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衝撃の発表

「よく来たな諸君。私が当主のリチャード・グリーンフォースだ。ここに来たという事は依頼内容は理解していると見てよいのだな? んん?」

「もちろんです。俺――コホン、自分はゴトー。隣は妹のフェイ。後ろの2人が護衛として参加します」

「宜しい。では中に入りたまえ。娘のグレイシーヌは準備に時間がかかりそうなのでな、しばし休んでてくれたまえ」

「はい、ではお言葉に甘えて」


 応接室に通され当主が退室したところでホッと胸を撫で下ろす。いよいよ今日は国王主催の晩餐会で、依頼者はグリーンフォース家の当主。何の偶然か娘のグレイシーヌはメグミの同級生で、親友と言ってもよいくらいの仲なのだという。


「ちょっと~、どうしてあたしが妹なのよ!? アンタより歳上でしょ!」ゲシゲシ!

「実年齢は関係ない。見た目が重要なんだ」

「ふざけんな! これで御飯が不味かったら許さないからね!」ゲシゲシ!

「国王主催で不味いものを提供したとあっては面子が丸潰れだ。少なくとも不味くはないだろう。それと足で蹴るのを止めろ。貴族の娘らしく振る舞え」

「わ~ったわよ、美味しい御飯に期待して許してあげるわ」


 俺としてはフェイを連れてくる気はなかったんだがな。戦闘の可能性を考えたら数が多い方がいいとメグミに言われたんだ。人化状態のフェイは俺より劣るが、それでも一般兵よりは遥かに強いからな。いざという時は頼りになるだろう。


「その……ゴトー、フェイさん……とは本当に兄妹なのかい? 兄の割には見下されてるというか……」

「それは――」

「あ~それね。気にしなくていいよ? ゴトーはマゾだから蹴られて喜ぶような奴なのよ。だから2人ともドンドン蹴っちゃって」

「「それはさすがに……」」


 いい加減風評被害も甚だしいんだがな。確かにフェイの力で蹴られるとツボを刺激される感覚はあるが一般人には危険だ。(←お前は一般人じゃないだろ)


「ま~でもあれよね、贔屓目に見なくてもゴトーってイケメンよね。ここの娘にも天然で垂らし込むんじゃないの~?」

「それはない。あくまでも依頼する側とされる側であり、それ以上の関係は持たない」

「ホントに~?」

「なんだその顔は、俺は本当に――」



 ガチャ!



「皆様、お待たせしました。私がリチャードの娘のグレイシーヌです。本日は依頼をお受けいただきありがとう御座いま――」


 顔を上げた貴族令嬢が俺の顔を見て固まる。どこかおかしいのか? 身なりは整えてきたはずだが。

 俺の方もどうしていいか分からず令嬢の出方を伺っていると……




「――うっわ~! すっごいイケメ~ン!」

「ど、どうも……」

「あっは~~~ぁ、その「俺は飾らない」みたいな感じが特にいいよ~! サトルに断られた時はどうシバき倒してやろうかと思ってたけど、アイツの事なんかどうでもいいわ! ねぇねぇ、今夜だけは私の彼氏って事にしてくれない?」

「いや、それは……」


 これは参った。まさかここまで食い付かれてしまうとは。フェイに助けを求めようにも肩を竦めて呆れてるし、後ろの2人は苦笑いだ。


「ね~ぇ、ダメなの~? それとも他に好きな人がいるとか~?」

「そ、そういうわけではないが」

「なら問題ないよね! ほらこっち向いて」

「え? いったい何を――」

「ん――」



 突然のことで頭の中が真っ白になる。この令嬢、周りの目も気にせず堂々とキスをしてくるとは。しかも唇と唇、いわゆるマウストゥマウスだ。

 俺としても前世で女性と親しくなった事は皆無。どうしていいか分からず、なすがままの状態だ。

 やがて令嬢が離れると満面の笑みを浮かべてハグをし、耳元で(ささや)いてきた。



「んっふ~~~♪ 私のファーストキス、どうだった~?」

「その……どう……と言われても……」


 まいったな、まさか思考停止に追い込まれるほど刺激が強いとは。だがある意味助かった。色仕掛けの相手に敵意が有ったら最悪の事態も考えられる。これを機に慣れておかねば。


