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メグミ、また火傷する……

「ふぁ~~~ぁ……」

「おい、アクビしてるのを見られたらジョゼファン様にドやされるぞ?」

「大丈夫だって。この邸は郊外だから人通りも少ねぇし、来客なんざ稀だよ稀」

「それもそうか。でもフランソワ様が戻ってきたりしてな」

「ハハ、ないない。自力で戻るには丸1日歩き続けなきゃならない場所に捨てられたって話だからな。魔物だって出るし、ペルニクス王国との国境にも近いときた。何かあってもおかしな場所じゃねぇって事さ」

「なるほど。いざとなりゃペルニクス王国のせいにできるわけだ」


 以上、現場からの中継だ。塀の隙間に身を隠すだけで気付かないとは、これがザル警備というやつか。

 さて、ガラテイン家の門番が暇そうに話していた通り、ここは我が依代(よりしろ)の自宅だ。目的はもちろん当主の抹殺で、2度と私に刃向かえないようにすることだ。

 よく言うだろう? 殺して良いのは殺される覚悟がある奴だけだと。私の場合は未遂だがな。

 という訳でだ……


「夜間の警備ご苦労」

「ん? なん――うぐっ……」

「おい、どうした――ぐぇ……」


 手刀により警備兵は気絶。(もろ)いな、実に脆い。更なる獲物を求めた私は、颯爽(さっそう)と庭を駆け抜けていく。ターゲットは当主や兄たち。奴らには魔王の逆鱗に触れた事を後悔させてやらねばな。

 そう、これは元の身体の持ち主であるフランソワへの手向け。私にはフランソワとして過ごしてきた記憶が残っている故に、躊躇(ちゅうちょ)なく切り捨てた家族が許せないのだ。

 どうせ今頃は呑気に食卓で笑い話でもしている頃だろう。フッ、せいぜい舌つづみを打つがいい。それが最後の晩餐になるのだからな。



★★★★★



「はぁ、それにしてもフランソワ、あの娘には心底がっかりさせられましたわ」


 妻のエミリシアが食前酒を一気に煽り、タメ息混じりに吐き捨てる。


「まったくだよ。俺の身内に無能力者が居たんじゃたまったもんじゃない」

「あんな出来損ないが妹など、ボクにとっては最大の汚点。居なくなって清々しました」


 息子2人も妻に同意し、ウンウンと頷いている。今日は娘のフランソワが降臨祭にて何の取り柄もスキルも無い事が判明したのだ。

 そうそう、降臨祭について補足しておこう。この催しは10歳を迎える子供たちの前に神が降臨し、どのような素質を保持しているかを告げてくれる重要なイベントの1つなのだ。それにより将来に向けてどう進むかが決まると言っても過言ではあるまい。

 ちなみにガラテイン家の当主であるこのジョゼファンには馬術の素質があったため、軍の騎馬隊育成に一役買ったこともある。


「フランソワは残念でしたが、我が家には有能な息子が2人も居ります。あなたたちには期待しておりますよ?」

「勿論だよ母上。俺の剣術でいつかは将軍の座を勝ち取ってやるんだ!」

「フッ、やはり兄上は血の気が多い。ボクの弓術での援護が必要かもですね」

「なんだと~? お前に助太刀されなくたって、俺1人で――」

「これフレデリック、それにフランシスも。2人とも食事の時くらい静かにしなさい」

「「はぁ~~~い」」


 まったく、血の気が多いのも考えようだな。しかし息子2人が武術に明るいというのは私の血を引いているからであろう。うむ、ガラテイン家の未来は明るいと言えよう。

 しかし、その輝かしい未来のためにはフランソワの存在は害でしかない。


「おい、そこのメイド、貴様にはフランソワの始末を命じておいたはずだ。上手くやったんだろうな?」

「ハッ!? そ、その……わ、わたくしが発見した時には既に事切れておりまして、その……」


 なんだ、魔物にでも食われたか。それなら手間が省けたというもの。

 だが何故だ? 何故このメイドは怯えている?


「なんだ? フランソワは死んだのだろう? それとも誰かに見られたのではあるまいな?」

「い、いえ! 他には誰も居りませんでした」

「ならよいが」


 後は数年後に遺留品が発見され、有耶無耶(うやむや)のまま終わるだろう。ま、せめて発見された時のために墓の場所は空けておくとしよう。


「ところで父上、(いささ)かメインディッシュが遅いとは思いませんか?」

「俺もう腹減ったよ~」

「む? 確かにそうだな……。おいメイド、メインディッシュはどうなっている?」

「ハッ、た、ただいま確認して参ります!」


 終始何かに怯えているメイドが逃げるように退出していく。

 そして気付いた。あのメイドはまだ若い。他者を殺す事に抵抗があったのかもしれん。我が家に使える前提で訓練は積んでいるはずだが、訓練と実戦では大いに異なる。今後はより一層の精進が必要となろう。後でしっかりと言い付けておかねばな。



 ガチャ!



