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中二病JK,異世界転生で更に悪化する!  作者: 北のシロクマ
第4章:甦るトラウマ(表裏真)
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終わりは唐突に

 武闘会もいよいよ準決勝。朝早くから闘技場前には長蛇の列が出来上がり、入場を勝ち取った観客が小躍りしながら入っていく光景がそこにあった。

 その一方、選手として参加している我々はというと、更に早い時間から入場し、開戦するのを待っている状態だ。


「…………」

「メグミ、浮かない顔をしてますわね? フフ、わたくしに敗北するのがそんなに怖いのかしら。まぁ無理もないことですけれどね、オーーーッホッホッホッホッ!」


 違う、そうじゃない。ぶっちゃけトワとの勝敗なんぞどうでもいい。いや、よくはないが、重要ではない。

 コイツとは殺し合いをするわけではないのだ。勝敗がついたところで日常には何も影響はない。

 私が感じているのは途方もない不安。得体の知れない恐怖なのだからな。


「…………」

「メグミ、まさかとは思いますが、体調不良で全力が出せないなどと言いませんわよね? そんな土気色な顔色で大丈夫ですの?」

「……はぁ」


 思わずタメ息が出た。


「トワよ、お前は何も感じぬのか? 昨日の晩にミリーから聞かされたであろう」

「大会に参加した目的が賞金でお菓子を買いまくる――だったかしら?」

「そうだ。私としても久々にジャガ○コが恋しくなって――って、それじゃない、その後の発言だ! ミリーはこう述べたのだ」



~~~~~



「……ここからが大事な話」

「ならさっきのお菓子爆買い発言は何だったのだ……」



「……余興?」

「要らぬわ! さっさと申せ!」

「……じゃあ改めて。数年前、フェルマーという有名な考古学者がとある予言をした。内容は――」



【新たに現れる魔王が脅威を取り除き、世界を新時代へと導くだろう】



「――とか何とか。当時はそこそこ話題になったけれど、それもだいぶ鎮火してきた。何故なら、いまだ世界の中心はアイリーンだから。でもメグミやトワの戦いを見て分かった。2人には無限の可能性が秘めていると思う」


 無限の可能性……なぁ。どこか詐欺師っぽい言い回しだが、ミリーに他意はないのだろう。そして無限の可能性というのは間違いない。私はまだまだ本気を出してはいないのだからな。(←明日から本気出す感じか?)


「……今の世界はとっても不安定。だからミリーたちは期待する。メグミとトワが新時代を作ると。でもまずは、必ず邪魔になると思われる魔王を撃破すること。これが大事」


 真っ先に浮かんだのは魔王ベルフェーヌだ。しばらく見ていないが、新たな力を身につけて来るに違いない。

 一方のトワも神妙な面持ちで何やら考え込んでいる。思い当たる節でもあるのだろうか。

 そんな我々を見たミリーが無表情のまま告げてくる。


「……そんな深刻に考えなくてもいい」

「そうは言っても命の奪い合いになる可能性が高かろう?」

「……大丈夫。メグミとトワが倒されても、アイラはミリーたちが護る。だからキミたち……」




「……いつでも逝ってオッケー」

「「全然大丈夫じゃない!(ですわ!)」」



~~~~~



「――ってな感じに話しておったのだ」

「…………」


 ここまで言うと思い出したのだろう、トワの表情が暗く沈んでいくのが分かる。


「だ、だから……」

「ん?」

「だから忘れようと思ってましたのに~! ミリーの発言が脳裏に焼き付いたお陰で昨夜はなかなか寝付けなかったのですわ! どうして思い出させるよう仕向けたのですか、このオチビが!」

