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森の探索

「おはよう諸君! 今日もビシバシ行くからしっかり付いてくるんだぞ~!」


 昨日は顔合わせと大まかな流れを説明され、各施設の案内を受けた後に解散となった。今日から本格的な授業が行われるのだが……


「担任は妙に張り切っているな。昨日の今日で課外授業とは」

「多分だけど、東部戦線が優勢だからだと思う。ペルニクス王国の東にあるガーリン王国を滅亡寸前まで追い込んでいるって話だよ」


 グレシーが述べた通り、ライバル国が1つ消滅するかもしれないのだ。相手の抵抗も激しいだろうが、件のガーリン王国を抑えればその先は山脈。東部の(うれ)いが断たれる事になる。上手く行けばの話だがな。


 さて、話を戻すが、いま私たちは学園のすぐ側にある森に来ている。この森は学園をコの字に囲んでおり、唯一空いている方向には湖が広がっているという、王都でありながらも完全に孤立した地形だ。

 この環境でやる事といったら恐らく……


「よ~し、これから各自でパーティを編成し、森に巣くう魔物を狩るんだ。制限時間は正午までで、一番成果を挙げたパーティには褒美もあるぞ~。もちろん自信のある奴は単独でも構わん。狩って狩って狩りまくるんだ」


 だろうと思った。低級の魔物を倒すことで経験を積ませ、更には自分たちの手で魔物を倒したという自信もつけさせる。文字通り一石二鳥だな。


「そうだ、1つだけ注意がある。間違っても湖の中には入らないように。諸君らの実力では敵わぬ相手――つまりはEランク以上の魔物が待っているのでな。森の奥地も同様だ。レッドラインを越えない範囲で探索することを心掛けるように。以上、散開!」


 生徒を安全に育成するためか、レッドラインを越えない範囲ならエフランクの魔物しか出てこないらしい。

 ちなみにFランクの魔物でいう代表格はノーマルのゴブリンだ。


「パーティか。ならちょうど良い。ボクたち3人で組まないか?」

「2年間一緒のクラスだったものね。私はいいわよ」

「うぉっす! 前衛は俺ッチに任せんしゃい!」


 ライアル、シェスタ、ゴリスキーの3人が早々とパーティ組み、森の奥へと進んでいく。彼らはグリゴレオが調子に乗った際、真っ先に動いた3人で、いずれも2つ上の先輩だ。

 初日の行動によりクラスのみんなから3D(スリーディ)と呼ばれるようになり、クラス委員にも選ばれてたな。私としては面倒な役回りを引き受けてもらえ、有りがたい限りである。


「さて、我々も行くとしよう」

「え……行くって、2人だけで?」

「そのつもりだが?」

「それは危険だよメグちゃん。私は戦闘経験なんてなし、ゴブリンにだって勝てるかどうか……」

「心配はいらん。ゴブリンの群なら1人で殲滅したことがある」

「え"!?」

「5体程度だったがな。あんな雑魚共に遅れはとらんよ」

「ほへぇ……」


 またしてもグレシーの思考がパンクした模様。

 だがゴブリンと言えど気を抜いたら死に繋がるのは間違いない。貴族の子供が犠牲になっては責任問題にもなるだろう。その辺りをどうやってクリアーしているのかは気になるところだが。


「ねぇメグちゃん。考えたんだけど、やっぱり2人だけは危険だよ。せめてもう1人誘ったほうが……」

「なんだ、私と2人きりになるのは不安か? 私としては他に連れは不要だと考えるが」

「え? そそそ、そうなの!? そ、その……メグちゃんの気持ちは嬉しいけどね、冷静になって考えて欲しいの。私たちは女の子同士なわけだし、そういう不適切な関係は結ばない方がお互いのためというか何と言うかね――」


 んん? 不適切?


「あ、でもでも、メグちゃんが嫌ってわけじゃないんだよ? 飛行して見せたメグちゃんとかカッコ良かったし、私としても満更でもない感じに陥ったというか。でもでもでもでも、やっぱり同性だと問題有りだし、下手したら両家の評判が落ちたりとかも有り得るかもだし、ああそうだ! だったらいっそ、メグちゃんに性転換してもらうなんて事も!」

「なにぃ!?」


 懐から怪しげな薬瓶を取り出すグレシー。


「こ、これ、強力な育毛剤、これを一気飲みすれば性別が逆転しちゃったり~なんていうロマンチックな現象が起こっちゃったりなんかして!」

「飲むか戯けがぁ! 貴様のロマンは育毛か! そもそも何故そのような物を持っている!?」

「そ、それは……将来を案じたお父様が、もしもの時には使えって……」

「心配する方向が間違っている! そもそも娘にそんなものを渡す父親とか嫌過ぎんかい! そんなに心配なら自分に使えと頭からブッかけてやれ! 私は育毛剤なんぞ飲まん!」



 バシィ! ――――シュルルルルル……



 強引に飲まそうとしてきたため片手で育毛剤を払うと、どこか遠くへ飛んでってしまった。


「ああ、育毛剤が飛んでっちゃった……」

「グレシーが暴走するからだぞ。私が言いたいのは戦力的には問題ないという話だ。誰が性転換するか、まったく……」

「ごめんなさいですぅ、メグちゃんの期待に応えようと思ってぇ……」


 これはこれで中々の逸材だ。強引に事を進めようとする方向性を正せればな……。



★★★★★



 バキィ!


