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盗賊のアジト

「ぷはぁ! 朝っぱらから飲む酒はうんめ~! ほらぁ、メグミもしっかり飲みなって!」

「もう充分飲んでおる」


 学園に近い酒場にてシェスタに絡まれるままに酒を飲まされている様、端から見てどう写るのやら。この国では10歳から合法らしいから生暖かく見守っているのかもな。


「こらぁグレシー、手が止まってるぞ~? ジャンジャンバリバリ飲み干せ飲み干せ~!」

「も、もう……うぇっぷ!」


 酒に弱いのかグレシーはすでに戦闘不能。酔いに対するバフをかけた私が酒癖の悪いシェスタの相手をしているのだ。まったく、助けてくれた礼だと言っておきながらこれとは。もはや自分が飲みたいだけではないのかと疑いたくなる。


「あ~れれ~? そういや男共はろこ行った~?」

「あの3人なら街中を散策中だ。お主から逃げるためにな」

「ひきょ~もろ~! 女を見ふてるらんて、ほれでも男か~~~!」バンバン!

「イタタタ……。ったく止さんか! 無駄に強い力で叩くでない」


 あの3人め、こうなると知ってて私に押し付けたな? 帰ったら一人ずつ電気アンマの刑だ。


「気分さいっこ~ぅ! ジャンジャンろむろぉ……」


 コテン!


「ふぅ、ようやく眠りに落ちたか。ったく、シェスタと酒は混ぜたら危険だな、よく覚えておこう」


「メ、メグちゃ~ん、頭がガンガンする~……」


 ガクン!


「こっちは二日酔いだな。揃いも揃って迷惑かけよってからに――」


 いや待て、こんなに早く二日酔いだと? いくらなんでも先駆け過ぎだろ! どんな肉体構造しとるんだグレシーは!


「お? どうやらナイスタイミングみたいやな」

「おおぅ、シェスタに酒は危険じゃからのぅ」


 3人が散策から戻ってきたようだ。


「やはり知っておったか貴様ら。私に貧乏クジを引かせておいてタダで済むとは思うておるまいな?」

「適材適所だよ。ボクらよりもメグミさんの方が上手くあやしてくれそうだから任せたんだ」

「物は言いようだな」

「でも結果は当たりだっただろう? 適切な判断を下すのがリーダーの勤めだからね」


 こんなところでリーダーシップを発揮せんでよろしい。


「それで、手にしてる紙切れは何だ? 心なしか楽しそうに見えるが」

「冒険者ギルドに貼られていた依頼書だよ。最近王都周辺で盗賊の動きが活発になっていてね、それの討伐依頼が増えてるって話だよ。今ならメグミさんがいるし、治安維持と戦闘経験の両方が手に入るから効率的だと思ったんだ。是非とも協力して欲しい」


 ふむ、賊なんぞに遅れはとらんし、コイツらの糧になるのならそれもまた良し。電気アンマの刑は討伐相手に掛けるとしよう。(←盗賊諸君御愁傷様)



★★★★★



 王都と北にある街を結ぶ街道。その途中には隠れ家となりうる森が東西に延びており、通行人が襲われる例が急増しているのだとか。生還した者たちは口を揃えて「盗賊に襲われた!」と話しており、国から冒険者ギルドに依頼がきたという流れらしい。


「……んで、ここが盗賊のアジトかいな」

「アジトの1つ――だと思うよ。他にも複数有るらしいけれど、王都から一番近いのはここだと思う」

「うおぉっす! シェスタとグレイシーヌの分も大暴れしてやるわぃ!」


 あの2人は酒に呑まれたからな。グレシーの邸で休ませてあるのだ。


「せやけど一番近いなら既に退治されてんちゃうか?」

「その通り。他の冒険者グループが討伐済みだよ」

「――っておい、ほなもぬけの殻やないかい!」

「ハハ、だからこそ狙い目なのさ。以前ここに居た首領はいまだに捕まっていない。国外に逃げようにもレクサンド共和国とペルニクス王国軍が衝突している最中。行動範囲が限られている状況ならば、再びここに帰ってくる可能性もあると思ったんだよ。逃げ続けているのなら手負いの可能性だってある。安全面に配慮するなら最適の相手だと思わないかい?」


 確かに最適だ。盗賊からしたら不本意だろうが。


「では奥へ進もう。先頭は……すまないけれど」


 ま、私が適任だろうな。


「私が勤めよう。なぁに、お前たちの分は残るよう善処するとも」


 これは訓練ではなく実戦だ。手加減してくれる賊なんぞ存在しない。故に接敵したら問答無用で叩き伏せるのみ。

 幸いにして討伐させすればギルドカードやロイヤルカードに記される。消し炭にしようが干し物になろうが倒せばよいのだ。(←原型を壊す気らしい)


「ほほぅ、これは……」

「なんじゃあメグミよ、なんぞ美味そうな食いもんでも落ちとったか?」

「アホか。気配を感じ取ったのだ。この先に何かが居るのは間違いない」


 少なくとも生物。魔物の可能性も――いや、これは人だな、魔物ではない。それも複数の反応が息を殺して潜んでいる事から、冒険者の可能性もないだろう。だとすると……


「ライアルよ、お主の予想が的中したようだぞ」

「それってつまり……」

「フッ、楽しい宴の始まりだ」


 不適な笑みを浮かべる私とは別に、他3人は表情を引き締める。殺し合いという認識はできているようだな。ま、私が居る限り死なせはせんが。


「灯りが見えてきたな。距離にして十数メートル。手前には左右への分かれ道で、計3つのルートがある。さてライアル、お主ならどうする?」

「……このまま全員で直進しよう。脇道は後だ。まずはこの先に居るであろう盗賊を討伐しよう」

「ふむ。ならば先手必勝だ、皆のもの、私に続けーーーっ!」

「「「えっ!?」」」


 私が走り出すと、他3人も即座に続く。


「こういうのは勢いが大事なのだ。相手に考える隙を与えず、判断力を鈍らせる。そして――」


 開けた場所に出ると、盗賊のオッサン10人くらいが粗末なテーブルを囲っていた。私の声で気付かれたていたのもあり、手にはしっかりと得物が握られている。


「チッ、やっぱり侵入者か。おい野郎ども、相手はガキだ、一気に畳んじま――」

「フッ、遅いな」



 ドゴォ!