「ぬおっ!? い、いきなり暴れるでない。それにオチビは余計だ! 身長差なんぞ大差はないであろうが!」

「とにかく、わたくしの方が優れているのですから、メグミはおとなしく敗退すればよいのですわ」

「誰が敗退するか!」


 まったく、能天気な奴め。心配して損したではないか。


「あの~、そろそろ試合が始まりますよ? お二人ともどうか落ち着いてください」


 ウワベの仲裁で罵り合いは中断。視線をステージへと移す。


「まぁよい。どうせすぐに白黒つくのだ。キル子とゴトーの試合が終われば雌雄を決する時。そこでハッキリするだろう」

「ええ。むしろ楽しみでワクワクしますわ」


 できれば決勝で戦いたかったのだがな。まぁソレはソレだ。まずは互いの眷属によるデモンストレーションといこうではないか。


「ところでメグミ殿、ゴトー氏の姿がないようにお見受けしますが……」

「は? そんなはずは……」


 今朝一緒に会場入りしたのだ。まさか緊張のあまり腹痛を起こしたとかじゃないだろうな?

 そんな事を考えていると、1人の会場スタッフが司会者のもとへ駆け寄っていく。そして驚きの表情と共に司会者が告げた。


「え~~~、この後に予定されていた口裂キル子選手とゴトー選手の試合ですが、ゴトー選手の姿がないということで、誠に遺憾ながらも口裂キル子選手の不戦勝となります」

「「「ブ~ブ~!」」」


 観客によるブーイングがあちこちで発生する。そりゃそうだ。手に汗握る試合を楽しみにしていたのだろうからな、不満爆発は避けられまい。


「ったくゴトーめ、何を考えている……」


 本人に聞かねば分からぬと思い、ゴトーに念話を飛ばしてみることに。


『ゴトーよ、いったい何処をほっつき歩いておる? たった今、お前の不戦敗が決まったところだぞ?』

『申し訳ありません、ルシフェル様。私用により試合どころではなくなったのです』

『重要な案件か?』

『はい。ルシフェル様、どうか落ち着いて聞いてください』


 やや間を置いて、ゴトーはとんでもない事実を明かしてきた。


『つい先ほど、アルスお嬢様が誘拐されました』

『何だと!?』


 バカな、あり得ん。邸にはフロウスやレンが居るのだ。奴らの目を欺いて連れ去るなんぞ……。


『どうやら犯人め、俺の名を利用してアルス様を連れ出したようなんです。邸の使用人には俺に頼まれたと伝えたらしく』


 チッ、姑息な手を……。


『ですが心配いりません。誘拐した者の正体は分かっています。必ずや奪還して参りますので』

『誰なのだ、その相手とやらは?』

『俺の……前世に絡んだ人間です』


 どうせゴトーが戦ったことのある相手であろう。厄介なことになったな。


『分かった。アルスはお前に任せる。必ずや奪還せよ!』

『ハッ、お任せを』


 不思議だな? ゴトーなら心配いらん。そんな気にさせてくれる。

 だが一抹の不安は消えないままだ。どうにも胸騒ぎが収まらん。私が殴っても負傷しないあのゴトーだぞ? 滅多なことはないはずだが。


「メグミ、何を呆けているのです? 早くステージに向かいますわよ」

「う、うむ……」


 ダメだな。余計なことを考え過ぎだ。すくなくとも今は試合を楽しむべきだろう。

 そう心に決め、ステージへと降りていく。


「レディース、ア~ンド、ジェントルマン。今日という日はこの2人の戦いのためだけに有ったと言っても過言ではないでしょう! ではイースタンからご紹介するのは、美しいエメラルドグリーンの髪をポニーテールにした美少女、シャイターーーン!」

「フフ、皆様ごきげんよう」ファサ!


「対するウェスタンよりご紹介するのは、今ではすっかり有名人になってしまった、ザルキールはスレイン子爵の娘、ルシフェ~~~ル!」

「ふむ」


 スレインの娘として紹介されるならメグミの方が良かったかもしれん。まぁどちらでもいいが。


「さぁ、両者とも用意はいいか~?」



 ゴォーーーーーーン!



