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学園潜入

 死んだはずの俺が異世界で使い魔生活――か。なぜだろうな、以前では満たされない気持ちが今では嘘のように満ちている気がする。やはり目的もなく強くなり続けるのと護る対象が存在するのとでは違うということか。


「フフ……」

「あ、あのさ、アンタ時々不気味な笑い方をするようになったわね」


 ある日の午後。邸の屋上で黄昏(たそがれ)ていると、引きつった顔をしたフェイが水を差してきた。俺としては前世との違いを噛み締めているだけなのだがな。


「気にするな。単なる思い出し笑いだ」

「それが気持ち悪いんだってば! そんなに前の人生が楽しかったわけ?」

「逆だよ。今の方が充実している。第二の人生を送らせてくれているメグミには感謝しかない。逆に聞くが、フェイはどうなんだ?」

「あたし? まぁね~。前の生活も悪くなかったけれど、あたしより強いドラゴンが多いからさ~。縄張り争いは楽じゃないのよ」


 そうか、フェイは縄張り争いに破れて命を落としたんだな。


「ちょっと、勝手に納得したような顔しないでくれる? 別に負けたわけじゃないんだからね! 瀕死(ひんし)になって意識が朦朧(もうろう)としたところでメグミに召喚されたのよ。だからあの時に殺られたのはノーカン!」


 殺られたと自白してるんだよなぁ。しかしここまでムキになるのはアレだな。確か……


「これがツンデレというやつか」

「いや、全然違うから。そもそもデレてないし」


 怒りっぽい者を指す言葉だったと思っていたが、どうやら違うようだ。

 そうだ、怒りっぽいと言えば……


「フェイは女神クリューネに会った事はあるか?」

「クリューネ? 会ったこともないし見たこともないわね」

「そうか。実はな……」



~~~~~



『遅れてゴメ~ン♪ 本当はアンタが死んだ直後に現れるつもりだったんだけどね、のんびりしてたら先に召喚されちゃってさ~。――って聞いてる?』


 この女は誰だ? 俺の知り合いにチャラそうな金髪ギャルは居ないが。それに俺はラーカスター家の邸で寝ていたはずだ。なのによく分からないボヤけた空間にいると来た。いったい何がどうなっているやら……


『チャラそう言うな! こちとら他の神にも散々同じこと言われてイラッと来てんのよ! つ~かまずは聞きなさい。あたしはクリューネ、これでも女神やってんだから少しは崇めてよね。それに若いって言ってもアンタより1000年以上は生きてんだからもっと敬いなさい。で、ここはアンタノ夢の中。ボヤけてて当然でしょ?』


 プンスカ怒りつつ一気に捲し立ててきた。その中に気になる台詞が幾つかある。まるで読心術でも使われているかのようだ。


『……俺の心を読んだのか?』

『嫌そうな顔しないでよ。女神だって証明するにはこれが一番手っ取り早いんだから』


 なるほど。これは認めざるを得ないな。


『信じてくれたみたいだから話を進めるわね。まずアンタは異世界からの転生者で、普通の人間よりは多少強い程度の存在だった』

『多少……か。これでも虎爪の後藤という名で恐れられたと自負しているが』

『それは人間基準の話。この世界じゃ賊に魔物にトラップにと、四苦八苦するのが目に見えている。だから眷属特性による大幅なステータス上昇を付与してあげたのよ』

『眷属特性?』

『そ。アンタがメグミの眷属で居続ける限り、その特性は永続する。どう? 素晴らしい特典でしょ』


 元より裏切るつもりなどなかったがな。しかしこれは有りがたい措置だ。


『その力を使って好き勝手に生きなさい。迫り来る敵は国ごと滅ぼしちゃえぱいいし』


 女神の台詞が少々気になる。まるで破壊活動に勤しめと言われてるかのようだ。何か裏があるのかもしれない、少し探ってみるか。


『女神クリューネよ、次はいつ会える?』

『……へ?』

『まさかこれっきりで会わないとは行かないだろう? 時間がある時に茶飲み話でもどうかと思ったんだ。貴女のことをもっと知りた――』

『…………』バチバチバチ……


 な、なんだ? クリューネが怒りを滲ませているように感じるが……


『アンタ……女神相手にナンパするなんていい度胸してるじゃない。ちょっと天罰食らってみなさいよ、程よく丸焦げにしてやるから』

『待ってくれ、ナンパするつもりは毛頭ない。少し探りを入れてみようと……』

『はぁ!? 毛頭ないってどういう事よ! この美しさが目に入らないっての!?』

『入るわけないだろう。塵の一粒だって入ったら痛いんだからな』

『そういう意味じゃなーーーい!』



 バチ~~~ン!



『夢――なんだよな? なぜ痛みが走るんだ?』

『自分で考えなさいよ面倒臭い。というかアンタと喋ってるとこっちが疲れてくるわ……』


 俺も疲れた感じがするな。ここまで話し込んだのも久々だし。


『って、アンタが疲れるなアンタが! ……オホン、とにかくアレね、このまま終わるには不完全燃焼よね。だから少しだけヒントをあげるわ。()()()()()()()()()()()()のよ。いつの日か――ね』


 そらきた。どうせ自分の手を汚したくないとかいう理由だろう。実にくだらない。


『アンタの思考、ちょいちょい失礼ね。逆に感心するわ。ま、その度胸を良い方向に使いなさいよね』


 その台詞を最後に女神クリューネは風のように消え去った。



