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第二王女と囚われの女

 偶然ではあったが第二王女ロザリーの幼馴染みであるシューベルスと知り合い、後日ペルニクス城にて催された晩餐会へと参加した。

 執事のワドキンスが手の込んだ変装を行ってくれたので、シューベルス本人だとは誰も思うまい。

 参加した方法か? もちろん正面からは入っていない。上空から入ればフリーパスだ。


「第二王女、ロザリー様のご入場~~~!」


 宝石を散りばめた純白のドレスに身を包み、第二王女のロザリーが満面の笑みでご登場。年頃の少年貴族から歓声が上がる中、優雅に一礼したロザリーがホールの中央へと移動していく。


「ロザリー……」


 ホールの隅から変装したシューベルスがロザリーを見つめている。(はかな)げに眺めるその姿は、目に写る者が手の届かない存在であることを認識しているかのようだ。


「しっかりしろシューベルス。ここに来たのはロザリーの真意を確かめるためだろう? まだ決まったわけじゃない、最後まで諦めるな」

「そ、そう……だね。だけど見てごらんよ、彼女の幸せそうな表情を。きっとボクのことなど忘れてしまったに違いない……」

「たかが数週間で忘れるほどの鳥頭(とりあたま)とは思いたくないがな。それよりしっかり見ておけ、王女の言動で何が有ったか分かるかもしれない」


 こちらのやり取りなど知る筈もない王女がホール中央で立ち止まった。


「ご機嫌よう、皆々様。さっそくですが、この場を借りて重大発表をさせていただきます」


 重大発表というフレーズに貴族たちがザワつく。シューベルスも肩を落として俯く。これはいよいよ婚姻発表かと(ささや)かれる最中、この場に不釣り合いな重装備の御老体がノッシノッシと王女の隣へ。


「ではディアンド元帥、お願いします」


 御老体の正体は元帥。まさかこの男が? いくらなんでもそれは――と、誰もが思っただろうが、元帥の口からは予想外の言葉が飛び出す。


「諸君、聞いて欲しい! 我々はルバート王国との戦争を優位に進め、遂には地図上から消し去ってやることに成功した!」

「「「おおっ!」」」


 自国の脅威が1つ減ったことに対し、会場の貴族たちから歓声が上がる。てっきり婚姻の話だと思ったんだがな。まぁ重大発表には変わらないか。


「しかしだ! 問題はここからだ。誠に信じがたいことに、ルバート王国にトドメを刺したのは北方のレクサンド共和国だという――つまり! あろうことかレクサンドの盗人めが横から掠め取ったのだ!」


 会場内が再びザワつく。要約すると、ルバート王国が弱り切ったところをレクサンド共和国が先に占領してしまったということらしい。

 これには憤りを露にする貴族も出始め、賊に成り下がったレクサンドを許すなだとか、打倒レクサンド共和国などと叫ぶ大合唱に。

 それを見た元帥がウンウンと頷き、静まるよう手を挙げると再び話し始める。


「諸君らの主張はもっともだ。レクサンドの行いは許されざる蛮行! 戦で散った者たちがあまりにも不憫(ふびん)である! よって我がペルニクス王国はレクサンド共和国に対し、宣戦布告を突き付けるものとする!」

「賛成だ、レクサンド共和国なんぞ滅ぼしてしまおう!」

「そうだそうだ、レクサンド共和国を許すな!」

「ペルニクス王国に勝利を!」


 ザワめきが怒りに変わり、レクサンド共和国に対する罵詈雑言(ばりぞうごん)で会場が溢れ返る。これで貴族からの支持も得られ、積極的に支援する者も増えるだろう。ロザリーの婚姻を匂わせて上手く釣り上げたものだ。


「それでは皆々様、どうぞお食事を楽しんでくださいませ――と申したいところですが……」


 その台詞に全員がクエスチョンマークを浮かべ、視線がロザリーへと注がれる。やはり婚姻の件かと思われたのだが、ロザリーの視線が何故かこちらに向けられ……


「どうやら水を差す者が現れたようですね」


 まさかコイツ、俺を見ているのか? いや微妙に違う、視線が向けられているのは!


「貴方には接近禁止を言い渡しているはずですよ――」




「――シューベルス」


 皆の視線が一気に集中する。当然シューベルスの存在を多数の貴族が知っており、会場内にどよめきが起こった。

 いや、そんなことはどうでもいい。今はこの場をどうするかだが……チッ、仕方ない!


