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魔王と魔王

「準備はいいよ、フェイちゃん」

「じゃあ皆は離れててね――フェザーストーム!」


 ジュリオの合図でフェイのスキルが発動し、詰み上がった石の塊に撃ち込まれる。これにより石と石との隙間が埋まって強度が増し、そこらの防壁とは比較にならないほど頑丈に。


「仕上げはボクたちに任せてよ!」


 トンカントンカンとリズミカルな音を響かせながら形を整えていくのはレンやバードといった獣人の少年たち。細かい作業が得意らしく、彼らにも手伝わせているんだ。


「皆さん凄いね。私ももっと貢献しないと」


 一連の流れを見たフロウスが目を輝かせる。遅ればせながら説明させてもらうと、彼女には部下共々ペルニクス王国に亡命してもらったのだ。今はラーカスター邸に身を寄せている。


「フロウス、お前も充分貢献してくれてるよ。強度の高い石材を嗅ぎわける能力を俺たちは持たない」


 石なら何でもいい――なんてことはない。脆い不純物が少ないのが理想であり、それを効率良く嗅ぎつけられるフロウスは有難い存在なのだ。


「よぉ、今日も頑張ってるじゃないか。冷えたエールとプレミアムパフェを持って来たぜ!」


 このザルキールの街で新たに酒場を始めたジョグスが甘美な知らせを届けに来た。彼の店は開店初日から大いな盛り上がりを見せ、今ではプレミアムパフェを買い付けにやって来る貴族の使者も居るほどだ。


「よっ、待ってました~! これがまた美味しいのよねぇ。作業は後にして休憩よ休憩~!」

「嬉しそうだねフェイちゃん。そんなに美味しいものなの?」

「ああそっか、フロウスは食べたことないんだっけ。そりゃもう、一度食べたら病み付きになるくらいの美味さよ。スイーツ好きなら絶対に食べるべきね。じゃないと人生の八割は損してる事になるんだから」

「そ、それほどのものが……」ゴクリ!

「それほどのものなのよ。ほら、食べてみ!」


 パクッ!