「お、やっときたぁ!」

「まったく、待ちくたびれてしまいましたよ。早く並べてください」

「…………」


 台車を押して戻ってきたメイドだったが、部屋に一歩踏み入れてから微動だにしない。


「お~い、何やってんだよ~、さっさと並べろよな~!」

「…………ぅ」

「お~~~い! 聞いてんのよかよ~!」

「…………ぅぅぅ」

「はぁ? 何だって!?」


 メイドは何かを言いたげな素振りを見せるも、口ごもっていて聞き取れない。イラついたフレデリックがメイドの顔を覗き込んだその時!




「ごはぁっ!」

「――ひぃ?」




「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「あ……ああ……あぁぁぁぁぁぁ……」

「イ、イヤァァァァァァ!」


 口から血を吐き出したメイドがその場に倒れ込んだ。顔に血を注がれたフレデリックはパニックを起こして台車をひっくり返し、血溜まりに沈むメイドを見てフランシスとエミリシアが腰を抜かした。


「お、落ち着けお前たち! このメイドが急病に掛かったのだ、騒ぐほどの事じゃない」


 どうりで歯切れの悪い受け答えをすると思ったのだ、まったく汚らわしい。


「食事の席で不愉快だ、誰かそのメイドを焼却炉へ捨ててこい」


 食堂の隅で待機している私兵に命じる。が、誰も動こうとはしない。


「聞こえないのか!? 一刻も早く、その汚ならしいメイドを捨ててこいと言ったのだ! わかったらさっさと――」



 ビシュビシュビシュッ!



「――捨てて――」



 ゴトッ――ゴトゴトッ………



「――こい……」





「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 今度は私も腰を抜かした。何故ならあり得ない事が起こったからだ。メイドだけならまだしも、3人の私兵の首が床に落ちたのだ。

 そう、あっという間に護衛が全滅したのである。これで冷静を保てるわけがない!


「な、何だよ、何なんだよ、いったい何が起こってるんだよ~~~!」

「ボボボ、ボクにだって、わかわか、わわわ分かりませんよ!」

「た、助けてーーーっ!」


 ついに息子2人が発狂。妻のエミリシアは我先にと部屋から逃れようとした。が……



 ガンッ!



「あぐっ!?」


 部屋を出ようとしたものの、何かに弾かれ尻餅をつく。その直後、聞きたくはなかった声が食堂に響き渡った。



★★★★★



「何処へ行こうというのかね母上。食事中に席を立つのはマナー違反ではなにのかな?」

「フ、フランソワ!? ど、どど、どどどど、どうしてここに!」


 エミリシアがズリズリと後ずさる。まさか実の娘を見てここまで驚かれるとは。だが理由を聞かれたのなら教えてやらんでもない。特別に教えてやろう。


「フッ、決まってるではないか。最後の晩餐を見届けに来たのだよ――――フン!」



 バシャーーーッ!



「ヒッ!? ななな何を……」

「清めの儀式だよ。この邸は腐っているようなのでね。良質な酒は神に捧げるに相応しいだろう?」


 そう言い放ち、酒蔵から拝借してきた酒樽を担いで部屋中に振り撒いた。食堂以外も同様に仕込んでいるのでね、後は火種が飛び込めばキャンプファイヤーの出来上がりというわけだ。


「お、お前、ホントにフランソワ……なのか? もしかして幽霊か? こここ怖い怖い怖い!」

「フハハハハハ! 幽霊とは面白い事を言う。教えてやるがフレデリックよ、幽霊とは本来手に触れることは出来ないのだよ。つまり……」



 グイッ!



「ヒィ!?」


 小便を撒き散らしているフレデリック――つ~か汚ねぇなコイツ! その情けない長男の襟首(えりくび)を掴み上げてやった。


「こうして触れる事ができる時点で幽霊とは異なるというわけだ。つまり……」



 ダンッ!



「ぐえぇ……」


 そのまま背負い投げで壁に叩きつけた。痛みと恐怖で涙目になっているが知ったことか。


「な、なんて野蛮な! こんな奴がボクの妹なわけがない!」

「漫画のタイトルのような台詞は止めてもらおうか。それに決めつけも良くない。なので言わせてもらうがフランシス、私とて貴様のように妹を見下す輩を兄とは思いたくないのだよ――フン!」



 バシィ!



