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中二病JK,異世界転生で更に悪化する!  作者: 北のシロクマ
第4章:甦るトラウマ(表裏真)
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脱走兵

「む……、ステージから不穏な視線を感じたのだが。キル子よ、シャイターンは何を企んでおる?」

「はぁ? 知らねぇよそんなん。おおかた金にでも困ってんだろ。トワの奴ぁ金銭感覚がかな~りアレだからよぉ、気に入った服を買ったせいで野宿する羽目になったのは記憶に新しいぜ」


 そりゃお嬢様だからな。チャットでやり取りしていた時も、コイツ金遣い荒いなぁと感じていたくらいだし。


「でも優勝すりゃしばらくは持つだろ。何せ賞金は白金貨100枚、金貨にして1万枚だもんな。でもって俺も服を新調するぜ」


 キル子よ、この世界に特攻服は売っとらんと思うぞ、いやガチで。



★★★★★



 さ、そんなこんなで俺の出番だ。前回のウワベは早々に降参しやがったからなぁ。お陰でフラストレーションが溜まりまくりよ。


「それでは準々決勝2回戦を始めます! イースタンよりご紹介するのは~、白い上下に白いマスクが異様に目立つ、口避キル子(くちさききるこ)選手ーーーっ!」

「るせぇ! 俺にとっちゃこれが正装なんだ、くだらねぇこと言ってっと八つ裂きにすんぞ!?」

「いえいえ、白は清楚で美しいという意味ですよ~?」

「そ、そうかよ……」ポッ


 よ~し決めたぞ、優勝したら白いリボンとか白いヘアバンドをオーダーメイドしてやらぁ!(←おぅ、頑張れ)


「そしてそして~、対するウェスタンからのご紹介は~、美しくも(たくま)しい美ボディの持ち主~、マリアンヌ選手だぁぁぁ!」


 シュシュシュシュ――フッ――シャッ――シャシャシャ――



――シャキン!


「かかって来な、鍛えた身体は伊達じゃないよ」


 あんだコイツぁ? シャドーボクシングを見せつけやがって。


「そこまで言うからにゃ覚悟はできてんだろうなぁ、ぁあ!?」

「これでも戦闘員として前線に置かれてたからね。つっても白兵戦は初めてだけどな」

「初めてだぁ?」


 ふざけやがって。こんな三下をまともに相手にしちゃ口避け女の名が(すた)る。


「さぁ、両者とも用意はいいか~?」



 ゴォーーーーーーン!



「試合開始だーーーーーーっ!」



 クィックィ



「あ!?」

「フッ……」


 んのヤロウ、マジでかかって来いだと?


「上等だゴルァ!」


 こんな三下、片手で充分だ。

 敢えて利き腕を封印し、マリアンヌに殴りかかってやった。



 ガキィ! ――ギギギギギ……



「……なにぃ?」


 両腕のクロスガードでキッチリ防ぎやがった。利き腕じゃないとは言え、腕をへし折る勢いで殴ったはずだが?


「白兵戦用のアームプロテクトだ。相手と自分とで衝突した際に飛び散った魔力(マナ)を瞬時に吸収し、強固なシールドを張るんだとさ」

「チッ! マジックアイテムかよ」

「そいじゃあこっちの番だな――そらそらそらそらぁ!」



 ドゴゴゴゴゴゴッ!



 このアームプロテクトとかいう装備のせいか、なかなか重いパンチを繰り出してきやがる。

 トワの眷属として呼ばれた俺は、魔王シャイターンの恩恵を受けて劇的に強化されてんだ。そんな俺を……


「……へぇ、それなりにゃ楽しませてくれんじゃねぇか」

「タフな女だなぁ。アタイの連打を受けて平然としてるなんてさ。それとも反撃できずに堪えてるってとこか?」

「ハッ、心配いらねぇよ。()()()()()()だかんなぁ」

「そろそろだと?」



 ジジ……ジジジジ……



「ん? な、なんだ? アームプロテクトが勝手に――ぐはぁ!」


 奴が繰り出していた拳の何発かが自分の顔面に返っていく。


「いっっってぇぇぇぇぇぇ! まさかアタイの拳を弾いたってのか!? つ~か司令官クラスが身につけてる装備品だぞ? いったいどうやって――」

「いや、強力だったからこそ意図的に魔力を放出したんだよ」


 カラクリはこうだ。奴の装備品は僅かな魔力をも吸い寄せる効果がある。それを逆手に取り、吸収し切れない魔力を供給してやったのさ。

 許容量を越えりゃ制御もおぼつかねぇ。


「さぁて、テメェの手品も見た事だしよ、ここらで終いにしとこうぜ」

「――っておい、勝手に終わらすな!」

「い~や、これで終わりだ」


 マリアンヌの実力は知れたからな。ま、そこそこ強い冒険者ってとこじゃね?

 つ~事で……


「病院でネンネしてなぁ、特攻の鉄パイプ(きりこみたいちょう)ーーーっ!」



 ボグッ!



「グヘェ!?」

「フン。言っただろ? これで終わりだってな」

「よ、横っ腹を……殴んな……よ」



 ドサッ!