~~~~~



「……という事があってな」

「それでよく生還できたわね。女神の台詞じゃないけどマジで感心するわ」

「フッ、そうか」

「いや、ぜんっっっぜん褒めてないから! まさか女神に同調する日がくるとは思わなかったわ。聞いてるだけでも疲れんのに直接話した女神はさぞ苦痛だったでしょうね」

「苦痛を伴ったのは俺の方だぞ?」

「いや、だからさ……っていうかソレ、なんか中二病みたいな黒いアザが頬にできてる。それって女神のビンタ? アッハハハハハハ! 御愁傷様!」


 笑い事じゃないんだがな。何せ1週間後にメグミが通う学園に潜入しなければないないんだ。こんなキズ、目立ち過ぎて仕方がない。何とかして消す術を探すか。



★★★★★



 結論、無理だった。ポーションを使っても変化なし、医者に見せても首を横に振るだけ。仕方ない、頬のアザは諦めて、このまま学園に潜入しよう。


 ――という流れで試験当日。結果しだいで特進コースとも言えるSクラスに振り分けられる可能性があるらしく、俺と同年代の男女が学園に集まっていた。

 試験内容は何だ? 対人戦じゃなければいいが。ああ、なぜ対人戦がダメかというと、いまだに手加減が難しいからだ。散々スラムで練習したのだがな。俺がコントロールを身につけるまでに住人が居なくなってしまったんだ(←お前が消したんやで)。


「それでは振り分け試験を行います。ルールは簡単、こちらが用意したゴーレムにどれだけキズを負わせられるかで判定致します」


 対人戦ではないのが分かり、フッと肩の力が抜ける。ゴーレムならいくら壊しても良さそうだからな。


「最初は……そこのキミ。え~と……ゴトーくん、こちらへ」

「…………」

「ゴトーくん?」

「え? お、俺ですか?」

「そうです。さぁ、早くこちらへ」


 メガネをかけたインテリ系の女性に誘導され、全長5メートル超えのゴーレムの前に立たされる。


「このゴーレムは上位の錬金術師によって造り出された最高傑作です。あなた方が全力を出し切ったところで破壊は不可能。安心して攻撃してください」


 そうか。ならば安心だ。言われた通り全力で挑むとしよう(←おいバカやめろ!)。


「いくぞ!」



 シュタ!



「え……まさかゴーレム相手に物理攻撃を!?」


 飛び上がった俺を見てインテリ女性が叫ぶ。まぁそのまさかというやつだ。ゴーレムは物理攻撃に強いと聞くし、生身である人間の拳くらいは耐えてもらわないとな。


「受けてみるがいい、虎爪流――」




「――玉砕発破(ぎょくさいはっぱ)!」



 ドッッッッッッパァァァァァァン!



 拳を当てた部分から波紋のように衝撃が広がり、胴→肩と股関→頭部と足という順に砕け散っていく。残ったのは材料として使われたであろう赤い土。それがそこらじゅうに散乱していた。

 しかしこれで試験は終わり(←継続不可という意味でな)。インテリ女性に結果を求めよう。


「壊れてしまったようだが」

「…………」

「あの……」

「……ハッ!? な、何が……何が起こったのかしら……」


 全身を震わせて動揺しているインテリ女性。いや、この人だけじゃない、他の参加者たちもが口をあんぐりと開けて呆然と立ち尽くしている。

 何故だ? 俺がやったことと言えばゴーレムを破壊したことだけなんだが……あ!


「なるほど、そういうことか」


 そこで俺は気付いた。ゴーレムの残骸で周囲が汚れてしまったのがいけないんだな。


「申し訳ない、すぐに片付けます」


 腕を大きく振り、風圧で残骸を巻き上げる。そして1ヵ所に集まるように――



「きゃーーーっ!?」

「し、しまった!」



 加減を間違えて近くにいたインテリ女性も巻き上げてしまった。


「すみません、非常事態なので体に触れます」

「え……」


 インテリ女性を抱えて無事に着地。ゴーレムの残骸は予定通り1ヵ所に集まった。すると一連の流れを見ていた参加者たちが……


「すげぇ! アイツすげぇよ!」

「あんな動きができるなんて凄いよね!」

「ブラボーーーッ!」

「あたしもあんな風にお姫様抱っこされたいなぁ」


 ん? お姫様抱っこ?


「あのぉ……そろそろ下ろしてもらえると……」


 そうだ、インテリ女性を抱えたままだった。しかしセクハラで失格にされてはかなわない。テキトーに誤魔化しておかないと。


「こ、これは失礼。あまりにも美しかったもので、つい見とれてしまい」

「みみみ、見とれて……」ボン!


 急激に顔が赤くなった。まさか怒らせてしまったのか? ならば早めに切り上げるのが吉。


「と、ところで試験の結果は……」

「そそ、そうですね。異性に対する気配りは評価できます。その……わ、わたくし個人としてもですね、花丸を差し上げたいくらいで――って、何を言わせるんですかまったく! こ、これくらいでわたくしを口説き落とせるとは思わないことです!」

「え?」

「ゴーレムが壊れてしまったのですから試験は中止です! 貴方には責任を取ってもらいますよ? 色々な意味で!」

「あ、はい……」


 責任か。メグミに何て報告しようか……。(←お前が撒いた種なんやで)


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