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使い魔

「フッ、我々に見つかるとは運がなかったな」

「我らレマイオス帝国前方支援特殊部隊を相手に退かなかった勇気は認めよう」

「しかし勇気とは時に無謀へと形を変えてしまうもの。貴様のような若造にはよく見られる傾向だ」


 邸の警備中、3人の侵入者と遭遇した。

 昨日の今日でこの仕打ちとは。フッ、()()()とやらはなかなか楽しませてくれる。


「無謀……か。知っているか? 簡単に組伏せれる相手だと無謀とは言えないと」

「……何?」

「分からないか? こういう事だ」



 トスッ



「むぐぅ!? う、うぅ……」



 ドサッ!



「「!?」」


 音もなく相手の懐に飛び込むと、胸部に強い衝撃を与えてやった。肺の中身を全て吐き出させる勢いで押したのだ、呼吸困難はしばし続くだろう。


「気を付けろ! コイツ、見た目通りの男ではないぞ!」

「ああ、一気にカタを付けてやる!」


 相手の動きに合わせて俺も動く。

 だがこれは遊びではない。俺には護るべき主がいるのだからな。天涯孤独であった俺になぜそのような人物が現れたのか。詳しく語るには1日と半日を(さかのぼ)らなければならない。



~~~~~



「……ん? ここはいったい……」


 気付けば俺は小綺麗な部屋の真ん中で横たわっていた。周りには不安げな顔をしている中年の男に心配そうに俺の顔を覗き込む少女、そして不機嫌そうに眺めてくる女児と腰に手を当て自慢気な少女の4人いた。

 いまいち状況を把握出来ない。俺は病院の一室で寝たきりだったはず。そう思い上体を起こして気が付いた。


「体が……動く!?」


 これには驚愕(きょうがく)した。俺の体は老衰により最後の時を待つだけだったはず。それがどうだ、体が自由に動かせる上に肉体まで若返っている。肌の見た目が全然違うのだ。まるで20代に戻ったかのように感じる。

 言うなれば奇跡。そう、奇跡と言う以外に形容する言葉が見つからない。そんな俺に対して水を差すように、不機嫌そうな女児が指を突き付けてきた。


「ちょっと、いつまで寝てるのよアンタ。魔王であるルシフェル様に失礼でしょ!」

「……主?」

「そう。あたしやアンタを召喚したのは他ならぬルシフェル様よ。この中二病な女――じゃなかった、このルシフェル様に呼ばれたからアンタは甦ったの。分かったら(ひざまづ)いて忠誠を誓いなさい」


 女児の説明によると、俺はルシフェルという少女のお陰で生き返った事になる。これが五体満足ならば絶対に信じなかっただろうが、あのまま老衰死を迎えるだけの俺がこうして生きているのだ、言っている事が正しいのは明白というもの。


「なるほど、こうして甦ったのは魔王ルシフェル様のお陰であると。ならば忠誠を誓う以外に選択肢はありません。何なりとご命令を」


 自分でも臭い台詞だなと思った。しかし命の恩人に対して粗相があってはならない。そう思っての言動だったのだが……



「あ、あの……ルシフェルというのは私ではなくてですね……」

「……え?」




「私がルシフェルだ愚か者がぁぁぁ!」



 ゲシッ!



「ぶふっ!?」


 これはマズッた、上品そうな少女がルシフェルだと思ったのだが、中二病的なポーズで黄昏(たそがれ)ていた少女がルシフェルだったとは。

 お陰で後頭部に回し蹴りを食らってしまった。頭がズキズキする。けっこう本気で蹴ってないかこれ?


「――ん?」


 ――と、そこで気付いた。全神経が麻痺していた俺が痛みを感じているのだ。そう、これは痛みだ。もう何年も前から音沙汰なしだったあの感覚だと。

 そんな懐かしい感覚を噛みしめていると、自然と笑いが込み上げてきた。


「フ、フフ、フハハハハハハハ!」

「「「!?」」」


 ああ、おかしくて堪らない。死の淵で己の人生を染々と振り返っていた自分がバカみたいではないか。

 そして一頻り笑った後、この場の皆がドン引きしているのに気付く。


「ア、アンタ、ひょっとしてドMなの? 蹴られて喜こんでるとかちょっと引くわ~」

「いや、打ち所が悪かったのやもしれん。手加減はしたつもりだがな。自分で召喚したとはいえ、少々心配に……ふぅ」



 パタン!



「おお、メグミよ!」

「メグミちゃん!?」

