故郷を救え
「ラーカスター家の皆様初めまして。私は犬獣人のマユラと申します、以後宜しくお願い致します」
「弟のレンです。よ、宜しく……」
「私も獣人の――」
マユラとレン、この2人に加えて10人ほどの獣人たちを我が邸にて保護した。全員が孤児で行く宛がないとくれば、保護せねば以前のレン少年と同様になってしまうからな。当分は使用人として働いてもらうことになる。
「メグミ様、まだお礼を申し上げておりませんでしたが、両親の仇を討っていただき感謝します。本当にありがとう御座います。――ほらレン、貴方からもお礼を」
「その……ありがと……」
「フッ、よいよい。お前たちとの出会いは偶然産物だからな。手を貸したのも思惑が有ってこそだ」
しかし肝心なところが未解決のままだ。
まずはレン少年にあった謎のデバフ。アレは何かに覚醒する前触れか? 近々リーリスにでも聞いてみるとしよう。
次にディオスピロスのゾルーアだが、本当にア奴がボスだったのか? 闇ギルドというよりも、ならず者の首領と言った方が納得がいくぞ。現に大した戦闘能力はなかったしな。
そして最後に獣人魔王ベルフェーヌの存在だ。正直なところ、ゾルーアではなくコイツがディオスピロスのボスではないかと疑っている。
チカッ……チカッ……
「お~いメグミ、胸の辺りが光ってるゾ~。母乳でも出るのか~?」
「下品なオッサンみたいな発言はやめぃ! コネクト水晶(←通信用に使っている水晶玉)が反応しているだけだ!」
まったく。ゴトーといいレンといい、どうして私の周りには変態が多いのだ。
『……で、何の用だリーリス? これでも忙しいのだがな』
『あら、随分とご機嫌斜めね。何か嫌な事でもあったの?』
『貴重な夏休みを邪魔されている今この瞬間が嫌な事に当たるとは思わないのか?』
『それはゴメンなさいね。でも仲間がピンチとあらば放っては置けないでしょう? だから知らせた方が良いかと思って』
『仲間……まさかクラスメイトが魔物にでも襲われたか?』
『半分正解。ピンチなのはクラスメイトのライアルくんよ。何でもレクサンド共和国に親族が居るらしくてね、親族の住む村が賊に占領されたという知らせを受けて単身で向かったみたいなの。他のクラスメイトも止めようとはしたんだけれど……』
1人でだと!? それは危険だ、多勢に無勢でなぶり殺しに合うだけだぞ。単独で向かったのは周囲を巻き込まないための配慮か。
『ゴリスキーといいライアルといい、どうにも水臭い奴が多くて困る』
『フフ、やっぱり放っては置けないわよね』
『当たり前だ。いずれは魔王ルシフェルを支える存在になるのだ、勝手に死なれてはかなわん。それでリーリス、ライアルは何処に?』
『冒険者ギルドよ。賊退治の依頼が増えているから、他の冒険者と一緒に北に向かうつもりね』
★★★★★
入れ違いにならないよう急いで王都へ急行。冒険者ギルドに入ると、他の冒険者から煙たがられているライアルを発見した。
「パーティ入りは難航しているようだな」
「え……メ、メグミさん? どうしてここに」
「お前がレクサンド共和国に向かうつもりだとリーリスから知らされたのだ。ほれ行くぞ」
「え……ええ?」
ライアルの手を引いて冒険者ギルドを後に。困惑しているライアルの顔に指をギュッと突き付け、一気に捲し立てた。
「故郷で賊がのさばっている話は聞いた。だが相手は集団だぞ? お前1人が出向いたところで囲まれて終わりだ。なぜ無茶をする? 大方仲間を巻き込みたくないと考えているのだろう。だがな、お前が死んで悲しむ者がいるという事を忘れてはいかん。それでも行くと言うのなら、お前と共に進もうぞ。さすれば生きて帰還できるのだからな」
「メグミさん、それって……」
「ああ、私も付き合おう、いざ戦火の渦へ!」
「メグミ……さん……」
言葉を詰まらせ身を震わせるライアル。やがて凛々しい顔つきで私の手を掴み……
「ありがとうメグミさん! ボクは決めたよ。キミの気持ちに応えるためにも、必ず生きて帰らなきゃってね」
「ん? 私の気持ち?」
「だからお願いするよ、ボクに力を貸して欲しい!」
「お、おぅ……」
よく分からんが私も行っていいらしい。しかし私の気持ちに応えるとはどういう意味なのか。まぁ大した理由はなさそうだし放置だな。(←後悔するぞ)
「では肩に手を回すがよい」
「え? こ、こんなところで!?」
「何を驚いておる? 飛行するために決まっておろう」
「あ、ああ、そう……だね……」
「なぜに残念そうな顔をしておる? しっかり掴まっておれ」
シュバ!
