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戦えハーレム野郎

 リリカたち3人と冒険者ギルドにやってきた。本来ならば彼女たちの実力を見て終わりにする予定だったんだが、思わぬ横やりが――いや、ある意味予想されていた出来事が発生した。


「怖がらずについて来たのは褒めてやる。だがな、ここはテメェみてぇな青臭いガキが来るところじゃねぇ

。そこんところをキッチリと教えてやんぜ」


 ギルドに入って早々に柄の悪い男共に絡まれてしまい、やむ無く相手をする流れになったんだ。

 まぁついでだ、この世界の三下がどこまで食いついてくるか、試すのも一興だろう。


「御託はいいから掛かって来い。俺としても時間を無駄にしたくないんだ」

「テ、テメェ、女の前だからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!」


 軽く挑発してやると、顔を真っ赤にした三下男が殴り掛かってきた。


「オラァ! コノォ! クソガァ!」


 大振りの拳を当てようとするだけの単純な動きを敢えてギリギリで回避し続ける。そうすると相手も次こそはと挑むようになり、益々動きが単調になるいうもの。

 とはいえ、三下相手にこのような策を用いるのも些か勿体ない。さっさと終わらせるか。


「どうした、冒険者のくせにその程度の動きしかできないのか?」

「グッググググ…………クソォォォ!」


 破れかぶれの突進、正面からぶつかれば俺を弾き飛ばせると踏んだか。しかし!



 ガシィィィ!



「なにぃ!? 俺の突進を片手で止めただと!?」

「おかしいか? 力が上回っているならば、何ら不思議なことではないぞ?」



 ギリリリリッ……



「ギャアッ!」


 顔を掴んだ手に力を加えていく。言うなればプレス機でジワジワと潰していくような感覚だ。


「どうだ? 降参しないのなら骨が砕けるまで続けることになるが? それでも構わないのなら……」

「ア"ア"ア"ア"分がっだ! 分がっだがら止めてくれぇぇぇ!」


 手を離すとゼ~ハ~と荒い呼吸をする三下男。俺が顔を覗き込んでやると、先ほどまでの勢いが嘘のように鳴りを潜め、床に頭を擦り付けてきた。


「悪かった、俺が全面的に悪かった、最近依頼が上手くいかなくて八つ当たりしちまったんだ、本当にすまねぇ!」

「気にするな、そこまで怒っちゃいない。ほら、お前の仲間が不安そうに見てるぞ? こんなところで油を売ってないで、少しでも依頼を達成できるよう前向きな行動を心がけろ」

「ああ、分かったよ」


 男は何度も頭を下げてから仲間と共に去っていった。

 しかし今回は大した相手ではなかった。これなら前に戦った特殊部隊とやらの方が数倍は上だろう。



 ガシィ!



「――っと、リリカ?」

「凄い……凄いよ、ホントに凄いよゴトーくん、私感動しちゃった!」

「そ、そうか」

「うん! 本当はゴトーくんと一緒に冒険できたらな~とか思ってたけど、今の私じゃ足手まといにしかならない」

「やってみなくちゃ分からんだろう。それに俺との組手もまだだぞ?」

「ううん、いいの。あんなガタイのいいオッサンを片手で捻っちゃうくらいだもん、逆立ちしたって勝てないよ。だから私、もっともっと強くなって見せるから、その時は一緒に冒険しようね! ――ほら行こ、ミラノ、ミィフィー」

「ちょ、待ってよリリカ!」

「では失礼しますねゴトーくん」


 観戦していたリリカも他の2人を連れて帰っていく。

 やれやれ、これで一件落着――ん? そういえば冒険者ギルドに来た理由は何だったか?(←鳥頭かお前は)



 パチパチパチパチ!



 拍手? 音源を探ると、見知った顔の女性が近付いてくるところだった。


「トラブルになりそうなら仲裁しようと思ったんだけれど、必要なかったみたいね」

「尾行していたのかリーリス?」

「自分が受け持つクラスの生徒を心配してるのに何か不満? それとね、仮にも目上なんだから言葉遣いに注意しなさい」

「それはすまなかった。が、尾行した事実は変わらんぞ?」

「あ~はいはいごめんなさ~い。正直に言うとね、貴方の言動が気になるのよ。まるで力の制御ができない赤ん坊みたいに見えちゃって。下手に他人を傷付けたら問題になるでしょ? そうならないよう気を配るのも教師の勤めよ」


 教師なだけあって観察眼が鋭いな。


「間違ってはいない。詳しくは伏せるが、訳あって力のコントロールが難しいと感じてるんだ。スラムの悪人共を犠牲にした甲斐あって、何とか形にはなってきたが」

「……サラッと危険なことを聞いちゃった気がするから今のは幻聴ってことにするわ。それより良い提案があるんだけれど……」



★★★★★



 俺をこっそりと尾行してきたリーリスの案は冒険者ギルドの依頼を受けるという至極単純なもので、これにより卒業条件の1つである【冒険者ギルドの依頼達成】をクリアーできるというのだ。