「そ、そんな、ルシフェル様ーーーっ!」


 ルシフェルが倒れた? 魔王ともあろう者がいとも簡単に?


「た、大変、ルシフェル様の魔力が枯渇してる! 早く回復しないと!」

「お父様、マナポーションを早く!」

「お、おおお!」


 魔力切れ? そうか、ここでは魔力というものが存在し、それが無くなると気絶してしまうのか。

 1人納得していると中年男が怪しげな薬瓶を手にしており、それをルシフェルの口へと注ぎ込む。


「これで大丈夫だと思うのだが……本当に大丈夫なのか?」

「何を言いいますかお父様。あんなに強いメグミちゃんなら絶対に大丈夫です」

「そうよ、ルシフェル様は強いんだから! これで弱かったら只の生意気な小娘じゃない」


 一応は危機を脱したらしい。

 しかし目の前の女児、先ほどからちょいちょい口が悪いな。


「……何よ、何か文句でもあんの?」

「いいや。キミの立ち位置が気になっただけだ。そこで寝ている少女がルシフェルというのは分かったが、キミを始め各々の身分が分からないのでね」


 そういえばと気付く3人。まずは中年男が咳払いをして名を名乗る。


「ウォッホン! 私がここザルキールの領主であり邸の主でもあるスレイン・ラーカスターだ。貴族ではあるが所詮は男爵なのでな、あまり堅苦しくせんでよいぞ」


 続いて言動が上品に見える少女が裾を摘まんで一礼してきた。


「スレイン男爵の娘でアルスと申します。メグミちゃんとは3歳差なんですよ。血は繋がっていませんけど可愛い妹です」


 ほほぅ、血縁関係にはなかったか。何か事情があるのだろうか? 後でさりげなく聞いてみるか。


「さ、いよいよあたしの番ね。フフ~ン、聞いて驚きなさい。この可憐なる少女の姿は世を忍ぶ仮の姿。けれど一度(ひとたび)ベールを脱ぎ捨てれば、誰もが恐れる魔王ルシフェル様の使い魔にしてAランクの猛者! その名もフェア――」



 ぐぅ~~~!



「あらやだ、メグミちゃんったらお腹も空いているのね」

「――リードラゴンって、ちょっとぉ! カッコよく決めようと思ったのに何てことしてくれんのよこのイモ娘がぁ!」

「おいおい、ルシフェル様だろ?」

「いいのよ! どうせコイツ寝てんだから、暴言吐くなら今のうちだもん!」


 益々もってよく分からんが、あまり慕われているわけではないのか。


「それで、キミのことは何て呼べば?」

「フェイよ。フェアリードラゴンだからフェイ。あ、いま安直だとか思ったでしょ? 名付けなのはメグミだかんね~!」

「そうなのか。だが良い響きじゃないか」

「そう? ま、あたしならどんな名前でもピッタリだもんね~」


 突如として脳裏に【へらちょ○ぺん】という名前が浮かび上がった。うん、言わない方がいいな。


「ところでアンタの名前は?」

「俺か? 俺は――」


 そうだな、本来の名付け役が気絶中とあらば、仮の名でも名乗るべきか。


「後藤……」

「ゴトー?」


 そこまで言いかけて飲み込んだ。今さら前世の名を使うのもどうかと思ったのだ。

 格闘技一筋で、ろくに愛を(はぐく)んでこなかった俺は天涯孤独だった。そんな自分に逆戻りしろと? それこそあり得ん話だ。前世とはキッチリ決別し、新たな門出を祝うのだ。それには――



「じゃあゴトーで決まりね」

「え?」

「ゴトーか。うむ、良い名前ではないか」

「は?」

「じゃあこれからはゴトーさんと呼ばせてもらいますね」

「へ?」


 なんということか、俺の名前はゴトーになってしまった。訂正しようにもとても言い出せる雰囲気ではない。


「さっそくだけどゴトー、アンタあたしの後輩なんだから、メグミが寝てる間はアンタが邸の警護をしなさよね。あと掃除や洗濯なんかも――」


 その後もフェイから色々と聞いた。邸のこと、メグミのこと、世界のこと、何より俺自身のこと。

 特に自分のことを他人に尋ねるのもおかしな気はするがな。フェイは否定していたが、今の俺はフェイよりも遥かに強いらしい。つまり竜よりも強いってことか? しかし比較材料が少なすぎていまいち分からん。ちょうどいいモルモットでも現れればよいのだが……



~~~~~



 そして今に至る――と。そうだ、殺意を持って現れたのだから、殺される覚悟もあるはず。ならば……


「殺されても文句は言えんな?」



 ビシッ!