「シューベルスは貴女様との接触を断たれてから酷く落ち込んでいます。それこそ食事が喉を通らないほどに。出過ぎた真似をお許しいただけるのであれば、是非とも彼と対話を――」

「聞こえなかったのですか? ()()()には接近禁止を言い渡しているのです。それはつまり、わたくしの側に存在するのは許されないのと同義。言い付けを破った以上は罪人も同然。――皆の者、この2人を捕えなさい!」



 ザザザザッ!



 貴族たちが慌てて下がり、間を縫うように警備兵が俺たちを取り囲んだ。


「ロ、ロザリー、ボクは……」

「今さら命乞いですかシューベルス? 貴方との関係は既に終わったのです。観念して牢獄で反省なさい」


 ロザリーの台詞からは情の欠片も感じない。本当に結婚が持ち上がるほどの関係だったのか? いや、シューベルスが嘘を言ってるようには見えない。これはいったい……


「さぁおとなしくしろ!」

「ロザリー様の前だ、抵抗はするなよ?」


 ロザリーと話せば解決すると思ったんだがな。こうなれば仕方ない。



 ドゴゴゴッ!



「「「ぶっはぁ!?」」」


 拘束しようとしてきた兵士を一気に蹴り倒した。


「逃げるぞシューベルス、俺の側を離れるなよ?」

「わ、分かったよ」

「さぁて、道を開けてもらおうか? このゴトー、多数を相手取るのは慣れている。加減はするが命の保証はしない」


 目を丸くする兵士たち。そりゃそうだ、只の側近かと思った少年がファイティングポーズを取っているんだからな。


「クッ、ガキのくせに生意気なぁ!」

「甘い!」

「うわぁ!?」


「この野郎!」

「フッ、隙だらけだぞ?」

「ひぃっ!?」


 次々とかかってくる兵士をポイポイと放り投げてやった。何人かはテーブルに直撃し、盛大に割れた食器が料理と共に飛び散っていく。

 見ていた貴族たちも身の危険を感じたのか、我先にと会場から逃げ出して行く。


「お、落ち着きなさい皆の者! クゥゥ……兵士たちよ、何をしているのですか! 敵はたったの2人、さっさと拘束して――へぶっ!?」


 最後の1人がロザリーの顔面に直撃。加減はしたが鼻血が出るほど痛いはずだ。するとロザリーは痛みを堪えつつブチギレ出した。


「な、何という恥知らずな! もう遠慮は入りません、武器の使用も許可します、この場で殺してしまいなさい!」

「「「ハハッ!」」」


 ついには殺せと来たか。こりゃロザリーとの復縁は絶望的だな。シューベルスには悪いが、この場は退却するとしよう。


「ロザリー様の許可が出たぞ!」

「ああ、武器さえ使えればこっちのもんだ!」

「さっきのようにはいかねぇ!」


 バカめ、実力差が武器の有無だと思ったのか。


「すまんなシューベルス、ほんの少しだけ()()()()くれ」

「う、浮くって――ひぃ!?」

「そらっ!」



 バッ!



 シューベルスを上に放り投げた。その間に武装した兵士たちを次々と薙ぎ倒していく。


「ごほっ!」

「ぐはぁ!」

「ひぐっ!」


 武器を持ったところで隙は隠せないからな。隙をついて殴るか蹴るか、はたまた投げ飛ばすかの違いだけだ。

 おっと、シューベルスをキャッチしないとな。



 ドサッ!



「――と。空の旅はどうだった?」

「生きた心地がしなかったよ。飛ぶのは夢の中だけで充分かな」

「無駄口を叩けるようならまだ余裕だな」

「いや、勘弁してくれ……」


 そんな俺も無駄な会話を挟みつつ会場を駆け回っていくと、重装備のあの男が立ち塞がった。


「何と無礼な、何と恥知らずな、そして何と大胆不敵な行動か! 城に侵入しただけならいざ知らず、ロザリー様に恥をかかせるとは不届き千万! このディアンドが直々に相手をしてくれる!」

「――だそうだ、シューベルス。もう一度楽しんで来てくれ」

「ちょ、ちょっと――うひぃ!?」


 再度シューベルスを打ち上げてディアンドに突っ込んでいく。


「ほぅ? この私に正面から挑んでくるとは敵ながら天晴れ。しかし、まだまだ小者よ。バカ正直な動きは対処もしやすい」

「フッ、ならば対処してみろ」

「抜かしたな小童(こわっぱ)ぁぁぁ!」



 スッ!