「ンン~~~! ンンフィ~~~♪」

「でしょ~~~!」


 何を言ってるか分からんが美味いらしい。


「ンフ♪ 本当に美味しいわぁ。ジョグスさんを連れてきてくれたメグミちゃんには感謝しなきゃ」

「アルスお嬢様!? 立ったまま外で食されるなど、スレイン様に知られたら……」

「そこはジュリオ、貴方が黙っていればいいだけの話よ? だからお願いね」

「い、いえ、告げ口をするつもりなど毛頭ありませんが……」


 予想通りというか、プレミアムパフェはアルスをも魅了した。というか街の女性陣の殆どを虜にしたと言っていい。さすがは転生者が伝授した食べ物といったところか。


「ンン~~~! コレよコレコレ。ザルキールに来たらコレを食べなきゃよね~!」


 そんな女性たちに混ざり、グレイシーヌもが舌鼓を打ち――




「ちょっと待て。なぜキミが居るんだ?」

「恋人が彼氏のところに遊びに来るのがそんなにおかしい? むしろ夏休みなんだから行くとこまで行っちゃうのが青春ってもんでしょ♪」

「それにしたって事前に知らせてくれてもバチは当たらないと思うが。それに行くとこまで? いったいどこへ行くつもりだ」

「も~ぅ、相変わらず鈍いんだから~。彼氏彼女の関係がより親密になることに決まってるじゃない」


 俺に言わせると、相変わらず調子を狂わせてくる存在なんだがな。


「本当ならクレセント湖で水遊びしたかったのに、ゴトーくんったら全然学園に来ないんだもん。グレシーちゃんは寂しかったんだゾ♪」

「そりゃ夏休みなんだから行かないだろ」

「でも泳ぎに来てる子は結構いるよ? マキシマム先生なんか、私たちよりもはしゃいでたし」

「なら寂しくはないんじゃ?」

「んなわけないっしょ! あんなスキンヘッドと遊んだところで私の心は満たされないの!」

「…………」


 ふぅ、やれやれ。実に面倒な――


「今、面倒臭い女だとか思ったでしょ?」

「……そんなことは……ない」

「ホントかなぁ? じゃあ今晩泊まってってもいいよね~♪」

「待て待て待て、なぜ急に泊まる話になる!? いくらなんでもスレイン男爵の許可がなければ――」

「許可ならちゃ~んと貰ったよ? 未来のお嫁さんって話したら分かってくれたし」

「…………」


 クッ、俺としたことが……。何から何まで後手に回るとは。


「そういうわけで、夏休みの最終日までお泊まりするから。ヨロシクね、ダ~リン♪」

「もう好きにしてくれ……」


 これでまたメグミにシバかれる材料が増えてしまったと。もう成り行きに任せるしかないな……。


「あ、いたいた! ね~ね~、聞いてよフロウスちゃん」


 獣人の少女がこちらに駆け寄って来た。確かライアルの故郷で保護した少女だったはず。

 少女に抱き付かれて優しく微笑むフロウスは、邸では獣人たちの姉として慕われているようだ。


「どうしたの?」

「レンくんとバードくん、もうすぐお誕生日なんだって~。何をプレゼントしたらいいかな~?」


 聞けば夏休みの最終日がレンとバードの誕生日に当たるらしい。同じ日とはこれまた奇遇だな。


「プレゼント……それなら――」

「あ~~~! フロウス姉ちゃんを独占してる奴がいる!」

「1人だけズルいぞ!」

「ゲッ、レンとバード! なんでアンタたちが来るのよ~!」


 たちまち周りには少年少女たちで溢れる事態に。ここに来てからフロウスにも笑顔が増えた気がするし、彼らには感謝しなければな。


「コ~ラ! あなたたち、フロウスを困らせちゃいけません! ――っとにもぅ……」

「マユラ、そう怒ってやるな。あれでもフロウスは嬉しいんだよ」

「それなら良いんだけど……」


 マユラはレンの姉で、最近まで闇ギルドに捕まっていた少女だ。フロウスと同じく姉的なポジションだが、レンに言わせればすぐに怒るとかで嫌ってるらしい。嫌ってると言うよりかは皆の前で怒られるのが恥ずかしいのだろうな。

 しかし誕生日か。俺やフェイはいつなんだ? やはり召喚された日が誕生日になるのだろうか? この辺りはメグミとすり合わせる必要がありそうだ。



『少々宜しいですか、ルシフェル様』

『この念話は電源が入っていないか、念話の届かない場所に居るため掛かりません』


「…………」


 やはり着拒されてるのか。ここしばらくメグミとはすれ違ってばかりでアバードやフロウスの件を報告出来ずにいるんだ。しかも念話まで通じない。これが後に影響しなければいいんだが。



★★★★★



 レマイオス帝国の帝都イスカリオン。皇帝ロンダイトが暗殺された件はいまだ秘匿とされており、庶民には広まっていない。

 しかしあれから1ヶ月は経とうとしている今、隠し通すのも限界が見えてきた。長らく姿を現さないロンダイト皇帝に、兵士たちから様々な憶測が飛び交っているのだ。

 ある者は死期が近いのではと噂し、またある者は既に死亡しているのだと吹聴している。このままではマズイ、皆の目を逸らす策が必要だ。


「た、ただいま戻りました。アバード様、フロウスの懐柔は失敗です、申し訳御座いません」


 戻るなり耳障りな報告を上げてくるラジャン。まだ若年とはいえフロウスも魔王。奴が下に付けば幾分か状況が違ってくるのだが。


「無い物ねだりをしても始まらん。ひとまずフロウスの件は保留とする」

「ありがとう御座います。やはりアバード様は寛大でいらっしゃる! そこでアバード様、折り入ってお願いが有るのですが……」


 こうしてゴマをすって来るのは今に始まったことではない。他の獣人と違い、ラジャンだけは狡猾な性格をしている。だからこそコイツには期待しているのだ。他の少年兵にはない働きをな。


