ベスト8
武闘会もいよいよ大詰め。あれから数日かけて上位8人が決まり、ステージ上で整列して客席からの注目を集めている。
その客席の一角に張られている金ピカな天幕。そこには王族が集まっており、前に出た国王が何らかのマジックアイテムを使って声を轟かせていた。
「――で、あるからして、ワ~クニで催されている由緒正しき武闘会の場に来られた諸君らは、実に幸運であると言わざるを得ないだろう。そもそもワ~クニは――」
……ったく長い演説だ。学生だった頃の校長の長話を思い出す。隣に立つトワを見ると、ウトウトしつつも絶妙なバランスで踏み留まっていた。分かるぞ? あのクソどうでもいい話が子守唄になるのよな。
しかしベスト8の面子を見ると、どうでもいいとは言ってられない。
「おい、トワ」
「ヒッ!? ……ね、寝てませんわよ? 少し寝息を立てていただけですからね!」(←寝てるじゃねぇか!)
「そんなことはよい。それよりどうだ、残った顔触れだが……」
トワの左に続く選手たちを改めて観察していく。いや、正確には隣の隣からだ。トワの隣はキル子だからな。ちなみに私の右隣にいるのはゴトーだ。
「ユニークな顔触れですわね。筋肉質な長身女にメイド姿の女、銀髪の幼女に白装束のくノ一。さながらハロウィンパーティと言ったところかしら?」
そう、とても武闘会の参加者には見えない顔触れだろう。しかもゴトー以外が全員女というのも奇妙な点だ。
なに、トワの眷属のウワベが居ただろうって? 奴ならベスト8の直前でキル子にボコられて敗退した。今頃プブで酒を浴びてるに違いない。
「――となり、天運がワ~クニに有るのは揺るぎない事実なのである。さぁ者共、頂点を目指すがいい。そして己がここにあると、悪しきレマイオス帝国に見せつけてやるのだ!」
「「「おおおっ! キ~ル・ユー・レマイオス! キ~ル・ユー・レマイオス! キ~ル・ユー・レマイオス!」」」
観客による打倒レマイオスコールが会場に響き渡る。ペルニクス王国はルバート王国とレクサンド共和国に続いて他幾つかの小国を併合した結果、ついにレマイオス帝国に対抗しうる勢力へと成り上がったのだ。
これまでレマイオス帝国との戦は避けてきたが、いよいよ本腰を入れようと国王はかなり躍起だ。ま、そうなれば堂々と攻め滅ぼしてやるがな。
「前座は終わりましたわね。さぁメグミさん、この後はわたくしの出番でしてよ? ステージの外でおとなしくしていて下さいな」
「言われんでもわ~っとるわぃ!」
ゴトーたちと一緒にその場を離れると、ステージにはトワとメイド服の女が残された。
「お待たせしました皆々様、いよいよ準々決勝第一試合を始めたいと思います! 例年にない飛躍を見せている我がペルニクス王国に釣られたのか、奇しくもベスト8は黒一点のゴトー選手を除いて女性揃い。例年にはないドラマが待ち受けている、そんな気にさせられます。さぁそれでは幕切りを行う2人をご紹介しましょう!」
一旦言葉を区切って東側に手を向ける司会者。そこに居るのは……
「イースタンよりご紹介するのは、エメラルドグリーンの美しい髪をポニーテールにした美少女、魔王シャイターン選手!」
「フフ。魔王の舞いをお見せしますわ」
続いて西側に手を向ける司会者。そこには例のメイド女が……
「対するウエスタンよりご紹介するのは、ツヤのある黒髪をストレートに伸ばした美人メイド、UR0089選手だぁぁぁ!」
「…………」
メイド女(←以降UR)は無表情で対峙している。トワの魔力を感じ取り恐怖しているのか?
どのみちトワの敗北はない。そう高を括りぼんやりと眺めていると、ドギツいドラの音で目を覚醒させられた。
ゴォーーーーーーン!
「試合開し――」
シュン!
開始宣言と同時にURが動く、常人とは思えない速度だ。誰もが気付かない中、トワの頭上から踵落としが!
