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洗脳工作

「フン、またしてもレマイオス帝国か」


 若干の苛立ちを覚えつつ上空から気配を探る。昨日の今日だ、そう遠くには移動できまい。


「ん? こんな時間から草原で寝ているオッサンたちが居るな。ご丁寧に気配を消して――」


 そこまで言って気付いた。コイツら死んでるわ。



 スタッ!



「ふむ、手入れをしてない無精髭(ぶしょうひげ)のオッサン共だ。もうね、風貌がモロ盗賊なんよ。Cクラスの生徒を連れ出したのは間違いなくコイツらだな。しかし念のためだ、記憶を読み取ってみよう」


 オッサンの1人に手をかざし、記憶投影(メモリーヴィジョン)で覗き込む。取りあえず前日の夜から見ていくか。


 ふむ、捕らえた生徒たちがいくらで売るか話し合っているな。そして3人のうち2人をすぐに売り払うと決め、1人は人質として活用することに決まったようだ。

 でもって景気付けに酒を飲んでしまい、酔いが回ったままアジトから放り出されておるな。道中も仲間に責められて半泣きになっているではないか。まぁどうでもいいが。

 そこからしばらく移動した後、唐突に犬のウンコを踏む。つくづく不運な奴だ。仲間に笑われて腹立ち紛れに巨木を蹴ると、木の上で寝ていたチャージクロウが頭に直撃。怒ったチャージクロウに後頭部をつつかれ、余計に薄くなった後頭部の出来上がりと。

 いやもうマジでお(はら)い行ってこい。(←もう手遅れだけどな)

 そんな不運に見舞われながらもここへ到着。すると街道の先から現れた武装集団に囲まれ、生徒以外の全員が殺されたようだ。大方武装集団がレマイオス帝国の者たちだろう。


「流れは分かった。しかし、このオッサンだけ不幸のど真ん中を突っ切っている感じで哀れすぎる。せめて火葬くらいはしてやるか」


 3年前の二の舞にはならないよう上昇し、上空からフャイヤーボールで――



 ゴォォォォォォ……



「これでよし。せいぜい安らかに眠――」



 オ"オ"オ"オ"オ"オ"!



「――って、草原に燃え移っておる!」(←当たり前だよなぁ)


 マズイじゃん! ちょっとした良心で火葬したのに、大火事とか洒落にならない! もういい加減にしてよね、ちゃんと威力は抑えたのに!(←狼狽えすぎて巣に戻ってるぞ)


 しか~し、たった今素晴らしい解決策を思い付いた!


「レマイオス帝国の武装集団がやったことにしよう。うん、我ながら名案である」


 そうと決まれば捜さねばならん。


「待っていろ、生け贄たちよ。今迎えにいくからな!」


 生徒が引き渡されたのは真夜中。そこからレマイオス帝国に向けて移動出来る範囲を絞り込めば……


「いたいた、街道から逸れたところに馬車を停めて休憩中のようだ。半数は仮眠を取っているのか? どちらにしろ逃がしはしない」



 シュタ!



 まずはご挨拶とばかりに見張りの目の前に着地してやった。


「な、何者だ貴様! 我らに害を成そうというのか!?」

「みんな起きろ、敵襲だぁ!」


 素早く武器を構える武装集団。その内の半数くらいが私を見てギョッとする。


「お、お前はフランソワ!?」

「間違いない、フランソワだ。なぜこのような場所に……」


 お互い話さねばならん事があるようだな。

 

「その驚きよう、やはりレマイオス帝国の手先だな?」

「もはや隠すのは無粋か。お前の言う通り、レマイオス帝国から送り込まれた者だ。そして俺が後方支援特殊部隊が副隊長カムシーン。長きに渡り我が帝国の侵略を陰ながら防いでいたのはお前だな? 言っておくが隠しても無駄だぞ? 我々とて愚直に敗北を重ねているわけではない。その原因がどこにあるかくらいは見当がついているのだからな」


 ふむ、少しは冷静に分析できる者もいるようだ。


「気付いておったか。学園生活の傍ら相手をして、かれこれ3年は経つくらいか? 周りに言ったところで誰も信用せんだろうがな」

「なるほど、陰のヒーローか。しかし、だからこそ分からん。それほどの力を持ちながら、なぜ帝国を裏切る? お前ほどの実力者ならば陛下の片腕としても申し分ない。地位も名誉も思いのままだろう?」

