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エルフの特殊部隊

「ふぃ~、今日のリチャード様はご機嫌だったなぁ。何か良いことでもあっんかなぁ」

「なんだお前、知らないのか? 愛娘のグレイシーヌ様が沢山のご友人を連れて来たんだよ。それを見て学園生活が上手く行ってるって感じたんだろ」

「な~ほ~なぁ、そういう理由なら――あれ? 何だか急に眠気が……」

「おいどうし――ってヤベェ、俺まで眠くなってきちまっ……」



 ドサドサッ!



 ここまでは予定通り。念話で他を確認をするか。


『クヌレオだ。正面の兵は無力化したぞ。ミュース、そっちはどうだ?』

『今終わったとこ。巡回していた奴らは全員夢ごこちよ。私よりもアットゥーとカドラスキーを心配してちょうだい』

『何をほざくかミュース。邪魔者が来ぬよう見張るなど造作もない。退屈過ぎてアクビが出そうだ』

『アットゥーのそれ、実は眠いだけじゃない? 夜更かしは身体に毒だよ、うんうん。――あ、邸の中は異常なしだよ? 件の子もぐっすりさ』


 よし、全ての障害は取り除かれたな。後はシェスタという娘を捕縛するのみ。


『これより俺とミュースで邸に侵入し、シェスタのいる3階にて合流。捕縛後は速やかに脱出し、邸の外にてアットゥー、カドラスキーと合流し、そのまま撤収だ。いくぞ!』

『OK』

『了解』

『オッケ~』


 貴族の邸と聞いて厳重な警備を覚悟していたが思いの外スムーズに移行している。これなら問題なく完了しそうだ。


『しかし解せん。何ゆえ長老は我々を投入すると決めたのだ? たかが小娘に過剰戦力ではないか』

『あ~あ、ま~た始まったよ、アットゥーの愚痴大会が。これやり出すと長いんだよねぇ』

『何だとカドラスキー!? これは只の愚痴ではないぞ! 俺は真剣にだな――』

『止めなさい2人とも! 今は任務に集中して。失敗なんかしようものなら面目丸潰れよ』

『はいはい、ゴメンなさ~い』

『フン……』


 2人の言い合いをミュースが止める。任務中に気を乱すのは下策だからな。

 だがアットゥーの言うことにも一理ある。我々4人は里の中でもエリート。このように簡単な任務なら1人で充分と言えるだろう。

 しかし……


『長老のお考えは正直分からん。我ら歴戦のエリート全員で事に当たれとは……』

『ちょっとクヌレオまで。今回の件は長老も言ってたんでしょ? 予期せぬ災いが降りかかるやもって』

『それが納得いかんと言っている。俺もクヌレオもな。そもそも災いとは何だ? シェスタとかいう小娘がそれほどの実力者だと言うのか? だとしたら学園でも一際目立つ存在となっているだろうし、一般クラスに甘んじてたりはしないはず。ミュースとて内心では同じ考えではないのか?』

『それは……』



 言葉を濁すのは全てを語っているようなもの。いくら長老のお言葉であったとしても、看過できんのは誰もが同じなのだ。


『ま、考えすぎても仕方ないよ。気楽に行こうよ気楽にさ~』

『カドラスキーよ、お前のは考え無しなだけだ』

『何でだよ~!』

『だから2人とも……』

『…………』


 実際カドラスキーのように何も考えないのが正しいのかもしれない。任務に対して無心で挑むのは大事だろう。

 だが俺は1つだけ嘘をついている。それは長老から(たまわ)ったお言葉だ。長老はハッキリと告げたのだ。



~~~~~



「シェスタを無理やり連れ去ろうとすれば、里の存続に関わる大問題に発展するだろう」

「何と!」


 俺は耳を疑った。我が里の長老は真顔で冗談を言う御方ではない。故に再度尋ねたのだ。


「それは誠にございますか?」

「信じられないのは分かる、ワシは今でも疑っておるのだからな。しかし……」


 その先は言わずとも分かる。大精霊神によるお告げを長老は聞いたのだ。

 大精霊神とは精霊界の神。神が偽りを告げるなど有り得ぬ事。


「そこでだクヌレオ。これより先は、里一番の実力者であるお主に決めてもらいたい」

「決める……とは?」

「力ずくで連れ去ってくるか、任務そのものを諦めるかだ」


 口には出せないので心中で毒づく。与えられた任務を放棄するだと? 有り得ん、絶対に有り得ん。精霊魔法を極めてから100年は経とうとしてるのだ。それが僅か15歳の人間を前に戦わずして避けろというのか? そのような屈辱的選択、例え天変地異が起ころうとも選んだりはせん! 発言したのが長老でなければ畑の肥やしにしているところだ!


「此度の任、しかとお受け致します。ハーフエルフごときに遅れは取ららいということ、目に焼き付けてもらいますぞ」

「うむ、お主なら引き受けてくれると思うとった。しかし無茶はするなよ? 大精霊神のお告げは絶対。苦境に立たされるのは避けられんだろう。故にもしもの時はシェスタを放置してでも逃げ帰ってくるのだ。里の今後のため、お前たちを失うわけには――」


 そこまで言われて我慢の限界だった。


「お言葉が過ぎますぞ長老。我ら4人が成す術なく敗走するとお考えか? ここ数十年――いや、百年は失敗をせず完璧に遂行してきたと自負している。だというのに失敗を前提とした忠告を? これはまた随分と過小評価されたものだ」


 冷静に切り返したつもりだが、怒に震える全身は隠せていない。その様子に気付いた長老はタメ息を1つつき……


「ふぅ……。お主らの実力は疑っておらぬ、しかし害が及んでからでは遅いのだ。上に立つ者として、これだけは譲れん」


 長老たるもの何時(なんどき)でも責任が付きまとう。ここで反発していては里の皆への負担ともなろう。


「無礼な発言でした、大変申し訳ございませぬ。お詫びと言ってはなんですが、此度の任務は慎重に慎重を重ねた上で実行させていただきます」

「うむ、期待しておるぞ」



