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勇者ククルル

 レマイオス軍の進行部隊を叩いてゴリスキーの故郷へとやって来た俺は、ゴルモン王国の勇者と名高いククルルという少女と遭遇した。

 ――いや、遭遇というより出会い頭に攻撃されたというのが正しい。見た目は小柄な人間だが、それとは裏腹に怪力の持ち主のようで、ゴリスキーのハンマーよりも更に巨大なやつで殴ってきやがった。


「お前たちレマイオス帝国の悪行は知ってるぞ? ククルルたちドワーフの領土を掠め取っているだろう!? でもこれ以上は絶対にさせない、今からククルルが成敗するんだからな!」



 ドォン!



 更に攻撃は続き、回避する度に新たなクレーターが出来上がっていく。大振りでありながらも軽い身のこなし、勇者と言われるのも頷ける。


「ふ~ん? やるじゃないかレマイオス。オーガですら一撃食らわせただけで命乞いをするほどなのに、お前は怖がらないんだな」

「怖くないわけではない。むしろ同族のドワーフごと俺を葬ろうとするところに恐怖を感じる」


 最初の一撃は確実にゴリスキーも範囲に入っていたからな。そして改めて思う。コイツ、本当に勇者なのか?(←その疑問は正しい)


「あ、そっか、そこにドワーフが居るって事は……」 


 どうやら気付いてくれたらしい。これで戦闘は避けられるはず……




「お前ぇ! 人質を取るとは卑怯だぞ!?」

「「…………」」


 なぜそうなるのか……。この発言にはゴリスキーも頭を抱えている。他のドワーフも引いてる気がするのは気のせいじゃないだろう。


「よし分かった! そこのドワーフ、ククルルが注意を引き付ける。その間に逃げるんだ!」

「おいおい……」


 俺を前にして堂々と作戦を伝えるのか? 敵じゃないからいいものの、敵だったら無駄に終わるぞ。

 呆れる俺や周囲を他所に、ハンマーを握りしめたククルルが俺に急接近してきた。


「今度は外さない!」



 グウゥ~~~~~~ン……



「な……に……?」


 ククルルの動きが突然速く!? いや違う、周りの空間が歪んでいて、俺の動きが鈍っているんだ!

 対するククルルは影響を受けずに俺に向かって一直線。いったいどういう仕組みだ!? いや、考えてる時間はない!


「食らえぇぇぇ!」


 マズイ、直撃する!




 ドゴォォォ!




「グフッ!」


 ガードした右手に凄まじい衝撃が走り、全身で空中浮遊を体験。気付けば元いた位置から100メートルは離れた通路に横たわっていた。


「なんという威力だ。ガードが間に合わなければ危ないところだったな」

「「「おおっ!」」」


 右手を庇いつつ立ち上がると、ドワーフたちから驚きの声が。


「あの若者、ククルル様の一撃を受けて立ち上がったぞ! いったい何者だ?」

「それよりも防御だ、かつてククルル様の攻撃を防御した者はいないぞ!」


 口々に告げられる内容に、先程の()()はククルルの持つスキルなのだと確信。するとククルル、感心しつつもタネ明かしをしてきた。


「お前、凄いやつ! ククルルのスキルはザ・ムーンによるもの。それに抵抗できるなんて、お前って只者じゃないんだな!」


 伊達にメグミの無茶振りに応えてるわけじゃないからな。(←板に染み付いたとも言う)


「……で、そのザ・ムーンってのは何なんだ? 何かの神様か?」

「え……お前、知らないの? ザ・ムーンって言ったら大役職(リードロール)の1人じゃないか。古からイグリーシアを先導してきた存在で、一部では神の子とも呼ばれて崇められている。そんな偉~い存在の1人がククルルなんだぞ? 凄いだろ!」


 それは初耳だな。この世界では常識過ぎて、これまでは知る機会が少なかったのか。


「でも困ったぞ~、こんな凄いやつに人質を取られたんじゃ迂闊に手が出ないじゃないか~!」(←その割にはおもいっきりブン殴ってたよね?)


