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契約の代償

「死ね――ボルトシェイバー!」



 シュッ――――ギュギュギュギュギュギュ!



アバードの掌から放たれる刃の付いた黒い球体が、大気を切り裂くように向かってくる。魔王級の魔法だ、防御だけでは切り刻まれてしまうだろう。


「避ければ街が壊れる、ここは魔力全開で――」


 魔法が使えない自分が恨めしい。が、だからこそ攻略しがいがある。そうだ、三下ばかりを相手にしては裏格闘技で名を馳せた後藤の名が廃るというもの。


「――後藤流、渾身(こんしん)の大風呂敷!」


 付けた技の名はテキトーだ。広げた両手に魔力を(まと)わせ、奴の魔法を防ぐのみ!


「フッ、バカめ。避けようとはせず受け止める気でいる輩は貴様が初めてだ。が、勇気と無謀をはき違えた者は命を散らすのみ。この教訓を冥土の土産とするがいい!」



 バギギギギギィ!



「何と! 刃が折れていくだと!?」


 奴が叫んだ通りに刃はへし折れ、球体も四散して消滅した。


「街への被害は出したくないんでな。楽しむ間もなく終わらせる事にする。受けてみろ」


 シュシュシュシュシュシュ!


「指弾か! 猪口才(ちょこざい)な……」


 両手を使った指弾の連射だ。数発被弾したアバードが地上に降りてマントを(ひるがえ)す事で一部を弾き返す。弾かれた指弾で街を破壊するわけにはいかず、やむ無く攻撃を中断。その隙を縫ってアバードが攻勢に出てきた。


「フッ、甘いな。犠牲を気にするから足元を掬われるのだ、このようにな――ウィンドカッター!」


 先ほどの魔法とは違い、全体がブレード状になった風の刃だ。アレを受けては体が裂けると俺の勘が告げている。ならば!



「フンンン!」



 パシィィィン!



「バ、バカな、ウィンドカッターを素手で止めたというのか!」


 そう、俺の両手が風の刃をガッチリと挟み込んでいるのだ。


「驚くような事じゃない(←いや驚くって!)。ただの真剣白羽取(しんけんしらはど)りだ。それともこの世界には存在しない技だったか? なら驚くのも頷ける」

「クゥ……」

「だが切れ味は中々と見た。コイツの威力はお前で試すとしよう」



 シャッ!



 風の刃をアバードに向けて放つ。奴は驚き戸惑っているため、まともに防ぐのは無理かもしれん。だとしたらソレはソレ。自分の魔法で終わりを迎えるのもサガだろう。



「アバード様――――ぎゃあ!」

「何っ!?」


 突如として獣人の少年が割り込み、アバードを押し退けて身代わりになった。なぜ? ……と思っていると、助けられた本人がクツクツと笑いだす。


「フフ、紹介しよう。私の身辺を常に警護し、いざとなればその身を犠牲にしてでも私を護る親衛隊だ」


 わらわらと現れる獣人の少年たち。いずれも俺と同年代に見える。こんな若い奴らが親衛隊だと?


「フッ、信じられないという顔をしているな? 彼らは皆、レクサンド共和国から逃げてきた者たちだ。そう、ペルニクス王国との戦争が始まり、居場所をなくした――な」


 そうか、あの戦争の余波がここまで影響しているのか。


「居場所を用意するのと引き換えに身代わりを要求しているのか」

「その通り。かの共和国は獣人には厳しい措置を施しているからな。行き場を失い、逃げ延びた先で賊の襲撃にも合い、奴隷として売られそうになっていたところを保護したのだ。無論無償ではない。身代わりとなるのは対価なのだよ」


 権力者の考えそうな事だ。


「エルフは清い思考を持っていると思ったがな。俺の思い違いのようだ」

「人間とて同じだろう? 全てのエルフが清いわけではない。特に私はダークエルフだからな。そこらのエルフよりかは幾分か賢いと自負している」


 人間と同じ……か。


「お前のような腐った輩が死んでも誰も悲しまないだろう。今この場で息の根を止めてくれる」

「フフ、できるか?」


 ザザッ!


 再び指弾を放とうとしたところで、少年たちが盾になる。


「チッ!」

「フハハハハハ! やはり若いな、戦場で情をかける者は長生きはできん」


 悔しいがその通りかもしれない。心を鬼にすべきなのだろうが、少年たちの境遇を聞かされた今、彼らもろとも――とはいかない。

 どうする? あのアバードという男、手加減して勝てる相手ではないぞ。少年たちに気を取られつつ戦うのは愚策だ。どうすれば……



 グウゥ~~~~~~ン!



「クッ――これは!」


 ま、まただ、また空間が歪んでいく! この場にククルルは居ないのになぜ!?


「な、なんだ、どうしたというのだ、急激に身体が重くなってゆくだと!?」


 アバードにも影響が? つまりコイツが起こした事ではない? ならいったい誰が……

 等と首を捻っていると、ついさっき聞いたばかりの声が辺りに響く。


「曲者め、この勇者ククルルが来たからにはお前の好きにはさせないぞ!」

「な――――ぶがぁ!?」



 ――――ドガァァァ!



 もしやと思ったがやはりククルルだった。彼女が振り抜いたハンマーがアバードの顔面を捉えて弧を描くように飛び、終いには防壁に激突した。


「待たせたね! ククルルが来たからにはもう安心だぞ!」

「「「おおおっ!」」」


 ドワーフたちから歓声が上がる。いや、事実助けられたようなものだ。彼女がいなければ手を出せなかっただろうからな。


「すまない、お陰で助かったよ」

「いいっていいって! でもこれでブン殴った分はチャラにしてよ、悪気はなかったんだし!」

「チャラにするのは構わん、だが1つだけ教えてくれ。お前は隣街に出向いたはずだ。それがなぜ僅かな時間で戻って来れたんだ?」

「ああ、これね。もちろんザ・ムーンのスキルだよ。時間の陰を移動する事で、時間経過を遅らせられるんだ!」


 さすがは異世界、何でも有りか。(←お前も他人の事は言えないからな?)


