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アバードのお気に入り

 フロウスから衝撃的な事実を告げられた。フロウス本人もそうだが、あのアバードというダークエルフも魔王なのだと。そこで場所を移して詳しく聞くことにしたのだが……


「ここがフロウスの邸。遠慮なく寛いでほしい」

「寛ぐと言われてもな……」


 案内された場所は今にも倒壊しそうなボロボロの邸だった。所々にヒビが入り、得たいの知れない植物の蔦が天井まで延びている所もある。何年もの間手入れがされてないのでは? 

 しかも山に囲まれた場所にポツンと建っている有り様だ、日本なら心霊スポットになっているだろう。


「どうぞ、フロウス様のご友人」


 青年の兵士がお茶を運んできた。爽やかな笑顔だが歓迎されてるのか? それに良く見ると獣人のようだ。フロウスの親族かもしれない。


「いや、友人というわけでは……」

「まぁそう仰らず。フロウス様は帝国内でも孤立無援の状態でして、親しい友人も居ないのです。与えられた領地もこのような辺境であり、交流も困難な有り様でして」

「随分と冷遇されてるな。何か不始末でも起こしたのか?」

「特には。強いて言えば、権力を持つ事を危惧されたのでは――と。何せ帝国にはアバードという魔王が存在します。その圧倒的な力は他者を惹き付け、他の権力者の危機感を強めるには充分だったのでしょう」


 何となく見えてきた。アバードの二の舞にならないよう飼い殺しにされてると。


「こうして側で使えている者も、自分を含めて数名。派閥と名乗るには弱小過ぎる有り様なのです」


 悲壮感漂う表情でフロウスへと視線を向ける。現状を理解してか、ひたすら俯いたままでいた。


「……フロウス様?」


「……う~みゅ、おかわりはもう要らないよ……」


「ん? フロウスは何を言っている?」

「ああ、すみません。退屈な状態が続くとこのように眠りこくってしまうのです。――フロウス様、起きて下さい、フロウス様」

「……は! 今何時何分!?」

「やはり寝ておられましたか……」


 退屈で済まされるほど余裕があるのか。その辺はメグミと同等かもしれない。魔王を気取りつつも抜けてるところがあるからな。



~~~~~



「フハハハハハ! 覚悟しろ賊共~! 汚物は焼却だ――ファイヤーストーム!」

「「「うぎゃぁぁぁ!」」」


「ハハハハ! 見ろ、奴らがゴミのよう――む? 急に鼻がムズムズと――」



「――ぶぁっくしょ~い! ったく、誰かが良からぬ噂を立てているな。やれやれ、美顔に恵まれるのも罪な事だ――」



「だぁぁぁっちぃぃぃ! 今のくしゃみで炎の勢いがぁぁぁ!」



~~~~~



「う~ん、大人しいか騒がしいかの違いだけに感じるな」

「……何の話?」

「こっちの話だ。それよりお前の目的を教えてほしい。仮にも俺が手を貸したところで状況は変わらんと思うのだが」

「その通り。私の派閥は有って無いようなもの。現状で一番断頭しているのがアバードの派閥。ムシェール元帥がペルニクス王国に捕らわれてる今、次期元帥を通り越して皇帝に相応しいのではと民の間で(ささや)かれている。第二にロンダイト皇帝の子息であるロンヴァール様の派閥だけど、彼は7歳ってことで継承に反対する者が多い。そして第三は宰相のモロックを推してる派閥。支持者は少ないながらも強かな性格から、何らかの形で次の皇帝に関わってくると見られている」


 ふむ、魔王アバードに子息のロンヴァール、そして宰相のモロックか。とてもじゃないが入り込む隙はなさそうだ。


「そもそもの疑問なんだがな、なぜ派閥争いに加わっている? お前が皇帝になったところで好転するとは思えんぞ」

「それ、配下の者たちにも言われた。民衆に支持されたところで他の権力者から引きずり下ろされるだけだろうって」


 部下の方が分かってるじゃないか。世の中には権力という壁が幾度となく立ち塞がることがある。庶民では到底壊すことの出来ない強固な壁だ。

 前世でも似たような状況に陥った事がある。裏格闘技で八百長を仕掛けてきたクソな政治家だった。もちろん断ったがな。

 すると奴は俺に向かって二度と外へ出歩けないようにしてやるとホザきやがった。その台詞をそっくり返すように物理的に出歩けない体にしてやったが。

 まぁアレだ、脅すなら相手を見ろという事だ。


「だけど救いたいの」

「ん?」

「私は虐げられている者たちを救いたい。キミも見たでしょ? アバードが連れている親衛隊を。確かにアバードは彼らを保護した。でもそれは人柱として利用するためで、言うなれば肉の盾。使い捨ての道具でしかない。けど彼らだって生きている、自由を求めるのなら手を差し伸べたい!」