「グギャァ……」


 最後に残ったゴブリンを倒し、パンパンと手を払う。後ろで見ていたグレシーが私に駆け寄ると、一気に捲し立ててきた。


「ふむ、これで合計は20体くらいか」

「凄い……凄いよメグちゃん! 3体で固まっていたゴブリンを一方的に叩きのめしちゃうなんて! 私なんかは手足が震えて全然戦えなかったのに」

「最初は誰しもそんなものだ。そのうちグレシーも倒せるようになるだろう」


 それにゴブリンごときに苦戦は有り得ん。私を倒したくば祖父でも連れてくるんだな。




 いや、やっぱ連れてこんでいい。祖父の説教、クッソ長いねん。大事にしていた盆栽を倒してしまった時には怒髪天の如くキレられたからな。説教途中で寝てしまったら丸1日飯を抜きにされたのだ。あの時の絶望感は二度と味わいたくない。



「キャァァァ!」


 悲鳴だと!?


「だ、誰かが襲われてるんだ、早く助けなきゃ!」

「落ち着けグレシー、お前が駆け付けたところで犠牲者が増えるだけだ」

「でも!」

「ほれ、しっかり掴まっとれ」


 グレシーを拾い上げると、悲鳴が聴こえた方向へと飛んだ。原因となった現場はさほど遠くはなく、1分足らずで人間サイズの巨大ナメクジににじり寄られている三人組パーティに出会った。しかもナメクジは5体。三人組も粘液に足を取られているようで、その場から逃げるのは難しそうだ。


「おいお前たち、無事か?」

「た、助かった、他のパーティが来てくれた」


 安堵した様子の男子生徒――というかコイツら、3Dの三人組じゃないか? よもやこんな浅い場所で苦戦しよるとは。


「すまないが援護してくれ! ゴリスキーの物理攻撃が効かない上にシェスタも気絶してしまったんだ。まともに戦えるのはボクだけで!」


 ナメクジの表面を覆っている粘液。アレが物理ダメージを軽減させているのだ。となればゴリスキーには不向きな魔物か。


「私が相手だナメクジ共め、フャイヤーボール!」



 ボボン!



「ギギギギ……」


「む? フャイヤーボールが効かない?」


 まさかと思い、ナメクジにEスキャンを掛けてみた。すると……



 名前:ジャイアントスラッグ

 特徴:Eランクのナメクジ型魔物。粘液で相手を足止めし、その隙に覆い被さって丸呑みにしてくる。また身体表面に付着している粘液は打撃ダメージを無力化する。

 バフ:炎属性を無力化。


「まさかこのような場所にEランクの魔物が出るとはな。後で担任を問い詰めねば」


 担任は言っていた。レッドラインを越えなければEランク以上の魔物は出現しないと。ならばコヤツら、どこから沸いて出たというのか。


「ああ! こんなところに育毛剤の瓶が!」


 グレシーが気付いた薬瓶は落下の衝撃で割れており、中身すべてが地面に注がれた後だった。

 ジャイアントスラッグの側に育毛剤? まさか薬を吸収して成長したのではあるまいな?


「ギギギギ」


 おっと、戦闘中に余計な詮索はNGだな。まずはコヤツらを片付けて――


「気を付けろメグミくん、その動きは粘液を出す前兆だ!」



 ビシュシュシュ!



 ライアルの言った通り、ナメクジが粘液を飛ばしてきた。フャイヤーボールを放った私にターゲットを変えたらしい。


「甘いわ、ウィンドスマッシュ!」


 強烈な突風で粘液を弾き返した。が、ナメクジにかかったところで意味はなったようだ。


「どうするのメグちゃん、炎は通用しないよ?」

「なぁに、私が使えるのは炎だけではない。燃やせないのなら凍らせるまで――アイシクルスピアー!」



 グザザザザザザザ!



