その後のダイダロス
ビュゥゥゥ!
「さぶ! 今日は一段と冷えるな」
庭に広がる雪景色を尻目に、窓を閉めてベッドに寝転がる。せっかくの冬休みだが、こうも寒いと出歩く気になれん。
ガラ!
「――って、おいこらレッドフード、何故に窓を開けるのだ!? 風邪を引いてしまうではないか!」
「我が掃除中だからだ。埃が立つから窓を開けろと言ったのはお前ではないか」
無表情で反論をかましてくるのは魔王ダイダロス。いや、元と付けるべきか。呪いの装備から解放した後、自らも自爆しようとしたのを止め、邸の使用人として雇うことになったのだ。
但しダイダロスという呼び名は捨て去りたいと言う本人の希望から、レッドフードと呼んでいる。
「部屋の掃除はいい。他にすることがないのならお前も寛いでおけ」
「そうはいかない。ここに身を寄せる以上、仕事はキチンとするようにとスレイン子爵から言われているのだ。この邸の主はスレイン子爵、よって彼の命令は絶対である」
ガシッ!
「おいこら、ペットのように掴み上げるな! 私は猫ではないのだぞ!? さっさと下ろさんか!」
「できん。少なくとも掃除が終わるまでは部屋に戻るな」
「戻るなだと!? ここは私の寝室、なぜ貴様に好き勝手されねば――ぬわぁ!?」
ポイーーーッ!
「これでよし。掃除の続きをするとしよう」
さて、あれからの事を少し話そう。
現在レッドフードと名乗っている我はこのように邸の使用人となり、掃除洗濯、食事の準備と甲斐甲斐しく働いている。他に目的もないし、必要とされてる限りここで働こうと決めたのだ。
ちなみに魔王の力の大部分は失われたが、同じくこの邸で働く戦闘型メイドのユラとか言う奴と同等の戦闘能力は持ち合わせている。(←ライバル心むき出しだな)
「メグミちゃ~ん? クラスの人たちがいらっしゃってるみたい――あら? レッドフードさん、メグミちゃんはどこに?」
「これはアルスお嬢様。恐らくは退屈すぎて外に出たのでしょう。このような寒い中でご苦労な事です」
「あらそう? じゃあクラスの人たちにはそう伝えておきますね」
では話の続きだが、勇者の2人――ツェンレンとククルルは旅に出た。仕事は武者修行をしつつもう1つの脅威――魔王カタストロフを倒す旅だそうだ。
以前の我は力をもて余して苦労した。故にメグミたちも窮地に立たされたのだ。その魔王も一筋縄では行かないだろう。
だがもしも我と同じように苦しんでいるのなら、是非とも救ってやってほしい。
後は……そうだ。旅と言えば、メグミのライバルであるトワたちも旅に出たな。メグミを出し抜くため、今よりももっと強くなるという目標を掲げて。
了解はアレだが、目標が有るというのは良いことだと思う。それは生きる喜びに繋がるのだからな。
但し、トワたちは……
「メグミさ~~~ん! ――いえ、魔王ルシフェル、今日こそ決着をつけて差し上げましてよ~~~!」
噂をすれば……だな。トワたちの旅は1週間足らずで終了し、この邸へ戻ってきた。旅先の宿がショボ過ぎて嫌気がさしたとかいうどうでもいい理由だったな。
まったく、これだから最近の若者は……。
「残念だがメグミは出掛けたぞ」
「そんな! これだけ冷え込めば火属性のメグミには不利だと思いましたのに!」
「見かけによらず姑息だな」
「黙らっしゃい! ですが居ないなら仕方ありません。また数日ほど旅に出るとしましょう」
また冒険者ギルドの依頼を漁るのか。この前も旅に出ると言って高額な依頼を達成してきたな。これだと旅というよりは出稼ぎではないかと思うのだが。
一方で完全に邸を離れた者もいる。燐国レマイオス帝国から逃れていた皇帝の息子であるロンヴァールだ。魔王アバードと魔王モロック、この2人を立て続けに失い、国は崩壊寸前。今なら権力復帰ができると踏み、リザードマンのリドを護衛にして帰国したようだ。
が、上手く行くかは本人しだい。我にできるのは成功を祈るのみだ。
ヒョイ!
「コルァ、レッドフード! よくもこの寒空の下に放り出してくれたな!? お陰で鼻がムズムズと――へっくし!」
「汚いな。これで拭け」
「おお、すまんな。お前のハンカチか?」
「さっきまで使っていた雑巾だ」
「ブーーーーーーッ!」
「汚な! 唾液を撒き散らすな愚か者め」
「愚か者は貴様だ愚か者め! おもいっきり顔を拭いてしまったではないか! ったく、寒いし顔も汚れたし、風呂だ風呂!」
「そうか、頑張って沸かせろ」
「お前が沸かせ! というか貴様、私がお前を撃破したことを根に持ってるだろ?」
「……いや?」
「今の間が何よりの証拠だろう! まったく、誰のお陰で――」
ズズズズ~~~~~~ン!
「――って、ぬわぁぁぁ!」
窓際に立っていたメグミが激しい揺れで再び外へと放り出された。直後にアイラから念話が入る。
『助けてみんな! 魔力の供給過多でダンジョンコアがおかしくなったの! 誰でもいいからコアルームに来て!』
やれやれ。ここに居ると退屈しないで済みそうだな。




