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情勢を傾けろ

「ありがとうメグミさん、お陰で死傷者もなく全員戻ってきたわ」


 夜になり学園に戻ると、満面の笑みでリーリスに迎えられる。取り残された生徒は残らず送り届けたのでな、まずは一安心といったところか。


「これで良かったのか? 前線逃亡とかで告発されなければいいんだがな」

「いいのよ。元々学園側は生徒の派遣に反対姿勢だったもの。戻って来れた理由も戦場での混乱ということで有耶無耶(うやむや)に出来るし。それよりメグミさん、戦地での報告をお願いするわ」

「カクカクシカジカ」


 敵の襲撃による本隊の退却、やって来た敵部隊を陣地ごと吹き飛ばしたことを説明した。但し、魔剣アゴレントことレンに関しては伏せておく。リリースのことだ、目を輝かせて興味を示すに違いないからな。


「なるほど、それは少しマズイかもね」

「むん? 何がマズかったのだ?」

「生徒たちが居た陣地は後方に位置する場所よ。本来なら敵との接触も低いはずなの。そこに敵が現れたということは、前後での挟み撃ちを計画しているに違いないわ。1部隊を潰されて諦めてくれるならいいんだけど……」


 再度攻めてくる……か。


「で、また私に働けと?」

「いいえ、メグミさんが直接動く必要はないわ。()()で参戦してくれればいいんだもの」

「代理?」

「も~ぅ、勿体ぶっちゃって~。居るじゃない、Sクラスに所属しながら1人だけ休学しているイケメン生徒くんが」


 意味深なウィンクを見せるリリース。確かに、Sクラスのイケメン生徒には心当たりがある、というか有りすぎる。


「……どこまで知っている?」

「メグミさんの関係者――ってことくらい? 以前メグミさんが廊下を歩いてる時に、前から来たイケメンくんが道を開けて敬礼したのを偶然見かけてね、それで気付いたの。もしかしなくてもメグミさんの方が立場が上よね?」


 アイツめ、命じたことは忠実にこなすのだが、学園での他人の振りは少々難しかったと見える。

 さて、ここまで言われたからには隠し通すことは出来まい。そう、そのイケメンと言われた生徒こそ、私の忠実な使い魔である。


「ああん、そんなに警戒しないで? 大事な生徒を売るつもりはないから」

「生徒を前線に送り出す教師に大事と言われてもな。だが後方の安全は確保せねばなるまい。敵部隊の迎撃は私がやって来よう」


 使い魔が休学しているのはペルニクス王国の中枢を調べてもらうためなのだ。特にレマイオス帝国からの刺客。3人のうち1人は始末し、もう1人は冒険者ギルドに潜入された事が分かっている。しかし、残る1人の足取りが依然として掴めていない。そこで使い魔には王都を中心に調べさせているというわけだな。


「さっすがメグミさん、頼りになる~!」

「その代わり、私からの要望も聞いてもらわんとな」

「私に出来ることなら何でも言って。お金だろうが男だろうが何だって用意しちゃうから♪」

「ほぅ? ならば――」




「――マキシマムとデートしてやってくれ」

「……え"? なにそれ……」

「だからマキシマムとデートすれば良いのだ」

「どゆこと?」

「最近マキシマムの誘いをスルーしておるだろ? あの担任はマッチョな体つきながらもナイーブな性格でな、リリースが冷たいと溢しておったのだ。このままだと授業に影響が出かねんし、その不安を解消するためにも人柱が必要なのだよ」

「それで私が生け贄に?」

「そうだ。その方が面白――じゃなかった、その方が的確な措置になると思ったのだ」


 ちなみにマキシマムが落ち込んでるのは事実だ。そこで私が手を貸すことで、授業中に居眠りしても文句を言われない権利をもぎ取ろうと考えている。是非とも応援して欲しい。(←しねぇよ)