 真っ直ぐに俺の顔を射抜く瞳に力が籠っているのを感じ取る。フロウスの意思は本物のようだ。


「事情は分かった。だがレマイオス帝国へは肩入れできん。出来るとすれば――」

「お話し中失礼します。フロウス様、お客様がお見えになられました」

「お、お客さん?」

「はい。例の……」

「!」


 別の客が来たのか。しかし妙だな、フロウスは帝国内で孤立していると聞いたが。

 そう首を傾げつつフロウスを見ると、眉間にシワを寄せていた。


「席を外した方がいい相手か?」

「大丈夫。むしろ居てほしい。私はアイツが苦手だから……」


 心底嫌そうな顔をしている。


「生理的に受け付けない相手か?」

「アバードの片腕。来るなと言ってるのにしつこく勧誘してくる礼儀知らず」


 物静かなフロウスにそこまで言わせる相手か。逆に興味深いな。


「礼儀知らずとは酷い評価ですね」


 丁寧ながらもナルシストっぽい声の主へと視線を移す。そこには片目に眼帯をした獣人の少年が立っていた。年齢も俺やフロウスと近い感じがする。


「許可なく勝手に上がり込む奴は礼儀知らずで間違いない。さっさと出ていって。そして二度とここには来ないで」

「まだ用件を話してませんよ。それとも魔王フロウス様は言葉すら交わしてくださらない程度の器という事でしょうか? まさかねぇ?」

「…………」


 なるほど。嫌いになるのも頷けるな。コイツの台詞はいちいち(かん)に触る。


「ラジャン、見ての通り今は今来客中」

「そこの人間がですか? 見ない顔ですが――あ、なるほど。ズバリ迷子でしょう? このような辺境なら仕方ありませんねぇ」

「…………」


 そしてフロウスはこういう手合いが苦手か。なら俺が言い返してやろう。


「誰が迷子だと?」

「おや、違うのかい? お前みたいなボウヤは道に迷ったか親に捨てられたかのどちらかだと思ったけれど。あ、そっか、捨てられたんなら言い出し難いよね、ゴメンゴメンwww」



 ゾワッ!



「クッ!?」


 ふざけた事を抜かすラジャンというクソガキに向けて最大級の殺気をぶつけてやった。途端にラジャンの顔は引きつり、一歩二歩と後ずさりをする。


「どうした、足が震えているぞ? 俺みたいなボウヤが怖いのか?」

「クッ……こ、怖くなんかないぞ! ガキのくせして調子に乗るなよ!」


 腕まくりをして殴りかかってきた。軽く挑発しただけでこれか。只のひねくれたガキだな。



 ガッ!



「いったぁ!? 何て硬い顔をしてやがるんだよぉぉぉ!」


 殴った手を押さえてオーバーに痛がるラジャン。事実痛いのだろう。俺からすれば、一般人に毛が生えた程度の強さだしな。ハッキリ言って相手にならない。


「1つ忠告しておく。アバードという虎に匿われてデカイ面をしているのだろうが、喧嘩を仕掛けるなら相手を見てからにすることだ。それでも来るというのなら……」



 ズィ!



「ヒッ!?」

「いつでもその命、刈り取ってやろう」


 顔を近付けると腰を抜かしたようだ。これではチンピラと変わらんな。


「分かったらとっとと失せろ、そして二度とここには近付くな」

「ヒィィィィィィ! す、すみませんでしたーーーっ!」


 やれやれ、騒がしい奴が居なくなったか。


「ありがとうゴトー。アバードの下に付くようにと前からしつこく迫られてたの。アバードを刺激したくないから無視することでやり過ごしてたけれど、お陰でスッキリした」

「礼には及ばない。しかしあのラジャンという少年、他の少年兵とは違って嫌味な性格をしているな」

「うん。ラジャンは自ら進んで忠誠心を見せているからアバードのお気に入りらしい。だけど他の少年兵をも見下す言動が見られるから、私は好きになれなかったの」


 少年兵全てがああいった手合いなら迷わずトドメを刺すんだがな。世の中上手くいかないもんだ。


「ところでゴトー、話の続きだけれど……」

「そうだったな。俺に出来るのは――」


 直後、俺の提案にフロウスも部下たちも目を見開いて驚く。俺としてはそれ以外に思い付かなかったんでな。その提案とは……



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