~~~~~



『こっちの部屋には男の子が3人。全員ぐっすりと眠っているわ』

『…………』

『クヌレオ?』

『ああ、すまない。少し考え事をしていた』

『もう、しっかりしてちょうだい。只でさえ不安に駆られることを長老から言われてるんだから。冷静且つ慎重にやれば失敗なんてない。そうでしょ?』


 ミュースの言う通りだ。彼女と合流してからも直接口を開くことはせず、念話での伝達を徹底している。これで気付かれる可能性は万に1つと無いだろう。


『すまないミュース、その調子で隣の部屋を頼む。俺は周囲を警戒する』

『任せて――っと、ビンゴ。この部屋で寝てるわ』


 ミュースの背後から中を見る。窓際に並べられた3つのベッド、その内の1つから長い銀髪がはみ出しているのを発見。恐らくシェスタだろう。


「念のため状態を確認するわね。鑑定――っと」



 名前:シェスタ

 種族:ハーフエルフ

 性別:女

 年齢:15歳

 状態:睡眠



 ミュースが使用した鑑定スキルの結果が念話を通じて脳裏に流れ込む。


「大丈夫みたい。さっさと運んじゃいましょ」

「慌てるな、他の2人も見るんだ」

「う~ん、大丈夫だと思うけどねぇ。まぁ念のためよね、鑑定――っと」



 名前:グレイシーヌ

 種族:ハーフエルフ

 性別:女

 年齢:13歳

 状態:熟睡



『ほら、こっちの子なんか熟睡中よ』

『油断するな、最後の1人だ』

『はいはい、鑑定――っと』



 名前:フランソワ



 フランソワだと?

 俺は咄嗟(とっさ)に違和感を覚えた。シェスタが所属するクラスメイトは全員把握していたからだ。その中にフランソワという名の生徒は居なかったはず。それとも見落としか?

 そんな疑問を抱えてるとは知らず、ミュースの鑑定は続いていく。



 種族:人間

 性別:女

 年齢:13歳

 状態:異常なし



『う、嘘!?』

『異常なしだと!?』


 俺とミュースはその場で固まった。異常なしとは目が覚めている状態を指すのだ。

 するとフランソワという名の少女がムクリと起き上がり、こちらを見て口の端を吊り上げた。その様子を月明かりが照らしつけ、我々への恐怖を数倍は引き上げていた。

 更に直後、この娘がとてつもなく驚異的な存在であると痛感させられる事になる。



★★★★★



『クックックッ、よく来たな不審者諸君。我が友であるシェスタに代わり、私が相手をしてやろう』

『そんな! 念話に割り込んでくるなんて!』

『只者ではないな貴様! さては闇ギルドの構成員か!?』


 おっと、つい念話に割り込んでしまった。


『驚かせてすまんな。念話傍受(サイキックドロップ)という固有スキルだ、あまり気にするな。しかし私を闇ギルドと罵るのは感心せんな。この魔王ルシフェルに向かってそのような暴言、大変不敬である。悔い改めるのなら今のうちだぞ?』


 魔王である私に恐れをなしたのか、侵入者2人は硬直したまま動かない。無理もない、魔王なんぞ直に見たことはないだろうからな。(←魔王関係なく言動が異常)


「ク、クヌレオ、この女はヤバい、とてつもなくヤバい奴よ」

「分かっている」


「むん? 念話ごっこは止めたのか? ならば普通に話そうではないか。しかし声が震えているぞ? 念話のままの方が良かったのではないか? まぁどちらでもよいが」


「良くはないな――フン!」



 パシィ!



「なぁっ! 精霊の加護を得た一撃を素手で防いだだと!?」

「フッ、ダガーの一撃なんぞで殺られはせんなぁ。ほれ、互いに左手が空いておろう。次はこちらで相手をするぞ?」

「いや、その必要はない」ニヤリ

「む?」


 侵入者の1人が見せた不適な笑み。私とコイツがやり合っている隙に、もう1人の侵入者がシェスタを抱えて窓から飛び出したのだ。


「フフ、この子は貰ってくわね」



 シュバ!