「あの短髪男、なめ回すように見てくるから嫌なのよねぇ。もう下心が露出してるって言うか、言うなれば欲望の塊? あんなのに見られてたら鬱病(うつびょう)になるわ」

「そこは盛り上げてなんぼだろう。見ている側も注目するはず」

「も~ぅ、分かったわよ。但し一回だけよ」

「うむ、しっかり頼むぞ」


 よし、これでマキシマムにも借りが作れるな。そのうち吉報として届けてやるとしよう。



★★★★★



 その日のうちに再度訪れることになった前線の味方陣地跡。リリースの予想通り、巨大クレーターから少し離れた場所にて、レクサンド共和国が急ピッチで陣を構築していた。

 消滅した味方部隊と巨大クレーターを彼らの中でどう解釈したのかは不明だが、挟み撃ちをしようとする動きは変わらないようだ。


「あのようなクレーターが見つかれば、地球だと大騒ぎになるのだがな。さすがは異世界人、この程度ではビビらないようだ」(←ビビってるけど戦争だから諦めてると思われ)


 地上では尚も陣地の構築に勤しんでいる様子。そんなチマチマと動いている様にイライラしてきた。今すぐにでもブチ壊したいくらいに。

 ではなぜイライラが募るのだろうと首を傾げつつ思考すると、やがて1つの答えに辿りつく。

 とてもよく似ているのだ。私がまだ小学生だった頃、アリの巣を見ると無性に水を流し込みたくなったアノ感覚にな。(←分かる)


「コイツらにも味わってもらおう、成す術なく流されていく様を。――ウォータースクロール!」



 ズドドドドドドドド!



「うわぁ!? と、突然水がーーーっ!」

「早く掴まれ! このままだと流されるぞ!」

「無茶言うな! こんな濁流じゃ掴まりたくても掴めやしな――ガッ……ゴボゴボ……」


 物資も兵士も草木も流され、出来上がったばかりの巨大クレーターへと吸い込まれていった。辛くも逃れた一部の兵士は一目散に北方へと駆け出していく。


「さて、ここで放置しても新手が送られてくるというのは理解した。追撃に移ろうか」


 逃走した敵兵を空から追跡。立ち止まらないようストーンバレットでのシューティングを適度に楽しんでいると、前方の山の上に砦らしきものを発見。


「アレが敵の拠点か。そういえばリリースが言っていたな」


~~~~~


『あの場所からしばらく北上すると、敵の砦に行き着くわ。西側には断崖絶壁(だんがいぜっぺき)が、東側には湖が広がっているから、正に天然の要塞みたいになっているの。さすがに堅牢(けんろう)過ぎて、我が軍も手出しができないのよ』

『つまり難所を避けて進軍しているのだな?』

『そういうこと。けれどメグミさんの話を聞く限り、後方を撹乱(かくらん)する作戦に転じたみたいね。補給が断たれれば進軍もままならない。一気に押し戻される可能性も出てきたわ。そうなると再び生徒が召集されるのが目に見えてるし、一気に戦況を傾けて欲しいの。平和な学園生活のためにも是非お願いするわ』


~~~~~


「兵法とやらには明るくないが、難所を落としてしまえば確実に敵を追い込める。堅牢であるが故に、あの砦が落ちるのは想定しておらんだろう。フフ、だからこそ落ちた時の反応が楽しみでならない」


 期待に胸を躍らせつつ東側の湖へと下降。水面ギリギリのところで足元に向けて魔力を注入。すると竜巻のように水面が浮き上がり、やがて竜の姿を形成し始める。


「巨大な湖に対して効果があるのか疑問だったのだがな、上手く血を分けし相棒(クラウンアシスタント)は機能しているようだ」


 今ごろ砦では不可解な水攻めの報を行っていることだろう。しかし残念だったな、水難の相は終わってはおらんのだよ。


「さあ行け、シードラゴンよ。私の命に従い、レクサンド共和国の砦を洗い流してしまえ。そして教えてやるのだ、水辺の建物は危険だとな」

「ギュオォォォォォォ!」


 竜を型どった水が砦へと突っ込んでいく。敵兵にしたら理解しかねるだろう、彼らの目には湖が反乱しているようにしか見えないのだからな。



 ドッッッシィィィィィィィィィィィィン!



「う、うわぁ何事だぁ!?」

「みみみみず、水が、水がぁぁぁ!」

「クソッ、まさか敵の工兵が湖を使って攻撃してきたというのか!」


 一度の体当たりで強固に見えた砦が簡単に半壊した。上半分が流されていき、これでは雨を防ぐことすら出来まい。中にいた敵兵もパニックを起こし、水浸しの中で右往左往するのみ。だが……


「まさか一撃で終わるなどと思うてはおるまい? さぁシードラゴンよ、半壊した砦にトドメを――」

「ギュオォォォォォォ!」


 バッシャァァァァァァ!


