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ルシフェルVSベルフェーヌ

 尋問中だったゾルーアの突然死。それは魔王ベルフェーヌの仕業だった。当の本人はというと、ややウンザリした表情を作りつつ、私たちの前に降り立った。


「またキミか。付きまとわれるのは趣味じゃないんだけれどね」

「それは自意識過剰というものだ。私はただ賊を討伐しに来ただけなのだらな。まさかお前が手引きをしているとは思わなかったが。どうだ、盗賊ゴッコは楽しめたか?」

「勘違いされては困る。賊を率いちゃいるけれど、何も盗んではいないよ。もっとも、勝手に盗みを働く輩も居るだろうけどね。ボクはそんなチャチな目的で動いたりはしない」

「ならば答えてもらおう。ここで何をしている?」

「フフ、素直に教えるとでも?」


 フッ、面白い。最近は怯える輩が多かったのもあり、強者との戦いをある意味望んでいたのだ。


「ライアル、下がっていろ。近くにいると巻き添えを食うぞ」

「分かったよ」


 トーマスと共に退避するライアル。周囲の家屋からも住人の視線が集まる中、再度ベルフェーヌが口を開く。


「では始めようか、魔王の名は伊達ではないと証明してあげるよ」

「フッ、ならば先手は譲ろう。どこからでもかかって来るがいい」

「その台詞――」



 ザッ、



「――後悔するよ!」



 ガシッ!



 正面から来た拳を受け止め、ベルフェーヌの様子を(うかが)う。防がれるのを分かっていたのか、口元をフッと緩めて嬉しそうに語ってきた。


「良いね、実に良い。それなりに力を込めたのにアッサリと受け止めるなんてね」

「それなりに? ならば全力を出すのをおすすめしよう。さもなくば後悔するのは貴様だからな」

「そうかい? では遠慮なく――」



 ブン!




 ――ガシィィィ!



 もう片方の腕で先ほどよりも重い拳を打ち込んできた。――が、苦痛を感じるほどではない。


「参ったね、こうも簡単に防がれると魔王としての立場がない」

「ならば引退宣言するとよい。ちょうど過疎地の村なのだし(←失礼だぞ)、隠居生活も悪くなかろう」

「それは出来ないよ。ボクには忠実な配下を増やすという目的があるのだから。この辺りの集落にやって来たのも素質のある()()()を探すためさ」


 候補者というフレーズに既視感を覚える。あれは確か……そうだ、Eスキャンでレン少年を調べた時に見た【血塗られし候補者】。つまりレンも……


「その反応、キミも知ってるんだね? 血塗られし候補者を。そうさ、血塗られし候補者とは魔王の素質を持っていることを示すのさ。これ以上ライバルが増えるのは好ましくないからね、今のうちに摘み取るのは正しい判断だと思わないかい?」


 なるほど。しかし1つだけそぐわない部分がある。


「だったら候補者と思われる者たちを皆殺しにした方が早いではないか。なぜそうしなかったのだ?」

「そ、それは……」

「罪悪感が有るのだろう? 同じ獣人を殺める事への。だから1人1人を調査するという回りくどいやり方をした。いや、それだけではない。お前が殺したゾルーア、奴を殺した本当の理由は――」

「ああ、その通りだよ。獣人たちへの行いを知らされてボクは憤った、だから始末した」


 認めたか。魔王とは言え良心が残っているのは幸いだな。ついでにゾルーアを使っていろんな街を占拠していた理由も見えてきたが。


「そう、甘かったんだよ、ボクの考えが。()()()する度にゾルーアは劣化していった。目的が曖昧になり、命令無視は当たり前、終いには自分が本当のボスだと錯覚するようになり、捕えた獣人たちを売り払おうとまで。それでこれ以上の任務続行は不可能だと悟り、処分したというわけさ」


 さりげなく出てきたコピーというワード。ベルフェーヌには生命体をコピーするスキルが有るようだ。


「そこでだ、キミに1つ提案したい。新たな脅威となる魔王の誕生はキミだって望まないだろう? 共に手を組み、魔王覚醒を阻止しようじゃないか」


 本来なら協力するのが自然なのだろう。が、私としては新たな魔王を見てみたいという好奇心があるのも事実。

 何より本人を無視して勝手に脅威と見なすのはいかがなものか。そこで私は差し出された手を払いのけてやった。


「断る!」

「え?」

「魔王の誕生? 結構ではないか。本人の意思しだいでは新たな門出を祝ってやらんでもない。これが魔王ルシフェルの器だよ」

「…………」


 しばしの沈黙。やがて何かを決意したかのようにベルフェーヌは顔を上げ……


「そうかい。残念だけど交渉は決裂だね!」



 グググググ!



 両腕に力を込め、私を押し返してきた。


「尚も私と張り合おうと? 面白い、どこまで続くか見せてもらおう――――フン!」



 ドガッ!



「ガフッ!?」


 わざと両腕の力を抜いてベルフェーヌを引き寄せ、正面から強烈な蹴りを見舞ってやった。そして勢いよく後方に飛んで行く奴の背後に回り込み……


「弾丸シューーート!」



 バギィィィ!