 誰しもが思うだろう。ゴリスキーのいる位置からかなり飛ばされているんだ、仮に人質だったとしても意味は成さないだろう――と。

 そこへハッとなったゴリスキーがドタドタと駆け寄ってきて、ククルルの前に(ひざまづ)いた。


「ク、ククルル様、おいどんは人質なんぞではないぞぃ! ゴトーはレマイオス帝国の侵略からこの街を護ったんですわぃ!」

「そ、そうなの……か? でもソイツは人間だ、ドワーフ以外は信じられない……」


 見た目が人間のククルルに言われても説得力がないがな。

 そんな事を思いつつ、俺も説得を試みることに。


「矛を収めてくれないか? 手合わせをしたいとは思ったが、このような形で戦うのは本意ではない。それに第一、レマイオスの者ですらないぞ」

「う~…………」


 唸りながらも俺の顔を覗き込んできた。嘘か真か探ろうとしているのだろう。

 そして時間にして10秒ほど。殺気を四散させたククルルが俺に頭を下げてくる。


「お前、嘘はついてない。ククルルの早とちりだった、ごめんなさいだぞ……」

「分かってくれたのならそれでいい。しかしどうやって判断したんだ? 確かに嘘はついてないが、見ただけじゃ分からないだろう」

「ああ、そのこと? それは陰を見たからだよ」

「……陰?」


 気になる言い回しだ。ククルルの言葉を待っていると、どこか自慢気に教えてくれた。


「ザ・ムーンの持つスキルの1つなんだ。相手の本体を通して陰を見ることで、その人の思考が浮かんでくるんだよ」

「そんな能力まであるのか」



 ん? という事は……



「だったら最初からそれを使えよ!」


 叫ばずにはいられなかった。下手したら負傷したかもしれないんだからな。場合によっては慰謝料請求ものだ。


「でもお前、ケガとか無いみたいだし、これにて一件落着ってことで!」

「そこは素直に謝らないのか……」

「だって、謝ったりしたら負けた気分になるじゃないか~、負けを認めるのは嫌だぞ~!」

「…………」


 頭が痛くなってきた。こんな女に比べたら、まとわりついてくるだけのグレイシーヌが神に思える。

 そんなヤレヤレな雰囲気を壊すかのように、1人のドワーフが息を切らしながら走ってきた。


「ククルル様~、大変だぁ~! 隣街にレマイオス帝国が攻めてきたぞ~!」

「なんだって!?」


 別の街も襲撃されてるのか。複数の街を同時攻略に乗り出すほど、レマイオス帝国は本気らしい。ペルニクス王国の攻略が難しいと考え、ゴルモン王国に狙いを定めたか。


「こうしちゃいられない! ――まってろよ~レマイオス帝国め~、勇者ククルルがギッタギタにしてやるからな~!」


 ククルルは隣街に加勢しに行ったようだ。まったく、最後の最後まで騒がしい奴だった。


「すまなんだゴトーよ、せっかくの行為を仇で返すような真似を。ククルル様は清い考えの持ち主なのだが、いかんせん思い込みが激しくてなぁ……」

「それ、かなりの問題児じゃないか?」

「うぅ~む、ゴトーに言われると、そう思えなくもないような。過去にある魔物を討伐した時に巣ごと破壊して、中にいた者たちが生き埋めになりかけた事もあったと言うしのぅ……」


 それは何と言うか……破壊神か? 勇者とは程遠いと思われるが……。


「まぁ……なんだ、ククルルの話は置いておこう。今重要なのはレマイオス帝国を押し返す事だ。ゴリスキー、奴らはどこからか攻めて来る?」

「東にある鉱山だと思うぞぃ。あそこの山中には掘り出した鉱石を即座に加工できる設備があり、大勢が寝泊まりできるようにもなっておるんじゃい。少し前に落とされたらしいんだが、それを奪還するためにククルルが来たらしいぞぃ」


 彼女のスキルなら奪還も容易か。任せてもよいところだが……


「俺が代わりに落としてこよう」

「な!? ゴトー1人でか! あの場所は防衛の要でもあったんじゃあ! 数ヶ月に渡りレマイオス帝国の侵攻を食い止めた場所でもあるし、1人で攻略なんぞ無謀過ぎるぞぃ!」


 普通ならそうだろう。だが生憎と俺は()()()()()()んだ。


「心配するな。今の俺なら銃弾をも避ける自信がある。いや、当たったところで掠り傷だろう。俺を仕留めるのならメグミの蹴りを上回るダメージが必須となる。そんな輩は早々いない」

「う~む、ジュウダンとやらはよく知らんが、メグミを引き合いに出されては納得せざるを得んぞぃ」

「そうだろう。だから素直にここは――」



 ピキーーーーーーン!



「む? この反応は!」

「な、何事じゃいゴトー?」


 東の方から巨大な魔力が迫っている。メグミに勝るとも劣らない強い反応、これはまさか!




「先行した部隊の反応がロストしたから来てみれば……フン、やれやれ。愚かなドワーフに加担する人間の登場か」


 黒マントに黒いローブ、色黒の男が上空から見下ろしていた。先ほど感じた魔力反応はコイツのものだろう。さらに男の耳は長く、エルフのようにも見える。


「進行部隊を指揮しているのはお前だな?」

「いかにも。私の名はアバード、レマイオス帝国西方軍を任された将軍である。そこの人間、何ゆえドワーフに味方する? ゴルモン王国はドワーフの国だ、貴様ら人間には関係のない事ではないか」

「俺の仲間がゴルモン王国出身でな、助けないわけにはいなかいんだよ。それを抜きにしてもレマイオス帝国はペルニクス王国にも侵略を仕掛けている。敵を叩くのは利に叶っているがな」

「フン、なるほど。ペルニクス王国の人間か。ならば改めて考えろ、我が帝国に刃向かうのは自分の首を締めるだけだ。潔く頭を垂れるのならば、向けた矛を収めてやってもいい。どうだ?」


 おとなしく従えば手を引くと? バカバカしい。敵と合間見えたのなら、それ即ち戦の始まり。従うなどもっての他だ。


「断る」

「フン、つまらん奴め。ならば――」


 こちらに向けたアバードの右手に魔力が集中しているのが分かる。そして黒く練り固まった魔球が……


「――ドワーフもろとも死ね!」


 俺に向けて放たれた!


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