歓迎する者、される者
「やぁやぁ諸君、今日も張り切って授業をしていこうか! 今日はパーティ戦をやるからな。各自でパーティを組め~!」
やかましいほどのハイテンションでマキシマムの授業が進められる。リリースが約束を守ってくれた結果だろう。今なら膝カックンをしても笑って許してくれそうだ。
「パーティ戦だってメグちゃん。もちろん私と組んでく――」
「ちょっとどいて!」
「――へぶし!」
グレシーに誘われたところで、他の生徒が割って入った。
「メグミちゃん、あたしと組んでよ、ね、いいでしょ? 足引っ張らないようにするからさ!」
「いいや、俺と組むべきだね。俺なら片腕になる自信はあるぜ?」
「こ、後方支援なら任せて下さい。だから是非私たちと!」
「相性を考えるならボクと組むのが適切でしょう。せぁ姫、是非ともボクの手を。後は両親との顔合わせを済ませれば……」(←何言ってんだお前)
どうも私の実力が浸透してきたらしく、こうして誘われることが多くなった。魔王冥利に尽きるというものだが、他力本願はいかんぞ? 私の力を当てにするようでは卒業にこぎつける事は出来んからな。――と内心で説教してみた。
「シャラーーーップ! みんなしてメグちゃんを当てにし過ぎだよ! それにパーティ戦なんだから組慣れた相手がいいに決まってるじゃない。だからメグちゃんは私と組むの。分かったらさっさと解散して、シッシッ!」
復活したグレシーが他生徒を追い払う。当てにしてるのはお前もではないかと問い掛けるのは無粋かもしれないので止めておこう。
「…………」
「ん? どうしたのだシェスタ、さっきからボーッとしているようだが?」
「え? ご、ごめんなさい、なんでもないわ」
心ここにあらずといった感じか? しっかり者のシェスタらしくないな。
「おーいシェスタ、早く行くぞ~」
「早くしないと置いて行くぞぃ!」
「い、今行くから!」
ライアルとゴリスキーに呼ばれ、慌てて駆け出して行った。冷水をブッ被って腹でも冷やしたか?(←お前と一緒にするな) 何事もなければよいが。
★★★★★
「今日も疲れたぁ……」
「いやグレシーはん、後方支援だけで終わっとったし、そない疲れることあるか?」
「疲れるよ! だって詠唱してるうちに終わっちゃうんだもん、詠唱と中断を繰り返してたんだよ? 結局発動する暇すらないとか無理ゲーだよぉ!」
「そら難儀やな……」
昼間をすっ飛ばして放課後。今日もグレシーとサトルの2人と組んで終了した。サトルの強さは平行線だが、最近はグレシーの詠唱速度が上昇してきている。理由は本人が述べていた通りだがな。
そしてグレシー、それはわざとだ。支援速度が上がれば敵にとっても脅威となる。直接戦闘が苦手ならば支援で力を示すのだよ。
と言ってもまだまだ駆け出し。せめてサトルと並ぶ実力を身に付けてもらわねば、下僕――じゃなかった、真の友人にすることは出来んからな。
「あ、そうだ! 2人ともこの後ひま? もし時間があるんなら、私の家に遊びに来ない?」
「なんや珍しいな? 何か良いことでもあったんかいな」
「う~ん、そうじゃないんだけれど、パパとママがね、私が学園に馴染んでいるか心配してるみたいなの。だからお友達を連れて行けば喜んでくれるかな~って」
ふむ、そういえば父上からは何も言われておらんな? 友達と言える存在は何年も目にしておらんし、近々私も紹介しておこう。ま、今日のところはグレシーの孝行に付き合うとするか。
「私は構わんぞ? 暇をもて余してるサトルも問題ないとして……」
「勝手に決めんなや! 暇やけど! 暇なんやけども!」
「どうせなら3Dの3人も誘おうではないか。多いほうが両親も安心するだろう」
「うん、良いと思うよ。ね~ぇ、3Dのみんな~!」
グレシーがニコニコ顔で頷き、3Dの3人に声を掛ける。
「ありがとうグレイシーヌさん。ここしばらく鍛練に集中し過ぎているのかとも思っていたんだ。気晴らしにもなるし、お言葉に甘えさせてもらうよ」
「しかしじゃあ、おいどんなんかは平民のドワーフだしのぅ。かえって迷惑ではないんかのぅ?」
「大丈夫、元々ママは平民のエルフだったし。だから安心して」
「おお、そいつぁ安堵したわぃ。のぅシェスタ?」
「ゴリスキー、最初からシェスタは貴族だよ。それにグレイシーヌさんと同じハーフエルフだし、親近感が湧くんじゃないかな?」
「…………」
「シェスタ?」
ライアルに呼ばれても無反応なシェスタ。疲れているのか? いや、Eスキャンで見ても異常は見つからないな。
「あの~、シェスタちゃん?」
「……え、な、何?」
「だからね……」
グレシーが丁寧に説明すると、しばし考え込むシェスタ。そして……
「わ、私も行きます。ご両親は健在なのよね?」
「え? そりゃ健在だけど……。まぁよく分かんないけど歓迎するよ」
これでクラス委員全員が参加だな。顔見せだしちょうどよいだろう。
しかしシェスタの発言は少々気になるな。親と喧嘩でもしているのかもしれん。
★★★★★
ガチャ!