 氷の矢がナメクジを貫き、傷口を中心に凍りついていく。そして間もなく、氷の彫像となったナメクジは日の光に照らされ、跡形もなく溶けていった。


「フン、他愛もない。ナメクジごときが育毛剤の力を借りて思い上がったものだ」


 通常ならば炎属性でも効いていたはずだがな。育毛剤の成分がバフ効果をもたらしたのだろう。恐らくは頭髪が焼け落ちた悲しみを娘に与えてはいけないという親心から来たと推測するが。(←悲しいなぁ)



「ん、んん……」

「あ、シェスタの意識が戻ったみたいだ。どうだ、苦しくないか?」

「……ライアル? それにゴリスキーも。――あ、そういえば魔物は!? ナメクジはどこに!」

「心配はいらんぞぃ。あのナメクジならメグミが一掃してしまったからな」

「そ、そう……なんだ……」


 シェスタの魔力反応が薄いが、見たところケガはなさそうだ。気絶したのは魔力枯渇によるものか。


「ありがとうメグミさん。もう少しでシェスタを死なせてしまうところだった」

「私からも礼を言わせて。助けてくれてありがとうメグミ。まさかあんなに強い魔物がこの辺りにいるとは思わなくて……」

「まったくもって同意じゃい。レッドラインは越えておらんはずだがのぅ」


 これ多分育毛剤のせい――とは言えんな。言ったら私とグレシーが退学させられるかも知れんし。うむ、この真実は墓まで持っていくとしよう。


「ところでメグミさん、クラス委員に興味はないかい? クラス委員はクラスのまとめ役だからね。キミのような強い生徒が中心に立つのが相応しいと思うんだ」

「おいおい待て待て。クラス委員はお主ら三人組だろう」

「確かにそう。だけど任意で他生徒に譲渡できるのよ。私としてもメグミのような強者に任せたいと思うのだけど」


 面倒な流れになってきた。クラス委員なんぞ時間をもて余している暇人に任せておけばよいのだ(←お前それ目の前の3人に言えんの?)。わざわざこちらから足を踏み入れる必要はない。


「せっかくの誘いだが――」

「いきなりは難しいと思いますよ? クラスメイトが選んだのは貴方たち3人なのですから。なのでここは1つ、委員長と副委員長はそのままに、メグちゃんと私が新たに加わるのが自然かと」

「なるほど、それは良い提案だ。ではよろしく頼むよ2人とも」

「学園に戻ったらさっそく書き足さなきゃね」

「おぅ、人数が多い方が楽しいだろうしな!」


 おいぃぃぃ! 勝手に話が進んでるんですけどぉぉぉ!?


「今日から更に楽しくなるね、メグちゃん!」


 グレシーめ、コヤツ実は悪魔なのではないか? むしろ悪魔だった方が納得がいくぞ!?



★★★★★



「みんな揃ったな~? それじゃあ各自カードを提出するように~」


 マキシマムの言うカードとは身分証の事だ。魔物を倒すと自動的に履歴として残るらしい。

 私のカードは冒険者ギルドで入手したギルドカードだが、多くの貴族はロイヤルカードという貴族用のカードが発行されるのだとか。

 何人かのクラスメイトが私のカードに気付いて視線を向けてきたがな。そんなものを気にする方が大きな間違いなのだ。

 それに貴族でありながら冒険者をやっているというのがカッコいいだろう?(←そっすね(棒)) 

 表の顔は貴族のお嬢様。裏の顔は冒険者。しかし真の正体は魔王ルシフェル! ここから始まるのは世界を裏で操る魔王による――(←長くなるからカット)


「よ~ぅし、それじゃあ結果を発表するぞ~!」



 デロデロデロデロデロデロデロデロデロデロデロデロデロデロデロデロ――



「デデン!」

「担任よ、口で言ってて虚しくないか?」

「いや、メグミくん、そこは空気を読んでだなぁ。まぁいい。第一位は108体の魔物を倒したメグミくんに決定だぁ!」


 グレシーと3Dの3人以外が、理解できずに目を白黒とさせている。それはそうだ、中等部の生徒だけで100体越え――しかも1人でともなると、もはやベテランの冒険者かそれ以上だろう。


「では約束通りメグミくんには褒美を――」

「ちょいっと待ったーーーっ!」


 担任に待ったを掛けた者が1人。


「その判定はおかしいで、なんか卑怯な手でも使ったんちゃいます~? いくら運が良かったっちゅうてもや、Sクラスでもない生徒がこんだけ突出してるなんてあらへんやん。こないなもん、断固抗議させてもらいまっせ~!」


 獣人の男子生徒だった。

 ふぅやれやれ、昼前なのに素直に終わりそうにないなぁ。


キャラクター紹介


ライアル

:15歳の獣人で銀髪のイケメン男子。獣人の本能では物理的な力を求める傾向が強いのだが、ライアル本人は魔法に興味を持ち、それを活用するため学園に入った。

 両親は一般人ながらも冒険者であり、いつかは両親を超えたいと思っている。


シェスタ

:15歳のハーフエルフで金髪のサイドテール女子。口数の少ない大人しめな印象、だが酒が入るとマシンガントークが炸裂する。

 とある貴族家に奉公に来ている身分で、自身は貴族ではない。


ゴリスキー

:15歳のドワーフで黒髪の男子。西のレマイオス帝国よりも更に西にあるゴルモン王国の出身。

 というかね、とてもじゃないが男子には見えねぇんだって。どう見ても筋肉質のオッサンやんけ! これで15歳とか年齢詐欺もいいとこだぞ! いい加減にしろ!


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