「私が誰かの下につくだと? フッ、見くびられたものだ。魔王である私は誰にも屈さぬ。いずれはペルニクス王国を大国へと導く陰の支配者となるのだ、貴様らごときが止められるものか」

「魔王……か。言葉だけなら単なる妄想で済ますところだがな。お前になら可能なのだろう。しかし!」


 カムシーンの目が鋭さを増した。察した部下たちが素早く私を取り囲み、ジリジリと間合いを詰めてくる。


「ここで死ねばただの小娘――かかれ!」


 その台詞を合図に斬りかかってくる特殊部隊。盗賊よりも動きは良いが、私に言わせれば大差はない。


「フン、相手にならんな」

「「「ぐはぁ!」」」


 素手だけで一蹴し、パンパンと手を払う。

 ――が、此度の相手は一味違った。


「「「ウィンドバリアー!」」」

「む?」

「部下と手合わせしてる間にな、詠唱させておいたのだよ。これでお前の退路は断った」


 特殊部隊が私とカムシーンを囲む形で風のシールドを張り巡らした。


「だがこれではお主も逃げられぬぞ?」

「フッ、端から逃げる気などない。前特隊と違って後特隊は戦闘特化。相手を仕留めるのは最も得意とするところなのでな――」




「――行くぞ!」



 ヒュヒュヒュヒュ!



 なんだ? いきなりシャドーボクシングみたいな真似を始めたな?


「なんのつもり――」


 ヒュン!


「っ!」


 危険を察知して上体を仰け反ると、顔があったところを通過する風の刃。咄嗟(とっさ)に避けたためか、掠った前髪がパラパラと地面に落ちていく。


「ウィンドカッターだと!?」

「その通り。風魔法の素質があった俺は、肉弾戦でも使えるように取り入れたのさ。拳や蹴りを繰り出すついでに風の刃も無詠唱で飛び出す」


 これは久々の当たりだ。昨日のエルフたちでも苦戦は免れない相手だろう。


「だがそれだけではないぞ? 風のシールドは風魔法を反射するのだ。ここに居る限り永遠と刃に狙われ続ける。さぁ、どこまで耐えられる?」


 フッ、面白い。ならばチキンレースといこうじゃないか。


「よっ――はっ――ほっと、なかなかにしてアクロバティックな動きを要求してくる。だが嫌いではないぞ? 刺激を求めるなら手緩いくらいだ」

「……言葉に偽りなし――か。この状況を楽しんでいる節すらある」

「そうだな。私は楽しんでおるが、お主はどうだろうなぁ?」


 私に余力は有れどカムシーンは違うと見た。現に反射した刃が奴の死角から迫り……



 シュン!



「――風の刃が消えた!?」

「死角のを確実に避けれるほど自信家ではないのでな、回避するのは目に見える範囲のみ」


 すでに対策済みか。コイツは侮れん。


「さて、そろそろ終わりにしてやろう!」


 更にカムシーンは拳と蹴りを繰り出してきた。風の刃と物理技による波状攻撃、まるでワルツでも踊らされているかのようで、貴族のダンスパーティーほどの優雅さはない。まぁ当たり前か。

 そうこうしているうちに10分は経とうとしているが、カムシーンの動きが増すことはない。それどころか徐々に落ち着いてきた感じすらある。この辺りが限界か。


「なかなか楽しいひとときだったぞ? 演目としては悪くない」

「――何?」

「疲れたであろう、そろそろ休むがよい」



 スッ――




 ――ドゴッ!



「ぐふっ!?」


 カムシーンの視点では回避するので手一杯に見えたのだろうが実際は違う。奴の動きを上回る速度で腹に一撃食らわせてやった。

 しかし、カムシーンにとっての悲劇は終わらない。



 ズバズバズバズバッ!