「あれあれ~、顔が真っ赤だよ~? もしかして初めてだった?」

「うん、まぁ……」

「ホントかな~。ゴトーくんみたいなイケメンに女の子が寄り付かないとは思えないんだけど~?」

「すでに学園で追い回されたよ。お陰で数日しか通っていないのに休学状態だ」


 休学は本当だ、理由は違うけどな。

 さて、そろそろ反撃に出よう(←戦闘じゃねぇよ)、色仕掛けに屈しないと証明し、適度な距離感を保つんだ。


「だがキスまでされたのは今日が初めてだ。大変申し上げにくいのだが、これ以上の深い関係を望むのであれば相応の覚悟を――」

「ほへぇ~、ホントに初めてだったんだ。じゃあ責任取って婚約してあげちゃう! ほら、これで覚悟を示せたでしょ?」




 墓穴を掘った……。(←見事な返り討ちだな)


「い、いいのか? そんなにあっさりと。取り消すなら今のうち――」

「取り消す? ないな~い♪ 私グレイシーヌはゴトーくんと婚約しま~す!」

「マジ~? おめでと~ぅ!」


 肩を組まされ完全敗北の図だ。しかもフェイまで悪乗りで追い打ちと来た。この事態、どうやって収めればいい? 何か方法は…………そうだ!


「……コホン。グレイシーヌさん聞いて欲しい」

「何々? 婚約発表の日時?」

「そうではなく、俺はすでにある人に運命を委ねているんだ。その人の許可なくキミと一緒にはなれないんだよ」

「え~、なにそれ最悪~。それでそれで、私の恋路を邪魔するKYって誰なの~? お金の力を見せちゃうよ~」(←お前もお前で言ってる事は最悪だ)

「その人はキミがよく知っている――」




「――メグミだよ」

「え"…………」




「メグミって、あのメグちゃん?」

「そうだ」




「私の親友と言っても過言じゃない、あのメグちゃん?」

「そうだ」




「時々奇妙な言動で周りをドン引きさせているあのメグちゃん?」

「そうだ」




「以前「胸が成長するスキルが無いのはおかしいではないか!」とか叫んでいたあのメグちゃん?」

「メグミなら言いそうだ」




「うっへぇ~、メグちゃんがライバルかぁ。これは強敵かな~。でもでもぉ、ファーストキスは私となんだから、私の方がリードしてるよね? ね?」

「それは……どうなんだろう。俺としてもメグミは特別な存在だからな」(←物は言いようだな)

「じゃあ私とも特別な関係だよ~。ね? 特別特別~ぅ!」

「そう……なのか?」(←流されてどうする……)



 ガチャ!



「待たせたな諸君。外に馬車を用意したから乗ってくれたま――」


「だって~、私の()()()()()()()んだし~ぃ、個人的な新密度はMAXだよ!」


「――は?」




「はぁぁぁぁぁぁあ!? そそそそ、それはいったいどういう意味だねキミィ、んん~!?」


 とびっきり不味いタイミングで先の台詞を聞かれてしまい、当主が掴みかかってきた。


「もしかしなくてもキミィ、このリチャード・グリーンフォースの愛娘を傷ものにしたのかね!? どうなんだね、んん!?」

「いえ、決して傷など付けてません」

「そうだよパパ、キスの先はこれからのお楽しみなんだから」

「キキキ、キスの先だとぉ~~~お!? おおおおお前ぇぇぇ! 娘を宜しく頼むぞぉぉぉぉぉぉ!」

「え……」

「さっすがパパ、話が分かる~ぅ♪」


 分かっているのか? 本当に分かっているのか? ただ混乱しているだけじゃないのか? いや、混乱しているなら聞いてもムダか。



 ガチャ!