「ブーーーッ! このバカドラゴンめ、私に水をかけるでない! ったく、ずぶ濡れではないか。どうやって乾かせばいいんだこれは。このまま帰ったら姉上に怒られるではないか」


 最初は遠慮がちだったアルスも、1年が経ったころには厳しくなってきたからな。服を汚して帰ったら怒るのだ。女の子なのだから見た目にはもっと気を使えだとさ。

 だが仕方あるまい? 敵が現れる以上、返り血を浴びるのは避けられないのだからな。


 さて、余計な思考を挟んでいるうちに砦があった場所はキレイさっぱり無くなっていた。解体業者でもここまで早くは片付くまい。


「よくやったシードラゴン、もう戻ってよいぞ」

「ギュウゥゥゥ」


 役目を終えた竜が元の湖へと戻っていく。


「これでレクサンド共和国の前線も混乱することだろう。我ながら見事な手腕。だが……」


 このまま放置してよいのか? 砦が消滅したと知れば、直ぐに再建築を始めるだろう。そうなれば(もと)木阿弥(もくあみ)となり、これまでの苦労が水の泡……か。


「よし決めた。帰ろうと思ったが、もう1仕事するとしよう」



★★★★★



 そこからの行動は早かった。リリースから貰った地図を広げ、ペルニクス王国軍が退却した拠点へと飛んだのだ。そして街に着いた私がやることは1つ。


「え~と、街の司令官はっと……コイツか、夢幻投影(イリューヴィジョン)


 Eスキャンにより早めの就寝を取っていた司令官を発見。夢の中へと介入した。


『聴こえるか、オライオン司令よ』

『誰だ貴様は? 小娘の分際でワシを呼び捨てとは良い度胸だ』

『良い度胸? 当たり前だ。私の正体は魔王、魔王ルシフェルなのだからな』

『魔王ルシフェルだと? そんなものは知らんし聞いたこともない。寝言は寝て言うがいい』

『……ムカついた、制裁!』



 ザブ~~~ン!



『ブハァ! な、何をする! 頭から水をブッ掛けるとは無礼な奴め!』

『少し前に私も同じ目に合ったのだ、お互い様だ』

『何じゃそら! ワシ関係ね~!』

『ええぃ黙って聞け! これより貴様には、山道の先にあるレクサンド共和国の砦を攻めてもらいたい。案ずるな、全て上手くいく』

『フン、何を言うかと思えば。あの砦は敵軍にとって防衛の要。簡単に落ちたりはせんだろう』


 夢とはいえ鵜呑みにはしないか。


『ならば見せてやろう、記憶投影(メモリーヴィジョン)!』


 砦を流した時の記憶を司令官にも見せてやった。私の視点であるが故に、インパクトは絶大だったであろう。


『こ、これは……これは真実なのか!?』

『そうとも。今ごろレクサンド共和国では慌てふためいている事だろう。いや、もしかするとまだ気付いておらぬかもなぁ。この機に乗じて要所を越えれば、瞬く間に敵軍は崩壊。おまけに国からは勲章を授与され、夢である将軍の地位まで見えてくるやも……』

『こ、ここ――』



 ガバァ!



「こうしてはおれん! 今すぐ出撃の準備をせねば!」


 飛び起きた司令官が慌ただしく部屋を後にした。その気になってくれて何よりだな。

 それから1週間後、レクサンド共和国の土手っ腹をみごと食い破り、大きく情勢が傾いたという報が国中を駆け巡ることとなる。


スキル紹介


夢幻投影イリューヴィジョン

:寝ている相手の夢の中へと割り込み、脳裏に影響を与えるスキル。目を覚ました後もハッキリと覚えており、正夢だと錯覚させたり出来る。


記憶投影メモリーヴィジョン

:自分の記憶を相手に見せたり、逆に相手の記憶を覗いたり出来る。死んだ者にも効果を及ぼせるが、時間経過と共に成功率が下がっていく。



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