「なにっ! 消えただと!?」


 ハルバードを突き出されたところでディアンドの視界から消えてやった。いや、正確には消えちゃいない、急加速しただけだ。何せステータスがバケモノじみてるだけで物理的な行動した出来ないんだからな。

 しかし常人にはそうは見えないんだろう。このディアンドという男もまた常識の範囲内ってことだ。


「こっちだ」



 ポスッ!



「むぅ!? ――くぅ……」


 後ろに回って首に手刀を叩き込むと、ディアンドは膝から崩れるように倒れ込む。死んではいない。力加減は完璧だ。


「ひぃ~~~!」


 おっといけない、シューベルスを回収しないとな。


「よっと」

「ふぅ……。言っちゃなんだけど、あと何回放り投げたら気が済むんだい?」

「向こうが諦めるまでだな」

「分かった。あと10回くらいは覚悟しとくよ……」

「それでいい。しっかり掴まってろ」


 元帥が倒れたことで兵士たちは怯んでいる。この機に脱出しようと出口へと駆け出す。


「に、逃がしてはなりません、何としてでも捕えるのです!」


 ロザリーの信念に応えるように、魔法士が結界を張って待ち構えていた。


「あの結界はマズイよ、どんなにガタイの良い男でも大火傷は避けられない」

「それほどか……」


 俺は構わないがシューベルスは持たないな。


「作戦変更、懐に入り込む――フン!」



 ドガッ!



 転がっていた兵士の兜を蹴り上げ、天井から吊るされた巨大シャンデリアの根本に命中。直後にシャンデリアが落下し始め……



 ドガッッッシャーーーーーーン!



 そのまま地面に直撃し、避けては通れないほどの破片が周囲にばら撒かれる。が、これには思わぬ副作用が付いてきた。


「む? 灯りが消えた?」


 あのシャンデリアが全ての光源だったらしく、会場全体が闇に包まれた。


「あ、灯りが!」

「不審者は、不審者はどこだ!?」

「あ"~~~暗いよ神様仏様~~~!」


「お、落ち着いて、皆の者落ち着くのです! 誰か灯りを――灯りを用意しなさい!」


 貴族や兵士は恐怖で大パニックに。さすがのロザリーも俺に構う余裕はないようだ。まぁそれ以前に見えないだろうがな。


「よし、逃げるなら今のうちだな。シューベルス、地下牢はどっちだ?」

「このまま内部に入って右の通路を突き当たりまで真っ直ぐだよ。そうすれば左手に地下への階段が見えるはずさ――って、まさか地下牢に!?」

「その通りだ」


 罪人を隠すなら牢の中――ってな。まさか侵入者自ら牢獄に入るとは思わないだろう。



 ザッ!



「きゅ、急に立ち止まってどうしたんだい?」

「ああ、ちょっとな……」


 これまで敵前逃亡を図ったことがない俺としてはかなりの屈辱だ。せめて仕返しくらいはしてやらないとな。


「ロザリーは……そこか!」



 シュ!



 ドレスに施した宝石が仇となり、ロザリーの姿が暗闇に浮かび上がる。光源としては弱いが、的の役割としては充分だ。



 ビシィ!