「も~ぅアナタったら、いつまで待たせる気ですの? とっくに準備は済んでますのに」

「あ、ママ!」

「いやなに、グレイシーヌの婚約者がたった今決まったところなのだよ」

「……ほぅ? まさかとは思いますが、そこの小僧が婚約者ということで?」ゴゴゴゴゴ……


 まさかの第2ラウンド突入である。



★★★★★



「身分証を確認しました中へどうぞ」

「うむ」

「ところでお連れのゴトー様はボロボロのようにお見受けしますが」

「すまないな、少々込み入った()()()()をしてきたところなんだ。気にしないでもらえるとありがたい」ボロッ……

「さ、左様で御座いますか……」


 何とか城に着いたか。父親と違って母親の方はいきなりの魔法連発で、危うく服がボロボロになるところだった。服を汚さないために手や顔にアザができてしまったが、(←どうやって!?)何とか気を静めてもらう事に成功。急いで馬車を飛ばしてきたというわけだ。


「見て見てゴトーくん、皆が私たちを祝福してくれてるよ!」

「そ、そうか……」

「メグちゃんも来てくれれば見せつける事ができるんだけどね。ちょっとした用事で遅れそうだから同行できないって断られたの。用事って何だろうね?」

「さぁ……」


 実はロザリーの件はメグミに相談済みなんだ。俺だけでは本性を暴けそうにないからな。裏付けを急ぐからロザリーが公衆の面前から立ち去らないよう時間を稼げと命じられたが、間に合うのだろうか?


「グレイシーヌ、ゴトーくん、フェイちゃん、国王様がお出でだ。端の方で待機しよう」


 リチャード男爵に小声で忠告された俺たちは、グラスを片手に会場の隅っこへと移動する。身分の低い者はより遠くへ追いやられるのがデフォらしい。護衛に扮したシューベルスとフォルシオンも一緒だ。

 国王が2階に上がって会場全体を見下ろす形を取ると、ざわついていた貴族たちが口を閉じて国王の言葉を待った。


「ウォッホン! 本日集まってもらったのは2つの重大発表があるためだ。内1つはワシ自ら発表させてもらおう。1つ、我々は北の蛮族レクサンド共和国に対して互角以上の展開に持ち込み、遂に奴らの牙城を崩すまでに至った! 後は残党を駆除するのみで、勝利が飛び込んでくるのも時間の問題である!」

「「「おおおっ!」」」


 これはメグミから知らされている通りだ。ちょくちょく前線に赴いて戦況を動かしたと言っていたからな。レクサンド共和国を潰したら、いよいよレマイオス帝国に取り掛かるらしいが。