 これは俺としても望むところなわけで、後日放課後に改めてリーリスと共にやって来たのは、王都から数日は掛かるであろう場所にある小さな町で――


「――って、何でアンタがついて来るんだ」

「決まってるじゃない、可愛い生徒の命を危険に晒さないため――というのは建前で、力試しにちょうど良い相手を見つけたのよ。それより冒頭でわたくしに対して失礼な回想しなかった?」

「そんなことはない。それよりもだな……」


 回想の件を誤魔化すように街を見渡しながら感想を述べる。


「ここは何処なんだ? わざわざ飛行魔法でここまで来たと思ったら壊滅寸前みたいな有り様じゃないか。この町でいったい何が……」

「Bランクのキャットグリフよ。餌を求めて山の方から飛んできたみたい。前に出現した時は犠牲を出しながらも何とか撃退したらしいんだけど、倒すまでには至っていない。けれでも奴は人の血を覚えた。餌の確保を優先する狡猾さから、3日以内には餌場に戻るという習性があるの。前の襲撃から今日で3日目。奴は必ず現れるわ」


 キャットグリフ……Bランクの魔物で、獰猛狡猾(どうもうこうかつ)なグリフォンの亜種だ。フェアリードラゴンのフェイがAランクだから、アイツよりは格下となる……が、


「面白い、ちょうどペットが欲しいと思っていたところだ。飼い慣らせば便利な乗り物になるだろう」

「アレを飼いたいとか言い出したのは貴方が初めてだわ……。その辺は好きにしていいけれど、危険だと思ったらわたくしを見捨てて直ぐ逃げなさい。例え強くても、生きていないと証明できないからね」


 逃げろ……か。かつての独り身だった俺ならそれもあり得ただろう。しかし、今の俺は違う。


「女を見捨てて逃げる? バカを言うな、護る力が有るのなら護ってやるのが男だろう。アンタの身を俺に委ねろ、必ず最後まで護って見せよう」

「……貴方、素で言ってるのそれ?」

「おかしいか?」

「プロポーズの台詞にしか聞こえないわ。あんまり能天気に発言してると本気にしちゃうわよ?」

「そ、それは困る、俺には絶対に護らなければならない存在が……」

「フフ、冗談よ。でも嫁の貰い手が居なかったら考えて欲しいわ。2号でもいいから」

「それも冗談か?」

「さぁ、どうかしらね――ッフフフ♪」


 やけに嬉しそうにしているのが気になるがな。戦闘前に余計な雑念は振り払っておこう。



★★★★★



 だいぶ夜も更けてきた。監視塔から見る限り飛行物体は確認できない。本当に現れるのか?


「なぁに? 不安そうな顔をして」

「不安ではなく不満なんだ。せっかく来たんだから、例え手荒くても歓迎はしてくれないとな」

「とことん強気ね。キャットグリフが怖くないの?」

「いいや、まったく。戦ってもいない奴をどうして恐れろと?」

「それを言って許されるのは覚醒した勇者くらいじゃないかしら」


 勇者……か。この世界にも居るらしいな。確認されてる限りではほんの数人らしいが。


「さすがに勇者ではないがな。むしろ魔王……」

「ん?」

「いや、何でもない」


 危ない危ない、口が滑るところだった。


「それよりどうだ、敵は見えそうか?」

「ううん、ダメね。こうも暗いと遠くまでは見透せないわ。夜目のスキルでも有れば良かったのにね」


 だが無い物ねだりをしても始まらない。敵が来たら迎え撃つ、ただそれだけ――



 ビュウーーーーーーッ!



「「!?」」


 夜風の無い初夏の夜だというのに、突然の突風が真上から叩きつけられた。そのせいで監視塔の屋根からメキメキッという嫌な音が発せられる。これは普通じゃないと判断し、監視塔から飛び出してリーリスの前に浮遊した。

 

「気をつけてゴトーくん、上から来る!」


「フシャーーーーーーッ!」


 真上に注意を向けた瞬間、鋭い両目を紅く光らせた猫顔のグリフォン――キャットグリフが視界いっぱいに写り込んでいた。


「こっちだ!」



 ズドォォォォォォン!



 リーリスの抱えて直撃コースから逸れた。そこへ監視塔を巻き込む形でキャットグリフが地面に墜落。


「まさか自滅……か?」

「いいえ、キャットグリフはグリフォンよりも狡猾でズル賢いやつよ。獲物を油断させて仕留める動きは正に十八番(おはこ)。気をつけて!」


 ならば墜落したのも作戦のうちか。そう思い砂ぼこりが舞う監視塔の跡地を覗き込むと……



「奴がいない!?」



 クソッタレめ! 俺としたことがターゲットを見失うとは! 奴は墜落したように見せかけてスキルを地上に撃ち込み、衝突を回避して再び上昇して行ったに違いない。

 せっかく身体が若返っても集中力が欠けていては宝の持ち腐れ。虎爪(とらづめ)ともあろう俺がこんなところで耄碌(もうろく)してどうする!


