表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/108

共和国の降伏

「は、初めまして、俺は――じゃなかった! ボ、ボクの名前はバードって言います。以後宜しくお願い致します……」


 ラーカスター家の邸でぎこちない自己紹介を行った獣人の少年。彼はライアルの故郷で村民として暮らしていた少年で、【血塗られた候補者】の称号を()()()()()者だ。

 連れてきた理由は簡単、両親の居ない孤児であり、彼の背中には怪しげな紋章が浮かんでいたからだ。

 この紋章を見た村人たちは彼との接触を拒むようになり、このまま残して置いては本人のためにもならないとの判断から我が邸に招いたのだ。


「しかしまぁ、今日は来客が多い日だな」

「そんな事を仰ってはいけませんわお父様。バードは正式に使用人となったのですから」

「おお、すまんすまん、そうだったな。では誰か、バードを案内してやってくれ」

「はい!」


 元気よく前に出たのは少し前に保護されたばかりのレン少年だ。


「オイラが案内するよ。この邸には人の姿に化ける剣や、一瞬にして別の場所に転移できるゲートとか不思議なものがいっぱいあるんだ」

「ホントか!?」

「マジマジ、ついて来て!」

「おおっ!」


 去って行くレンとバードの背中を見つめ、1人思考の海へと落ちる。

 レンと同様にバードの称号も魔偽製造(マギプロダクト)で書き換え済みだ。暴走の心配はないだろう。しかしベルフェーヌの台詞がどうしても気になるのだ。


『ボクには忠実な配下を増やすという目的があるのだから。この辺りの集落にやって来たのも素質のある候補者を探すためさ』


 ――と奴は言った。ならば魔王の候補者を殺しては完全に無駄骨だ。

 ベルフェーヌめ、やはり何かを隠しているな。魔王候補者を殺すことで配下を獲る方法があるのだ。その仕組みが分かれば……



 チカッ……チカッ……



「ん? コネクト水晶に反応が」


 繋げてみると、水晶の向こうにオライオン将軍の顔が浮かび上がる。


『お忙しいところを失礼。メグミ殿、レクサンド共和国との仮調印に同席願いたいのですが』

「レクサンドとの調印……という事はまさか!」

『お喜び下さい、憎きレクサンドが全面降伏の姿勢を見せておりすぞ!』


 首都機能を移してまで抵抗を続けていたレクサンド共和国。それがついに降伏するらしい。


『これも全てメグミ殿のお陰ですぞ』

「何を申す。私はただ情報を提供したまで」

『いえいえ。そういって難攻不落の砦を落としたのはメグミ殿では御座いませんか。まったく、貴女様もお人が悪い』

「オライオン、それはお互い様であろう? フフフフフフ!」(←悪代官かお前は)

『イヒヒヒヒヒ!』(←お前は越後屋な)


『はっ!? いやいや、このようなやり取りをするためにお呼びしたのでは御座いません』

「調印式への参加だろう? 別に構わんぞ」

『はは、では一時間後に行われますので――』

「早いわ!」



★★★★★



 レクサンド共和国の第二の首都にて。武装解除された共和国軍が俯き気味に中央を進み、ペルニクス王国の軍隊が左右に挟んで行進していた。

 建物からは不安そうに眺める国民の姿もある。今後の生活がどうなるのか心配なのだろう。

 そんな彼らが最後尾を見送る先に見えるのは、急ピッチで建てられたであろう仮設会議場。中では今まさにレクサンド共和国のトップであるギボール議長が、仮の調印書のサインを終えたところであった。


「……これで、宜しいですかな」


 重苦しい表情で筆を走らせていたギボール議長が顔を上げる。正面に座っているのはオライオン将軍――と、その隣に座っている私だ。

 調印書の内容についてはザックリ言って次のようなる。

 レクサンド共和国の村や街はペルニクス王国のものとなり、共和国軍も解体されてペルニクス王国軍に組み込まれて再編成されるという感じだ。

 貴族たちは……どうだろうな? 有能な者が居れば召し抱えられるかもしれん。


「まぁ、悪いようにはせん。レクサンド共和国そのものは無くなるが、民が路頭に迷うことのないよう施しましょう」

「寛大なるお慈悲、ありがたい限りです」

「うむ。では議長殿、さっそくですが我が国の王都クレセントまでご同行願います」

「分かりました」


 終わった――と言っても仮の調印式であり、王都に帰還してから正式な調印を交わすらしい。なぜ今は仮なのか、その辺は詳しく知らんのでオライオンに丸投げだ。


「ところでオライオン、私の存在は場違いではなかったか?」

「そうかも知れませんが、その点はお許しを。降伏したとはいえ一部では抵抗を続けている貴族も居りますゆえ、万が一にも奇襲によって議長が死んでしまうシナリオは回避したいのです。もちろん私自身のためにも暗殺は御免被りたいところで御座いまして」


 保身のために私を呼んだか。ベルフェーヌの出方が分からん以上、呼んでくれたのはありがたいかもしれん。


「報告します将軍、転移ゲートの準備を進めているのですが、魔力が乱れているせいかしばらく時間がかかりそうです」

「何ぃ? 議長を早く王都へお連れせねばならんのだ、急ぐように言え!」

「ハッ!」

「まったく、このような時に不吉な……」

 

 転移ゲートとは、離れた場所に一瞬にして移動できるゲートであり、私やグレシーが通学で使っているアレの事だ。一度に数人しか潜れない上に魔力の放出が激しいため敵に気付かれる恐れがある。故に進軍には使えないのだが、双方の出口を自軍が抑えていれば安心して使用できるわけだ。


「メグミ殿、大変恐縮ですが引き続きギボール議長の監視をお願い申します。この様子だと数時間は身動きが取れぬやもしれません」

「うむ、やむを得まい」


 オライオンの貧乏揺すりが目立つ。一刻も早く王都に戻りたくてイライラしているのだろう。

 一方のギボール議長に不審な動きは見られない。周囲を王国兵に囲まれてむしろ居心地が悪そうだ。

 この様子なら取り越し苦労だったかもしれんと思った次の瞬間――



 ピクッ!