「スターーーーーートゥ!」


 ふっ、それにしても……


「このような形でトワと対峙することになろうとはな」

「良いではありませんか。あちらの世界で顔を合わせたところで何も変わらなかったでしょうし」


 それはそう。


「キル子とウワベには舞台側で結界を張らせています。観客への影響は気にしてくてよいですわよ」

「そうか。ならば――」



「――雌雄を決しようぞ!」


 小賢しいことは考えない。真っ正面から向かい、全力で殴る!


「受けてみよ、魔王の拳!」

「こちらの台詞ですわよ!」



 バチバチバチバチ――――バチィン!



 互いの拳がぶつかり合い、四方八方へと飛び散る魔力。反動で私とトワも後方に押され、一時のにらみ合いとなる。


「さすがだなトワ、ベルフェーヌなら尻尾を巻いて逃げているだろう」

「そのベルフェーヌとやらは存じませんが、どこぞの馬の骨と一緒にされるのは不愉快でしてよ」

「フッ、それはすまなかった。ならば更なる力を見せようぞ!」

「ええ、存分に!」


 再び始まる肉弾戦。我々の年齢層が決して繰り出さぬであろう轟音を響かせ、拳と蹴りがぶつかっていく。

 しかしどちらも倒れない。やがて肉弾戦ではケリが着かぬと思い始め、トワの顔を見る。


「フフ、肉弾戦では埒が明きませんわね」

「そのようだな」


 やはり考えることは同じようで、私もトワに同意する。


「少々焦げても文句は言うなよ――ファイヤーストーーーム!」

「凍えてもしりませんわよ――アイスストーーーム!」


 言わずと知れた範囲魔法だ。ステージの端に現れた火柱と氷柱が中央へ迫っていく。


「ヒィィィ!?」


 堪らずレフェリーが逃げ出した直後、ステージ中央で炎と氷がせめぎ合う。


「ご存知かしら? 炎属性に対して氷属性は有効でしてよ。これはつまり、わたくしがメグミより優れているという証明ではありませんか」

「フン。属性の優劣なんぞ、我ら魔王には(ちり)ほども影響せぬ」


 その証拠に炎と氷は一進一退を繰り返している。互角という何よりの証拠だ。


「フフ、では少々威力を高めるとしましょうか――アイシクルレェェェイ!」

「受けて立とう――フレイムキャノォォォン!」


 片手でファイヤーストーム、更に片手でフレイムキャノンを放つ。同様にトワも対抗し、我らの周囲を異常なまでの魔力で覆い尽くした。


「素晴らしい、素晴らしいぞトワよ、それでこそ私のライバル!」

「当然ですわ。中二病で貴女を超える、それがわたくしの夢ですもの!」(←悪いこと言わないから考え直せ)


 楽しい、実に楽しい戦いだ。これほどの熱戦、他の魔王では実現せぬだろう。

 このまま決するのは惜しい、もっと楽しみたい、そんな思いが全身を駆けめぐる。

 ――が、これが良くなかったのかもしれない。戦闘に夢中になる余り、外部への注意が疎かになっていたのだ。それはトワも同じだったようで、上空から迫る巨大エネルギーに気付くのが大幅に遅れてしまった。



 ズウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!



「なっ!? このエネルギー反応は――」

「しまった! 間に合いませ――」



 チュドォォォォォォン!



 油断した。何らかの魔法が私とトワを飲み込んだのだ。悔しげに唇を噛み、放った相手を追跡する。

 すると遥か上空でこちらを見下ろす若い女を捉えた。そしてこの人物を見た途端、内心で舌打ちする。

 前にゴトーから忠告されていたのだ。恐ろしく強い傭兵団の団長がいると。それはベルフェーヌよりも強い可能性があることを。

 赤いフードを被った女、コイツが――


「そうか、貴様がレッドフード……か……」


 不本意にもそのまま意識を手離してしまった。


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