「ゴッハァァァ!」


 怯んだところにウィンドカッターが到来。消滅させる余裕もなく、そのまま切り刻まれてしまった。


「ま、まさか……この俺が遊ばれていた……とはな。後は隊長に託すのみ……か」

「その隊長とやらは冒険者ギルドの職員か?」

「フッ、奴は只の……隊員……さ。隊長はすでに王宮……に……」


 手足や首が切られていてはどうにもならず、悔しそうな表情でカムシーンは死んでいった。

 なるほど、把握できていない最後の1人は後特隊の隊長か。やはり国の中枢に潜り込んでいたのだな。


「バ、バケモノだ、コイツは本物のバケモノだぁ!」

「こんなのを相手にはしてられん、俺は逃げるぞ!」


 バカめ、逃がすわけなかろう。


「スプラッシュウィンドカッター」

「「「ヒギャァァァァァァ!?」」」


 さて、これで全員を――いや、まだ1人だけ息があるな。


「ゴフッ……さ、最後に教えてやる、引き渡された2人はな……すでに王都に戻ってるだろうぜ」

「何? それはどういう意味だ?」

「強力な洗脳を施した……のさ。学園の生徒を皆殺しに……」


 それだけ言い残して事切れた。

 そうか、コイツらの目的は学園に混乱をもたらし、私の居場所を奪うつもりだったのだな。


「こうしてはおれん!」


 即座に私は念話を飛ばした。



★★★★★



 時はメグミが盗賊のアジトを飛び出すところまで(さかのぼ)る。ライアル、ゴリスキー、サトルの3人は、一連の流れを報告するため王都の冒険者ギルドへと急いでいた。


「リリカとミィフィー、大丈夫かな……」

「大丈夫だよ。きっとメグミさんが連れ戻してくれるさ」

「そ、そうだよね、あの()()()()()()()()()()に任せとけば――」

「「「…………」」」

「あ、ゴメン! Dクラスじゃ分かんないけれど、他のクラスでメグミさんの事はアバズレバーサーカーって呼ばれてるの。バカにしてるわけじゃないから、本人には黙ってて、ネ?」(←絶対バカにしとるやろ?)


 言えるわけがない。言ったらどんな仕打ちを受けるか分からないのだ。つまらない冒険をするほど愚かでない。3人は頑なに口を(つぐ)む決心をした。


「そ、そんなことよりグリゴレオを見なかった?」

「グリゴレオ? ああ、初日にクラスを間違えていたあの男エルフか。ボクらは見ていないけれど」

「発端はアイツなのよ、宝探しにピッタリの場所があるって言われたから付いていったの。そうしたらアイツ、盗賊のアジトを前にして「すまないが急用を思い出した。続きはキミたちだけで楽しんでくれたまえ」とか言い出して……」


 だとしたら怪し過ぎる。疑いたくはないが、今回の連れ去り事件にグリゴレオが関与している可能性が急浮上した。


「グリゴレオの件も報告しよう。今のボクらにできるのはそれくらいだ」

「せやな。急がんとメグミはんにどやされるし、早いとこ――なんや、誰か走って来よるな?」

「え? まさか……リリカとミィフィー!?」


 王都まであと少しのところでミラノが声を荒らげる。後ろから走ってきた2人を見て驚いたのだ。


「良かったぁ、2人とも無事だったんだ! リリカ、ミィフィー、無事でよか――」

「ちょい待ちぃや!」


 どうやら連れ去られた2人らしい。だがミラノも2人に向け走り出そうとしたところで、何かを察したサトルがそれを阻む。


「全員で拘束されとったんやろ? それをどうやったら逃げられる言うんや。それに見てみぃ、あの虚ろな顔。どう見ても普通じゃあらへんわ」

「じ、じゃああの2人は……」

「気ぃつけや、油断しとると命取りやで!」


 サトルの言った通り、リリカがミラノに向かって突撃すると、ミィフィーは立ち止まって詠唱を開始した。


「ウヒィ!? や、止めてよリリカ、いったいどうしちゃったのよ!?」

「…………」


 キィン!