「言ってみろ」

「はい! そろそろボクにも専用の武器が欲しいんです。明日はボクの誕生日ですので、その……」

「武器か」


 上に立つものは下の者への施しを忘れてならんと言い伝えられている。不満を溜め込んではいつか爆発するかもしれんからな。


「良かろう。前祝いとしてくれてやる」

「本当ですか!?」


 ラジャンの前に1本の剣を立てた。城下で目に止まったもので、他にはない魔力を放っているのが気に入ったのだ。飾るだけなら使わせてみるのも一興というもの。


「魔剣イブリスだ。生憎と私は剣を必要としないのでな(←だったら買うなよ)、代わりにお前が使いこなしてみるがいい」

「あ、ありがとう御座います! 一生大事にしますよ!」

「その代わり、より一層の働きを期待するぞ?」

「もちろんです。魔王の部下に相応しい活躍をご覧にいれますよ! ――ヒャッホーゥ、新しい剣だーーーっ!」


 フッ、調子の良い奴め。だがまんまと乗せられる私も大概か。

 

『アバード様、宜しいですか?』


 少年兵の1人から念話が届く。このスキルを使える一般人は少ないのでな、伝達係として重宝しているのだ。


『何があった?』

『申し訳ありません! アバード様の知り合いだと名乗る者が現れたのですが、こちらの制止を振り切り中へ入り込んでしまいました!』

『……何?』


 ゴルモン王国の勇者が脳裏を過る。だが早々に私の居場所を嗅ぎつけられるとは思えん。あのゴトーという少年にしてもそうだ。

 ならば誰なのかと思考を巡らせていると、1人だけ思い当たる人物が浮上する。


「勝手に失礼したよ」


 思考を遮るように扉の方から声が聴こえた――かと思えば、ラジャンの脇をすり抜け私の目の前に姿を現した女。正直コイツには良い思い出が1つもない。


「何だコイツ、いつの間に!」

「キミに用はないよ。ボクは彼と話しに来たんだ」

「な、何だと!? この――」

「よせ、お前の勝てる相手ではない」


 斬り掛かろうとしたラジャンを呼び止めた。理由は先に述べた通りで、この女も私と同じく魔王なのだ。


「血の気が多い少年だね。でも相手を見る能力が絶望的に皆無だ。ボクが彼の立場だったら、部屋の隅で縮こまっていただろう」

「求めてもいない感想などどうでも良い。それより用件があるのだろう? 魔王ベルフェーヌよ」


 素振りから見て私を倒しに来たわけではないと分かる。


「その通り。どうしても確認しておきたかったんだよ、レクサンド共和国から逃れた獣人たちの中にボクが探している者が居たのではと思ってね」

「なぜ私に聞く?」

「簡単なことだよ。キミが多くの獣人たちを保護したと聞いたからさ。その中に【地塗られし候補者】が居る可能性があってね。例えば――」



 スッ……



「――そこの獣人とか……ね」

「へッ?」


 ベルフェーヌが指したのはラジャンだった。この女、何かに気付いたか? 多少なりともラジャンには魔力を分け与えている。それを感知したのか。


「……知らんな。それにラジャンは私のお気に入りだ。妙な真似をしてくれるな」

「フフ、そんなに怒りを(にじ)ませないでほしい、テキトーに言ってみただけなんだから。それより今日は耳寄りな話を持ってきたんだよ」

「……ほぅ?」

「興味がありそうだね? なら教えてあげるよ。ペルニクス王国にあるザルキールの街には――」


 ベルフェーヌからもたらされた情報は思いがけないものであった。


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