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中二病JK,異世界転生で更に悪化する!  作者: 北のシロクマ
第3章:ダンジョンマスター(裏)
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偽依頼

 時はメグミたちがダンジョンバトルを行う前日まで(さかのぼ)る。この日ゴトーは指名依頼の知らせを受け、王都の冒険者ギルドを訪れていた。


「あらゴトーくん、いらっしゃい。今日は魔物退治かな?」

「いや、指名依頼を受けにきた。指名者はハリスという男なんだが」

「え~と、ハリスさんハリスさん……あ、ありました。確かに今日が指定日になってますね。でもこの依頼書によると、集合場所が別の場所になってるわ」

「別の場所?」

「ほらここ。引受人が来たら伝えることになってたみたいね」


 指名しておきながら別の場所に誘導するのか。大層なご身分だな。


「ありがとう、行ってくる」

「は~い。大丈夫だと思うけど気をつけてね~」


 もしかしたら極秘裏に進めなければならない案件の可能性もあるか。

 そう思い直し、足早にギルドを立ち去ることにした。



 パタン……



「あ、あれ? ゴトーくんの声が聴こえた気がしたんだけれど……」


 ゴトーが立ち去った直後、ギルドの奥からセカセカと1人の青年が出てきた。ロザリー王女と工作員フォルシオンの入れ替わり事件でとばっちりを受けた伯爵家の息子シューベルスである。

 あれからロザリーとの仲が認められ――ることはなく、反対する国王を説得する日々を送っていたりする。しかし周りは「もうシューベルスでよくね?」という雰囲気になっており、国王が折れるのは時間の問題かもしれない。


「ゴトーくんなら依頼主に合流しに行きましたよ」

「あちゃ~、遅かったか。久しぶりに話をしたかったんだけれど。――ん? その依頼書は……」

「ゴトーくんへの指名依頼です。すっかり人気者ですよね~」


 手にした依頼書に目を通していくシューベルス。するとある事実に気付き、表情を曇らせる。


「この依頼書、去年のものじゃないか」

「ええっ!?」

「日時は今日で合ってるけれど、依頼書自体は去年に発行されたものだ。ほら、サインが去年退職したギルマスのものになってる」

「た、確かに。それじゃあゴトーくんが受けた依頼って……」

「すでに完了済みの依頼だよ。って、こうしちゃいられない!」


 マズイと思ったシューベルスが慌てて外に飛び出す。しかしゴトーの姿はどこにもなく……


「……間に合わなかったか。現地に行けばおかしいと気付くだろうけれど、こりゃ戻ってきたら小言をいわれるなぁ。はぁ……」


 タメ息をつき、肩を落とすシューベルス。だが彼は重要なことを見落としていた。事実としてゴトーに依頼したハリスという人物が存在することに。



★★★★★



 指定された場所は王都の外で、王都から北東に離れた湖の畔。現場に到着すると、オーガのようなゴツい男が木に寄りかかっており、少し離れた場所では細身で小綺麗な妙齢の女が湖を眺めていた。この2人がパーティメンバーだろう。

 その2人のうち男の方が、俺を見るなり挑発的な挨拶を寄越してきた。


「へっ、ようやく来やがったか。怖くて逃げ出したのかと思ったぜ」


 まさか中等部の男子が指名依頼を受けているとは思わなかったのだろう、こういう挑発は慣れている。


「すまなかったな。近道をしようとスラムを通り抜けて来たんだ。俺の不注意でゴロツキの足を踏んでしまったのもあるが、先に殴りかかってきたのは奴らの方だ。文句があるなら奴らに言ってくれ」(←色々と突っ込みたいが、まずはスラムを避けることを覚えようか)

「ケッ、喧嘩自慢のガキかよ。そっちの女は無口で無愛想だし、つまんねぇ連中と組まされたもんだぜ」


 静かなだけお前よりマシだという台詞をグッと飲み込む。無駄話をしている時間が惜しいからな。


「それで、召集されたのは俺たちで、その女が依頼人か?」

「いや、依頼人かと聞いたが首だけ振って否定しやがった。依頼する側が遅れるたぁ舐められたもんだぜ、ったくよぉ」


 ならば依頼者が来るのを待つのみで、俺は2人から離れた草むらで待機することに。彼らから離れた理由はただ一つ、この依頼が罠である可能性もあるからだ。

 スレイン男爵が治めるザルキールの街は長らく帝国の侵略をはね除けている状態で、その事を国が評価し始めた結果、少し前に子爵へと格上げされたのだ。つまりは妬みの対象として見られるのは確定で、俺やメグミも必然的にターゲットとされるのは間違いないと。これは世の常であり前世でも同じ。人の(さが)というやつだな。

 

「――でだ。これは独り言だが、背後からコッソリ忍び寄られてはうっかり手が出てしまいかねない」

「!?」ビクッ!

「そちらの自身の安全のため、堂々と近付いて来るのを薦める」

「…………」


 忍び寄っていた中年男が一瞬動揺した後、観念したかのように両手を上げて近寄ってきた。


「これは参った、まさかあの距離で気付かれるとは思わなかったのでね。その隙の無さを見るに、噂のゴトーさんでよろしいかな?」

「確かにゴトーだ。で、お前は何者だ? 返答しだいでは命がないものと――」

「待ちたまえ、試すような真似をして悪かったよ。キミのような歳の冒険者がギルドから斡旋されるとは思わなかったものでね。……でだ、申し遅れたが私が依頼者のハリスだ。この通り連結昌石も持っている」


 ハリスが懐から出した石の欠片。これは連結昌石(れんけつしょうせき)と呼ばれるもので、同じ原石を砕いて出来た欠片を近付けると瞬時にくっつく性質を持っている。これを利用すれば依頼者と受け側を照合できるわけだ。

 そこで俺も連結昌石を取り出し、ハリスの持つ石へと近付けると……



 カチン!



