偵察機
『フロウス、ゴトー、敵が挨拶に来たようだ。イベントを強制終了させ、迎撃に専念せよ!』
『ちょうど一区切りついたところです。いつでも浮上できますよ』
『よし、すぐに浮上する!』
『それとルシフェル様、宰相が顔を真っ赤にして暴れていますが』
『丁度いい。国王とロザリーは護ってやるから、王都は任せると伝えておけ』
『了解です』
「アイラよ、至急ザルキールを浮上させるのだ」
「オッケ。何をしてくるか分かんないから迎撃は頼んだわよ」
「無論だ」
トワたち以外の戦力は集結しているからな。滅多なことは起こるまい。
「面白そうね、私たちも加勢する?」
「いや、リーリスたちは王都を頼む。流れ弾が落ちる可能性もあるしな」
「分かったわ」
「うむ、王都は任せてもらおう」
さて、捕捉してからそれなりの時間が経過したが。
「敵の様子はどうだ?」
「一定距離を保っているわ。仕掛けては来ないみたいね」
「ならば王都から移動するぞ。ザルキールが目的なら追跡してくるはず」
再び王都には雪が積もり始める。ザルキールが上空から離れたためだ。それと同時に離れた場所から観察を行っていた謎の飛行物体も追跡を開始。ピッタリとザルキールに貼り付いてきた。
「こっちが本命みたいね」
「フッ、面白い」
ならば盛大に歓迎してやろうではないか。
「あ、ちょっと待って。誰かがザルキールから飛び立ったみたい、しかも2人」
「2人? いったい誰が――」
――って、この魔力反応はあの戦闘メイドの2人!
『ユラ、それにレッド(←最近はレッドフードを略して呼んでいる)、いったい何をするつもりだ?』
『レッドフードとの会話が弾んでしまいまして』
『つまりはそういう事だ』
は? 何を言っとるんだこの2人は……
『意味が分からん。順を追って説明せよ』
『ティータイム中に戦闘能力が話題に上がりまして、どちらが上かをハッキリさせようという流れになったのです』
『もちろんメグミは我を推すだろう? 実際に拳を交えたのだから、実力は分かっているはず』
『いいえ、あの厄介な装備がなければ貴女なんぞ糞味噌雑魚漬けではありませんか。顔面を塗り替えて出直してください』
『その雑魚と罵っている我に貴様は敗北したのだ、貴様こそ今世紀最大の糞味噌雑魚漬けではないか』
どうでもいいが漬物が食いたくなってきたな。アイラに頼んで沢庵でも召喚させようか。できるか分からんけども。
『やはり口論しているだけでは解決しませんね』
『ああ。宣言通り、どちらがより多く撃墜するか……』
『『勝負!』』
『いちいち念話で話すな! すったらもんどうでもいいわ!』
だが出撃したのなら任せる以外にない。
「メグミ、ユラとレッドフードが接敵したわ。視点を切り替えるわね」
スクリーンの映像が左右に分割され、ユラとレッドそれぞれの視点へと切り替わる。すると一定距離からこちらを偵察していた物体が明らかとなった。
「小型の戦闘機? いや、偵察機か」
戦闘機にしては人が乗り込めるサイズではない。つまり無人機ということだろう。
そんな無人機をメイドの嗜みだと言わんばかりにユラとレッドフードが撃墜していく。
『手応えがありませんね。反撃もありませんし、流れ作業で終わりそうです』
『そうだな。さっさと終わらせてティータイムに戻――いや待て、別個体がこちらに接近してくる』
残り数機を前に別のユニットが接近してきた。その白い姿はもうアレだ、まんまガン○ムだよ。それかエル○イムな。
その新手はユラとレッドを敵と認識し、2人を射程内に捉えるや銃器による射撃を展開した。
ズダダダダダダダダダダダダダダダ!
『クッ……腕に被弾、一時撤退します』
『ユラ同様こちらも肩を抜かれた。癪だが一旦退く』
火力はありそうか。やはり宇宙軍だけあって装備品も充実していると見てよいだろう。
『お前たち、ザルキール結界の内側に入れ。結界の性能を試したい』
『了解です』
『分かった』
ユラとレッドがザルキールに帰還。例の機体も2人を追ってザルキールの上空に現れ、再び銃撃を開始した。
キキキキキキキキン!