「グフッ!?」


 3人のうち1人の心臓を指弾で撃ち抜く。心臓が貫通してるんだ、もう間もなくくたばるだろう。


「よし、次はここだ」



 ビシビシビシッ!



「ゲブ……」



 2人目は首だ。首に複数の指弾を叩き込み、同じく貫通させてやった。喉仏も砕いてやったので、コイツの寿命も残り僅かだろう。


「う、うぅ……」


 さて、いよいよ最後の1人だ。肺の圧迫から回復してきたところで頭からガッチリと掴み上げ……



「どれだけの力で()()()()を試したかったんだ、元の世界では絶対にできない事なのでな。そこで今回の出来事だ、お前にはモルモットになってもらおう」

「や、やめ……」




「ひぎゃぁ――――ぅ……」


 叫び出したところで咄嗟に口を塞ぐ。邸の住人には良い夢を見てもらいたいからな。

 一方の男は悪夢に(うな)されたような顔だ。それもそのはずで、頭部に力を込めた結果、行き場を失った血が顔の至るところから吹き出しているからだ。


「さて実験は終了だ。成果といえば、以前よりも力が格段に増しているという点だろうか? 手加減したにもかかわらず頭部を砕いてしまったんだ、そう考えるのが妥当……」

「そりゃそうよ、アンタとの力の差が有りすぎたんだもの」


 フェイがひょっこりと顔を出してきた。


「近くに居たのか。手伝ってくれてもよかったと思うのだが」

「手伝ったわよ。風のシールドで音が漏れないようにしといたんだから感謝しなさいよね」

「それは助かった、素直に感謝するよ。ところで力の差が有りすぎるという話だが、俺は普通でもコイツらが弱すぎて話にならないという意味か?」

「アンタ、けっこう失礼なこと言うのね。あの世でコイツら泣いてるわよ? 敵対国からの刺客なんだから弱いわけないじゃない。アンタ昼間に何本ワイングラス割ったと思ってんのよ」


 忘れてた。力が入り過ぎて、いくつかの食器を壊してしまったのだった。


「もう、先が思いやられるわねぇ。早いとこコントロールしなさいよね。あたしが殺られたらアンタがメグミを護らなきゃならないんだから」

「お前、死ぬのか?」

「死ぬかボケ! もしもの話よ! はぁ、なんか疲れたわ……」

「そうだな。侵入者のせいで余計な労力を使ったからな」

「主にアンタのせいだけどね!」


 フフ、何はともあれ楽しそうな世界じゃないか。かつて虎爪(とらづめ)の後藤と呼ばれた俺が第二の人生を歩むのだ。

 しかし今度は道を違えぬ。自分の武を(とどろ)かせるのではなく、大切な存在を護るために戦おう。そう、あの無垢なる少女――メグミを護るために。




 しかし数日後。目覚めたメグミの言動により、決して無垢なる少女ではなかったことを知る。いやもう頭が痛くなる点が多数というか……ね。(←今からそんなんじゃ先が思いやられるぞ?)


キャラクター紹介


メグミ・ラーカスター・タカスギ

:日本からの転生者にして本作の主人公。元は黒髪のリアルJKだったが、今は13歳の金髪美少女。根っからの中二病気質で、転生直後に女神クリューネから魔王の素質があると言われて中二病が暴走。今では二体の使い魔を使役する魔王ルシフェルとして学園生活を満喫中。


アルス・ラーカスター

:スレイン男爵の娘で16歳。メグミとは別の学園に通っている。幼くして母親を亡くし更に一人っ子のため、養子として迎え入れたメグミを実の妹のように可愛がっている。


スレイン・ラーカスター

:ペルニクス王国はザルキールという街の領主を任されている男爵。一人娘のアルスを溺愛していたが、そこへメグミを養子として迎え入れ、2人とも溺愛する親バカ男爵に昇格してしまった。


ジュリオ

:アルスの専属護衛。敵国レマイオス帝国で大ピンチの時にメグミが登場し、アルスと共に命を救われた過去を持つ。残念ながら今回は出番なし。


フェイ

:メグミが召喚したAランクのフェザードラゴン。ゴトーよりも1年以上先に召喚され、ラーカスター家の警護をしていた。今回ゴトーが召喚されたことにより、だいぶ楽ができるんじゃないかと期待を膨らませているらしい。


ゴトー

:メグミ同様日本からの転生者で、13歳のイケメン黒髪少年。本来は召喚したメグミが名前を付けるのだが召喚直後に気絶したため、うっかり名乗った後藤がそのまま生かされ【ゴトー】という名前に決定した。メグミの命令で学園生活を送りつつペルニクス王国の内部調査を進めている。



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