「マ、マリアンヌ選手、戦闘不能ーーーっ! よって勝者は口避キル子戦闘だーーーーーーっ!」

「「「うおおおおっ!」」」


 試合は終わりだ。俺は今にも吐きそうになっているマリアンヌに肩を貸し、ステージから立ち去る。


「辛そうだなぁ?」

「ア、アンタがガードを無視して殴ってきたんだろうが! ……くぅぅ、今朝食ったステーキを吐きそうだぜ……」

「朝っぱらからヘビィなもん食うなよ」


 一応医務室に行こうかとも思ったがマリアンヌが拒否。ならばとトワたちが待つ観客席へと戻ってきた。


「ナイスな試合でしたわキル子。それでこそわたくしの眷属、お~よしよし、ですわ」

「頭を撫でんな恥ずかしい!」

「はぁ? わたくしの褒美が受け取れないとでも言うんですの!?」

「だぁぁぁ! 周りが見てんだろうが! つ~かやめろぉぉぉぉぉぉ!」


 油断すると直ぐこれだ。頭撫でりゃ誰でも喜ぶと思ってやがる。どうせ褒めるなら新しい装備の1つでも寄越せってんだ!


「まったく、トワは相変わらずだな。してマリアンヌよ、お主が所属していた軍についての詳細が知りたいのだが?」

「ん?」



★★★★★



 本当はこちらから聞きに行こうと思ったのだがな。マリアンヌの方から来てくれたので、周囲に音が漏れないよう細工し、話を聞いてみた。

 そして驚くべき事実が判明する。


「「「脱走兵?」」」

「そ。絶え間なく続いてる戦争に嫌気が差したっつ~かね、犬死にしたくねぇ一心で逃げてきたのさ。このアームプロテクトもそん時にパクってきたんだよ。()()()()()()で暮らすなら必須になるだろうと思ってさ」


 会話の中にあった()()()()()()とは、惑星イグリーシアを指す。マリアンヌは宇宙からやって来たわけであり、その宇宙にあるのが……


「アイリーン宇宙軍……か」


 無意識に呟いてしまったが、マリアンヌが所属していたのはアイリーン宇宙軍。アイラの兄にあたるラヴィエルという男が全権を握っている。


「ンク……ンク……プハァ! 運動の後の一杯は格別だよなぁ! これが酒なら言うことねぇんだが」

「酔われては会話が出来ないではありませんか」

「俺は持ってるぜ? 何なら一杯やるか?」

「お、気が利くじゃねぇか! なら――」

「お止めなさいキル子! そのワンカップを仕舞わないと、今この場で蒸発させますわよ?」

「じょ、冗談だって、そんな怒るなよ……」

「マリアンヌ、貴女も!」

「わ、悪かったって、今は我慢してやんよ……。んで、話の続きだがよ」


 予想通り、アイリーン宇宙軍が戦っている相手はアイリーン地上軍だった。マリアンヌも輸送機に搭乗して補給等を行っていたらしいが……


「いつものように輸送機に乗ってチンタラやってたらよ、地上のどっからか音波攻撃を受けちまってな、やむ無くアタイの部隊は地上へ不時着。さてどうしようかって時に思い付いたのさ、今なら逃げれるんじゃね? ってな。そんなら思い立ったが吉日だ。各方面との連絡に気を取られてる指揮官をボコしてよ、装備やら物資やらを持てるだけ持って逃走してやったのさ」


 中々にして大胆なことをする。失敗すれば命はなかっただろうに。


「事前に把握していた情報を頼りに、アレクシス王国とプラーガ帝国を避けてミリオネック商業連合国へと入った。そこで物資を売って金を手に入れ、冒険者紛いなことをやってるうちにペルニクス王国に来ましたよってな」

「だが何ゆえ武闘会への参加を?」

「……金が無くなりそうなんだよ。調子に乗って博打でスッちまったのが痛いぜ」

「ギャンブルをする余裕はあるのだな」

「いんや? 有り金の殆どを溶かしちまったし、今日から野宿だぜ?」


 無茶苦茶だな、この脱走兵は。


「しかし女1人で野宿は危険だろう?」

「そうかぁ? この国がどんだけの治安か知らねぇけどさ、アレクシス王国やプラーガ帝国よりかはマシだと思ってるぜ」

「む? その2国はそれほど危険なのか?」

「ああ、なるほど。知らねぇみてぇだから教えといてやる。アレクシス王国はアイリーン地上軍と、プラーガ帝国はアイリーン宇宙軍と同盟を組んでんのさ」

「なんと!」


 これは初耳だ。トワを見ると、肩を竦めて首を振っている。コイツも知らなかったようだ。


「そのせいでアレクシス王国とプラーガ帝国は、グロスエレム砂漠を舞台に押して押されての戦争中。地上軍と宇宙軍の双方に中立姿勢のミリオネックが一番安全かもな」


 そのミリオネックもキナ臭いのだがな。

 しかし大国がその体たらくでは、この世界に安全な場所など無いのかもしれん。


「しっかしよぉ、この国の連中はどうなってんだ」

「どうした、藪から棒に?」

「アタイやキル子以外の殆どが未成年じゃねぇか。これがベスト8とか天変地異だろ。それとも何か? こっちの世界じゃこれが普通だってのか?」


 下で戦っているゴトーと銀髪幼女を眺めつつ、呆れたようにぼやくマリアンヌ。昨日の戦闘メイドは成人だったと思うが……いや、それでも若いのは確かか。

 しかしだ、私とトワはここに居る。即ちこれは、我々のような存在をイグリーシアが呼び寄せたに他ならない。


「マリアンヌよ、お前の言う通り普通ではないのかもしれん。だからそこ面白いのではないか」

「へぇ?」

「そもそもだ、私やトワは最強の魔王と言っても差し支えないと思っている。そんな我々が優勝争いを行うのは必然というもの。まぁアレだ、他の連中はドンマイってやつだ」

「お、おぅ……」


 しかしアイリーン地上軍に続いてアイリーン宇宙軍か。街の要塞化は避けて通れんかもな。


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