反転攻勢
その頃のフレッツェ
「ハハハハハ! やったぞ、大成功だ!」
3人の冒険者をダンジョンの一室に閉じ込めることに成功した。厳密に言えば脱出できるらしいのだが、ダンジョンマスター様によれば素人にはほぼ無理だろうとのこと。間もなくDPとして還元されるだろう。
「奴らに恨みは――いや、たびたび衝突を繰り返してヒヤヒヤさせられたのだったな。まったく、余計な気を使わせよって」
しかし気遣う必要はもうない。生還できたのは私1人で、あの3人は無念にもダンジョンで死亡。命からがら逃げ帰った私が冒険者ギルドに報告し、命知らずな冒険者が続々とやって来る――と。
するとこれまで以上にダンジョンは繁盛し、報酬もガッポガッポとなるわけだ。クク、止められませんなぁ。
「そうそう、報酬はしっかりお願いしますよ。言われた通り、強者の冒険者を連れてきたのですからな」
「報酬か。そんなに欲しいなら俺からもくれてやる」
「本当ですか? で、報酬はいかほど……」
「……に?」
「よぅ」
「にぃぃぃぃぃぃ!?」
俺の顔を見た瞬間、仰天して尻餅をつくフレッツェ。脱出してくるとは夢にも思わなかっただろう。
「ななな、なぜここに! ――いや、ダンジョンマスター様が簡単に脱出させるはずがない。これは幻、悪い夢なのだ」
「残念ながら夢ではないし、お前の御家復興を手助けするつもりもない。このままギルドまで連行させてもらおう」
「ヒィィィィィィ!」
最後の力を振り絞ってか、バネ仕掛けのように飛び上がると脱兎のごとく逃走を開始した。
「く、来るな来るな、バケモノめぇ! 私はただ御家を立て直したいだけだというに、何故に貴様のような輩に邪魔立てされねばならんのだ!」
「待てフレッツェ。そんなに慌てると――」
ガチン!
「ンギャァァァァァァ!? あ、足が――私の足がぁぁぁぁぁぁ!」
トラバサミに掛かったか。
「まったく世話が焼ける。外してやるからおとなしくしていろ」
「わ、分かった。抵抗はしないから早く――いや待て、それ以上近付くな!」
なんだ、従う振りをしていただけか?
「おとなしくしろと言っただろう」
「ち、違う、そうじゃない! あ、足元だ、足元を見ろ!」
足元? ああ、何かのスイッチが有るな。
「心配するな。この俺がトラップごときで負傷したりはしない」
「だから違うと言ってるだろう! 貴様が良くても私が――」
カチッ!
シュボーーーーーーッ!
「ヒギャァァァァァァ――――がぁ……ぁぁ……」
これはマズった。俺が踏んだスイッチはトラバサミに掛かった者を焼き尽くすものだったらしい。ギルドには事故として報告しておくか。
『ククククク、何食わぬ顔をして裏切った仲間を殺すか。なかなか見物だったぞ? テメェを見た時のフレッツェの顔、まるで絶望が降り注いだかのような漆黒に染まっていた。かのような顔は滅多に目にすることはないだろう』
ダンジョンに響く愉快そうな男の声。
「お前がフレッツェを唆かしたダンジョンマスターか?」
『そうとも。俺の名はジプシー。イグリーシアを導く大役職の1人――愚者とは俺のことさ』
「フールだと?」
『なんだ、知らねぇのか。これだから未成年のガキぁ嫌いなんだよ。学校で習っただろ? 才能を開花させた奴は役職を持てるようになるってよ。中でもズバ抜けて秀でた存在は大役職に――つまりは勇者になれるのさ!』
前世でも勇者を自称するオッサンが教団を立ち上げていたな。コイツも同類か?(←それと一緒にするのは流石に可哀想である)
「勇者か。いつから勇者は追い剥ぎをするような輩に成り下がったんだ?」
『追い剥ぎじゃねぇさ。キチンとした慈善事業だ。ごく一部の者をDPとして取り込み、その他大多数には宝をチラつかせて夢を見せる。ダンジョンってなぁそういうもんさ』
なんとなく分かってきた。ダンジョンと言えば宝が隠されているというのは有名で、それを求めてやって来る冒険者も少なくない。
『国によっちゃ兵士の訓練代わりにもなってるからなぁ。それに付近の魔物を狩ったりもしてるしよ、ちゃ~んと役に立ってるってわけ。だから俺ぁ勇者として崇められてんのさ。……ま、身の上話はこんくらいにしとこうや。こっからはビジネスの話だ』
「ビジネスだと? お前との取引に応じるつもりはないぞ」
『そうかぁ? 言っとくが無下にしない方がいいぜぇ? その気になりゃスタンピードの1つくらいは起こせるんだからよ』
スタンピードとは不特定多数の魔物が大行進する様を言い、それの主な原因はダンジョンから吐き出されたモンスターだと言われている。仮にも勇者を自称するなら出来なくはないのだろうし、国内が混乱する事態は避けたい。
「……話くらいは聞いてやる」
『オーケーオーケー。さっきも言ったがフレッツェが死んだ今、ここに呼び込める人材がいない。だが俺としちゃあもっとDPを増やしたい。あちこちから冒険者が集まるから何かと物入りなんでな。そ・こ・で、テメェの出番さ』
「何をさせる気だ?」
『フレッツェの代わりにテメェが誘導すんだよ。このダンジョンに宝が有りますっつってな。フレッツェが言ってたが、テメェはかなり有名な冒険者だそうじゃねぇか。だったら周りの連中も信用すんだろ。そこらの素人が口走るより有名人の言葉の方が価値が高いんだからな』
やはりそう来たか。
『言っとくが断ろうなんて思わん方がいいぜ? 何しろここはダンジョン。どんな事故が起こるか分かんねぇ。五体満足で帰りたいだろう?』
「断る。お前の指図は受けん。それに些細なトラップなんぞ俺には効かんぞ?」
『へぇ、そうかい。なら試してやるよ』
プシューーーッ!