バシン!
――届くことはなく、バリアーで弾いてURを元の位置へと戻した。
「さぁ、試合は始まったが、両者のにらみ合いが続いている~~~!」
そう、レフェリーや観客には見えていないのだ、今しがた行われた交差が。それだけの実力を私やトワは持っているだ。無論、URもな。
それにしてもUR――
★★★★★
――いったい何者ですの? わたくしトワことシャイターンは、内心で呟きつつ無表情で佇むURを見据え、戦略の一手となるスキルを発動しました。
「Eスキャン」ボソ……
このスキルは目で捉えたものなら何でも看破してしまうという大変便利なスキルなのですわ。
さぁ、わたくしの前に全てを明かしてしまいなさいな。
名前:UR0089
人種:ゴーレム
性別:女性
職種:失業したメイド
備考:イグリーシア以外の地で採取された素材が使われているゴーレム。かつて宇宙からの侵略者に対抗するため造られたが、起動した時には戦火は鎮火していた。役目を失ったがために封印された。その後とある少年の手で封印が解かれ、以後に世界を転々とした後にルバート王国の貴族に拾われる。――が、ペルニクス王国との戦争に敗れたために没落し、野に下ってしまう。さてどうするかというところで冒険者として過ごすことを思いつくも、力加減を誤り冒険者ギルドの設備を破壊してしまい、それを弁償するために今大会へと参加した。
ザッ――
――バキバキバキン――ギギギギギ!
「ちょっと貴女、まだ備考を見ている最中でしたのに、途中で斬りかかってくるのは反則ではなくて?」
「その割には全てを余裕で防がれているみたいですが? 現にこうして見えないシールドがわたくしの短剣を押し戻している。魔王という肩書きに偽りなしと言ったところでしょうか」
「その通り。道中では幾つもの盗賊団を壊滅させ、犯罪者ギリギリの傭兵団をも蹴散らして来ました。そうそう、ミリオネックという国では国家そのものが敵となり、無礼にもわたくしたちを捕えようと画策してきましたわね。報復として首都の一部を消滅させてやりましたが」
「……賞金首?」
「違います! 多分賞金は懸けられているでしょうが、断じて犯罪者ではありませんからね! 先に手を出してきたのは向こうなのですから!」
何でもラヴィエルだかラヴィリンスだかに売るつもりだったとか、刺客として送り込まれた者を尋問して判明しましたの。
まったく、下手に力を持つというのも考えものですわね。
「ですがそんな貴女も只者ではありませんわね? スキルで見たところ、やむを得ない事情があるのだと知りました。」
「……鑑定スキル?」
「似たようなものですわ。ですが手加減はしませんわよ? わたくしはこの大会を通じてメグミさんを倒さねばならないのです。格下である貴女相手に苦戦している暇は御座いませんの。OK?」
「…………」
「……フッ」
「!?」
不適な笑みを浮かべるUR。格下呼ばわりで気分を害したかと思ったのですが、逆に火を付けてしまったのでしょう。
「了解しました。格下と思われたなら、まずはそれを訂正させてもらいます」
ジャキ!
「え……銃口?」
「メイドたるもの、時には無数の敵を相手にする場合もあると心得ております。ゴーファイヤー!」
ズダダダダダダダダダダダダダダダ!
両方の腕から機銃が出現し、バリアーを破壊せんと撃ち込まれます。
1つ1つのダメージは小さい。しかし、数を出されると……
パリィィィン!
「――ひぐぅぅぅ!」
耐久がなくなりバリアーは消滅、銃弾の雨が浴びせられます。しかも至近距離から。
こんなものを撃ち込まれては……
「ふざけんなですわ! 新調した服がボロボロじゃありませんか! ――フン!」
バチン!
「クッ……」
怒りに任せたビンタでURを大きく弾きます。ダメージはないのかと? あれしきの銃弾、わたくしにとっては霰のようなものでしてよ。
ええ、つまりは痛いのです、物凄く!
