ユウガ
ミリオネックの首都にある議事堂。そこは国の中枢を担う者たちが様々な意見を出し合う場所であり、私を含む多くの権力者が集っていた。議題は勢力を拡大し続けているペルニクス王国についてだ。
「――というのが現状であり、ペルニクス王国は無視できぬ存在であるのは確実。使者によれば国王は怯むどころか戦争も辞さないと言ってきた。これは我が国への挑発とも捉えられる。異論は御座いますかな?」
議長が言葉を区切ると、会場のあちこちから声があがる。
「議長、ペルニクス王国とは国境が隣接しているわけではなく、危機を唱えるには不十分かと思われます」
「それに我が国から先に挑発した以上、他国から見れば悪印象を持たれるのは避けられんぞ」
「然り。只でさえアイリーン宇宙軍への肩入れが決まったばかり、そこへ来て他国を挑発するのは感心せんな!」
そうなのだ。我がミリオネックは周辺国からお国柄と皮肉られたコウモリ外交に終止符を打ったばかり。宇宙軍への肩入れが決まって以降はアレクシス王国への対決姿勢を鮮明にしている。敵を増やすのは愚策だが、反抗的なペルニクス王国を叩くことで宇宙軍の信頼を獲られれば安いもの。
「静粛に! ここは1つ、サイゼリス家の見解をお伺いたい。どうお考えですかなユズル殿?」
議長に水を向けられたか。何せ我がサイゼリス家はジャスティス、ジャッチメント、ハングドマンという3つの大役職を代々引き継いでいる名家なのだ。現当主である私の顔色を伺うのは当然であり、我が家にはミリオネックを導く義務もある。
皆の視線を浴びる中で私は静かに立ち上がり、周りを一瞥して口を開いた。
「では申し上げる。我々の差し伸べた手を払いのけたが故に起こる代償、これをペルニクス王国にキッチリと払わさねばならん。我が国が商売上手なだけではなく、戦上手でもあるという事をしかと刻み込んでやろうではないか」
「つ、つまり、こちらから攻め込むと?」
誰かが問う、本当に戦争を仕掛けるのかと。それに対して私は笑みを浮かべ……
「フフッ、当然だ。我がミリオネック商業連合国はイグリーシアの大国である。弱小国を吸収して成り上がった国なんぞに負けたりはしない」
間が悪く息子2人――ジャスティスとジャッチメントは不在。あの2人が戻りしだい侵攻を始めることになるだろう。それまでの間、束の間の大国気分を味わうがいい。
「ユズル殿の考えに異を唱える者は?」
反対意見は無し。当然だ、戦で矢表に立つのは我がサイゼリス家なのだからな。せいぜい他の連中には我が家の活躍を遠くで眺めててもらおう。
「全会一致と見なし、これよりミリオネック商業連合国はペルニクス王国に対して宣戦布告を行うものと――」
議長が締め括ろうとしたその時だ。
ズドォォォォォォン!
「ぬぉ!?」
「ひぃぃぃ!」
「な、なんだ、何事だ!?」
激しい揺れが議事堂を襲い、一部の天井にはヒビが入る。直後ドタドタと慌ただしく兵士が駆け込んできた。
「たたた、大変です! しゅしゅ、首都の上空から攻撃を受けました! 敵影は確認できず、正体は不明です!」
「「「!?」」」
見えない敵だと!? そのように高度な戦闘を行える組織なんぞ限られている。言わずもがなアイリーンの宇宙軍と地上軍だ。可能性が有るとすれば地上軍の方だが、空からというのが気にかかる。
「ま、まさかアレクシス王国が攻めてきたのでは……」
「いや、国境警備隊からは何の報告もない」
「ならばアイリーン地上軍か?」
「バカな、劣勢に立たされている今、我が国を気にしている余裕などなかろう」
「ならばどの勢力だと言うのだ!」
まとまりかけた議題をほっぽり出し、あ~でもない、こうでもないと、謎の敵への憶測が飛び交う。
そして誰かがとある国を出すと、その場の全員がハッとして息を飲む。
「まさかとは思うが、ペルニクス王国が仕掛けてきたり……」
あり得なくはない。かの国には恫喝に近い姿勢を見せたばかり。帰還した使者からも国王は顔を真っ赤にしていたと報告されている。
だが本当にペルニクス王国か? 近年成り上がったばかりの格下風情が? そう脳裏で否定しようとしたところで、窓の近くにいた貴族の声によりハッと我に返る。
「ひ、飛空艇だ、巨大な飛空艇がすぐそこに!」
飛空艇? そんなチャチな物じゃない。アレは島だ、万単位の人数を収容できる巨大な島ではないか!