天井から白い何かが噴き出してきた。
「この気体は……」
『デバフ効果のある噴射トラップさ。身体のあらゆる機能を低下させる効果がある。どんな大男だろうとまともに拳を振るえなくなる優れものだ。テメェは何分持つかなぁ?』
ダンジョンマスターなだけあってトラップはお手の物か。
『おとなしく従うってんなら止めてやんよ。俺としちゃ早めに降参してくれると助かるんだがなぁ』
「降参だと? あり得ないことだ」
『ま、せいぜい耐えて見せな。後で様子を見に来るからよ。じゃあな!』
――ガヅン!
声が途絶えるのと同時に壁が通路を遮断した。
「逃がさない――か? 面白い」
通路の反対側は開けている。逃がさない代わりに奥へ誘い込もうという魂胆か? ならば敢えて乗ってやるのも一興というもの。
ザッ!
進んできた通路を反転、奥へと走る。多少のデバフを受けたものの身体に異常はみられない。このままコアルームを目指すとしよう。
「あれだけあったトラップが全て解除されている。よほど歓迎されているようだ。しかし……」
俺としては些か物足りない。ダンジョンたるもの無数の魔物が徘徊し、山のようなトラップが仕掛けてあるべきではないのか?(←それって貴方の感想ですよね?)
魔物はまだいい。メグミならともかく俺では召喚できないからな。しかしトラップはどうだ? やる気なく床に突っ伏している姿のなんと情けないことか。
「そうだ、俺はまだダンジョンマスターの本気を見ていない。――ジプシーよ、俺は逃げも隠れもせん。お前の本気を見せてみろ!」
シ~~~~~~ン……
「シカトだと!?」
敢えて無視を決め込むことで相手の破滅を待つつもりか? だがそうはいかん。ジプシーには俺の挑戦を受けてもらわねばな。
しかし相手は沈黙を維持し、何らアクションは見せていない。何か方法は……
そうだ!
『ルシフェル様、少々よろしいでしょうか?』
『ダメ。いま忙しい』
『これは我が人生に関わる一大事なのです。是非ともルシフェル様のお知恵を拝借したく』
『……晩御飯に何を食べたらいいか等のくだらん質問ではなかろうな?』
『それはルシフェル様では? パスタをミートソースかナポリタンで悩んでおられたような』
『昔の話はどうでもいい。――で、何の相談だ?』
『実は今とあるダンジョンに居るんですが、相手のダンジョンが無視を決め込んでおりまして』
『ダンジョンを探索か? こちらは防衛側だというのに呑気なものだな。その相手とやらがジプシーならば話が早いのだが』
『ほぅ、流石はルシフェル様。俺が相手をしているダンマスをすでにご存知とは』
『ちょっと待て、ホントにジプシーなのか?』
『はい。少なくとも相手の男はジプシーと名乗ってましたが』
『フッ――ハハハハハハ! でかしたぞゴトー! 普段は残念な陰キャイケメンで宝の持ち腐れなおバカだと思っておったが、役に立つ時もあるのだな。見直したぞ!』
『褒められてる気がしないのですが……』
『充分褒めてるぞ? ではゴトーよ、改めて命じよう。ジプシーのダンジョンを攻略せよ!』
流れでダンジョンを攻略することになった。
キャラクター紹介
メグミ
:言わずと知れた表の主人公。元が中二病患者だったがために少々残念な魔王として人生を謳歌中。
世界征服? 気が向いたらやる。
ゴトー
:言わずと知れた裏の主人公。元が裏格闘技界のレジェンドと呼ばれた存在なために拳で道を切り開く人生を謳歌中。
ダンジョントラップ? 踏んだら壊れた。
シューベルス
:自国の王女ロザリーとレマイオス帝国の工作員フォルシオンとで色々とあったのをゴトーに助けられた貴族の青年。身分を明かした後も王都の冒険者ギルドでの勤務を継続中。
フレッツェ
:没落貴族の元当主。ダンジョンマスターのジプシーに唆され、多額の報酬と引き換えに強者をダンジョンに誘い込む役割をまっとうしようとした――が、ゴトーの不注意によりトラップで死亡。御家復興は叶わずその後の存在すら忘れられた。
ラング
:ディオスピロスという闇ギルドの一員で、相棒のグリザックを殺したゴトーに復讐するため、同じ依頼を受けた同行者のフリをして接近。しかしゴトーの隙を突くことは出来ず、ジプシーのダンジョンで返り討ちに合い死亡。
シャムシエル
:レマイオス帝国の暗殺部隊の隊員。隊員は1人しかいないため実質隊長。宰相のモロックによりゴトーの暗殺を命じられ、ラングと同様に接近した。が、予想以上に隙がなく、勝算が薄いと思いながらもジプシーのダンジョンで強行。やはり敵わず、最後の手段である自爆も回避された。
ジプシー
:大役職の一員にして愚者と呼ばれる存在。世界中にダンジョンの入口を持ち、多くの冒険者を中に招くことで利益を獲ている。唆したフレッツェがヘマをしたため、人生最大のピンチが間近に迫っているのを本人は知らない。
ゾルーア
:元ディオスピロスの首領。魔王ベルフェーヌによって組織は壊滅させられたが、本人は奇跡的に生き延びることに成功。その後は完全に足を洗い、山奥の小さな村で暮らしている。