「さて、2つ目の発表だが、ここはやはり()()から聞くのが良いだろう」


 国王の視線の先は第二王女ロザリーで、国王と入れ替わるように前へと出てきた。


「皆様、大変長らくお待たせしました。わたくしロザリーは、本日この場を借りて婚約者の発表をさせていただきます」


 やはりか。正直ところロザリーの婚約者に興味はないが、このまま事態を収めてしまうわけにはいかない。

 いっそ騒ぎを起こして妨害するか? そう思案したその時、突如として入口側が騒がしくなった。

 まさかメグミか!? と思ったが全くの別人で、紫髪のロン毛男が手下を伴いズカズカと入って来るところだった。


「何だアイツは? 随分と態度がデカいようだが」

「う~ん、私にも分からないなぁ。ねぇパパとママ、あんな人居たっけ?」

「いや、少なくとも王都には居らんよ」

「そうねぇ、美形のようだけれど見たことはないかしら」


 貴族の当主ですら知らない輩? だから入口が騒がしかったのか。

 周囲の貴族たちも「あれは誰だ?」や「新顔か」等と(ささや)き始め、より喧騒が大きくなる。

 そんな中、フォルシオンだけは見覚えがあったようで、俺の耳元でボソリと呟いてきた。


「間違いありません、あれはレマイオス帝国の元帥ムシェールです」

「アイツが?」


 フォルシオンたちを送り込んだ張本人のお出ましか。しかし何のためにここへ? そんな疑問を他所に、ムシェールがロザリーの隣へと並び立つ。


「皆さま静粛に。彼は特別ゲストとして私が招待したのです」

「と、特別ゲストだと? そんな話は聞いておらぬぞ! いったい奴は何者なのだ!?」


 憤慨する国王。しかしロザリーは冷静に返し……


「だってサプライズですもの。事前に話したら反対するに決まってますわ」

「ぬぬぬぬ……サプライズなんぞどうでもよい、奴は誰なのだ!」

「彼の名はムシェール。レマイオス帝国の元帥様ですわ!」

「な、なんだとぉ!?」


 驚く国王。いや、国王だけじゃない、貴族たちもどういう状況なのかが分からないでいた。

 誰もが絶句する中、ロザリーだけは淡々と話を進め、遂には爆弾を投下してきた。


「本日彼を呼んだのは他でもありません。わたくしロザリーの婚約者は彼、ムシェール様なのですから」

「んな、なななな、なんだとーーーぅ!?」

 

 ロザリーの発言でさらに仰天する国王。敵国の武将の招いただけではなく、あろうことか婚約者だと言うのだ。これには貴族たちも反発し、次々に罵声を浴びせ始めた。


「こんなの聞いてないぞ!? どういう事だ!」

「敵国の将を婚約者にするとは不届きな!」

「王女は国を売り渡すつもりか!」


 もっともな反応だ。ペルニクス王国は長きに渡りレマイオス帝国と敵対してきた過去がある。そこにきて自国の王女を差し出すのは人質を渡して媚を売る行為に等しいというもの。それでもロザリーは自信たっぷりに……

 

「落ち着いて下さい、皆々様。わたくしがレマイオスに嫁ぐことで、長らく続いた争乱に終止符が打てるのです。それどころかより強固な結束が生まれ、この先の頼れるパートナーにもなり得る。これほど平和的な話がどこにあるのでしょう? 遺恨なき世界、素晴らしいではありませんか!」

「バカな! ロザリーよ、いったい何を考えておる!? こんなこと――こんな……くぅ……」



 バタン!



「アナタ!?」

「「「国王様!?」」」


 どうやらショックで失神したらしく、王妃が付き添って会場から運び出されて行く。だがロザリーは開き直ったかのように話を続けた。


「動揺するのは分かります。ですが遺恨とはどこかで断ち切らねばならないもの。憎しみは憎しみしか産み出さないのです。それを終わらせて見せましょう、他ならぬわたくしの代で」


 ダメだ、国王があの状態では止められる者がいない。シューベルスもショックで顔を手で覆っている。

 メグミもまだ現れそうにないとなれば、やることは1つ!



「その婚約、待ってもらおう!」


 堪らす俺が中央に躍り出る。全員の視線が一斉に俺へと向けられる中、ロザリーに向けて変装を解いてみせた。


 バッ!


「お、お前は!」

「久しぶり――とも言うべきか? まさかアンタがこんな大それた事を企んでいるとはな」

「それはこちらの台詞です。我が城を土足で踏み荒らした罪は償ってもらいましょう。――者共、この曲者を捕らえなさい!」



 ザザザザッ!



 命じられた兵士たちが一斉に取り囲む。ここで暴れるとグレイシーヌたちまで巻き込んでしまう。こうなれば一度捕まるしかないか。

 諦めかけたその時、俺に残っていた僅かな運が希望を手繰り寄せてくれた。


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