「ぎゃあ!?」


 たった一発のビンタでオーバーに痛がる軟弱者め。


「ああ、ああああ……」

「おや、実の娘を見て精神崩壊かね? 同性として余りにも情けない限りだがな」


 母親は既に戦意喪失と。後はジョゼファンとかいう父親だけか。


「だ、誰か、誰か来ぬかぁぁぁ!」

「フッ、無様な負け顔ではないかお父上。既に邸にいる兵たちは無力化した。貴様らが最後だ」

「そ……んな……」


 ジョゼファンの顔から血の気が引いていく。私の武を目の当たりにしたのだ、嘘ではないと理解したのだろう。


「ま、待て、待ってくれフランソワ、お前のその力は何だ? まるで毒でも盛られたのかと思えるメイドの死、いつの間にか首を落とされていた護衛、更には邸中の兵を短時間で倒すほどの実力、このような力、降臨祭では明かされてなかったはずだ。なのにどこからそのような力を!」

「ほぅ? 割かし父上は冷静でいらっしゃるようで。いかにも、当時のフランソワにこの力は無かった。授かったのはフランソワが死んだ後だよ」

「し……死ん……だ?」


 ここで一気にネタばらしをしてやった。私は転生者であってフランソワではないということ。更にフランソワと入れ替わるように転生を遂げたことも。そして極めつけは……


「私は魔王ルシフェル(←たった今思い付いた)の化身。この世に舞い降りし漆黒(しっこく)の闇。貴様ら凡愚(ぼんぐ)がどれだけ足掻こうと、決して手が届くことのない崇高な存在。それが私――メグミ・タカスギである!」バァン!


 唐突のドヤ顔に固まるジョゼファン。これは決まっただろう? そうだろう? その証拠に言葉をなくして(くち)パクしているからな。


「どうだ、何か言い残したことは有るか? 有るなら聞いてやろう。聞くだけだがな」

「何が……」

「む?」

「何が目的だ? 仮に貴様が魔王だとして、何が目的でこのようなことを!」


 それは言うまでもないんだがなぁ。


「復讐の代行だよ。フランソワが生きていたなら復讐するのではと思ったのでな」


 実のところこれは嘘だ。フランソワは心優しい少女だったようだからな。復讐などは考えまい。これは私――メグミ・タカスギの単なるエゴだ。



 タタタタタタ……



「フッ、どうやらゲストがやって来たようだ」

「ゲスト……だと?」


 何とか立ち上がったジョゼファンが窓の外へと視線を移す。


「あれは……スマイリス家の騎馬隊! おお~い、私はここだ、助けてくれぃ!」


 スマイリス家の兵を見たジョゼファンが窓から身を乗り出す。しかし……



 シュ――――タン!



「ヒィ!?」


 顔から数センチ離れた頭上にスマイリス家の兵が放った矢が突き刺さる。なぜ!? と思っているだろうな。そこで絶望的な一言を添えてやることに。


「スマイリス家の奴らめ、何を血迷うてかペルニクス王国から拐ってきた女性を監禁していたらしくてな、哀れだから解放してやったのだよ。もちろんフランソワの姿でな」

「は、はぁ!?」

「その後も直接邸に出向いて軽~く挑発してやったらこの通りだ。当主自ら攻めてきたようだしな、よほど貴様の首を取りたいと見える」

「んな!」


 さて、もう分かっただろう? 私が画策したのはガラテイン家とスマイリス家の共倒れだ。


「さて、邸に突入してきたようだな。ここに来るのも時間の問題だろう」

「そんな……」

「だが心配はいらんぞ? 死ぬのは貴様らだけではないからな。貴族同士、精々あの世で傷を舐め合うがいい。では私はこれで失礼しよう。きたねぇ花火を存分に味わってくれたまえ」

「ま、待て――」



 シュン!






 ドォォォォォォォォォォォォン!


 邸から上空へと転移した直後、ガラテイン家の邸が大爆発を起こした。


「春先に花火は少々早すぎたかな? まぁ転移した記念だ、夜空を彩る一時を堪能しようではないか」



 チリチリチリ……



「むぅ? 何か熱い気が……って、ま~た服が燃えてるーーーっ!? って、アヂヂヂヂヂ!」


 花火を楽しもうとは思ったが自分が花火になる気は更々ないぞ!? ってか熱っ!


 まったく、転移初日から散々である!


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[気になる点] いや、『弓矢が突き刺さる』? 弓が刺さるって弓がなくなりゃ残った矢はどうするの? 『放たれた矢が突き刺さる』とか別の言葉で言ったら?
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