「失礼諸君、私が当主のリチャード・グリーンフォースだ。娘との楽しいひとときを堪能しているかな? んん?」
「ちょっとパパ、みんなで遊んで遊んでるんだから勝手に入って来ないで! というか自己紹介はさっきやったでしょ!?」
「い、いやぁ、もしかしたらハブられてるとも限らんし……」
「ハブられてたら来てくれないでしょ! いいから出てって!」
「ほらアナタ、娘の邪魔をしちゃいけませんよ」
「う、うむ……」
いきなり入ってきたのは後頭部が痩せこけているグレシーパパ。が、グレシーママによって強制退場させられていく。グレシーの部屋で話していたら様子を見に来たらしい。
すでに顔合わせは済ませたのだがな。まさか念入りなメイクをしたせいで、私の美顔に引かれたか? フッ、罪深き魔王……か。(←1人でやってろ)
「ゴ、ゴメンねみんな、変なパパで」
「そうでもないで? 娘思いのええ父親やないか」
「おおぅ、情熱溢れる親父殿だったぞぃ」
「そぉ? 私としては溺愛され過ぎてる気がするんだけれど。邸から学園まで徒歩10分なのに転移ゲートを使わせたりとか、劇場を見に行くのに邸の護衛の半数を付けようとしたりとか。――あ、こういうのも有ったよ? クローゼットに足の小指をぶつけただけなのにメガポーション(←上位のポーション)を買って来ようとしたりとか」
メガポーションと言えば、通常のポーションの100倍近くはする高価なものだ。それをホイホイ買おうとするのは過剰だと言えるだろう。
いや、可愛い愛娘のためなら金は惜しくないってとこか。(←転移ゲートもな)
「ねぇ、メグちゃん家はどうなの? やっぱり似たような感じ?」
「最初はそうだったが、私の実力を知ってからは何も言わなくなったぞ? 3年くらい前の話だが、街に繰り出して両親とはぐれてしまった時に人攫いと遭遇してな、相手全員を半殺しにして騎士団に引き渡したのだよ。奇しくも犯人たちが口々に私を「恐ろしい」だとか「悪魔の化身だ!」とか失礼な言葉を並べ始めたせいで、私の実力は本物だと理解したらしい」
そう、あまりにも失礼極まりない男連中だったのでな、玉を潰してから解放してやったのだよ。
なに、どの辺が失礼なのかだと? そんなものは決まっている、私を悪魔の化身と言った部分だ。
悪魔と魔王を間違えるなんぞ言語道断! よって玉潰しの刑を執行したのだ。
しかし命まで取らなかった。その時は気分が良かったからな。今ごろはオカマバーで活躍していることだろう。
「や、やっぱりメグちゃんって、昔から人間離れしていたんだね」
「1人の人間である前に魔王ルシフェルだからな。フフッ、当然であろう。それよりシェスタはどうなのだ、やはりベタベタとしてくるのか? もしそうなら脂ギッシュは嫌だとハッキリ言うべきだがな」
「そないな台詞、シェスタはんが言ってるところを想像できんけどな」
「…………ゥ」
「シェスタはん?」
何故だかシェスタが泣いていた。突然のことで私たちは互いに顔を見合わせるも、原因がさっぱり分からない。
「思い返せば朝から沈んでいる感じではあったな。さっき言っておった親子の絆とやらに関係しているのか?」
「…………うん、実は……」
ガチャ!