「ガハァ!」


 ベルフェーヌをサッカーボールに見立てておもいっきりシュート。体をくの字に曲げて逆方向へと飛び、広場に有った銅像に激突した。


「少しはタフなようだが、今のお前では私には勝てん。おとなしく降参するのだな」

「ハァ……ハァ……、それはできないね。何故ならボクには取って置きのスキルがあるんだから」

「むん?」

「ゾルーアに付与したスキルはボクの劣化版さ。本物の魔眼ならこういう事も出来る!」



 シャ――シャシャ――シャシャシャシャ!



 怪しげに光るベルフェーヌの瞳に気を取られた瞬間、四方から伸びてきた謎のワイヤーが私の体に絡み付く。


漆黒(しっこく)のワイヤー!? いったいどこから――――ゾルーア!」


 新たに現れた4人のゾルーアが漆黒のワイヤーを操っていた。

 

「オリジナルのゾルーアと初期の頃にコピーした3体だよ。この頃は劣化も少なくて使い勝手も良かったんだけれどね」


 ベルフェーヌめ、余程ゾルーアがお気に入りらしい。


「そのゾルーアによって獣人たちが苦しんでいるのだがな。同じ獣人として思うところはないのか?」

「無くはない、だから落とし前をつけた」

「アレがか? ゾルーアによって両親を殺された獣人姉弟を私の邸で保護している。彼らの前で同じ台詞を吐けるのか?」

「……目的のため、必要な犠牲だと説明するよ。彼らだって今のレクサンド共和国を見たら分かるはずさ。元凶はこの国にある――とね。同時に彼ら獣人も元凶だと言える。ボクからすれば弱き者は悪なのだから」


 弱さは悪。つまり強い者が正義を語れると。


「今のレクサンド共和国は押されている。いずれペルニクス王国に屈するのも時間の問題だろう。お前にとってレクサンド共和国は祖国ではないのか?」

「言ったはずだよ、弱きは悪だと。悪しき国なんか滅べばいいのさ」

「お前、矛盾しているぞ? 弱い者が悪なら、虐げられている獣人も悪になるだろう」

「それは違う、彼らはボクが導くのだから。強き者であるボクがね。戦争の後、ディオスピロスによって荒らされた大地にボクが降臨する。そして虐げられていた獣人を救うことでボクは救世主になるのさ!」


 自らが王となるか。そういえばレン少年が言っていたな。今のレクサンド共和国は獣人への風当たりが強いと。祖国である共和国を消し去ることで新たな秩序をもたらすつもりか。


「さて、そろそろ遺言は済んだかい? ゾルーアが繰り出したとは言え、ワイヤーの威力はボクの魔力に影響されるだ。それが4倍ともなればキミは確実に助からない。投降するのなら奴隷して扱うのもやぶさかではないよ?」


 勝ちを確信したかのようなベルフェーヌ。だが甘いぞ? 貴様が悠長に話しているうちに目論みは破綻しているのだからな。


「とことん強気だね。ならばご退場願うとしよう、さらばだ、魔王ルシフェル!」



 バタッ!



「――え?」



 バタバタバタッ!



「なっ!? ゾルーアたちが倒れた? そ、そんなバカなことが!」

「無論バカではない。このワイヤーは魔力伝達に優れていたようでな? キャパを上回る魔力をゾルーアに供給してやったのだよ。言わば薬漬けならぬ魔力漬け状態だな」


 しかし目覚めた後が最悪だ。何故なら麻薬中毒者と同じ言動を起こすだろうからな。村に被害が出る前に後で捨ててこよう。


「ふぅ、とことん参ったね。こうも簡単に状況を覆されるなんて。あの魔王アバードが及び腰になるのも頷けるよ」

「魔王アバード……だと? 何だソイツは?」

「おや、会ってなかったのかい? ペルニクス王国はレマイオス帝国と敵対しているから既に接触しているものとばかり思っていたけれど」


 魔王アバード。どうやらレマイオス帝国にいる魔王のようだ。


「そのアバードが言っていたのさ、ペルニクス王国にいる魔王は一筋縄ではいかないと」

「話をするほど親しいのか?」

「そりゃ何度も戦ってきたからね。かれこれ2年になるかな? キミほどじゃないにしろ手強い相手だよ」


 今後は魔王アバードとも戦うことになりそうだ。


「今回はこれで引き上げるとするよ。いずれキミとは決着をつける――さらば!」



 シュバ!



 やれやれ何とかベルフェーヌを()()()()済んだ。

 なぜ追い込まなかったのかと言うと、奴を生かしておくことでディオスピロスの統制が乱れないようにするためだ。私1人で残党を駆除するのは骨が折れるからな。上手くベルフェーヌを使ってやりたいと思ったのだ。


「メグミさ~ん!」

「やるなぁお嬢さん!」


 ライアルとトーマスが駆け寄ってきた。


「ありがとう、お陰でこの村も解放されたよ」

「俺からも礼を言わせてくれ。本当にありがとう!」

「よいよい。だが魔王ベルフェーヌは獣人の国をつくると言った。その時この村は……」

「「…………」」


 複雑な表情を見せる2人。しかし……


「先のことは分からないよ。でも目の前の脅威は去ったんだ、今はそれで充分さ」

「ああ、ライアルも良いこと言うようになったな。あ、そうだ! すまないがお嬢さん、村長の家まで来てくれるかい? ベルフェーヌの言う事が真実なら【血塗られた候補者】が居るっぽいんだ」

「何っ!?」


 どうやらまだ騒動は続きそうだな。


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