表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/108

閑話:異世界昔話

「プックククク、なんと間抜けな。私なら力でねじ伏せてしまうがなぁ。フッ、とことん甘い奴め」


 最近ハマっている書物を手に、堪え切れずに吹き出してしまった。それを見ていたクラスメイトが白い目を向けてくる。


「メグちゃんてば、また変なの読んでる……」

「転生者が書いたとかいうやつやろ? そんなにオモロいんやろか」

「オイどんも気になって見せてもらったんだが、V字カットとかスリングショットとかマイクロビキニとか、わけの分からん単語が並んどったぞぃ」

「よく分かんないけど、メグちゃんがとてつもない過ちを犯してる気がするよ!」


 ゴリスキーめ、余計なことを言ってくれる。


「メグミさん、そういった書物を学園に持ち込むのは風紀を乱します。今すぐ没収です」

「そうだよメグちゃん、私に寄越して!」

「勘違いするなシェスタにグレシーよ。これは決して卑猥(ひわい)な読み物ではない。たま~にサービスシーンが出てくるだけだ」

「本当ですか?」

「本当だ」

「ホントとホントに?」

「当たり前だ。その証拠にお茶の間ではゴールデンタイムに放送されていたのだぞ? まだ未成年者が起きている時間帯に垂れ流すわけなかろう」

「ゴールデンタイムというのがよく分からないけれど、メグちゃんが言うならそう……なのかな?」

「そうだ全てを私に委ねるのだ、バッチコ~イ」


 ――というのは全くの嘘だがな。かなり古い作品なために今ほど規制されていなかったのだ。ああ、古きよき時代であった……。(←何歳やねんお前)


「でしたら内容を伺っても? そこまでメグミさんが言うのなら興味があります」

「なんだシェスタ、そんなに気になるのか?」

「ワイもや。どんな話か紹介してや」

「サトルまで? う~む、話と言っても色々あるのだが……そうだな、ならばこの話はどうだ? 三方一両損という私の世界では比較的有名な話だ」



◆◆◆◆◆



「南町奉行、大岡メグミ(のかみ)様、ご出座(しゅつざ)~~~!」



 フッフッフッフッ。皆が座して頭を垂れる中、悠々と場に現れたる者が1人。悪を許さず悪を逃さず、天命を得し裁きを下す。その名も南町――ヘブッ!



「あ、あの、床に顔面をぶつけて豪快な音がしましたけど、大丈夫ですか奉行?」

「お~いてぇ……。八丁堀ライアルよ、この袴長過ぎん? どう見ても足の下が足りてないではないか。お陰で顔面打っちまったし、キュートな顔にキズが付いたらどうしてくれる!」

「この時代では当たり前かと。それにキズがあった方が渋くてカッコよいかと」

「そうなん? なら良いか」

「それより尺が押してます、急ぎ裁きの方を」

「ふ~、ダルいけどやるか~」


 取りあえず指定の場所で胡座(あぐら)をっと。


「お奉行、行儀が悪いです。キチンと正座をなさって下さい」

「嫌だよ。めっちゃ足(しび)れるじゃん。お前はいいよな、立ってるだけなんだから」

「恐れながら、立ち仕事というのはそれはそれで大変なので御座います」

「じゃあ座っていいぞ?」

「ハッ、有り難き幸せ――」

「但し正座でな」



「立っていることにします」

「正座から逃げたなお前……」


 苦痛だが仕方ない。しばらくは我慢するか。


「オッホン! では一同、(おもて)を上げぃ」


 下に座っていたのは軽薄そうな男が1人にマッチョ男も1人、そしてキレイな姉ちゃんが2人だ。

 まず私は軽薄そうな男に尋ねた。


「サトルの助よ。その方、三両という大金が入った財布を拾ったそうだが、それに相違ないか?」

「せやで。開けてビックリしたわ、まさか3両も入っとるなんて思いもよらんて。ホンマならネコババして豪勢な飯でも食い散らかしてやるとこなんやが、それやと持ち主はえろう困るだろう思うてな、すぐに届け出たんや。どや、ワイって偉いやろ?」


 怒涛の勢いで出た台詞だが、結局のところ財布届けた自分は偉いって話だな。

 うん、なんだコイツは……


「あ~はいはい、えらいえらい。それでどうした? まさかそれだけでここに来たのか? お前、もっと有意義に時間を使えよ」(←まったくもって同意)