「まったく、どうしてくれるんですの? せっかくのお洋服が血塗れですわ。それにアザになったら人前には出れませんことよ!?」
「…………」
「ちょっと、何とか言ったらどうなんですの!?」
「……あれだけの銃弾を浴びて平然としている。とても人間とは思えない」
なるほど。魔王という肩書きは取って付けたと思っていると。
「そもそもソレが間違いなのですわ。何故ならわたくしはシャイターン、唯一無二の魔王なのですから」
「……中二病?」
「だから違いますってば!(←違わねぇよ) どうして貴女は一言多いんですの!? わたくしが魔王だと言っているのですから、素直にそうですかと頷けばよいのです! よろしくて!?」
「…………」
「分かりません」キリッ
「むっきぃぃぃ!」
「ですが煩いという点だけは理解しました。最大火力で鎮圧します」
シュィン!
「両手を引っ込めて何を……え、貴女その腕は!」
「これでも人造兵器ですので、腕から砲撃を行えるよう造られました」
「ガッテム! ――ですわ!」
砲撃を中断させようと手を伸ばすも、URは瞬時に後退。わたくしの手が空振った直後、URの腕に光が集まり……
「ヘルズキャノン!」
ドシュウ!
「あぐっ!?」
2つの砲弾がわたくしの下腹部へと直撃、大きく宙を舞います。
「手応えあり。これを受けて立ち上がれた者はいません。わたくしの――」
「――勝ちだと決めつけるのは早計でしてよ?」
「!?」
そう忠告し、空中にて体勢を立て直して華麗に着地。無表情だったURの顔に焦りが見え始めました。
「まさか……ダメージを受けていない? そんなはずは……」
「確かに強力なスキルでしたわ。だからこそバリアーを再発動する羽目になりましてよ? そうです、正解はバリアーによってダメージが軽減された――ですわ! オーーーッホッホッホッホッ!」
「なるほど、理解しました。ならば――」
再びヘルズキャノンを撃つため腕を構えるUR。もちろん食らうつもりはありません。だって痛いんですもの。
「――ヘルズキャノン!」
「甘いですわよ、アイシクルレイ!」
竜をも凍りつかせる極寒のレーザーですわ。それがヘルズキャノンを飲み込み、URへと……
バシュゥゥゥゥゥゥ!
「ガハッ!」
今度はURが宙を舞います。余程ダメージが大きかったのでしょう、立ち上がれずに悶えています。
「あーーーっとぉ、UR0089選手ダウーーーーーーン! カウントに入ります!」
これで決着ですわね。ですがこのUR、中々の強さを持っていますわ。このまま野放しにするのは惜しいとさえ思います。
「エ~イトゥ、ナィ~ン、テーーーン! 決まりましたぁ! 準々決勝第一試合は魔王シャイターン選手の勝利で~~~す!」
「「「おおおぅ!」」」
歓声に包まれる中、わたくしはURの近くに立ちます。
「ナイスファイトでしたわよUR。ここまで勝ち上がっただけのことは有りますわ。」
「お褒めいただきありがとう御座います。ですがこのままでは借金が……」
「フフ、それなら心配入りませんわ」
「え?」
「貴女の借金を肩代わりしましょう。その代わり、今後はわたくしに従いなさい。よろしいですわね?」
このメイドもどきの女、世界中を探しても見つかるとは思えません。ならばこそ、わたくしのような魔王の手下に相応しい。
ええ、大変良い掘り出し物ですわ。
「ではシャイターン様、今後とも宜しくお願い致します」
「フッ、よろしくてよ、オーーーッホッホッホッホッ!」
「ちなみに借金は金貨300枚です」
「――ホ?」
「貴重なマジックアイテムらしく、限られた職人でしか作れない秘蔵の一品との事でして」
な、なぜそのような貴重品が冒険者ギルドに!
というか何ですの? 金貨300枚? 冗談じゃありませんわ!
「UR、よく聞きなさい」
「はい」
「この大会が終わったら、あそこにいる魔王ルシフェルについて行きなさい」
「はい?」
「さすれば新たな道が開けるでしょう」
「はぁ……」
「じゃ、そういう事で、サラバですわ!」
シュバ!