「上空から巨大な魔力反応!?」


 敵襲だと悟り、すぐさま自身を中心にドーム状の障壁を展開。



 ドゴォォォォォォン!



 直後に天井を突き破った何かが降り注ぐも展開された障壁が全てを防ぎ、会議場の隅へと弾き飛ばした。


「て、敵だ、敵襲ーーーっ!」


 王国軍に緊張が走り、すぐさま将軍と議長を囲んで護りを固める。残りの兵士は飛来物を確認するため残骸を掻き分けて行く。

 が、すぐにその行動を後悔する事になる。


「これは……怪しげな黒い水晶玉? これが天井から降ってきたのか」

「硬くて重い水晶玉か。いったい誰が……」


 ギュゥウウウウウ!


「な、何だこりゃ!? 膨れ上がっていくぞ!」

「おい、何かヤバいんじゃないか?」


 黒い水晶玉が膨れ上がるのと同時に込められた魔力が膨張するのを感じ取る。そして何が起こるかも悟った。


「いかん、その水晶から離――」



 ドッッッバァァァァァァァァァァァァン!



 私の叫ぶ声が爆音に掻き消された。四隅に転がった黒い水晶玉が大爆発を起こしたのだ。調べていた兵士は爆発の衝撃と障壁に挟まれグロい有り様に。その光景を見た兵士たちは嘔吐(おうと)を必死に堪えている。

 おまけに今の爆発で会議場全体が崩れそうになり、障壁で支えることで辛うじて崩壊を免れていた。

 そんな惨状を見て残念そうな声が上空から聴こえてくる。


「おやおや、議長もろともペルニクス王国の司令官を葬ってやろうと思ったのだが、案外守備が固いようだね」


 聞き覚えのある声だ。というかいい加減ウンザリしてくる。


「また貴様か、ベルフェーヌ」

「そういうキミはルシフェルだね? まったく、どこまでボクの邪魔をしたら気が済むんだか」

「その台詞はそっくり返すぞ。貴様が私の邪魔をしているのだ。このタイミングで現れるということは、やはり貴様……」

「そうさ、ボクが新たな王となるのさ。これよりレクサンド共和国は魔国レクサンドとして生まれ変わるんだ。今日は記念すべき日――つまり建国記念日となるんだよ」


 予期せぬ敵――魔王ベルフェーヌの登場に、どちらの国の兵士も困惑する。いや、正確にはギボール議長だけは予測していたようだ。


「魔王ベルフェーヌ。度々噂は耳にしていたが、まさか実在するとは……」

「そうさ。これまで何度となくレマイオス帝国の侵攻を食い止めてきたのはこのボクだ。なのにお前たちはそれを認めず、挙げ句には幻想とまで言ってのけた。いや、それだけだったらまだいい。ボクがもっとも憤っているのは、獣人を蔑ろにした人間至上主義の政策を打ち出したことだ。この愚策によってどれだけ多くの獣人たちが涙を飲んだか、お前たちには分からないだろうね」


 獣人差別は少なからずどこにでもある。しかし近年の共和国はそれを輪を掛けて激しさを増していたらしい。レンやバードから聞いた話だが、恐らく事実なのだろう。


「だがそのような不公平も今日で終わりさ。ご苦労だったね、ペルニクス王国の諸君。君たちの協力でレクサンド共和国は生まれ変わるんだ。その記念すべき光景、その目に刻むと良いさ!」



 ガシィィィ!



「チッ、魔王ルシフェル!」


 易々と障壁を突破し、ギボール議長に迫ったベルフェーヌの拳を受け止める。


「させると思うか? この私がいる限り、貴様の好きにはさせん!」

「グハッ!」


 奴の腹に膝蹴りを見舞い、襟首を掴んで上空へと放り投げた。


「貴様との腐れ縁、ここで断ち切ってくれよう! フレイムボォォォム!」



 ボォォォォォォン!



 先ほどやられた礼を込めて、同様の爆発を見舞ってやった。爆煙が立ち込める中、怒りの隠った台詞がベルフェーヌから投げ掛けられる。


「クッ、どこまでも邪魔をしてくれる。やはりお前を倒すには魔剣が必要のようだ。準備が整ったらキミの邸へ伺うことにするよ。必ずね!」



 シュン!



「逃げたか。――ん?」


 追撃しようと思ったところで外が騒がしくなる。新手がやって来たようだ。


「メグミ殿、首都郊外よりレクサンド共和国の残党が現れました。この場はお任せしますぞ」

「うむ、任せておけ」


 その後残党は駆逐され、議長と将軍は無事王都に転移していった。

 が、夏休みの最終日。ラーカスター家の邸にて役者が勢揃いすることとなる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