「危ない、ゴトーくん! ――ウィンドバリアーーーッ!」


 気付いた時、奴は目前だった。機転を利かせたリーリスが即座に防御壁を展開し、キャットグリフの特攻ガードする――が!



 バシュゥゥゥゥゥゥ!



「ぐわぁぁぁ!」

「キャーーーーーーッ!」


 風の防御壁を突き抜けたキャットグリフにより、俺とリーリスは数十メートルは飛ばされる羽目に。


「大丈夫かリーリス!?」

「まだ大丈夫よ。ちょっと頭がクラクラするけれどね。それよりゴトーくん、まだ行けそう? 無理そうなら強制的に離脱も……」


 離脱だと? とんでもない。舐め腐ったアホウドリに思い知らせなければ俺の気がまったく晴れん。

 それに何よりリーリスにダメージを負わせた責任は俺にある。


「離脱はしない。今はただ愚直に――」




「――反撃のチャンスを待つ!」


 そう言い放ち、俺は静かに目を閉じる。

 今宵は無風。上空に全神経を注ぎ込み、風の動きを感じ取るんだ。




 ヒュ……




 来た!

 さっきので味をしめたのか、奴は再び急降下を始めたようだ。押し潰された空気が頭に当たっているのを感じるぞ。

 距離にして後……




 3……




 2……




 1……




「ソコだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 ドグシャア!



「グキェェェ!?」


 憎たらしいキャットグリフの顔面に利き腕ストレートをお見舞いしてやった。それが見事にカウンターとなり、奴の頭部は海老反りのように曲がって地面でジタバタと(もが)いている。


「貴様が見下していた人間に反撃された気分はどうだ、キャットグリフ? それとも嬉しさに悶えて俺の声が届かないか? まぁいい。どちらにしろ貴様の敗けだ。最後に虎爪からの贈り物を受け取ってもらおうか」


 この世界では記念すべき第一号。キッチリと刻んでやろう。


「サラバだキャットグリフ。虎爪の傷と共に成仏せんことを――――フン!」



 ドスッ!



 腹にトドメの一撃を加えると完全に動かなくなった。


「終わったぞリーリス。――リーリス?」

「す……」

「す?」




「凄過ぎるわゴトーくん! わたくしが想像していたより数倍は強いわ! あのキャットグリフを一撃でKOしちゃうなんて、わたくしが見込んだ通りの男よ。もうわたくしの婚約者にしちゃいたいくらい!」

「いや、だからそういう関係は……」

「も~ぅ、2号で良いって言ったじゃない。これでも後100年近くはこのプロポーションを維持できるから、ゴトーくんがジジイになるまで楽しめるわよ。だから……ね? 考えといてちょうだい」


 かなり気に入られたようだ。こうなると依頼を受けたのは失敗だったかもしれない……。(←お前の言動が問題なのだよ)


「あら? キャットグリフに付いている引っ掻き傷みたいなの。コレってゴトーくんが付けたの?」

「ああ、それはな――」


 殴ったのに引っ掻いたような後が残ったため、リーリスは気になったらしい。

 簡単に言えば骨で殴ったと言えるんだが、詳しく説明すると指の第二関節で殴りつけたのが引っ掻き傷のように残ったんだ。

 これは殴る瞬間に血流を手に留めて行うことで、より効率的にダメージが通るようになった結果だ。


「――という感じだ」

「ふ~ん? まるで何年も研究しましたって感じね。その若さでよく頑張ったわね」


 若き頃はそれだけに没頭していた時期もあった。その結果を対戦相手に刻み続けていると、いつしか虎爪の後藤と呼ばれるようになったんだがな。まぁ今となっては良い思い出だ。


「それよりどうする? この町で一晩明かす?」

「こんなゴーストタウンでか?」

「だって、今なら誰も居ないんだもの、わたくしを好きに出来る大チャンスよ? フフ♪」


 いやいや待て待て、仮にことに及んだとしてだ、もしもメグミにバレたら半殺しじゃ済まない可能性もある。(←さてはメグミが居なかったら及んでたな?)


「お~いアンタら~、大丈夫け~?」

「すんごい音が聴こえたけんど、キャットグリフが出やがったんかや~?」

「もしそうなら早いとこ隠れんとえらいこっちゃで!」


 おっと、まだ僅かに住人が残っていたらしい。


「あら残念、2人だけじゃなかったみたい。これはまたの機会までお預けね」


 これがまた妙に残念そうに見えるのが悩ましい。まさか本気にしてない――――よな?(←どうだかな)


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