「クッ……ダメだ、声が届いていない、キミはいったん下がるんだ!」

「わ、分かった!」

「サトル! ゴリスキー!」

「おおぅ!」

「言われんでもわ~っとるわ!」


 リリカの剣をライアルが弾き、その隙にミラノが後方へと避難。ゴリスキーがリリカを押さえ込みにかかり、サトルはその横をすり抜けて、ミィフィーへの牽制を行なう。


「さぁリリカよ、おとなしく――むぉ!?」

「ゴリスキー!?」


 リリカの身体から黒いモヤが吹き出し、ゴリスキーへと(まと)わりつく。


「なんやこのモヤは!? 頭ん中に入ってきよる!」

「サトル!」


 サトルも同じ状況に陥り、ゴリスキーと共に頭を抱えて(うずくま)ってしまう。しかし一方のリリカとミィフィーはというと、まるで憑き物が落ちたかのようにパタリと倒れ込んでしまった。

 だが安心している余裕はなく、今度はゴリスキーとサトルが豹変し始める。


「おぉ……おおおおおお!」

「こ、殺すんや……全員殺すんや!」


「こ、これは……」


 最悪な状況だとライアルは悟った。2人を助けたいが、打つ手は残されていない。豹変した2人から徐々に遠ざかりつつ打開策を模索していると……



 ピョン!



「!? け、剣が独りでに!?」


 奇しくもそれはメグミから渡された剣であった。それが勝手に動き出し、ゴリスキーとサトルの前に突き刺さる。

 何故? ――と思う間もなく剣は姿を変え、1人の少女へと変貌をとげた。


「アハッ♪ かの有名な魔剣アゴレントこと、レン様の参上だゾ~! お前ら2人、妙な邪気を纏ってんな~? 美味そうだから貰ってやるゾ~」



 コツンコツン!



「おお、おおおお?」

「な、なんや……力が抜けてく……」


 レンが2人を小突くとみるみるうちに黒いモヤが縮小していき、やがて完全にモヤが消え去ったところで……



 ドサドサッ!



 ゴリスキーとサトルの2人もその場に倒れ込んでしまった。


「ん~、うんま~♪ この身体全体に染み渡る感じ、まるで邪気の宝石箱だゾ~。こんなに美味い邪気が吸えるなら、いつでも呼んで欲しいゾ~」

「「…………」」


 何がどうなっているのは理解できないライアルとミラノ。しかし続くレンの台詞で正気に戻り……


「お~い、コイツら見てやらなくていいのか~?」

「「ハッ!?」」


 ハッとなって倒れた4人を起こし、これまでの流れを簡潔に説明した。グリゴレオの件はさておき、これで一応の解決となったところでレンの元にメグミからの念話が届く。


『レンよ、捕まっていた生徒が洗脳を施され、そちらに向かったようだ。すぐに警戒せよ!』

『それならもう終わったゾ~。拍子抜けするくらいチョロかったナ~』

『何だと!? 私よりもスマートに解決しよってからに! 許さんぞ貴様!』

『何で怒られてるのか分からないゾ……』


キャラクター紹介


メグミ・ラーカスター・タカスギ

:クレセント学園Dクラスの女生徒にして本作の主人公。ちなみに13歳。

 日頃の派手な行いのせいで、他クラスの生徒からはアバズレバーサーカーと呼ばれていることが判明。現在はメグミ本人が出所を調査中。


ミラノ

:クレセント学園Cクラスの女生徒で14歳の人間少女。アウトドア派で休みの日には友達と共に街の外へ遊びに行くことが多い。噂好きなトラブルメーカーの一面あり。


リリカ

:クレセント学園Cクラスの女生徒で14歳の獣人少女。活発な性格でミラノやミィフィーの手を引いて外に繰り出す事が多いが、割と人見知りで赤の他人を前にすると急に無言になる。


ミィフィー

:クレセント学園Cクラスの女生徒で14歳のハーフエルフ少女。いつもミラノやリリカに振り回されている印象だが、本人は気にしていない。ミラノに劣らず噂好きで、メグミのアバズレバーサーカーを耳にしてCクラスに広めた張本人。


カムシーン

:レマイオス帝国の後方支援特殊部隊副隊長。前特隊よりも戦闘に優れており、特に本人は格闘による戦闘を好んでいる。これまで対峙した相手は全員を風の刃で切り刻んできたが、メグミとの戦いでは逆に切り刻まれる事に。先に潜入している隊長に託す形で死亡した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 副隊長に一般隊員は莫迦だろう! 最後に教えて…って、作戦を漏らしちゃダメでしょうが!
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