「失礼諸君、私が当主のリチャード・グリーンフォースだ。皆のために美味しいお菓子を持っ――」
「だからパパ、いきなり入って来ないでってば!」
「おおおお!? そ、そんなに押したら――」
「お菓子だけは貰っとくから、じゃあね!」
バタン!
「「「…………」」」
「ゴ、ゴメンねみんな、空気が読めないパパで。後でちゃんと言っとくから。ささ、シェスタちゃん、話の続きをどうぞ!」
「え、ええ……」
そこからポツリポツリと語り出すシェスタ。その内容は談笑していた部屋の空気を最悪なまでに悪化させるに充分であった。
「「「里に帰らなきゃならない?」」」
「うん。どうやら私の存在がエルフの里に知られてしまったらしく、帰還命令が下されたの」
詳しく聞くと、シェスタの両親は何年も前に他界しており、残された遺産で学園生活を送っていたらしい。
しかし母方の故郷――つまりはエルフの里から書状が届き、エルフの血を引くのなら人間社会での生活を捨て、里に帰順するがよいという内容が書かれていたのだとか。これは命令のようなものであり、最後には従わねば無理やりにでも連れ帰るとあった。
なるほどな、朝から表情が冴えないわけだ。
「そりゃけしからんぞぃ! 無理やりとは大人げないんじゃあ!」
「せやせや! んなもん無視したらええ!」
「ゴリスキーにサトル、2人とも落ち着きなよ。こういうのは本人の意志が大事なんだから。ねぇシェスタ、キミはどうしたいんだい?」
「わ、私は……」
冷静に尋ねているライアルもどこか暗い。シェスタが去る可能性を危惧しているのだろう。
しばし黙って俯くシェスタだったが顔を上げ、そしてハッキリと皆の前で告げた。
「私は帰りたくない、せっかく手に入れた居場所だもの。里に帰ったところで居場所なんてない。エルフにとってハーフエルフは穢らわしき者。そう考える者が多いのに、迫害されるためだけに里に行く? そんなのこっちから願い下げよ! だけど従わないなら強行手段に出るとあった。そのせいで皆を巻き込むなんて私には……」
もっともらしい理由だな。根が真面目だからこそだろう。しかし1つだけ勘違いしていることがある。
「シェスタよ、お前の周りに居る者は何だ? 只の他人か? それとも街の入口で「ここは○○の街です」とか言ってるつまらない存在か? 違うであろう、共にダンジョンを攻略した仲間ではないか。その仲間が助けを求めているのだ、手を差し伸べないわけがなかろう!」
私の説教にハッとなり、周りを見渡すシェスタ。ライアルもゴリスキーもサトルも、ついでにグレシーでさえも力強く頷いている。
「あ、ありがとうみんな! 私のために……」
「泣くなシェスタ、まだ解決はしておらん。して、期限はいつまでだ? 一応の猶予は与えられているのだろう?」
「うん、だけど期限は過ぎてるんだ。本当は昨日の夜までに帰還しなきゃならなかったんだけれど……」
ふむ、昨日か。エルフの里は王都のすぐ西にあるらしいから、来ようと思えば今日にでも来れる。送り込まれるのは当然エルフ。美形なエルフは周囲の視線を集めてしまう。ならば決行は深夜!
ガチャ!
「失礼諸君、私が当主のリチャード・グリーンフォースだ。どうかな諸君、娘との親睦を深めるためにも今夜は泊まって――」
「だ~か~ら~、いきなり入って来ないでって言ってるでしょ!? はやく出て――」
「まぁ待てグレシーよ。ご当主様の提案は大変に魅力的だ」
「そうだろう、そうだろう、遠慮なく泊まっていってくれたまえ、ガッハッハッハッ!」
さてさて、グレシーには申し訳ないが、この邸で迎え撃つことになりそうだ。さぁエルフの戦闘員ども、せいぜいこのルシフェルを楽しませるがいい。
キャラクター紹介
リチャード・グリーンフォース
:グリーンフォース家の当主にしてグレイシーヌの父親。爵位は男爵。娘ラヴだがグレイシーヌからはウザがられている。最近は薄くなった頭髪が気になるらしく、財産の一部を育毛剤の買い取りに当てているという。ちなみに人間。
キャナル・グリーンフォース
:リチャードの妻。人妻エルフ。リチャード以上に娘ラヴで、娘の危機と知れば半狂乱になることも。普段はお淑やか。