「間違いなし――っと。では出発しようか。本来であれば後2人の同行者が居たのだが、生憎と急用で来られないようで――」

「何を言っている? 残りの2人ならあそこに居るじゃないか」

「――えっ!?」


 ギョッとした顔で例の2人を交互に見るハリス。首を捻っているハリスに追い討ちをかけるように、他の2人もこちらにやって来た。


「よぉ、オッサンが依頼者か? 俺はラング、前衛は任せな。ほら、昌石も有るぜ」

「……シャムシエル。魔法による援護が得意。昌石ならここに」

「え……ええ、確かに。だが……」


 2人の昌石も見事に合致。しかしどういうわけだかハリスだけは2人の顔色を伺っており、挙動不審となっている。


「んだよオッサン、遠出なんだしさっさと行こうぜ」

「……同意。時間を無駄にすべきではない」

「は、はぁ、そう……だね」


 ラングとシャムシエルに指摘され、渋々といった感じに先頭を歩き始めるハリス。出だしから怪しい雰囲気が漂っている中、ハリスが後ろに視線を寄越しながら依頼について話し始めた。

 

「まずは依頼を受けていただき感謝するよ。此度の件は地元の民も大変頭を悩ませていてね、せっかくディオスピロスが駆逐されたというのに別の組織が現れてはねぇ」

「やはり闇ギルドか?」

「恐らくはね。国に頼んではみたものの戦後の復興は領主に丸投げ。しかも肝心の領主は不在で代官が悪戦苦闘の毎日。このままでは奴らの思うツボ。そこで打開策として挙げられたのが、エース級の冒険者を雇って奴らを壊滅させようという作戦なのですよ。幸いにして代官様にも了承していただきましたし、後は作戦を成功させるのみ――と」


 ――と言われても、作戦自体あまり現実的ではないと感じる。俺は例外として、他の冒険者に闇ギルドを駆逐する力があるだろうか?


「…………」

「あの~、ゴトーさん。何か不明な点でも?」

「いや、少々無謀な作戦ではないかとな」

「ハハッ! 何を仰いますか。ゴトーさんの噂は聞いているよ? たった1人で洗脳状態にあったロザリー様に立ち向かい、シューベルス様を助けたそうじゃないですか。しかもディアンド元帥の動きを瞬時に封じるほどの手慣れとなれば、世界を見渡しても多くは居ないでしょう?」


 なるほど、その噂を聞き付けて俺に依頼してきたわけだ。


「ケッ! おいオッサン、さっきから聞いてりゃ随分とそのガキを持ち上げるじゃねぇか。雇われたのはソイツだけじゃねぇんだぜ?」

「…………」

「あ、ああ、もちろんだよ。だがキミたち2人はギルドの推薦で上がったに過ぎない。実力を見るまでは何とも……」

「へへ、ならちょうどいい。カモが出てきたことだし、一丁見せてやらぁ!」


 二つの鉄球を鎖で繋いでるという一風変わった武器。これを手にしたラングが、前方から突進してくるブレイブガゼルに投げつけた。



 グシャ!



「ヘッ、どうよ? 俺様の力の前にあのブレイブガゼルが一撃だぜ!」

「ほぅ!」


 確かDクラスだったか? 世間では中級の魔物で、駆け出しの冒険者ではキツい相手だ。それを一撃で倒したとあって、ハリスは掌を返したように絶賛し始めた。


「いや~お見事! さすがはギルドが推薦するだけありますな!」

「おぅよ、こっから先ぜ~んぶ俺様に――」

「…………フン!」



 ササッ――ザシュザシュザシュ!



「――って、なんだぁぁぁ!?」

「ブ、ブレイブガゼルがもう1体!」


 ハリスとラングが背を向けているところに別個体のブレイブガゼルが突っ込んできた。いや、突っ込んで来たがシャムシエルが瞬殺してしまった。


「話し込むのは勝手だが警戒を怠るのは感心しない。先を急ぐぞ」

「あ、ああ、すまない。し、しかし貴女の実力も素晴らしい、うん、大変に素晴らしい! このパーティなら安心して任せられそうですよ」

「…………」

「ケッ……」


 再び持ち上げるハリス。シャムシエルはどうでもいいという風に無視を決め込み、ラングは面白くなさそうにシャムシエルの背中を睨みつける。

 何とも個性的な面子だな。連携が取れるかも怪しい。


「……っと悪ぃ、ちょいとションベンしてくるぜ」


 しばらく歩いた後に、ラングが道を逸れて草むらに入っていく。特に気にせず待っていると、透かさずハリスが駆け寄ってきて耳打ちをしてきた。


「ゴトーさん。実はゴトーさんにだけ小耳に挟んでもらいたい話が……」

「何の話だ?」

「大変申し上げ難いのだが、あの2人は――ハヒィ!?」

「…………」


 いつの間にか横にいたシャムシエルに驚き、すっとんきょうな声を出すハリス。代わりに俺が尋ねてみた。


「何か用かシャムシエル?」

「……特に何も。だが陰でコソコソされるのは良い気分ではない。謹んでもらおうか」

「だそうだハリス」

「そ、そうか。うん、そう……だな……」


 ハリスはすごすごと引き下がっていく。

 しかし何が言いたかったのかは気になるな。日を改めてこちらから聞いてみるか。


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