「ほぅ、3階から飛び降りるとは、これまた思い切ったことを」

「我らエルフの戦闘員は精霊の加護を受けているのでな、彼らが足場となる事で宙を蹴ることができるのだよ」

「ふむ、それは素晴らしい。是非とも親友である下僕1号(←グレシーは泣いていいぞ)にも欲しいところだ」

「貴様にとって親友と下僕は同一か……」


 なんか呆れられた。それほど酷い内容ではなかったはずだが……。(←グレシーが寝ているのが唯一の救いだな)


「さて、策は成った。俺も退却するとしよう」

「逃がすと思うか?」

「フッ、ありがたいことに左手が空いているのでな、こうやって逃れることができるのだよ」



 パキン――――シュン!



「転移の術? いや……」


 足元には何らかの破片が落ちている。転移する直前に侵入者が砕いた物だ。


「どれどれ……ふむ、転移石か。砕くことで最大3キロは離れることができると」


 これは感心した。エルフなだけあって行動がスマートだったな。

 ん? 早く追わなくてよいのかだと? もちろん追うとも。みすみすシェスタをくれてやるつもりはないのでな。

 なぁに、里に着いたら()()の始まりだ。



★★★★★



「我ら4名、全員帰還しました。対象であるシェスタも確保しております」

「おお、よくぞ無事に戻ってきた!」


 涙まで流して感極まる長老。まったくもって大袈裟なことだ。


「けどさ~、懸念していた事なんて何も起こらなかったよ? 何だか無駄に神経使った感じ~。長老嘘付いてない?」

「カドラスキーに同意したくはないが、今回ばかりはコイツの言う通りだ。蓋を開けてみればいつも通りの任務だったぞ? 妙な言い回しで不安を煽るのは感心しないな」


 カドラスキーとアットゥーが文句を垂れ流す。


「う~む、大精霊神のお告げを聞き間違ったかのぅ? う~む……」


 首を傾げる長老。嘘ではなさそうだが、だとすると大精霊神の意図は……



「ほ~ぅ、ここがエルフの里か。のどかで平和な過疎地といったところか」



「「なっ!?」」


 俺とミュースが飛び上がるようにして驚く。気付けば長老の隣で茶を(すす)っている()()()が居たのだ。

 それを見たアットゥーとカドラスキーがすぐさま臨戦態勢をとる反面、理解が追い付かない長老がクエスチョンマークを浮かべつつ女に尋ねた。


「はて、お主はいったい何者かね? 普通の人間では里に入ることはできないはずだが……」

「シェスタの友人だよ。彼女を返してもらいに来たのだ」


 分かってはいた。この女による異常なまでの言動を目の当たりにしたのだ。ここにたどり着くことなんぞ造作もなかっただろう。


「やはり戦わねばならんか」

「危険です長老、今すぐ離れて――」

「止すのだ、戦ってはいかん」

「「「……え?」」」


 全員が理解できずに固まってしまう。しかし続く言葉で理解した。いや、理解せざるを得なかった。


「この者――いや、この御方は大精霊神と同等か、それ以上の力を持っている。大精霊神が恐れているのがその証拠だ」

「「「な……」」」


 大精霊神すら恐れる相手だと!? そんな者を相手にしていては、命がいくら有っても足りん!

 瞬時に理解した俺たちはすぐさま武器をしまって土下座をする。到底敵わぬ存在に武器を向けたのだ。できることは許しを乞うことだけだ。

 俺たち4人に敵意がないと理解した女は、長老

と視線を移す。


「……で、お前が長老か?」

「左様に御座います」

「では単刀直入に言おう。シェスタを返してもらうのは当然として、不当な理由で連れてきた者――特にハーフエルフを解放せよ」

「し、しかし、それだと里の働き手が……」


 そうだ、我々とてこのような手段を用いたくはないのだが、里の外に興味を持つエルフは年々増え続けているのだ。このまま行くといずれ里は滅ぶ。そこでエルフの血を引き、且つ身寄りのない者を強引にかき集めているのが現状と。

 しかし閉鎖的な場所のためか、連れ戻されたエルフたちは死ぬまでコキ使われるというデマが流れているらしい。しかも必死に否定するほど疑われてしまい、今では放置気味となっていた。思えば放置するのは悪手だったのかもしれん。


「やはりそういった側面があるのか。ならば人手を手配してやろう。それなら文句はないだろう?」

「それは……そうですが……。しかしそのようなことが可能なので?」

「簡単だ。エルフが里の外に興味を持つのと同時に、人間や獣人にも里に興味を持つだっておるのだ。そういった者を募り、里に住み着かせることで子孫を増やすことだって出来よう。ま、多少は血が薄くなるがな」


 この後我が里は劇的な変化を遂げることになるのだが、それを知るのは数年は先のことである。


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