「いやほら、そないな大金届けたわけやからな、普通はほら――


「拾ってくれて感謝する。できれば御礼をしたいのだが……」


 ――なぁんて言われてな、


「いやいや、御礼なんてとんでもない。ワイは当たり前のことをしただけやで」


 ――って返すやん? そこへな、


「せめて何割かのお礼を受け取って欲しい」


 ――って強く懇願されるんよ。ほなアンタ、


「じゃあ1割で」


 ――って遠慮して言うたらな、


「いやいや、命の恩人なのだから半分は受け取って欲しい」


 ――言うて大盤振る舞いよ。でも紳士なワイはそこでカッコつけてな、


「そんなには受け取れんて。2割でどや?」


 ――って控え目に言うねん。そしたら相手も、


「そんな勿体ない、4割なら良いでしょう?」


 ――って譲歩してくるねんな~。でもこうなったらワイもトコトン言うてやろう思うて、


「よっしゃ3割や、間を通って3割。これでええやろ!」


 ――もう決まったようなもんやったなぁ。こん時には相手も納得するしかなくてな、


「では3割を御礼として差し上げましょう」


 ――ってなったわけよ。どや、感動もんのエピソードやろ?」


「感動かどうかは置いといてだ、相手はそう言ったのか?」




「言うてまへん。全部ワイの妄想や」

「おい!」


 ったく、紛らわしい妄想をしてくれる。

 これはサトルの助以外からも話を聞く必要があると思い、もう一方の男へと視線を移す。この男はゴリ蔵というマッチョでムキムキな大男。つまり、この大男が財布の持ち主というわけだ。


「ゴリ蔵よ、この財布はお主のもの。相違ないか?」

「うぉぉぉす! 間違いないぞぃ。その財布にはオイどんの全財産が入っとるんじゃあ。それがなければ明日の生活すらままならんわぃ。さぁ、早く返すんじゃあヒョロ長男め!」


 ん? んんん? これだと拾ったサトルの助が返せば一件落着じゃね?


「サトルの助よ、ゴリ蔵もこう申しておる。さっさと返してやれ」

「いや、ワイはそれでもいいんやが、せめて……」

「何を意味深な間を設けておる。お前が返せば丸く収まるではないか。それともこの期に及んで御礼が欲しいとでも言うつもりか?」

「ダメなん?」

「ゴリ蔵が応じぬ限りはな」

「分割払いでもええで? 十一(といち)でな」

「利息を付けるな卑しい奴め!」

「せやけど大金拾ったんは事実やんか。渡すだけでハイサヨナラは酷いんちゃうん?」


 う~む、それも一理あるか。


「ふぅ……。ゴリ蔵よ、サトルの助はこう申しておるが、お前はどう考えておる?」

「ぬぅ、御礼か。オイどんの未来を救ったとあらばやむを得まい。ここは1つ、情熱ほとばしる熱き抱擁を!!」

「「やめろ暑苦しい!」」


 私とサトルの助とで全力で阻止した。断じて誓うが私は腐女子ではない。これ豆知識だからな?


「とにかく、サトルの助は早急に財布を返すように。これにて一件落――」

「「恐れながら!」」


 締めようとしたところで割って入る声が2つ。


「なんだ、グレシーにシェスタではないか。お前たちも居たのか」

「グレシーじゃなくておシヌだよメグちゃん」

「シェスタではなくおシエで御座います」

「そうか。もう終わるから帰っていいぞ?」

「「いやいやいや」」


 何やら2人して異を唱え始めた。もう少しで仕事も終わると思ったのに。ったく面倒な奴らめ。(←真面目に仕事せい!)


「私たちはサトルの助の姉と妹で、財布を拾った時に一緒だったんだよ。ちなみに妹だよ」

「姉のおシエで御座います。御礼を貰えるというのなら、私たちも権利があるかと」

「だが拾ったのはサトルの助だろう?」

「確かにそうだけど、三人での外出を提案したのは妹の私だよ。私が言い出さなかったら財布を拾うこともなかったんだから、私の功績でもあるんだよ」

「右に同じ。私が実家に帰って来たのが切っ掛けで外出するに至ったのですから、私の功績と言っても過言ではないかと」


 う~ん、言われてみればそうなる……のか?(←おい、しっかりしろ)


「ちょうど小判も3枚有るよ、私たち3人で1枚ずう分けようよ!」

「そうしましょう。私が1枚、おシヌが1枚、サトルの助が1枚っと」

「おお、これなら平等やな!」


 ううむ、何だか騙されているような……。(←おもいっきり騙されてます)


