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王女の記憶

 シューベルスとフォルシオンの2人と共に貧民街へと移ってからしばらく経過した。2人は家に隠り、俺1人で情報を集める日々を送っている。

 そういえばあの2人、日に日に仲が深まっていってるな。シューベルスに至っては、まるでロザリーと接しているかのようだと口走るまでに。奴曰くロザリーの面影を感じるとか何とか。幻覚でも見てなければよいが。

 一方のフォルシオンも少しずつだが記憶が戻りつつあるようだ。思い出したのは自身が何らかの特殊部隊に所属していたという事で、それもかなり上の立場なんだとか。だとしたらヘマでもして記憶を消されたんだろうな。消したのはロザリーが濃厚――と。


 それはさておき、今日は久々に冒険者ギルドに顔を出そうと思い、情報が集まりそうな夜間にやって来たんだが……


「ちょい待ちぃや、そのまま入ったらエライ事になるでぇ」


 扉に手を掛けようとしたところで背後から腕を掴まれた。振り向くと俺と同年代の少年が呆れ顔でタメ息をついているところだった。


「お前、Sクラスのゴトーやろ? ワイはDクラスのサトルっちゅうもんや」

「学園の生徒か。それで――」

「待て待て、こないな場所に長居は無用や。早く離れるで」


 仕方なしにサトルの後を追って路地裏に身を隠した。


「それで、エライ事とは何だ?」

「お前知らんのか? 城の兵士たちがお前のこと捜し回っとるんや。ほれ」


 押し付けられたビラを広げる。そこには俺とシューベルスの似顔絵が描かれており、有力な情報提供者には金貨が貰えるらしい。


「まだ一般人には知られとらんけどな、金の亡者が巣くうギルドなんかに駆け込んだら一発アウトや」

「なるほど、それでか。だがどうしてサトルが忠告してくれる? 通報した方が儲かるだろう?」

「アホか。いくら金が欲しい言うても学園の仲間を売るような外道やないわ。そないな真似したらご先祖にシバかれるっちゅ~ねん」


 義理堅い奴のようだ。見た目はチャラそうだがな。


「ま、アンタの実力は知っとるでぇ? 入学試験のアレはド派手やったからな~。けど1人でやれる事には限界があるんや、せいぜい注意しとき」

「忠告感謝する。では――」

「ちょい待ち待ち! 依頼を受けに来たんちゃうんかい! ド親切なワイが仲介したるで、ほれ!」

「む? これは……」


 依頼書には晩餐会の出席と書いてあった。依頼者の娘には貴族繋がりの友人が少なく、10~15歳の同席者を募集しているらしい。同時に護衛も募集しているらしく、俺たち3人が参加するには好条件と言えるだろう。

 しかし晩餐会か。少し前に城でブチ壊したばかりだ。あの時の二の舞に――




「ちょっと待て、開催場所が城になっているぞ!」

「な~に驚いとるんや? 国王の主催なんやから当たり前やろ。つっても行く前に変装くらいせぇよ? バレて面倒が起こってもワイには責任とれへんしな」

「待つんだ、引き受けるとは言ってないぞ!? 勝手に話を――」

「固いこと言い張んなや。ギルドに入ろうとしたのを止めたったやんけ。それにな、ワイは堅苦しい催しは大嫌いやねん。ああいう場にはワイみたいな獣人を毛嫌いしてくる奴もおるからな。その点アンタはイケメンの人間やし歓迎されるやろ。ほな頼んだで!」


 依頼書を押し付けたサトルは脱兎の如く走り去って行く。

 やれやれ、またロザリーとの対面か。何とかして避けれないものか? 飛んで火に入る夏の虫はゴメン被りたいところだが……



 ……いや、むしろ好機かもしれない。フォルシオンの記憶を解く鍵はロザリーだ。晩餐会で奴を尋問できれば或いは……


「フッ、サトルには感謝しないとな」


 俺は依頼書に記された日時を目に焼き付け、シューベルスたちが待つ貧民街へと引き返した。



★★★★★



 中心街とスラムとの間に有る貧民街。今ではすっかり慣れたものだが、入居した直後は物乞いと目を合わせてはいけないという暗黙のルールを知らずにいたため、うっかり目が合い足にまとわりつかれたのは良い思い出だ。(←本当か?)

 彼らから目を逸らしつつ新居へ急ぐと、あと僅かというところでドタバタと物騒な物音がしているのに気付いた。


「喧嘩か? 真っ昼間から迷惑な。いったいどこの奴らが――――まさか!」


 失念していた。一度は退けたものの、闇ギルドの襲撃が終わったとは限らないじゃないか!


「シューベルス、フォルシオン、無事か!?」


 胸騒ぎを覚えて新居の扉を蹴破る。そこにあった光景は……



「ゴトー、いいところに! 早くフォルシオンを止めてくれ!」

「は、離して下さい、もう私には死ぬしか道は残されていないんです!」

「フォルシオン!」


 視界に飛び込んできた光景は、自分の心臓にナイフを突き立てようとしているフォルシオンと、その手を必死に掴んでいるシューベルスだった。

 状況を理解した俺はフォルシオンが持つナイフを強引に取り上げる。


「バカなことを! いったい何を考えている!?」

「思い出したんです、全てを。そうしたら私……」


 項垂れて泣き出すフォルシオン。ヤバイ記憶でも甦ったか。これは詳しく聞かねばと考え、破った扉をテキトーに修復してフォルシオンが落ち着くのを待った。




「……取り乱してすみません」

「それはいいが、いったい何を思い出した?」

「……特殊部隊……だったんです。それも後方支援特殊部隊隊長という立場で……」

「それは前に聞いた。恐らくはペルニクス王国で秘匿されている特殊部隊ではないかと――」

「違うんです! ペルニクス王国じゃありまぜん。敵対国であるレマイオス帝国の部隊なんです」

「「レマイオス帝国……」」


 よりによってレマイオス帝国か。


「元帥のムシェールに命じられ、私の他にも多くの隊員がペルニクス王国に潜入しました。内部で破壊活動を行うことで国力の低下を狙ったのです。ですが結果は散々なもので、次々に生命反応の消滅が確認される有り様。最後に残ったのは私1人だけ……」