「グッ!? な、何かが足に――――ひぃ!?」


 放った指弾が見事に命中し、よろけた拍子に手すりから身を乗り出す形となり……



「キャーーーーーーッ!」



 上手い具合に一階へと落ちてくれた。だがシャンデリアがクッションに(←普通に刺ささらね?)なり、大した怪我にはなってないだろう。


「今ロザリーの悲鳴が聴こえたような……」

「何でもない。弁慶の泣き所ってやつを教えてやっただけだ。それより地下牢へ急ごう」


 仕返しも済んだところで地下牢に向かう。振り返っても追手はいない。このまま身を隠せそうだな。


「ここが地下牢か。念のため奥の方を使わせてもらうとしよう」


 フフッ、日本で入らなかった牢屋に異世界で入ることになろうとはな。

 しかし環境はよろしくないな。ジメジメしていて腐ったゴミの臭いが漂ってくる。一晩明かすつもりだったが大丈夫か? 無理そうなら壁を破壊してでも脱出するしか……


「むぅ? あの扉はなんだ? あそこだけ手入れが行き届いてるかのように小綺麗に見えるが」

「さぁ? いくらボクでも地下牢の奥には興味なかったし。けど妙だよね、手入れをしてまで地下に入れておきたい何かがあるとは思えないんだけど」


 せっかくだ、話のネタになるかもしれんし、扉の奥に進んでみよう。


「よっと……」

「え? まさかゴトー、自力で開けるつもりかい? こういう扉は過剰なほど重く出来ていて、専用のマジックアイテムがなければ絶対に開けられ――」



 ゴゴゴゴゴ……



「開いたぞ?」

「もうキミを人間だと思わないことにするよ……」


 痕跡を消すため扉を強引に閉じ、部屋の中を一望する。ここも牢獄なのだろうが十畳間ほどの広さがあって、部屋の隅々まで灯りが行き届いている。しかもご丁寧に家具まで置かれ、奥にはベッドもあるようだ。


「至れり尽くせりだな。今日のところはここに泊まるとしよう」

「ほ、本気かい!?」

「他なら見つかる可能性があるぞ?」

「そ、そうなんだけど、この部屋は普通に怪しいと言うか……」


「ふぁ~~~ぁ。誰か居るんですかぁ?」

「「……へ?」」


 2人ですっとんきょうな声を上げてしまった。どうやら先住民が――しかも若い女性が居るようだ。


「あら? お客さん?」

「「んなわけない」」


 客がこんなところまで来ると思っているのか? いや、それよりも……


「俺はゴトー、こっちはシューベルス。で、アンタは誰なんだ?」

「わ、私? 私は……」



「分かりません……」

「「分からない?」」

「記憶が無いんです。私がどこで何をしていたのかまったく分からなくて……。気付いた時にはここに居て、与えられた食事を喉に通して寝るだけの生活を送っているのです。覚えているのはフォルシオンという名前だけで……」


 地下牢に記憶喪失の女性か。いったい何のためにここに……



 コツ……コツ……コツ……コツ……



「マズイ、誰か来たようだ」

「どどど、どうしよう!?」

「シィーーーッ! 落ち着け、俺は棚の陰に隠れる。お前はクローゼットに入るんだ」

「分かった」


 女の了承を得ないまま俺たちは身を隠し、間際に俺たちのことを他言しないよう言いくるめた。



 ゴゴゴゴゴ……



「あ、貴女は……」

「ごきげんようフォルシオン、気分はいかがかしら?」

「ええ、悪くはありません」


 この声は……ロザリー!?


「フフッ、そうですか。ところで1つ尋ねたいのですが、ここに怪しげな男2人が来ませんでしたか?」

「生憎と貴女以外の人物には会ったことがありませんね」

「でしょうね、念のため聞いただけです。ではまた明日会いましょう」



 ゴゴゴゴゴ……



 ロザリーが去ったのを確認し、俺とシューベルスが姿を現す。


「助かった。礼を言うぞフォルシオン」

「ありがとう、お陰で助かったよ」

「いえ、どうせ退屈な日々を送ってるだけですから。それよりお二人の話を聞かせてくれません?」

「そうだな……ならば――」


 敵意はなさそうなので、メグミやラーカスター家のことは伏せ、これまでの流れを説明した。


キャラクター紹介


ロザリー

:ペルニクス王国の第二王女で、シューベルスとは幼馴染み。金髪のロングヘアーを靡かせる20歳の美女。この国の王族は20歳で結婚するのが通例となっており、ロザリーの結婚も近いと噂されている。彼女が誰を結婚相手に選ぶのか、それが直近での話題となっている。


ディアンド

:ペルニクス王国の元帥。根っからの武人で戦好きと噂されており、本人もそれを否定しない。だが自慢の腕力もゴトーの前では無意味であった。


フォルシオン

:城の地下牢にて囚われていた謎の女性。外見は20代くらいとみられる。自身の記憶をなくしており、唯一覚えているのはフォルシオンという名前だけ。現時点ではロザリーが記憶の鍵を握っていると推測される。


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