「非常事態だ……議長、直ぐに非常事態宣言を出したまえ。攻撃を受けたのなら紛うことなき敵だ!」
「わ、分かった、これより我が国は非常事態宣言を――」
ズドォォォォォォン!
「「「ぬぅあぁぁぁぁぁぁ!」」」
またか! だが空に浮かぶ島相手にどうやって戦えと。クソッ、息子たちの居ない時になんて厄介な……。
しかし厄介事はそれだけに留まらず、新たに駆け込んで来た兵士から信じられない報告を受けることに。
「てて、敵襲です、上空から魔物の大群が降ってきました!」
「魔物だと!?」
「その影響で首都は大混乱、魔物と人が入り雑じって迎撃が上手く行えません!」
何てことだ、まさか魔物を操っているとは!
「多少の犠牲は構わん、人民もろとも蹴散らしてしまえ! 我がサイゼリス家からも増援を出す、一刻も速く殲滅するのだ!」
こうなっては致し方ない。殲滅に巻き込まれた人民は己の不運を悔いてもらおう。首都陥落で大国が1日で消滅なんて事態はイグリーシア史上あってはならぬのだ。そんな事になれば末代まで不名誉を引き継ぐことになるだろう。
だが敵としてはそれだけでは物足りなかったらしい。トドメとなる報告が私を待っていたのだ。
「大変です、敵が議事堂内に侵入してきました!」
「バカモノ! 魔物ごときに侵入を許すとはなんたる醜態! 貴様ら警備隊は腑抜け揃いかぁ!」
「そ、それが侵入者は魔物ではなく、寧ろ魔物よりも強い人間や獣人らしく……」
「だったら何だ、人の姿をしているから戦えないとでも言うつもりか?」
「そ、そうではありません! 侵入者の中にサトル様の姿が確認されたしだいで……」
「サトル……だと?」
あのバカ息子、ついに反旗を翻したか。ハングドマンの座はやはり……
★★★★★
「侵入者め、ここは通さ――」
「いいや、通らせてもらおう」
「――グホォ!?」
「た、隊長がやられた!」
「逃げろーーーっ!」
屈強な体をした隊長の男を倒すと、蜘蛛の子を散らすように他の隊員たちは逃げていく。
「なんだ、ミリオネックは大国と聞いていたからどれだけ強いのかと期待したんだがな。こうも弱いと拍子抜けだ」
片手で隊長を捻った野郎――ゴトーがつまらなそうにボヤきよる。一度でいいからワイも同じ台詞を喋りたいわ。
「どうしたサトル?」
「何でもないで、ほな先に進もか」
この野郎、ワイらが侵入者だっちゅ~のに正面突破かけよってからに。お陰で敵兵の半数以上がビビって逃げてもうたわ。ま、楽チンだから不満はないけどな。
「しっかし何だってワイに道案内をさせんねん。ゴトーなら強引に探し当てるやろ」
「メグミからの要望だ。お前と同行し、決着をつけさせろと」
「フン、余計な気遣いしよってからに……」
「迷惑だったか?」
迷惑なわけあるかい。寧ろ感謝してもしきれんくらいや。ワイんとこのサイゼリス家は大役職に拘り過ぎた。ワイの将来はハングドマンっちゅう大役職になるのが定めだとか抜かしよって。
冗談じゃない、ワイはテメェらの人形じゃあらへんのや。何に成るかは自分で決めるっちゅうねん!
「そこまでブツブツ言うのは余程不満だと見ていいのか?」
「アホか、不満なわけあるかいな」
「なら良いが。不満が有ればいつでも言ってくれ」
「言ったらどうなるんや?」
「メグミに報告する」
「アホンダラ! ワイが学園でシバかれるっちゅうねん!」
コイツ、わざと誘導してるんちゃうやろなぁ? 公にはなっとらんが、メグミに絡んでボコられて中退していった奴らが山ほどおるからな。ワイは絶対に五体満足で卒業したる、絶対にや!
「と、とと、止まれ、それ以上進むと……」
ガシッ――――パキン!
「あ、ああ……」
「進むと――何だというんだ?」
「な、何でもありましぇ~~~ん!」
ついには重役が集まる会議室をほっぽり出して逃げてったで。まぁ目の前で剣を折られちゃ自分の心も折れるっちゅうもんやな。
「さて、ここには議長とワイの親父が居るはずや」
「強いのか?」
「ハッ、まさか。自身はとうの昔に現役を退いとるさかい、今のワイと良い勝負なんちゃうか」
「そうか。だったら――」
ドガン!
ゴトーがドアを蹴り開けて中を覗く。敵兵は居らん。代わりに見たくもない顔がこちらに振り向いた。
「来たか、親不孝者が」
何年振りかに見る親父の顔だった。