 メグミにはあの国から送り込まれた特殊部隊の隊員を見つけ出せと言われていた。殆どは排除したが最後の1人が見つからないんだと。それがまさかフォルシオンだったとは……。


「こんなことなら思い出したくなかった。何も知らずに――あのまま地下牢で過ごしていれば、私は……」

「「…………」」


 俺もシューベルスも言葉を失う。かける言葉が見当たらないんだ。

 俺としてもフォルシオンを手に掛けたくはない。親しくなりすぎたんだ。フッ、メグミには絶対服従と決めたのにこの有り様とは。転生したところで所詮は俗物か。

 しばし重苦しい空気が立ち込めた後、それを打ち破るように発したのはシューベルスだった。


「そんなの……逃げればいいじゃないか」

「シュ、シューベルス?」

「誰にだって受け入れたくない事の1つや2つは有るだろ? だったら逃げるんだよ、立場も何もかも捨てちゃってさ、いっそ只のフォルシオンになってしまえばいい――って、現在進行形で逃げているボクが言っても説得力ないか、ハハハハ……」


 笑ってはいるが、シューベルスも辛いはずだ。冒険者ギルドも無断で休んでる状態だしな。指名手配に無断欠勤、元の邸には解雇通告が送りつけられているだろう。


「どうかなフォルシオン、キミさえ良ければこれからも一緒に居て欲しい――いや、ボクと一緒に居るんだ、頼む!」

「ええっ!? えっと……その……」

「こんな形で卑怯だと思われるかもだけど聞いて欲しい。キミと話しているうちにキミに()かれていくのを感じたんだ。例えキミが敵対国の人間だったとしても、この気持ちに嘘偽りはない。だからフォルシオン、死ぬまでボクから離れないでくれ!」


 フォルシオンの両手をしっかりと握りしめるシューベルス。真剣な眼差しを受けたフォルシオンは、目に涙を浮かべ……


「私で……良いんですか? 本当に?」

「もちろんだ!」

「分かりました。ふつつか者ですが、これからも宜しくお願い致します」

「フォルシオン!」


 抱き合う2人を置いて、静かにその場を後にした――いや、リビングから離れただけなんだがな。まさか目の前で恋愛劇を繰り広げられるとは。アレが若さというやつか。(←今のお前は未成年だし、ついでに言うと少しは恋愛感情を学べ)

 それから少し間を置いて戻ってみると、2人はより一層親しげに話し込んでいた。


「その様子なら大丈夫そうだな」

「うん、ありがとう。これもゴトーのお陰だよ」

「俺は何もしていないぞ? お前の気持ちが伝わったんだろう。フォルシオンも良かったな」

「フフ、お2人には感謝しています。ですが不思議ですね、私には特殊部隊での記憶があるんですけれど、何故かペルニクス王国で過ごした記憶も微かに残っているんです」

「幼少期の思い出かい? 出来ればその時にフォルシオンと出会いたかったよ」

「ううん、それがね、幼少期には既にシューベルスと出会ってる記憶があって、毎日のように城で遊んでたような感じで」

「……え?」


 信じられないという表情のシューベルス。聞けばコイツの両親は当時城に住まわされていて、シューベルス本人も城内で遊ぶことが大半だったと。

 だが遊び相手は歳の近かったロザリーしか居らず、他に遊んだことのある女の子は存在しないと。


「どういう事だ? お前は幼少期から二股を掛けていたのか?」(←そこじゃない!)

「ちちち、違うよ、本当にロザリーとしか遊んでなかったんだ。――フォルシオン、その記憶は確かなのかい?」

「はい、多分……ですけれど。例えば中庭に施されていた噴水のマジックアイテムをシューベルスがうっかり壊してしまい、鶏が壊したのだと2人で口裏を合わせた記憶も」

「!!! そ、その事実はボクとロザリーしか知らないはず! フォルシオン、まさかキミは……」


 フォルシオンにはロザリーの記憶がある。奇しくもシューベルスが裏付ける形で判明した。ロザリーを尋問するネタが増えたな。


「何にせよロザリーだ。奴には聞きたいことが山ほどできたからな」

「けれどどうやってロザリーと接触を? 婚姻発表を控えてる今、次に彼女が人前に姿を現すのは大々的に公表する晩餐会の場でしか――」

「問題ない。ある人物からありがたい依頼を譲ってもらったからな」


 サトルに貰った依頼書を2人に見せた。


「一週間後、次の晩餐会が開かれるらしい。そこで白黒つけようじゃないか」


キャラクター紹介


サトル

:クレセント学園に通うDクラスの男子生徒。Sクラスのゴトーは学園内での接触はないが、入学試験が行われた場にいたためにゴトーの実力を知っている。クラスメイトの同行者として晩餐会の出席を頼まれていたがゴトーに押し付けトンズラ。後日メグミにボコられることとなる。

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