「ぶっへぁ!?」


 リーダーとおぼしき男を殴り飛ばした。拍子にメキメキという音がしたから骨が数本逝ってしまったやもしれん。まぁすぐには死なないだろう。


「リ、リーダー!?」

「このやろ――」


 敵のど真ん中に突っ込んだため、賊共のヘイトが一気に向く。だがその程度ではどうにもならん。


「甘いぞ――ファイヤーウォール!」

「「「ギャア!?」」」


 透かさず周囲に炎の壁を展開。野郎どもがたちまち火ダルマとなって悶え苦しむ。

 これで残るは3人――が、奥から新手が1人、人質を盾にして現れた。


「動くんじゃねぇ! こっちには人質が――」


 テンプレ的展開だな。もちろん従うつもりはないので、振り返らずに大声で叫ぶ。


「前の連中は私に任せて後ろに集中せよ!」

「分かった!」

「うぉっす!」

「っしゃあ任せとき!」


「――っておい、聞いてんのかゴルァ! 人質がどうなっても――」

「ストーンバレット」

「――グヘッ……」


 石の弾が額を貫通し、新手の1人が倒れ込む。しかし生ぬるい。人質を持ち出した時点で後がないと言ってるようなものだからな。

 さて、残るは3人だが……


「こ、こうなりゃ一斉に!」

「やるしかねぇ!」

「おぅ!」


 やはりバカしか居ないらしい。降参すれば命だけは助かったやもしれんのにな。(←あくまでも可能性の話な)


 ゴギゴギゴギィ!


「フン。盗賊ごときが魔王に勝てるわけなかろう」

「メグミはん、多分そいつら死んどるで? 首が妙な方向に曲がってるさかいな」

「ふむ、回し蹴りを見舞っただけなんだがな。手加減というのは難しいものよ」シミジミ

「さよけ……」


 後ろの方では狭い通路を利用してゴリスキーが一方的に蹂躙(じゅうりん)し、瞬く間に片付けたようだ。


「これにて殲滅(せんめつ)完了だ」

「ム~! ム~!」


 おっと、捕まってた民間人を忘れてたな。どれ、拘束を解いてと……


「まさか捕まってる人が居るなんてね。やはり来て良かったかも――ん? キミは……学園の生徒ではないのかい?」

「うん、あたしはCクラスのミラノ。助けてくれてありがとう!」


 なんと、Cクラスの生徒が?


「あなたたちはDクラスの生徒よね? メグミさんは有名だからすぐに分かったよ」

「有名!」


 まさか隣のクラスにまで我が名声が(とどろ)いていたとは。フッ、魔王という素顔を隠すのも楽ではないな。


「してミラノとやら、私の評価はいかほどか?」

「え~とね、その……へ、変な言動をしてる人だって有名だよ? 見た目は良いのに残念な性格をしてるって噂されてて、残念美少女って言われてたり――あ、でもでも、あたしが言ってるわけじゃないからね? それにあくまでも噂ってだけで……」

「変な言動……」

「あ~! そんな落ち込まないで! 言動はかなりアレでも根は好い人だって吹き込んでおくから、ね? ね?」(←フォローになってない)


 いや、魔王の道に困難は付きものだ。この程度で挫けてはならぬ!


「よし、これからは更に力を見せ付けるとしよう。さすれば学園の皆も認めざるを得まい」

「更に中二病を悪化させるんか?」

「悪化言うな! 昇華と呼べ」

「(中身は変わらへんがな……)」


 さて、そんなことよりミラノだ。


「ミラノはなぜ捕まっていたのだ? 1人で探索とは無用心であろう」

「ち、違うよ、1人じゃ来ないって! あと2人のクラスメイトと宝探しにやって来たの。何か落ちてたりしないかなと思って。でも奴らに捕まっちゃって、奴隷商人に売り飛ばすとかで、昨晩の内に連れ出されたの」


 それを聞いてライアルとゴリスキーが憤慨する。


「それは放って置けない。今すぐ救出に向かわねば! 騎士団にも報告しよう」

「うおぉっす! 騎士団と共に盗賊をギッタギタじゃあ!」

「待て2人とも、そんなことをしている内に逃げられてしまう。ミラノよ、奴らに関してもっと情報はないのか?」

「う~んとね、北からは抜けられないから西に向かうって言ってた。国内だと足がつくからレマイオス帝国が良いとか何とか」

「フッ、それだけ分かれば充分だ」


 そう言って私は出口へと走る。


「ってメグミはん、ワイらはどないするん!?」

「冒険者ギルドに報告しておけ! 報酬を受け取るのも忘れずにな!」

「使いっパシリかい!」


 しかしここは街の外。念には念を入れることにし、()()()()をライアルに預けてから洞穴を飛び出した。


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