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ゴルモン王国の勇者

「毎度あり~!」


 ザルキールから一番近いとされているレマイオス帝国の街。ジョグスが言うにはここにしか売られていない材料があるらしく、たった今これらを買い揃えたところだ。ザルキールで量産できれば買い出しは不要なのだがな。


「1つ聞きたいんだが、これらの商品はどうやって作られているんだ?」

「ハハッ、それを教えちゃ商売にゃならねぇさ。頑張って研究してくんな!」


 やはり俺が買い出しに出向くしかないか。量産できるまではお前が責任を持てとメグミに言われたし、まったく酷な話である。(←そりゃお前の責任よ)


「分かった。また来るよ」

「おう、宜しくたのむぜぃ!」



 カランカラン♪



 心地好いベルの音に見送られて店を出た。場所は覚えたから足を運ぶのは問題ないが、メグミには量産できるよう頑張ってもらいたい。


「さて、さっさと邸に戻るとしよう。早くプレミアムパフェを食わせろとフェイにせっつかれてるからな。暴れだす前に――」


「ええぃ、離さんかい! 祖国の危機なんじゃあ!」

「うるさい、さっさと来い!」

「暴れると罪が重くなるぞ!?」


 周りの注目を集めながらドワーフの男が連行されていく。どうやら検問で引っ掛かったらしい。

 しかし聞き覚えのある声だったな。まるでメグミのクラスに居るゴリスキーのような――


「おいどんはクレセント学園のゴリスキーじゃあ! 決して不審者なんぞではなぁぁぁい!」


 ――って本人じゃないか! 敵国に堂々と入ろうとすれば捕まると思わなかったのか?


「むむ? そこに居るのはメグミの従者ゴトーではないか! 大変すまぬが助太刀を頼む!」


 ゴリスキーを掴んでいた兵士たちが一斉にこちらへ振り向く。何もしなければ俺も連行されるのは回避できないだろう。


「まったく、世話の焼ける奴め!」



 トストストスッ!



「「「ウグッ……」」」


 手刀で兵士を気絶させ、ゴリスキーの手を引いて逃走を開始。大ジャンプで街の外へと急いだ。


「恩に着るぞゴドーよ、九死に一生を得たわい!」

「礼はいいから落ちないよう気を付けろ。このまま外に出る」

「なんと、門を潜らないのか? それだと不法出国になるぞぃ」

「不法捕縛してきたのだからお互い様だ。捕まりたいのならお前1人で戻れ」

「むぅぅ……それは困るぞぃ。おいどんには祖国を救済するという役目があるんじゃい」


 さっきもそう叫んでいたな? 乗り掛かった船だ、事情を聞くとしよう。


「街からだいぶ離れたな。こごまで来れば大丈夫だろう。今頃奴らは居ないはずの街を封鎖して捜し回っているだろうからな。――でだゴリスキー、祖国の危機とはどういう意味だ?」

「うむ、おいどんの祖国はレマイオス帝国の西にあるゴルモン王国というドワーフの国なんじゃが、数ヶ月ほど前からレマイオス帝国の侵攻を受けておるんじゃあ」


 これはメグミも言っていたな。レマイオス帝国が他の国々を侵略しているという話は有名だ。


「悔しくも領土は奪われ続け、ゴルモン王国は劣勢に立たされていると聞く。このまま祖国を失えば、遥々ペルニクス王国へとやって来た意味が無くなってしまうんじゃあ!」

「冒険者になる事が目的ではなかったのか?」

「戦争がなければ冒険者として活動し、いざ戦争となれば先鋒に立つのが己が夢。鉄を打つより敵を撃てが我が家訓じゃい!」


 ドワーフたちは鍛冶が得意と聞く。ゴリスキーは小手先の細工が苦手らしいが。まぁ見た目通りということだな。


「事情は分かった。要はレマイオス帝国の侵攻を食い止めれば良いわけだ。だったら俺が……」

「むぉ? ま、まさか手を貸してくれるのか? クラスメイトたちに迷惑はかけまいと誓った手前、グヌヌヌヌ……どつすればよいものか……」


 俺はすでに迷惑を被っているんだがな。けれども放置すればメグミが動かざるを得ない。早めに対処すべきだろう。


「お前の学園生活は今年で最後だろう? このまま地道に歩いたところでゴルモン王国に着く前に夏休みがおわる。そうなれば他の仲間だけで卒業試験に挑むことになるんだぞ?」

「そ、そこまでは考えもせんかったわぃ……」

「だろうな。だから俺が手を貸してやる。夏休みが終わる前に済ませようじゃないか」

「お、おお……」


 ん?


「心の友よーーーーーーっ!」



 ガシィ!



「――っておい、いきなり抱きつくな!」

「正にお主は最高の友だ! お主が女ならば迷わず嫁として連れ帰るところだわぃ!」

「それは全力で拒否する」

「分かっておるわぃ。男を連れ帰るわけにはいかんからな、ガッハッハッハッ!」

「女でも拒否するぞ、間違いなく」

「悲しい事を言うでない、お主とおいどんの仲ではないか!」


 大した深い関係じゃなかったはずだがな。どうもゴリスキーの頭の中では深い信頼関係を構築してしまったらしい。


「まずは落ち着け。準備を整えてからゴルモン王国に飛ぶとしよう」

「うむ、宜しく頼むぞぃ!」



★★★★★



 ラーカスター邸に戻り買い出しの材料をジョグスに渡すと、ゴリスキーを回収してゴルモン王国へと高跳び(←超物理)。その日のうちにゴリスキーの故郷へとやって来たわけだが、その途中で隊列を組んで進軍している部隊を発見した。ひいき目に見てもドワーフには見えない。街道を進軍中のレマイオス軍だ。


「この方角だと……狙いはゴリスキーの――」

「故郷じゃあ、おいどんの故郷がレマイオスに踏みにじられそうになっとるんじゃあ!」


 幸いにして攻め込まれる直前だったらしい。


「俺があの部隊を壊滅させてくる。ゴリスキーは街に行って危険を知らせて来い。他にも進軍している部隊があるかもしれないからな」

「ガッテン承知でぃ!」


 部隊が進行するやや先に着地してゴリスキーを街に向かわせ、俺は単独で敵部隊へと向かって行く。


「怪しい奴め、止まれーーーっ! 止まらなければ敵と見なして――」

「それなら心配ない」

「――何ぃ?」



 ジュバッ!



