここはゴトーに任せるとしよう――ゴトー!」
「ハッ、お任せを」
ゴトーでダメならいよいよ私の出番となるのだがな。さて、お手並み拝見と――
グィッ!
「ん? ゴトー?」
「は? ちょっとゴトー、あたしの体を持ち上げて何しようと――」
「竜の鱗は硬いと聞くからな。それなりの勢いでぶつければ、タワーも無事じゃすまないだろう」
「ハァ!? ふざけんなバカ! こんなか弱い女の子(←か弱くはない)を砲弾代わりにするとか鬼畜か!」
「文句は後で聞く。今はタワーの破壊に専念しろ――ムン!」
「――ってコラァァァ! 無許可で投げ飛ばすなぁぁぁぁぁぁ!」
ズドォォォ!
「へぶっ!?」
フェイの犠牲により(←勝手に殺さないでもろて)タワーの一部に人が入れるくらいの穴を空けることに成功した。
「うむ、でかしたゴトー」
「でかしてないわ! 脇腹がすんごく痛いんだけど!?」
「お褒めいただき光栄です」
「あたしに苦痛を与えて光栄もクソもあるか!」
「では乗り込むぞ。ほれフェイ、悶絶しとらんでお主も来い」
「ああもぅ、この怒りは塔の中で発散させてやるわ!」
ドゴォ!
何故か激怒しているフェイが突っ込み、空いた穴が大きく開く。内部に入ると辺り一面が魔物の死骸だらけに。激しい戦闘が行われていたのは確かなようだ。
「見てくださいルシフェル様。死骸の殆どは外にいたガーゴイルです」
つまりコイツらも侵入者側だと? いまいち状況が分からんな。
「むぅ? 上の方からトワの反応を感じるな。主戦場はもっと上か。ここは20階と書いてあるから……30階辺りか?」
「そのようです。が、すぐ上でも戦闘が発生していますね。ここで何が起こっているのか知っているかもしれませんし、聞いてみるのも良いかと」
そうか、他にも挑戦者がいるのだったな。
「じゃああたしが一番乗りして聞いてやるわ!」
「大変ですルシフェル様、フェイが巨体で階段を破壊しようと――」
「ゴルァ! 他人をデブ扱いするんじゃないわよ! 今度言ったら踏み潰してやるんだから!」
「ああ、踏まれながらの腕立て伏せか、それも悪くないかもな」
「トレーニングの話じゃない!」
「ええぃ、何でもいいからはよ進めぃ!」
何故だか3人で揉み合いながら上の階へと出る。そこも下と同じく大量のガーゴイルが倒れており、フロアの隅には斧を使ってガーゴイルと交戦している何者かの姿も。
「ちょうど良い、あの者に聞いてみるか。お~い、そこのイカす兄ちゃん。こんなところで何をやっておる?」
「…………」
「コラ~! ルシフェル様が尋ねてるんだからキチンと答えなさいよ!」
「……うるさい、お前たちの相手をしている暇はないんだ。見て分からんのか」
そりゃまぁ戦闘中なのは分かるが。
「手を貸してやろう」
「……すまん、助かる」
意外にも素直に受け入れたな。てっきり余計な手出しはウンタラカンタラな展開を予想したのだが。
でもってガーゴイルを排除している最中にイカす兄ちゃんをEスキャンで覗いた結果、驚くべき名前が出てきたのだ。
ゲシッ!
「グゲァ!?」
最後の1体をゴトーが仕留めると、安堵した様子のイカす兄ちゃんは片腕を庇うようにして壁にもたれ掛かった。
そうか、道理で鈍い動きをしていると思ったら利き腕をやられたのか。
「どうした、魔王アスタロイともあろう者がガーゴイルなんぞに苦戦を強いられるとは」
「なっ!?」
「安心しろ、スキルで見ただけだ。お前をこの場でどうこうするつもりはない」
「……そうか」
私の言葉を信じたかは分からない。だが多少は警戒心が薄れたのは表情を見て分かる。
「偽装を施してたはずなのだがな。こうも容易く見破るとはお前も魔王か? それとも勇者か?」
「魔王だ、魔王ルシフェル。それが私の名だ」
魔王だと明かすと納得したようにアスタロイは頷く。今さらだが魔王に偽装は通じない。普通の鑑定スキルでは魔族の男としか出なかっただろうな。
「やはりそうか。だが尚さら疑問が深まるな。なぜ俺を助けたのだ? 黙って倒せばより高みを目指せたものを」
「弱り切った魔王を倒したとして何の自慢になる? 私には弱者をいたぶる趣味はない。お前が望むと言うのなら、傷を癒した後に考えてやろう」
そこまで言うとアスタロイは笑みを浮かべ、改めて礼を述べてきた。
「不快な思いをさせてすまなかった。魔王ともなればいつ何時襲撃を受けるか分からんのでな、初対面で気を許せる余裕はなかったのだ。貴殿に戦う意志が無い以上、俺も矛を向けることはしない。そしてご助力いただき感謝する。見ての通り利き腕をやられてな、雑に武器を振るうことで消耗を押さえていたのだ」
「やはりか。せめて手当てをしてやりたいのだが……参ったな、フロウスを呼ぶとザルキールの守備が手薄になるし……」
「まぁ待ちたまえ。貴殿の気持ちだけで充分だ」
「そうは行くか。弱っている者を放置するほど私は愚かではない。下々への施しは強者の義務だからな」(←間接的な自分より下に見てます発言)
「――フッ、フハハハハハ! 面白い。人間の魔王にしては何ともユニークな性格か」
「む? 私は本気で心配しているのだが?」
「いや、すまんすまん。まさか昨日の今日で面白い魔王と立て続けに出会うとは思ってもみなかったのでな」
面白い魔王?
「貴殿と同じく人間の身で有りながら魔王として活動している娘だった」
「まさかとは思うが魔王シャイターンのことか?」
「なんと、知り合いだったか!」
「うむ。良い意味でのライバルで、この世界においては一番理解し合える間柄だ」
切っ掛けは知らんが、私と同様にトワも真っ正面からアスタロイに挑むとか言って気に入られたのだろう。
思えばトワには昔から抜けているところが有ってな、不意打ちをするにしても後ろから堂々と声をかけたりして失敗に終わることが多いのだ。全くもって意味不明だな。(←それはそう)
「そうか。ならば急いだ方がいい。俺はシャイターンの手助けをするためタワーに巣くう魔物を倒していたんだが、背後から別の侵入者が現れてな、不覚にも利き腕を折られてこのザマだ」
「侵入者……。ソイツは1人か?」
「そうだ。だが多数のガーゴイルを引き連れていてな、それで分かったよ。奴も魔王だということが」
「魔王……な」
しばらく見ないと思ったら……ようやくお出ましか。