「便利だな」

「そうだろ~? ザ・ムーンの力が覚醒してから負け無しなんだからな!」


 ククルルの協力があればアバードを倒せる。ペルニクス王国にとっての脅威も減ると言っていい。


「ククルル、奴にトドメを」

「分かってるぞ!」


 アバードも起き上がったところのようだ。そこへククルルが駆け出していく。

 ――が、直後に信じられない光景を目の当たりにすることに。


「集え――生命の光!」


 アバードが叫ぶ。すると少年たちの体から光の球体が飛び出し、アバードの体へと吸収されていく。


「これは……」

「彼らの生命力を分けてもらったのだよ。そこの小娘から貰った一撃は強力だったのでな」

「へへん、ならもう一度――」

「待て!」


 追撃を行おうとしたククルルを呼び止める。

 アバードの奴は生命力を分けてもらったと言っていた。それは少年たちの命を削っているという事に他ならない。


「奴を攻撃すれば少年たちが犠牲になる!」

「だけど攻撃しなきゃ倒せないぞ? 可哀想とは思うけど、攻めてくる以上は敵だ」

「それはそうだが……」


 まいったな、こんな形で己の弱さを露呈してしまうとは……。


「クックックッ、名も知らぬ者たちに情けをかけるとは、実力は有っても年相応か」

「それならククルルが相手になるぞ! 誰が相手でも手加減しないからな!」

「それは遠慮しておこう。勇者である貴様を相手にしては身が持たん。西軍の戦果もここまでか……」



 ザッ!



「あ、逃げるのかこのヤロー!」

「ああ、逃げさせてもらおう。ついでにゴルモン王国からも手を引いてやる。有りがたく思うのだな」

「有りがたいもんか! 二度と来るな~! このアホーッ! おたんこなす~! スットコドッコイ! 遺伝ハゲーッ!」


 ククルルの罵倒を背中で受け、アバードは飛び立って行く。残された少年たちは……



 ゾロゾロ……



「お前たち、まさか奴の元に帰るつもりか?」

「……はい。ボクたちは契約を交わした身。選択する権利はないんです……」

「だからと言って――」

「お気遣い……感謝します。だけど契約は絶対。破れば神によるペナルティが待っているだけ。では……」

「…………」


 以前スレイン男爵が言っていた。正式な契約を交わすのは神に誓ったのと同義であり、破れば天罰が下るのだと。つまり契約を盾に都合よく使われているんだ。まるで奴隷のように。

 ――となれば、次にアバードとやり合う時は彼らの犠牲を覚悟せねばならないと。できれば戦いたくないものだな。


「よぉ~し、敵は追い払った! 今から祝杯だぁぁぁぁぁぁ!」

「「「おおぅ!」」」


 ククルルを筆頭にドワーフたちも引き上げて行く。


「ゴトーもどうじゃい? ご当地自慢の濁酒(ドブロク)じゃぞぃ!」

「俺はいい。代わりにお前が飲んでくれ。夏休みの終わりには迎えに来てやる」

「おお、それは助かるぞぃ!」


 ゴリスキーも嬉しそうに引き上げて行った。さて、俺も引き上げるか。帰ってメグミに報告を――


「キミ、やっぱり強いね」

()()お前か……」


 建物の陰からヒョコッと現れた獣人少女。偽メグミを討伐した後に出会した少女だ。確か名前は……


「フロウス……だったか? まさかとは思うが、ここまで尾行してきたんじゃないだろうな?」

「それは違う、アバードの様子を(うかが)っていただけ。アイツは帝国内でも強い影響力を持っている。言わば敵情視察」

「派閥争いか。皇帝が死んだとあれば当然か」

「え……」


 俺の台詞に絶句するフロウス。何かと思えば単純な事だった。


「そうか、皇帝の死に関しては箝口令(かんこうれい)を敷かれているのか」

「な、何の……こと?」

「誤魔化さなくていい。だいたいそのように目が泳いでいては隠してるうちに入らんぞ?」

「これ、目の体操。最近帝国で流行ってる。ついでに言うと、皇帝はまだまだ元気いっぱい」

「……ほぅ。で、皇帝はどこで何をしている?」

「お墓の下で眠ってる。――あ!」



「…………むぐぅ」(←吹き出しそうになるのを必死に堪えている)



「卑怯者。誘導尋問なんて最低」

「さっきのアレが誘導尋問に当たるかは(いささ)か疑問だがな。それよりフロウス、アバードを追わなくていいのか?」

「奴はもういい。その代わり――」



 ビシィ!



 何故か俺に指を突き付けるフロウス。そして堂々と宣言してきた。


「――キミを視察することにした」

「……は?」


 意味が分からん。


「理由はなんだ?」

「勇者でもない、魔王でもない、ただの人間とは思えない強さ。その源を知りたい」

「強くなりたいのか? 魔王なのに?」

「確かに私は魔王。だけどまだまだ未熟。今の私ではアバードを倒すことすら出来ない」

「魔王のくせに只の将軍を倒せないとはお笑い草じゃないか」


 そう言い放つと、あからさまに顔をしかめるフロウス。そして驚くべき事実を告げてきた。


「何を言っている? アバードは只の将軍じゃない。奴も魔王の1人」

「何っ!?」


 どうやら詳しく聞く必要がありそうだな。


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