「なっ……この小僧、とんでもない脚力を!」

「敵である事に違わないからな」



 ドゴォォォ!



 後方に見えた兵器目掛けて隊列を飛び越え、魔力を込めた鉄拳を叩き込んだ。結果兵器は粉々に砕け、再利用など不可能だと一目見て分かる有り様に。


「し、しまった、投石器が!」

「それだけじゃない、梯子も壊されたぞ!」

「このガキ、ただで帰れると思うなよ!」


 実力を見せてやったというのにまだ足掻こうというのか。ヤクザの下っ端連中ですらもう少し利口だったろうに。

 まぁ仕方ない。判断力の欠如は落命に繋がるという事を教えてやろう。


「俺を敵に回した時点で貴様らの命運は尽きている。去らぬというなら覚悟しろ」


 バシッ! バキッ! ドカッ! ドッゴォォォォォォン!


「ヒギャァァァ!?」

「グヘェ……」

「ダ、ダメだコイツ、攻撃が当たらねぇ!」


 100人ほどの隊列だったが大した事はない。前世ならこの状態の上にスナイパーが含まれていたからな。アレに比べちゃスリリングとは程遠い。


「ク……ソォ……。申し訳……御座いません、アバード……様……」


 最後の1人の絶命を確認。ひとまず脅威は去ったな。

 ……いや、他にも部隊がいるのか? アバードとやらが指揮官か。


「上空から探してみるか」



 調べたところ、他にも2部隊ほどが街に向かっていたのを見つけ、両方とも壊滅させてやった。これでしばらくは安心だろう。肝心のアバードという指揮官が見当たらなかったのが少し気になるがな。



「おおぅ! ゴトーよ、無事だったか!」


 ガシィ!


 街に着くなりゴリスキーによる大変に熱い抱擁を受けた。というより暑苦しい。真夏の外気温よりゴリスキーの暑苦しさが上回っているように感じるのは気のせいではないだろう。


「取りあえず離してくれ。体感気温の上昇が激しく汗が止まらん」

「むぉ? それはイカンぞぃ、間違いなく夏風邪の症状じゃあ!」(←ちげぇよ!)


 一時的な息苦しさは夏風邪を軽く凌駕(りょうが)しそうだがな。


「ああ、今日は早めに寝るとしよう。それより街の様子はどうだ?」

「それなんだが、これまでにも何度か攻められてるらしいぞぃ。次は攻城兵器を持ち出してくるのではと、街の連中もハラハラしているようじゃのぅ」


 その攻城兵器は俺が破壊したがな。次はどんな手で来るのやら。


「だが安心せぃ。我がゴルモン王国の勇者ククルルがもうじき来るそうだぞぃ!」

「ククルル?」

「うぉす! たった1人で幾つもの敵部隊を葬れるほどの実力者じゃい! ひょっとしたらゴトーより強いかもしれんぞぃ!」

「ほぅ……」


 ゴリスキーの言う内容が事実ならその可能性もあるな。勇者というのも気になるし、1度手合わせしてみたいものだ。


「そのククルルというのもドワーフなのか?」

「人間との混血でハーフドワーフという種族らしいぞぃ。その影響かドワーフの腕力に人間の美顔を兼ね揃え、一部では女神の生まれ変わりだと言われるほどじゃい」


 女神か。そういえば降臨祭に現れる女神、確かクリューネ……だったか? あの女神もジョグスの作るプレミアムパフェが好物だという。ザルキールで開店すれば現れるようになるのだろうか? そのついでに面倒事を押し付けられなければよいが。


「皆の者、ククルルだ、ククルルが来てくれたぞぉぉぉ!」

「「「おお、我らの女神よ!」」」


 遠くでドワーフたちが叫んでいる。噂の勇者が到着したようだ。


「これでもう安心じゃい! しかしゴトーには世話になった。今日はたらふくドブロクを飲んでゆくのじゃあ!」

「それはありがたいが、たらふくは飲まんぞ? 今日中には帰還するつもりだからな」

「むぅ、それは残念じゃい。……むぉ? ククルルがこちらに走ってくるぞぃ」


 銀髪をポニーテールにした小柄な少女が鬼の形相で向かって来る。自身の2倍は有りそうな巨大ハンマーを軽々と担いで。

 というか何故に鬼の形相を? そんな疑問はククルルがハンマーを振り下ろした直後に判明する。


「て~~~んちゅ~~~!」



 ドガァン!



 ()()()()()振り下ろされたハンマーが地面に大きなクレーターを作る。咄嗟に回避したからいいものの、あのままだったら俺もゴリスキーもプレスされていた。

 が、当の本人は悪びれる様子もなく、俺を睨むと一気に捲し立ててくる。


「お前がレマイオスの手先だな!? ゴルモン王国の勇者ククルルが直々に成敗しちゃうぞ!」


 いきなり勘違いされるとは。話したところで聞かなそうだし、ここは一戦交えるしかないな。


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[気になる点] ゴトー嫌いじゃないけどメグミの出番がほとんど無いのがなぁ…
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