周囲に人が居ないタイミング空に舞い、ライアルに聞きながら村の方面へ。
「さすがに速いね。下手すると竜騎士より速いかもしれない」
「かもしれないではない、事実として速いのだ」
「フッ、そうかい。ところでメグミさん、キミに聞きたい事があるんだ」
穏和な表情から真剣な眼差しに。何かと思えば、まっく予想外な質問が飛び出してきた。
「ゴトーくんとはどういった関係なんだい?」
「はぁ?」
ゴトーに関しては一部の生徒に知られている。出所はグレシーで、私と共にラーカスター邸で生活しているとバラしてくれよったのだ。
しかしゴトーに興味を示すとはライアルも物好きだな。(←それは多分お前のせい)
「ゴトーは付人のようなものであり、特別な関係ではない。何か気になることでもあったか?」
「いや、その……年頃の男女がひとつ屋根の下で生活というのは、その……色々と誤解を招くというか」
コイツまさか、私とゴトーが男女の関係があると疑っているのか!?
「ないないないない、断じてない。何しろゴトーの奴は私に踏まれて喜ぶようなドMなのだ、あんな変態と男女関係を疑われるなど末代までの恥! 今すぐ訂正せよ!」
「わ、分かったよ、すまないメグミさん」
「分かればよい」
帰ったらゴトーに八つ当たりだ。
ってダメだダメだ、それではご褒美になってしまう! 何か奴を懲らしめる策はないものか。
ピクン!
「!?」
「メグミさん?」
この魔力反応、前にも感じた事がある。それもつい数時間前に。
「メグミさん」
並ならぬ魔力を放出して他を圧倒する者、これは魔王ベルフェーヌのもの!
「メグミさん!」
「――っとと、どうしたのだライアル?」
「故郷の村はすぐそこだよ、ほらあそこ」
奇しくもベルフェーヌの反応はライアルが示した村から少し離れた場所だ。私はベルフェーヌのところに向かいたい気持ちを抑え、ライアルの故郷へと降り立った。
シュタ!
「さてライアルよ、話では村が賊の手に落ちたと聞いたが、あの入口を塞いでいる連中に見覚えは?」
「ない、というか村の者じゃないね。この辺りは魔物なんて滅多に出ないから、入口を封鎖することもないし」
つまり賊だな。
「一応話だけでも聞いてみるか」
ライアルには返答しだいで即戦闘になることを告げ、入口へと向かう。
「お前たち、この村の者ではないな?」
「ああそうだ、この村は俺たちの占領下にある。言っておくがここだけじゃないぞ? 近隣の村は全て抑えている。勝手に出入りできると思うな」
「村の者が出入り出来ないだと? 貴様ら、何様のつもりだ」
「それを知る必要はない。どうしても知りたいのなら命と引き換えに入れてやる。分かったらさっさと失せな」
「そうか」
「なら命と引き換えに入れてもらうとしよう」
「あ? ――フゴッ!?」
男の腹に正面から拳をめり込ませた。臓器の幾つかは破裂したことだろう。
「こ、このガキ、調子に乗って――ギェア!」
もう1人の顔面には裏拳を叩き込む。口も開けん有り様に絶望するがいい。
「メグミさん、今の騒ぎで他の賊共が集まってきたよ!」
「狼狽えるな、まとめて倒せば済むことだ――アイスストーム!」
フィキーーーン!