「待て待て待てぃ、それはオイどんの金じゃい! お~い奉行さんよ、早く裁いてくれぃ!」

「そうは言われてもなぁ。丸く収まった以上、蒸し返すのもなぁ。それに早く帰りたいし」

「おいマジで頼むぞぃ! そもそもコイツらが騒ぎ立てたから奉行に出番が回ってきたんだぞぃ? こんな奴らを野放しにする気かぁ!」


 なるほど。この2人が居なかったら今回の騒動には発展しなかったと。そう思うと途端に怒りが湧いてきた。


「そこの3人、このアホ共め!」

「「「ヒィ!?」」」

「お前らが余計なことをしたせいで私の仕事が増えてしまったではないか! せっかく家でゴロゴロしていたら、ライアルに無理やり連れて来られたのだ。それが蓋を開けてみれば、御礼だの利息だの抱擁だのと嘆かわしい。よって貴様ら3人は打ち首だ!」

「「「打ち首ぃ!?」」」

「そうだ! お前たち3人の勤務先に連絡して、有ること無いこと吹き込んでやるからな! 例えどんなに後ろ指を指されようが私は知らん。懲戒解雇の恐ろしさを思い知るがいい!」

「「「そっちの首……」」」

「八丁堀ライアル、この3人を連れていけ」

「ハッ!」


 よし、これで邪魔者は居なくなったな。


「では、これにて一件落――」

「うぉす、待たれぃ!」

「今度はなんだゴリ蔵よ」

「女2人はとこかく、サトルの助が財布を拾ったのは事実。御礼はしっかりせねばと思うたのじゃあ!」


 律儀な奴だなぁ。私なら御礼を渡さなくて済んだからラッキーとか思っただろうが。


「八丁堀ライアル、サトルの助をこっちに戻せ」

「ハッ!」

「なんやなんや、助けてくれるんか?」

「うむ、ゴリ蔵の寛大な器に感謝するがいい。ついでに私のことも、メグミ様バンザーイと言って崇め立てること。よいな?」

「へへぇ!」


 さて、改めて男2人が残されたわけだが。


「してゴリ蔵よ、どのように御礼をするつもりだ?」

「うぉっす! それを今から考えるんじゃあ!」

「いやお前が考えろや。私いらんだろ」

「そうはいっても良い知恵が出んのじゃい!」

「それは分かる。どう見ても知性を感じない顔をしてるからなお前」

「では宜しく頼むぞ奉行!」

「ったく仕方がないなぁ……」


 などと言いつつも、どうするかはもう決まっている。おシヌとおシエは良いアイデアを残してくれたものよ。


「ここに有る3枚の小判。これを今から3人で分けるのだ」

「「3人で?」」

「そう、まずはゴリ蔵に1枚、サトルの助に1枚、そして最後の1枚は――」



「「ハイハ~イ!」」

「もちろんおシヌのものよね!?」

「いいえ、おシエのものに違いありません」

「「ねぇお奉行、どっちなの!?」」


「ライアル」

「ハッ!」

「「ちょっと~!?」」ズルズルズル……



「邪魔が入った。最後の1枚はこの私だ。これでピタリと三等分。どうだキレイに収まったであろう?」

「「おお!」」

「これぞ大岡名裁き! 三方1両損である!」


 デデン!



◆◆◆◆◆



「という内容なのだが」


 話し終えると各々が微妙な顔をしていた。特にグレシーとシェスタは怒ってるようにも見える。


「「…………」」

「なんだ2人とも、やはりつまらなかったか?」

「そうじゃなくて、この登場人物の姉妹、私とシェスタちゃんに似てない? 凄く性格が悪く書かれているからムカつくんだけど」

「グレシーに同意するわ。私はこんなに意地汚くないもの」

「何故に自分たちと重ねるのか分からんが、年代も場所も全く異なるのだから、お前たち2人とは無関係だぞ? だから安心せぃ」


 実は読んでて似てるなとは思ったがな。まぁ私は読み上げただけだし。


「で、そっちの男3人はどうしたのだ? しかめっ面になっているぞ?」

「どうしたもなにも、三方1両損というのなら、何故ゴリ蔵は2両損しているのかと」

「サトルの助もネコババすれば3両丸儲けやったんやで? それが2両減らされて大損やん」

「ライアルが代弁してくれたんかのぅ? オイどんには難しくて理解できんかったわぃ。だが奉行が1両得してるのは間違いないぞぃ!」

「そうだね。その辺はどうなんだいメグミさん?」

「せやで。ワイとしてもサトルの助に感情移入しとるせいか、どうにも納得いかんねん」


 なんだ、そんなことか。


「いいか良く聞け、奉行は1両得したのではない。()()()()得られなかったのだ。だから1両損というわけだ。納得したか? 納得したな? じゃあ解散」


 さてと、続きを読むか。確かこの後お奉行の不正がバレて大変なことになるんだっけ?(←違います) まぁ知らんけど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