――が、こちらの結界は抜けなかった。当然だ、ザルキールにはダンジョンの結界に加えてフェイの結界、ゴトーの不可思議な魔力バリアに魔王である私の加護を与えているのだ。これを突破できるのは過去のダイダロスくらいだろう。
「全弾防御、ザルキールは無事よ」
「フッ、心地好い音色だったな」
しかし相手は諦めの悪い輩のようで、銃撃が通用しないと分かるや手にしていた銃器をブレードに変形させ、結界に斬りかかってきた――が……
キンキンキンキンキンキンキンキン!
リズミカルに弾くだけで結界へのダメージは微弱、数年経っても抜けないだろう。
「なんだか師匠との修行を思い出すな」
「音が重なったとは言え他人の作品をネタにするのは止めなさい。アンタに師匠はいないでしょ」
「しかし面白い武器だ。自由変化で多様性のある装備、アイラも似たような物を召喚出来ないか?」
「アイリーンの創設者はこの世界にない特殊な武器を召喚できたらしいわね。その中に有ったかもね、自由変化の装備品が」
しかし宇宙軍は召喚――或いは製造しているという事か。
私たちだけなら対処できるが、逆に言うと他の者では対処出来まい。精々が勇者であるツェンレンやククルルくらい。
国が火だるまになる前に宇宙軍を叩く必要がありそうだ。が、その前にやることが残されている。
「アイラよ、DPの補充は協力するからユラとレッドに新たな装備品を召喚してくれ」
「構わないけれど、あの2人が今後も戦闘に参加するわけ?」
「邸を護らねばならんだろう? 留守を任せる事もあるだろうし、アイラを護ってやる必要も――ん? そう言えば色気の無いあのくノ一はどうし――」
シュタ!
「お呼びで御座いますか?」
「ぬぉっ!?」
「ひぃっ!?」
この女、気配を消して近くに潜んでおったのか。反応が小さ過ぎて逆に気付かなかったぞ。
「おや? お呼びだと思ったで御座るますが」
「何でもない、帰っていいぞ」
「そうは参りません。何やら色気の無いくノ一という不名誉な単語が聴こえてきたのですからね! ね!? ねぇ!?」
「しっかり聴いとるんかい!」
「悪かったですね、色気が無くて。ですが色気皆無は貴女も同じだと心得てそうろうで御座る」
「うっさいわ! 私はこれから成長するのだ、伸び代のない貴様と一緒にするな!」
グダグダやっていると、ついに諦めたのか例の機体がザルキールから離れていく。
「メグミ、敵が逃げちゃう!」
フッ、敵に背中を向けるとは愚かな。
「アイラよ、ダンジョン砲を放て。私と敵対したことを後悔させてやるのだ!」
「オッケ、エネルギーの充填に入るわ。30%、40%――」
説明しよう。ダンジョン砲とはDPをエネルギーに変換して放つ対空砲であり、光の速度で打ち出されるダンジョン砲はまさに回避不能と言ってもよいでしょう。つまり狙われたら終わりなので御座ります。
「こらカズエ、私の解説を取るでない!」
「さっきの仕返しです。それよりエネルギーの充填が完了しますで御座ります」
「エネルギー充填MAX、いつでも撃てるわよ」
「よ~し! 目標、ガン○ムもどきの機体。ダンジョン砲――」
「放てーーーーーーぃ!」
ジュッ!
「目標に命中! 跡形もなく消し飛んだわ」
威力が高過ぎたか? しかし、これで理解したことだろう。例えアイリーン宇宙軍と言えど決して怯まぬと。
『メグミ様、戦闘を観戦していた民衆から歓声が上がっており、あちらこちらで酒盛りが始まりました』
『乗り込んでいる数が多いせいで枯渇するかもしれないぞ?』
それは困るな。
「アイラ、急いで酒の召喚を頼む。この際だ、安酒でも構わん」
「はいはい、了解しましたよっと」
さて、次はミリオネックだが……場合によってはサトルにも覚悟を決めてもらわねばならんかもな。