集ってきたところを氷漬けにしてやった。真夏の広場に多数の氷像が並ぶのは絶景だろう。
「これでしばらくは動けまい」
「そのまま凍死するんじゃ……」
「それはそれ、村の様子を見て回ろうぞ」
まずは近くの民家を訪ねてみる。
「ここはトーマスさんの家だったはず。歳は一回り離れてるけれど、昔はよく遊んでくれたんだよ。トーマスさ~ん、ボクだよ、ライアルだよ」
返事はない。まさか既に……と最悪の可能性が脳裏を過ったが、家の奥からソ~っと顔を覗かせてきた1人の男が。
「……ほ、本当か? 本当にライアルか?」
「本当だよ。知らせを受けて飛んで来たんだ」(←物理的にな)
「そうだったのか。しかし村に入るのに苦労しただろう? 何の目的か知らんが、あの連中、村の行き来を制限して村中の子供たちを集めてやがるんだ」
「それって付近の村全てってこと?」
「そうらしい。しかもわざわざ獣人の子供に限定してるっていうんだから、奴隷商に売り飛ばすのが目的とも思えない」
ならば直接聞くしかあるまい。恐らくはボス的な立ち位置であろうベルフェーヌに。
「なぁライアル、アイツらを追い払ってくれないか? 早くしないと子供たちの身も危険に」
「うん、元よりそのつもりだよ。いいかな、メグミさん?」
「もちろんだ。私としても――」
「んだごりゃぁぁぁ!? どうなってやがる!」
外で怒声が轟いている。恐らくは賊のボス。
ならばと直接問い質すため、周囲に怒りをブチまけている男の元へと駆け寄る。
「貴様がボスだな?」
「あ"? 俺様に向かってとはいい度胸――ってテメェは!?」
驚きと共に大きく仰け反る男。よく見ると見覚えのある顔であり、この手で葬ってやりたいと思っていた憎悪の対象だった。
「まさか生きていたとはなぁ、ゾルーアよ」
「ク、クソォォォ!」
手下を放って逃げ出しすゾルーア。しかしここで会ったが数時間目、素早く正面に回り込んで奴の戦意を削いでやった。
シュタ!
「逃げられると思ったか? 貴様はレンたちにとって親の仇なのだ。生かしては帰さん、ファイヤーウオール!」
ゴォーーーーーーッ
「ヒィイ!?」
炎の壁でゾルーアを囲む。無理に出ようとすれば大火傷は確実。黙っていても火炙りの刑だ。
「た、頼む、許してくれ、俺は命令されていただけなんだ! 本当は殺しなんて……」
「ならば質問に答えろ。まずは1つ目、貴様は誰の命令で動いていた?」
「ディオスピロスの本当のボスだ、俺は代理で動いたに過ぎねぇ」
いまだ遭遇していない黒幕がいるのか。
「2つ目、貴様はなぜ生きている?」
「そいつぁ俺にも分からねぇ」
「……ほぅ?」
「ヒィ! ほ、本当だ、気付いたら生き返ってて、ベルフェーヌって奴に従わされてんのさ。奴が言うにはディオスピロスの命令だとかで……」
つまり魔王ベルフェーヌはディオスピロスの一員という事か。
「あ、あぢぃ、そろそろ解放してくれ……」
「フン、では最後の質問だ。貴様ら、この村で何をしている? 獣人の子供をどうする気だ?」
「お、俺も詳しくは知らねぇが、魔王の素質があるガキを探せって言われてんのさ。上手く洗脳すりゃ戦力として使えるかもって算段らしい」
魔王の素質と言えば、レン少年に掛けられていたデバフが……いや、まさかな。
「……で、それもディオスピロスの命令か?」
「ああ。正確にはベ――グワァァァァァァ!?」
「――何っ!?」
ゾルーアが首を押さえて苦しみ出した。のたうち回るため自分から炎に巻かれていき、呆気にとられている間に黒焦げに。
「あのゾルーアが殺られた!?」
「に、逃げるぞ!」
「ヒィィィ!」
遠巻きに見ていた手下共がゾルーアの惨状に真っ青になり、両手を上げて散り散りに逃げていく。
「メ、メグミさん!」
「おいおい嬢ちゃん大丈夫かい?」
ディオスピロス共が居なくなった事で、ライアルとトーマスが駆け寄ってきた。
「分からん。何かを喋ろうとした途端に苦しみ出したのだ。恐らくは……」
「そうだよ、口の軽い役立たずは処分しないとね」
「!? 誰だ! ――いや、その声は!」
上空から聞き覚えのある声が。何て事はない、見上げればあのベルフェーヌがこちらを見下ろしていた。
「魔王ベルフェーヌ!」
やはりコイツも関わってるらしいな。




